広告漫画の制作(2)シナリオ&ネーム/この段階での仕込みは意外に大事

2018年1月3日

 広告対象について勉強して、自分なりのとっかかりを見つけたら、次はシナリオを書く。

 ボクの場合、いきなりネームってのは滅多にない。
 色んな妄想をしてみて、一番しっくり来て、お客の要望にも合致している妄想が浮かぶまでは、ネームは切らない。

 なまじ絵にしちゃうと、それに引っ張られすぎて妄想の自由度が下がっちゃうこともあるので、ボクはまずシナリオから入るんだ。

作者、読者、広告主、それぞれの気持ちでシナリオを書く

 シナリオは、最終案になるまで数稿の段階がある。

 初稿では、主にセリフだけだ。

 シーンごとの区切りや、図解や、どうしても見せなきゃならない背景などについては注意書きを入れるけど、それ以外はセリフだけ。

 執筆中は、どれが誰のセリフかも指定しないで書く。
 喋り方や役どころで自分ではわかってるから。

 ページの区切りも考えない。
 全体のページ数は把握してるけど、どこまでが何ページの分とか決めないで書いちゃう。
 慣れてくると、どの程度の文字数だったらだいたい何ページと読めるから、全体のボリュームだけ考えて書いているの。

 そうやって初稿ができたら、一晩くらいは寝かせて翌日に読み返す。

 ツジツマが合わないトコはないか、テンポが悪いトコはないか、説明不足になっていたり、逆に説明しすぎだったりしないか。
 そういうトコを見直す。

 何より、自分で面白いと思うかどうかを見直す。
 一晩寝かせるのはそのため。
 初稿は勢いで書き上げちゃうことが多いから、いったん忘れて、できるだけ読者に近い気持ちになって読み返さないとダメなんだよね。

 まぁ、ここまでは普通の漫画を考えるときと同じなんだけど、これは広告漫画だから、読者だけじゃなくて、クライアントの気持ちにもなって見直さないとダメ。
 初稿の段階では、漫画としてはオッケーだけど広告的には物足りなく感じるかも、ということも多いからね。

 もちろん、最初から広告だということを意識して書いているんだけど、それでも漫画に引っ張られがちなんだ。
 他にも、自分的には十分広告になっていると思えても、今回のクライアントは納得しそうにないなぁということもある。

 ボクはあんまり露骨な、いかにも広告なシーンを入れるのは好きじゃなくて、できるだけ「気付いたら広告対象に興味を持っている」になるように描くことが多いのだけど、クライアントによっては露骨な広告カットがないと満足しないってこともあるんだよね。
 打ちあわせのときに漫画の話にはノッて来なくて、ビジネスの話ばかりするようなタイプだと、そうした傾向が強い気がする。

 なので、打ち合わせの時にそういうニオイを感じたら「クライアントを満足させるためのシーン」を盛り込むように工夫したりすることもある。

 そんなシーンを入れなくても広告効果が出るように構成しているつもりだけど、クライアントが納得しなかったら作品は世の中に出ないし、露骨な宣伝シーン抜きで本当に大丈夫かどうかはやってみないとわからない部分もあるからね。
 いくら広告漫画でも、そんなシーンばっかりの漫画は描きたくないけど、1つや2つは、保険をかけておくほうがいいのよ。

 こうして漫画家、読者、クライアントそれぞれの視点でシナリオをチェックしてみて、引っ掛かったところを改稿したりして第2稿、第3稿(時間があるなら、ここでも寝かせて見直すんだけど)と改稿していき、たまに初稿や2稿に戻ったりしつつ、最終的にセリフが全部決まって、ストーリー的にも大丈夫そうだとなったら、ネームに進むんだ。

 なお、この段階で完成シナリオをクライアントに見せておくこともあるし、ネームになるまで見せないこともある。大きな直しが出る可能性があるときは、シナリオで見せておくことが多いな。

 広告漫画のネームは、普通の漫画のネームより手間がかかるのよ。
 一般の素人さんに見せるモノだから、そこそこキチっとしてないと理解できないの。

 なので、ネームを仕上げちゃってから変更が多いと、かなりイタイの。
 1~2ページ程度の短いモノならネームでいいんだけど、何十ページものネームを仕上げてから大幅な変更を要求されたりするとガックリ来るので、そういうときはシナリオで一度チェックを受けるようにしてるんだ。

 あ、一応言っとくと、クライアントに見せるときには誰のセリフかわかるように書き足して、シーンごとの説明なども入れてから見せてるからね。

3段階の「掛け算」でつくるネーム

 ウチでは漫画はデジタル制作で、Photoshopで自作した「漫画原稿データ」に絵を貼り付けていく感じで作品を仕上げている。

 シナリオからセリフのテキストを抜き出し、原稿データに貼り付ける。
 同じコマで使うセリフが複数あるなら、それも貼り付ける。
 キャラが入る位置をイメージしながら、セリフの位置を決めて、その後にコマとコマの間の区切り(縦の枠線)を入れて、1コマ。これを繰り返して全体を作っていく。

 このときにセリフのニュアンスを調整し直したり、あるセリフを別な人のセリフに置き換えたり、1つのセリフを2つにわけたり、といったコトもやる。

 シナリオ段階でも、だいたいのコマ割や作画したときの状態をイメージしつつ書いているのだけど、実際にコマ割してみると、つながりが悪かったり、読みにくかったり、絵がいい感じに入れられそうになかったり、段組やページの切り替えに合わなかったりということが出てくるから、そういう部分を調整しながらネームを作っていくの。
 細かいトコでは、セリフの改行部分が気にくわなくて、別な言い回しに変えちゃうということもあるね。

 シナリオ段階では「だいたいのページ数」をイメージしてるだけだから、たまには想定ページ数に足りないとか、収まらないということもある。
 そういうときはドコを削るか、何を足すかを考えて、シナリオに戻ったりすることもある。

 削るときは思い切って切らないとダメなことが多いな。
 このギャグ気に入ってたんだけどバッサリ落とすとかね、そのくらいのつもりでやらないと、かえってつまんなくなっちゃうのよ。

 足すときも思い切って足す。どこかの部分を引き伸ばすんじゃなくて、ドカっと新ネタを盛り込む感じ。
 その新ネタが収まらなくて足しながら引いたり、色々ややこしくなることも多いんだけど、とにかく、そうやってシナリオをネームにしていく。

 この段階では絵は全く入れてない。
 空間にセリフが置いてあるだけで、フキダシのカタチすらない。
 その状態で全ページをいったん仕上げちゃうわけ。

 そして、何度も読み返す。

 絵は入ってないけど、ボクには見えている。
 だから、そのつもりで読み返す。

 シナリオのときと同じように、ツジツマが合わないトコはないか、ギャグや解説がピンと来ない部分はないか、リズムの悪いトコはないか、文字量が特に偏ってたりはしないか等々をチェックするんだ。

 真っ白い画面だけで具体的な絵のイメージが浮かんでこないようなコマがあったら、そこはオカしくなってる部分だ。
 少なくとも迷ってる。
 つまり自信のないシーンだから、その前後も含めて、もう一回考え直す。

 大抵の場合、オカしな部分の原因はオカしな部分じゃなくて、その前後にあるんだよね。

 前後はオカしくなくても、そこで何かにこだわりすぎたり、逆にあっさり流しすぎていたりするせいで、別な部分に歪みが出てる。

 だから思い切って、数ページ丸ごと作り替えたりすることもある。
 歪みに関係してると思われる部分を丸ごと捨てちゃって、ゼロから見直す。

 こういう感じでやっているから、シナリオ工程はシナリオ段階で完成しているわけじゃないんだ。
 ネームにしてみて、それがまとまって、ようやくシナリオが終わる。

 でも、シナリオ的な工程が終わっても、同時にネームが終わるわけじゃない。

 まだ真っ白だからね。

 ここにラフなアタリを入れていく。

 ウチの場合は、ここからはボクの手を離れて、作画スタッフに回る。
 しかも、どういう意図でここまでを作ったのかも説明せずに「コマ割までが終わったデータ」を渡したりする。

 背景でコレコレを見せなきゃいけないとか、このくらいの大きさの図解が入るとか、そういうシーンだけは説明しておくのだけど、ストーリーやキャラ描写についての解釈は、作画スタッフに委ねちゃうんだ。

 すると作画スタッフは、独自の解釈でアタリを描いてくる。

 ボクのイメージと合致するシーンもあれば、そういう描写もアリという描き方のときもある。
 キャラAのセリフのつもりで書いていたのに、キャラBになってることもある。
 こっちのイメージを超えてくることもあれば、ここは解釈ズレすぎだなって思うこともある。

 さらに、アドリブも入ってくる。

 広告漫画って横書きの作品が多い(広告物の多くが横書きだからね)んだけど、横書きだとコマの天地を文字に食われちゃって、作画できるスペースが横に細長くなりがちなのよ。

 コマ割に余裕があれば問題にならないんだけど、広告漫画って大抵は予算ギリギリのページ数でやってるから余裕がない。
 詰め込むしかないことが多くて、セリフも長くなりがち。
 だからこそ少しでもセリフを読みやすく配置したいんだけど、そうすると作画スペースが制限される。
 横長の狭いスペースしか残らないってコトが多いのよ。

 だけど人間って基本的に縦長でしょ。
『ワン・ピース』に出てきた「ゆきひょ~~~う」みたいなキャラならいいんだけど、人間って、ディフォルメしてもアップで描いたとしても、横長には収めにくいのよ。

 だから、どうしてもスペースを有効に使えない。
 横長の空間に縦長のモノを置けば、空間が余っちゃうでしょ。元々狭いのに余っちゃうんだ。
 そうならないようにセリフのほうを配置すると、改行だらけで読みづらくなるから、それもできない。

 そこで、作画スタッフのアドリブが出てくる。
 余ってしまう部分に小芝居が入ってくるんだ。メインのストーリーの後ろで何かのギャグやってるとか、セリフは一人分だけど、別なキャラもうなずいているとか、そういう絵が加わってくる。
 スッカスカのままじゃヘンだからね。

 そういうラフ絵が入ったモノが、ボクの元に戻ってくる。

 これをもう一度、チェックする。
 作画スタッフの解釈で描かれたシーンは、それでもアリかどうか。アドリブ部分はどうなっているか。

 そういうところをチェックして、作画スタッフの解釈でもアリだけど、そう描くならセリフはこうしておきたいと変更したり、アドリブがいい感じだから、ソレを生かす方向に流れを調整したりする。
 そして、どうしても自分の解釈でないとマズイと思える部分は、今度こそ意図をキッチリ伝えて修正してもらう。

 まぁ、長年一緒にやってるとお互いに相手を読むようになるから、大きくズレることは滅多にないんだけどね。
 互いのクセまで把握してカバーしあうバディって感じになるんだよ。

 こうしてボクのイメージに、作画スタッフのイメージが上乗せされ、その両方のバランスを取って最終調整を施して、ようやくネームが出来上がる。

 いくら作画まではやっていなくても、ボクだって漫画家やってんだからネームくらいは描けるんだけど、そうしないのは、作画スタッフに自分なりの裁量でやれる部分を与えて、ノって描けるようにするためなんだ。

 ボクが作者ヅラして指図するだけじゃダメなのよ。
 作画スタッフの創作魂を引き出してあげないと、ただの作業になっちゃうから。

 背中を預けて、力を合わせる。
 いや、合わせるんじゃなくて引き出しあう。
 足し算じゃなく掛け算。

 そうやってクオリティを上げていくのがウチのやり方なんだ。

参考:ボクのネームの作り方

 ボクの場合、予めPhotoshopで作っておいた自作の「漫画原稿データ」をいつも使っている。

 Photoshopでは「レイヤー」でたくさんの画像を重ねておける。
 だからボクの「漫画原稿データ」には「外枠線」「横枠線」「縦枠線」「フキダシ」「セリフ」「コラム」といったレイヤーセットが仕込んであるんだ。
 毎回それらをONにしたりOFFにしたり、コピーして増やしたり、一部を改造したりして使っているの。

「外枠線レイヤー」は、漫画の一番外側の枠線だけのレイヤー。

 枠線の内側が透明になっていて、外側のタチキリ部分は白地になっている。
 この「外枠線」よりも下のレイヤーに漫画を描けば、枠線の外側にハミ出しても、そこはマスクされて見えない、というわけ。

 枠線の外側をマスクしちゃったらタチキリのときに困るんじゃないの? と思う人が多いだろうけど、実は広告漫画ではタチキリが使えない、もしくは使わないほうがいいというコトがけっこう多いんだよ。

 広告漫画は、パンフレットなどの「広告の一部」として使われることが多いから、広告としての編集段階で枠の外側に何らかのデザインや色を使うといったコトもあるし、時にはページの開きが変わっちゃうことだってあり得る。

 しかも漫画以外の部分がどういうデザインやレイアウトになるかは、大抵は依頼の時点ではわかってない(もしくは知らされていない)から、描き下ろし冊子など、タチキリしても問題ないと最初からわかっている場合以外では、タチキリは当てにしないことが多いんだよね。

 こっちの仕事は漫画部分だけであっても、実際には広告全体の中の一部なので「広告として使い勝手のいい素材」であることも心がけなきゃいかんのよ。
 そうでないと使いづらい制作者と思われて仕事が来なくなるか、何度も描き直しさせられて痛い目にあったりするから。

 むしろ、漫画家ではない発注者たちには気付けない部分に気配りして助言・提案してあげるべきなの。
 そうやって気が利く、頼りになると思われてこそ、継続的に仕事できるんだ。

 なお、そんな勝手なコトされるのは嫌だ、なんて言ってもダメ。
 広告漫画は「広告するための漫画」なんだから、常に漫画としての完成度より広告としての完成度が優先される。
 広告漫画を手掛ける以上、それは受け入れなきゃいけないんだ。

 とにかく、そういうアレコレもあるのでタチキリ部分がマスクされている「外枠線」が便利……というか、そのほうが都合がいいのよ。

 もちろんタチキリも可能だってわかってるときは、マスク外して自由にやらせてもらうけど、「タチキリなし」の案件のほうが圧倒的に多いから、そっちをディフォルトにしてるんだ。

 こういう基本の外枠線レイヤーの上に、段ごとの区切りになる「横枠線」と、コマとコマの間の仕切りになる「縦枠線」のレイヤーを重ねてコマ割をしている。
 外枠、横枠、縦枠とバラバラにしてあるのは、後でコマ割が変わることも珍しくないからだ。

 例えば、全部描き終えて納品直前になってから、セリフに修正が入ったりすることだってある。
 その修正によっては文字数が変わり、読みづらい改行になってしまったり、元のコマの大きさでは収まらなくなることだってある。

 で、そういうコトに素早く対処できるように「漫画のあらゆる部分をレイヤーでわけておく」んだ。
 枠線も、その部分部分がレイヤー別になっていれば、ちょこっとズラすだけでコマの大きさを修正できて便利なのよ。

 この他「フキダシ」「セリフ」「コラムや解説用」などのレイヤーが、予めセットしてある。

 セリフやコラムのレイヤーは、ようするに文字だけのレイヤーで、いつも漫画のセリフ用に使うディフォルトのフォント、ポイント数、文字間、行間などの指定を済ませたダミー文字を置いてある。
 ようするに設定済みの文字組ってヤツで、それをコピーして増殖させて、たくさんのセリフやコラムに変えていくのよ。

 大したモノじゃないのだけど、こういう「毎回使う設定」を仕込んであるかどうかで、作業ペースって大きく変わるんでバカにできないの。

 ちなみに一般的な漫画では「漢字=ゴシック系/平仮名=明朝系(厳密には教科書体だったっけ?)」になっているんだけど、ウチでは特に要望がない限り、ゴシックだけでやっている。
 演出上の理由で他のフォントに変えることはあるけど、ディフォルトはゴシックだけ。
 広告漫画なんだし、漫画界の慣習に合わせなくても問題ないしね。

 あ、そうそう。

 第1巻「広告漫画ができるまで(ダイジェスト)」でも書いたけど、ネームの絵は、表情やポーズがわかる程度には描いておいたほうがいいからね。

 広告漫画の依頼者は漫画をよく知らない素人さんなんだから、大雑把すぎるネームじゃ理解できないんだ。
 下絵ほど丁寧に描かなくてもいいけど、そこそこには描いておかないと、通るはずのネームも通らなかったりするから要注意だ。

 また、セリフなどの文字も大事。
 乱筆で読みにくいといったことは避けるべき。ていうか手書きじゃなくて、ちゃんと活字(フォント)にしたほうがいいと思う。

 素人さんはネームの絵はイマイチ理解できないから、文字のほうに強く引っ張られるんだよ。
 絵やコマ割はほとんど気にしないで文字だけ見てる感じ。
 だから文字が汚いと、全部がダメに見えちゃうんだ。

 このネームの件だけじゃなくて、広告漫画の世界では、あらゆることに対して素人相手であることを意識しなきゃならない。
 実際の作品づくり以上に、ソコに配慮していないと、一般人のオーダーには対処できないんだ。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。