広告漫画の制作(4)背景の作画/コストを抑えてちゃんと描くには

2018年1月3日

 ウチでは、それなりにキチンと描く背景のほとんどが「写真」だ。

 資料写真を撮影してきて、それをフォトショップで加工して、漫画の背景にしていく。
 手描きの背景もあるけど、大半は写真ベースだな~。
 手描きでしっかり描いていけるだけの予算が付かないことのほうが多いんだもん。

 だから受注時に「そういう描き方をしますよ」と説明しておくようにしている。
 後で手抜きだ、やり直せとか言われても困るからね。

リアルじゃない背景のほうが面倒くさい

 撮影してきた写真データをフォトショップで開く。

 カラーをグレースケールに変換。
 レイヤーコピーして増やして、各レイヤーを輪郭検出だの、オーバーレイだの、スクリーンだの、それぞれに加工していくと、かなり絵っぽくなる
 ソレに加筆したり、必要に応じて他の素材と合成したりして「背景」にしていく。
 基本的には輪郭線を実線化して、写真ならではの微妙な陰影を整理して単純化していく感じ。

 こうした加工の工程は「漫画っぽい絵」であればあるほど長くなる。
 元々が写真だからリアルで当然だからね。

 なので、劇画的なリアル背景にするほうが簡単で、ギャグ漫画などの描き込みが少ない背景にするほうが手間がかかるんだ。

 そこで、あまり描き込んでいない背景にするときは、写真のコントラストを思いきり強くして細かい部分をトバしちゃったり、写真の解像度を落として、いったん粗い画像にしてから加工することもある。

 まぁ、思いっきり大雑把でいい背景だったら、フォトショ加工なんかしないで自分で描いちゃうけど、リアルというほどではないけど微妙にキチンとしてなきゃいけない背景ってテイストが一番面倒かなぁ。
 しかも、ボクの漫画はほとんどがギャグ漫画だから、そういう背景が一番多くて、さらにボクは画力がない漫画家だから自分で描くと狙った味わいが出せないから、写真加工技術を磨いたって感じ。

 もっともベースが写真なんだから、撮影できないモノはこの方法では描けない。
 けど、撮影できないモノも撮影しちゃうことが多い。

 例えば、遠景のビル街などを作るときは、実際のビル街写真を使うより自分の家の本棚を撮影して、それを加工してボカして合成……といったやり方のほうがソレらしく見えたりするんだよね。
 テキトーにシワシワにしたシーツをベースに海を作ったり、タオルを盛り上げて山にしたり。

 他にも、身近な色々なモノをズームで撮影したりすると、意外な風景が見えてきたりする。
 アングルを変えて見るだけで、まるで別なモノに見えるモノだって多い。

 描く能力に自信がないから、そういうコトには敏感になったのよ。
 おっ、コレ、このアングルで寄って撮影してチョチョイと加工すれば……とかね。

 で、そうやって作った背景をキャラの後ろに配置して、時には淡くしたり、一部を白グラデでボカしたり、トーン処理ですると、それなりの背景になるのよ。
 厄介な部分をフキダシやキャラで隠したりすると、けっこうソレっぽくなるモンなのよ。

できるだけネーム後に撮影したいけど……

 ほとんどの背景画は、最終的にキャラの後ろに配置されるから、キャラ絵とアングルが合わないと使えない。
 だから、いい素材写真を手に入れるには、まずネームでキャラの位置や構図を固めておいて、ソレに合うように撮影してくるのがベストなんだ。

 なんだけど……そんなにダンドリ良く行かないことのほうが多いんだよな~。

 例えば、何かの施設を紹介する漫画の場合、まず、その施設を取材して理解しておかなきゃネームはおろか、シナリオすら書けない。
 取材する以上、そのときに撮影も済ましておきたい。というか、そのときしか撮影なんかできない。

 というわけで、撮影するときに漫画の背景に使いやすい写真を撮っておく必要がある。

 背景そのものをバーンと見せるシーンなんかは、むしろラク。

 気にしなきゃいけないのは、ちょっとしたシーンでキャラの後ろに描かれる背景用の素材だ。
 つまり、その施設の特徴的なナニカじゃなくて、廊下とか天井とか、そういう普通は取材で撮影しそうにない部分を撮っておくのが大事なんだ。

 ボクは割とアオリ気味で撮影することが多いな。

 広告漫画って情報量が多いから、いわゆる「引きの絵」をあんまり入れられないのね。
 それでアップやバストアップで描くシーンが多くなりがち。

 で、そうなるとアオリ気味の背景写真のほうが使いやすいのよ。
 足元なんか滅多に描かない(描けない)から。

 連載作品などの場合は、予め登場キャラが決まっているから、撮影のときにはキャラにも同行してもらう感じ。
 脳内にいるキャラたちを現場に投影して、実際にソコにいたら何をするかイメージしながら撮影している。

 キャラによってはミョーなモノに興味持ったりするから、ゴミ箱とかね、本当にどうでもいいようなモノを撮影することもある。
 そのせいで、同行してくれる現地スタッフさんに怪訝な目で見られちゃったりするよ。
 いやボクじゃないんです、あいつらが、あいつらがぁあ。

 そういうわけで撮影段階では、シナリオ工程での資料になる写真、作画段階で便利な写真など、同じものでも色々なアングルや距離感で撮影しておくことが多いんだ。

 もっとも、そうは言っても、やたらたくさん撮影するのも良くないんだけど。

 多すぎると、それをチェックするだけでも手間がかかりすぎるのよ。
 それでチェックが甘くなる。
 1つ1つの写真をじっくり見れなくて、何かを見落としたりしがちなんだ。

 資料ってのは多けりゃいいってもんじゃない。
 使いこなせなきゃゼロと同じなんだ。

 だからこそキャラに脳内同行してもらい、イメージを投影しながら撮影しないと無駄が多くなったり、背景制作段階で、いまいちツボを外した写真しか見つからなくなったりしがちなのよ。

 必要なだけ撮影はするんだけど、時には1枚の写真でアレにもコレも対応するってこともあるんだよ。
 部分部分を切り分けて別々なシーンに使う、みたいな。
 そういう汎用性の高そうな写真を狙って撮るの。

※追記
 ボクが愛用しているデジカメは、モニタ部分が外れて角度を自由に変えられるタイプのもの。
 性能はさほど良くないんだけど、頭の上とか足元すれすれとかのカメラアングルでも、モニタの角度を変えて確認しながら撮影できて便利なんだ。

 今だったら中古で1万円以下で売っていそうなレベルのカメラだけど、漫画の背景に使う写真撮影用なんだから、プロカメラマンが使うようなスゴい解像度なんかいらないのよ。
 色んなアングルが試せるほうがありがたいの。

 だから何年経っても同じカメラ使ってるの。
 これで十分なのよ。

キャラと馴染ませる工夫

 キャラの作画と同じで、背景もバラバラに描いて、後で合成していく。

 この段階で、時には「遠近感」や「縦横変形」を使って、キャラとのバランス調整を行うこともある。
 コレをやると、ある部分はよくなっても他の部分はオカしくなるんだけど、見えてる部分さえオッケーなら十分だから(笑)。

 写真を加工するときに注意するのは「直線」だな。

 普通に背景を描くときって、建物の壁とかは定規を使って真っすぐに引くでしょ。

 でも写真だと歪む。
 本当に自然なパースってのは単なる直線じゃないし、カメラのレンズのせいでも歪むから。

 だから、そういう歪みを補正する。
 直線は直線になるように引き直す。

 そういうトコを修正するだけで、ぐっと漫画っぽくなるんだよ。

 あと、1枚の写真でも手前と奥を別々に加工したりすると、ニュアンスがだいぶ変わるよ。

 漫画の線ってのは、奥の方でもちゃんと描いていれば線自体はかすれない。
 手前ほどしっかり描いていないだけで、線そのものがボケるわけじゃない。

 でも写真だと奥はボヤける。
 ピントを合わせた距離以外はボケる。
 そういう写真のリアリティを殺してやると漫画っぽくなるので、遠景と近景を別々に扱って加工して、後で合成して元に戻してやると漫画らしくなりやすいんだ。

 こうした加工の全ては、キャラクターと馴染ませるためにやっている。

 漫画絵のキャラにリアルすぎる背景だと、違和感なんだよね。
 同じ人が描いた絵に見えない。チグハグに感じる。

 だから色んな方法を使って、違和感を殺していく。
 濃い影はベタでいいや。微妙な濃淡もなし。ベタ以外の濃淡は全部20%アミの均一でいい。あるいは全体にグラデ一発でいい。

 そんな感じでリアリティを殺していく。
 漫画としてのリアリティに変えていく。

 できるだけ自然に、キャラたちがソコにいてもおかしくないように変えていくんだ。

 やり方は色々ありすぎて、ここで1つ1つを紹介するのは無理なんだけど、基本的には各自で試行錯誤してみてね。
 ボクもそうしたんだから。
(別にテクを出し惜しみしてるわけじゃないんだけど、こういうのはボクが邪道な技を伝えるより、世間で普通に入手できる技法書の類いを読んだほうが役立つと思うのよ)

 でもボクは、技法書なんかない時代からやってるから全部独自にやってるのよ。
 自分がこうしたいと思う絵に近付くためにアレコレ試して邪法を編み出し続けているの。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。