漫画を描けばいいだけじゃない!/ドコまでが漫画家の仕事なのか?

2018年1月4日

 ボクは広告代理店とかを通さずに、直接一般からの依頼を受けることが多い。
 なので「ドコまでが自分の仕事か」は、あまり意識していない。

 だって、自分の仕事がドコまでだろうが、自分以外の部分がダメなら全部がダメになっちゃうんだから。

 一般企業は漫画だけでなく、広告のことだって素人なんだ。

 だからボクは、ほっとけない。自分以外の部分にもバンバン意見を言うし、可能なら手も出す。
 どこまで踏み込むかは人それぞれだろうけど、ボクは任せてくれるなら全部やるつもりでやっている。

 お客のためでもあるけど、むしろ自分のためだ。
 自分の仕事をダメじゃないモノにするには、何もかもがちゃんとしていなくてはならないから、ヤバイものをヤバイままにしておきたくないんだ。

ヤバいシナリオを改稿せよ!

 広告漫画の打ち合わせに漫画家が呼ばれるときっていうのは、もうすでに広告漫画を作ると確定しているのが普通だ。
 当然、それなりの内容も考えられている。

 ただそれは、時にムチャクチャで、時にトンチンカンで、時に支離滅裂だったりする。

 そんな状態で「イケル!」とか盛り上がっちゃっている企画を見せられて、そこから逆転していかなきゃならないんだよね。
 そのまま描いたらエライことになるのは確実だから。ヤバイものを何とかして整えて「漫画にしてよかった」と思われるように軌道修正しなきゃならないんだ。

 この段階を雑にやってると、ちゃんと漫画を描いても全く評価されないなんてコトになっちゃうんだ。

 漫画家は漫画の部分をしっかりとやっているのに全体としてはダメで、それは本当は漫画家のせいじゃなくても、漫画がメインで目立つ部分だから漫画がダメなんだと思われちゃう。

 客が持ち込んできたシナリオ通りに描いたせいだったとしても、言い訳は通らない。
 ダメなモノはダメなんだし、プロなら描く前にソレがダメだと気付かなきゃいけない。
 そして気付いたなら、その時点で指摘するなり助言するなりしなきゃいけない。

 そういうことに気付けないようなら、プロを自称しているだけのアマチュアってことになっちゃう。
 つまりお客を欺いたと思われても反論できない。

 プロならプロとして振る舞わなきゃいけない。
 言うべきことは言わなきゃいけない。

 お客の要求だからと黙って従っていたら、痛い目に遭うのは自分なんだ。

 だからボクは、シナリオは必ず自分で書く。

 客がシナリオを用意していた場合でも、それは単なる資料と割り切って、全部書き直すんだ。

 時には全然違うモノを提案することもあるよ。
 お客にも、そういうスタンスでやりますよとハッキリ伝える。
 素人さんの設計図を鵜のみにして家を建てるような無責任な仕事はできませんよ、とね。

 ここでも大事なのは、漫画だけじゃなくて広告としての部分もしっかり配慮することだ。

 漫画のことだけ考えて広告漫画は描けない。
 お客が求めているのは「広告っぽい漫画」でも「漫画っぽい広告」でもないんだから。

 とはいえ、どんなに工夫しても広告としてヒットさせるのは至難の業。

 広告製品そのものに魅力がない場合だってあるし、キャンペーンの仕方が下手くそということもある。
 運悪く他所の大型キャンペーンにぶつかってしまうこともあるし、そもそも根本のマーケティングやターゲッティングがズレてるという可能性もある。
 もちろん、ボクの力量が足りないということも。

 だけど自分でダメだと思ったシナリオのままでは、ボクは描けない。
 それではお客を欺いているような気がする。

 お金を受け取って何かをする以上、そのお金に見合った成果を返すように努力しなきゃならないと思うんだ。

 勝てなくてもいいやと思って勝負するのは、お客に失礼だ。
 勝てないと思うのなら辞退すべき。
 お客はボクにお金を払うために漫画を依頼しているわけじゃないんだから。

 漫画だろうが広告だろうが、要はお客のお金をどれだけ有効活用できるかなんだ。
 そこを意識してないとダメだと思ってるの。

オレがやらなきゃ誰がやる

 ボクが広告漫画を手掛けるときの多くは、漫画家であり編集者でありデザイナーでありプランナーであり……と、ほぼ全ての部分に関わっている。
 広告漫画の世界での漫画家の仕事というのは、漫画を描くことだけでなく「漫画のプロとして企画全体を監修・監督すること」だと思っているから。

 だって、自分がどれほどのプロかは別として、周囲は全員素人なんだから、そこでは自分が一番のプロに違いないんだもん。

 自分の力量に自信があろうがなかろうが「オレがやらなきゃ誰がやる」って思うしかないんだよね。
 そこをほっといたらエライ目に遭うのは自分なんだから、自分が総合プロデューサーのつもりで取り組むしかないのよ。

 いや実際に総合プロデューサーに任じてもらえるわけじゃないんだけどね。
 仮にそれなりの権限を委ねてもらえたとしても、結局はお客の意見が最強ではあるんだから、好き勝手に仕切れるわけじゃない。

 だけど、そういう意識で取り組まないと、結果につながらないんだよ。
 漫画家っていう立場だけでやっていると、どうしても末端になっちゃって、お客のためにも、自分のためにもならない作品しか作れなくなっちゃうことが多いんだよね。

 誰も幸せにならないような漫画を手掛けることなんか、できない。
 作者としても嫌だし、業者としても不誠実だと思うし、読者に対しても失礼だし。

 だからボクの場合は、漫画家というよりも漫画プロデューサーとして仕事していることが多いんだ。
 漫画を描くのは、漫画で広報するという仕事全体の中の、一番最後の結果部分に過ぎないと思っている。

 描く以前の企画部分がズレていると、どんなにイイモノを描いたつもりでも負けちゃうから、そうせざるを得ないんだ。
 漫画がダメだと思われるのは絶対に嫌だから。

 ほら、かの『銀河英雄伝説』でヤン・ウェンリー提督が言ってたでしょ。
 戦略レベルの劣勢を戦術レベルで覆すことはできないって。

 漫画は戦術のほうなんだ。
 だから戦略が気になるんだ。気にしなきゃいかんのだ。

 だって、その戦略を描いたのはヤン・ウェンリーじゃなくてド素人なんだから。
 ボクが戦略家としてどんなに未熟だとしても、そのまま従うのはオソロしすぎるでしょ。

お客とは、明日に希望をつなげる関係でいたい

 広告全体のプロデューサーになったつもりで案件を見直すと「おいおい、コレって漫画にしないほうがマシだろ」と思えてしまうこともある。

 ボクは漫画だけでなく、広告制作者としても25年以上(漫画はデビュー以来30年/いずれも2016年現在)やっているから、普通の広告の良さだって知っている。

 なので広告漫画を依頼されたときでも、漫画の視点だけじゃなく、普通の広告に仕上げたときのこともイメージしてみることが多いんだ。
 先に書いたように、依頼通りにやったら負けってこともあり得るし、そもそも漫画にすることが間違いってコトさえあり得るんだから。

 漫画を描くために、企画内容や依頼内容を検討する。

 でもこのとき、広告業者としての自分も同時に見ているから、脳内で漫画家と広告屋が議論し始めるのよ。

 まぁ、広告なんてモノは何をやったら正解ってモンじゃないから、大抵の場合は漫画でやるっていうなら、それはそれでいいってコトになるんだけど、稀にね、広告屋の自分がどうしても譲れない案件にぶつかることがあるんだ。

 広告屋の自分が、漫画家の自分を論破しちゃうことがあるのよ。

 お互いに口頭だけじゃなくてイメージもぶつけ合うからプレゼンバトルに近いんだけど、とにかく、漫画にするよりも普通の広告として作ったほうが成果が出そうだと思えちゃうことがあるんだ。

 そして、自分の中でそうなってしまったときは、その通りに依頼者に伝えている。

 コレ、漫画にしないほうがいいんじゃないですか?
 だってコレコレがアレアレでナニソレになるでしょ。
 一方、普通の広告して企画すれば、アレがコレになって、ソレがナニにできる。
 そのほうが結果出るんじゃないでしょうか?

 まぁ、こういう極端な例は滅多にないんだけど、それでも10ページくれる仕事でも「8ページが適当ですよ。その代わり2ページは広告記事を入れるべきです」といった提案をすることは珍しくない。

 そうした提案をすれば、その結果としてギャラが少なくなったり、最悪の場合、その仕事をフイにすることもある。

 それは嫌だ。お金欲しい。

 でも、そこでテキトーに仕事を取ると、後々もっとキツいことになる場合もあるというのも知ってるのよ。

 自分で普通の広告に負けると感じているままで、それを隠して受注して、実際に負けとしか思えない結果になっちゃうとキツイ。

 嘘ついちゃったなぁ、迷惑掛けちゃったなぁって感じて、その後がやりにくくなるの。
 ボク、そういうのを気にしないでいられるほど、メンタル強くないのよ。

 それに、実際ソレに依頼者が気付いちゃったら、どうにもならないし。

 だから何かに気付いちゃったときは、例えソレが自分にとってマイナスだったとしても、言うべきことを言ってあげて次のチャンスにつなぐほうがマシだと思うことにしているんだ。
 漫画で勝てそうにない案件を引き受けて敗北者と見なされるよりも、後々に勝率の高い案件に挑める可能性を残すほうがいいと思ってるの。
 プロとしてずっとやっていかなきゃならないんだから、今月だけ生き延びればオッケーというものじゃないからね。

 ただし、ギリギリまで漫画で何とかする方法を考えるけどね。

 せっかくの仕事を簡単に諦めたりはしない。
 ただ、トコトン考えてみても漫画にすることが効率の良い方法だと思えなかったら、正直にそう言う。

 もっとも、実はコレには裏がある。

 漫画じゃなくてもいいと提案出来るのは、ボクが広告制作者でもあるからなんだ。
 漫画ではない案件に変わってしまったとしても、ソレはソレで引き受けられるからなんだ。

 なぜ漫画でないほうがいいのか、漫画でないなら、どういう広告にすべきなのかを考えたのが自分である以上、その漫画ではない広告を作るのもボクに任せてくれる可能性は小さくない。どっちにしても仕事にはなるんだよね。

 そういう見込みもあるから躊躇なく言えて、それが自分の仕事を犠牲にしてでもお客のことを考えているというパフォーマンスにもなって……ということなのよね。

 小狡いの。策士なの。

 でも、それくらいアノ手コノ手で「勝ち」を目指さないと生き延びていけないのが、この商売なのよ。
 いや、生き延びるだけじゃなくて、惨めな終わり方をしたくないっていうほうが大きいかな。

 今日だけ羽振りがよくても、明日からは地獄みたいなのは嫌なんだ。
 だから仕事するときは、常に明日に希望をつなぐことができるようにしたいの。
 時に今日を犠牲にしてでも。

 だって今日よりも明日以降のほうがずっと長いんだもん。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。