広告漫画の制作(3)キャラの作画/後々の変更・修正に対処しやすい描き方
ウチの作画のしかたは、我ながら独特だと思う。
昔は、普通に描いていた。
でも広告漫画を長くやっているうちに、少しずつ独特な描き方、仕上げ方に変化していったんだ。
普通にやってたら、厄介で面倒でイライラすることがずっと続いちゃうのよ。
採算合わないのよ。
でも、お客に文句言ってもムダなのよ。
そういうコトになるのを分かっていて引き受けているんだから。
だから自主的に工夫して、フツーじゃない方法を編み出していったの。
バラバラに描く作画
出来上がったネームを見せて、概ねOKをもらえたなら、いよいよ本番の作画スタートだ。
キャラは下絵、ペン入れの順に描いていく。
アタリマエだけど。
ただ、ウチがアタリマエじゃないのは、それらを「原稿」には描かないっていう部分だ。
コマの中には描かない。
全然別なところに描く。
ネームで決めた構図やポーズ通りに、しかもキャラごとにバラバラに描く。
手前のキャラと奥のキャラが重なっているショットなら、二人を別々に描いて、後で合成する。
抱きあってるとかのキャラ同士がくっついてるシーンは1つに描くけど、それ以外は小さなカットでも全部バラバラ。
そして顔だけのアップのシーンだとしても、バストアップくらいまで描いておいてもらう。
コマからハミ出しちゃう部分まで、余裕を取って描いておくの。
だから作画が終わると、そのエピソードで使う全キャラ、全ショットのカット集が出来上がるようなモンなんだ。
それを1つ1つ切り取って、ネーム状態になっている「原稿」に貼り付け、ハミ出した部分をカットしつつ合成して、1つ1つのコマを作っていくんだ。
つまりコラージュみたいな作り方なの。
どんなに言っても作画以降の直しは必ず出る
なんで、そんな面倒くさいコトをしてるのかと言えば、ウチは広告漫画の仕事をしているからだ。
素人さんは、怖いんだよ。
いつ、どれだけの直しが出るか、わからない。
ネームでOKもらっていても、そんなの何の保証にもなりゃしない。
前にも書いたけど、素人さんはネームを読めないんだ。
もちろん文字は読めるし、ラフとはいえ絵も入ってるから、ニュアンスもストーリーも理解してもらえるんだけど、逆にそれだけなのよ。
ストーリーは了承していて、ニュアンス的にもOKなんだけど、細かいトコまでは見ていない。
見たけど読んでないというか、チェックしたけど直しは黙ってるというか、いや、なんでそうなっちゃうのかボクもわかんないんだけど、どの人もみんなそうなのよ。
一応ね、いつも必ず「変更や修正はネーム段階のうちにお願いします、作画工程に入ってからの変更はできません」って事前に伝えているんだけど、それでもソレが守られた例はない。必ず作画に入ってから、もしくは作画が終わってから修正が出てくる。
これはもう、必ずと言っていい。
それでもネーム・チェックに意味がないわけじゃない。
ストーリーやニュアンスだけはわかってもらえるし、事前に「作画以降の変更はお断り」と言ってあって、それは理解しているから、ストーリーが変わっちゃうような大きな変更は出ないことが多いんだ。
だからネーム・チェックでOKもらっておくことは、やっぱり大事。
それでも、細かい変更は必ず出る。
主に「広告(あるいは解説)」な部分の、それもセリフだけの変更な場合がほとんど。
これねぇ、セリフの文字だけなんだから、後でどうにでもなるだろって考えてるんだと思うんだ。
いや、確かに文字だけの変更なら、どの段階でもやれるんだけどね。
けど、セリフが変わると描写も変わることがあるでしょ。
さらに文字数が変わると、レイアウトも変わる。
あるセリフが別なモノになってしまうと、ストーリーも変わってくることがある。
お客さんは、そういうことは考えないんだよね。
前後のつながり無視して、セリフを変えてって言ってくる。
言われたからって、必ずその通りにするわけじゃない。
お客は、なぜ変更が必要だと考えたのか。
今のままだと、どうマズイのか。
そういう部分をしっかりと見直してみて、お客が感じた問題をどうやって解消するかを考える。
お客の要求通りにやると、キャラにそぐわない発言になったりしがちなのよ。
そのキャラはそんなコト言わない、みたいなコトになる。
それに、もう作画済ませちゃっているんだから、できるだけ絵の描き直しはしたくないし。
だから「まんま言う通りにはしないけど指摘された問題は解決したよ」という直し方をするんだ。
できるだけダメージの少ない方法を考えるの。
けれど、それでも後からアレコレと予定外にイジると、バランスが狂ってくるんだ。
そこのセリフが○○なら次のコマのセリフも変えないと、とか、セリフの文字数が5文字増えちゃうと絵の大事な部分がフキダシで隠れちゃう、とか、色んな弊害も出てくるんだよね。
作画が終わった後でも構成し直せる工夫
そういうときに、キャラ、背景などがバラバラの「素材」になってると助かるんだ。
キャラの配置やトリミングを簡単にやり直せるから。
フキダシや枠線もレイヤーでわけてあるから、コマの左右幅だって可変できる。
だから2コマ目に直しが入って文字数が増えてしまい、でも絵をあまり削りたくないときには、印象が変わらない程度に配置し直して、手前のコマや後のコマの幅をホンのちょっとだけ狭く調整し直したりして、イメージ変えないように修正できたりするのよ。
つまり完成しちゃった漫画でも、描き直しはしないで後からレイアウトを変更できるってわけ。
これのおかげで、どれほど助かったことか。
お客は好き勝手に変更を求めてくるけど、それで描き直しになったとしても、追加の予算が出たり、納期を延ばしてくれたりはしないんだよ。
交渉したら何とか出してもらえるかもしれないけど、ほとんど毎回がそうなんだから、そんな交渉をいちいちやってたら時間の無駄なのよ。
追加料金&納期延長が認められたとしても、それでスケジュールが狂うと、次の仕事にも影響してくる。
キリがないんだ。
でも直さないっていう選択肢もないわけで、それで「可能な限りダメージを小さくして直しに対応する方法」を考えたわけ。
あ、工夫してるから後出し修正もドンと来い、ってコトじゃないからね。
原則NGってのは変わらない。認めてない。認めてないけどやるしかないから企業努力してるってだけのこと。
依頼者が後出し修正アタリマエとか思ってたら「冗談じゃねぇ!」と注意するよ。
とにかく、ウチではこういう描き方をしている。
使っているソフトはフォトショップ。
こうした描き方をするには、漫画制作専用のソフトを使うよりフォトショップのほうが都合がいいのよ。
作者が想定した通りの原稿を作るのなら漫画専用ソフトのほうがずっと便利だろうけど、後になってどうなるかわからない、予想の斜め上を行くような展開もあり得るとなると「漫画用」にはない機能がキメ手になることも少なくないんだ。なんせ「編集」まで同時にやらなきゃいけないようなトコがあるからね。
だから漫画専用のソフトじゃやりにくいの。
もっとも、漫画専用ソフトなんてモノがない時代からやってるから、ソッチに慣れちゃっているというのも大きいんだけど。
やっぱり慣れた道具が一番だもん。
付加価値となった全カット素材集
なお、作画を別紙に「素材」として描くやり方は、別な付加価値も生み出した。
なんせ、自動的に漫画に使った全部の絵のイラスト集ができあがるんだから。
それらはキリヌキで自由に再利用できるんだから。
これが、すごく便利。
販促などのカットとして、色んな場所で簡単に使える。
漫画のコマの中では、手足の一部がフレームアウトしちゃっていても、素材の段階ではソコも描かれているので、広報素材として活用できちゃうんだ。
主線だけ取り出してカラー化することだってできるしね。
元々が広報用の漫画だから、フレキシブルな使い方ができるっていうのは、非常に便利なんだよ。
そうした対応するだけでも別途予算で稼げちゃうことだってあるし、お客様への特典サービスにしてあげることもできるしね。
そういうことも、仕事を獲得していくための企業努力なのよ。
キャラには、いちいちフチをつけている
ウチの漫画では、ほとんどのキャラに白フチを付けている。
普通の漫画でもそうすることはあるけど、ほとんど全部に白フチをつけるっていうのは、そんなに多くないだろう。
でも、ウチでは付けている。
これは、広告漫画って情報量が多すぎてゴチャゴチャしがちだからだ。
小さなコマに7人詰め込んで、それぞれに演技させるとかね、そんなコトもしょっちゅうなのよ。
だから白フチがないと、何がなんだかわからなくなっちゃうの。
そんなコトしなくて済むだけのページ数をもらえるならいいんだけど、そんな都合のいい仕事はほとんどゼロ。
普通の漫画の1ページは、広告漫画なら2分の1ページって感じでやってる。普通の漫画と同じ程度になるように描こうとすると、広告ばかりになっちゃって物語が死んじゃうか、その反対か、どっちにしても「広告漫画」にはならなくなっちゃうのよ。
広告漫画なんてそんなモンだろ、と言われればそうなんだけど、ボクはそれじゃ嫌なのよ。
「そんなモン」を描きたくない。
ちゃんと漫画になってるモノ、物語になってるモノを描きたい。
そうじゃないと納得できないの。
だから、どうしても詰め込んでいくしかなくて、それで全キャラに白フチをつけているの。
もちろん、全部のシーンがゴチャゴチャなわけじゃなくて、半分くらいは白フチなしでも問題ないシーンなんだけど、白フチがあったりなかったりしてると、かえって浮いちゃって気になってしまうので、原則として「全部白フチつけるルール」にしてるの。
あくまでも原則だから例外もあるけどね。
※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。