制作編:序/広告漫画ならではのアレコレに対処する制作段階での工夫
この『広告まんが道の歩き方』で扱っている主なテーマは「広告界とのつきあい方」だ。
だから制作方法などの技術的なことは、この制作編でさえほとんど書いていない。
ただ、それでも多少は「広告漫画ならではの制作注意点」みたいなものはあるので、そういうことだけは書いておこうかと。
なので、このカテゴリは制作編ってことになってるけどテクニック的なことは書いていないの。
ごめんね。
ボクは描かない漫画家
ボクは元々漫画家で、今も漫画家ではあるのだけど、実はそれほど「描くこと」にはこだわっていない。
ボクがやりたいのは、映画で言えば監督であり脚本であり演出であり……なのだ。
それらには憧れるけれど、役者になりたいと思ったことは一度もない。
漫画家になったのは、役者を雇えないから自分でやるしかなかったからだ。
自分に役者の才能があるとは思ってないけど、作品は作りたいから役者も自力でやるしかない。
でも一人で同時に多数の役者を演じるのは無理だから、漫画家になった。
漫画なら一人で全部やれるから。
そんな経緯だから、ボクは絵が下手だ。
下手なままデビューして、下手なまま続けてきた。
謙遜じゃないし、自虐でもないよ。
これは客観的な事実ってヤツ。
物語を作る。盛り上げる。構図を決める。
そういうのは好きなんだけど、その通りの絵をつくるのは苦手。
ボクはそういうヤツだ。
なので、ある時期からボクは自分では描かなくなった。
キャラクターの作画は、スタッフや他の漫画家さんに任せるようになった。
そんでキャラ以外は全部自分でやる。
営業も、打ちあわせも、企画も、取材も、シナリオも、コマ割も、背景などの作画も、校正や納品も、事務処理も、とにかくキャラの作画以外は全部自分でやる。
場合によってはキャラも主線だけやってもらって、着色は自分でやっていたりする。
今でも下手なりには描けるけど、自分の画力じゃイマイチだって自分で感じていたから、そういうカタチでやるようになったんだ。
ボクは、漫画で一番目立つ部分のキャラクターは描いていない。
それでもボクは漫画家だ。作者だ。
映画が映画監督の作品であるのと同じだと思っている。
実際、作品を生み出していく仕事全体の中では、キャラ作画の部分って、ホンの一部でしかないから。
ものすごく重要な部分ではあるけど、それでも一部なんだ。
いつかはプロデュースに徹したい
そういうふうにやっているから、ボクは非常にプロデューサー的だ。
製作総指揮ってヤツだね。
描くことよりソッチが好き。
自分で背景とかやってるのは……今ドキの人ってキャラは上手いんだけど、背景はイマイチってことが多いからなのよ。
納期と採算と品質のバランスで考えたとき、ボクがやるほうが効率いいからなのよ。
あ、ボクの背景画が上手いわけじゃないよ。
キャラだろうが背景だろうが、自分で描いたらボクは下手くそ。
だけど背景はね、デジタル処理でも作れるのよ。
ある程度まではね、画力じゃなくて、知識と工夫とセンスでも何とかなるの。
ボクの場合は、広告の仕事でもフォトショップで合成したり加工したりしてたから、その応用でね、やれちゃうんだ。
なので、今は自分が作画も手伝うほうがいいからやっているんだけど、手伝わなくても大丈夫ならボクは描かなくてもいいと思っている。
まぁ、作画以外の部分では「つくりたい」がいっぱいあるから、監督、脚本(あるいは原作)、演出など関わっていきたいとは思ってるんだけど、必ずしも自分で描いてなくてもいいやと思うことは多いんだ。つ〜か、そのほうが作品のクオリティ上がるんじゃないの?と(笑)。
ボクは描く以外の部分をやりたいんだ。
というより、たぶんボクはそっちのほうが向いていると思うんだ。
30年以上も漫画家やってきて、今も描いているんだけど、恐らくボクは漫画家より編集者に向いているタイプだ。
プロデュースにはプロデュースの面白さがあり、やりがいも感じている。
今はまだプロデュースだけで食っていくのは厳しいので自分でも描いているけど、いつかはプロデュースに徹したいと思っている。
そうすればウチのスタッフだけでなく、他の漫画家たちの支援もできるもん。
ボクはすごい人ではないけれど、それでも長くセルフ・プロデュースでやってきたから、それなりの場数は踏んでいるし経験値もそこそこある。
漫画家が苦手な交渉ごととか、漫画を知らない人たちへの啓蒙活動とか、逆に広告を知らない漫画家へのアドバイスとか、やってあげられることはいくつもある。
そういう部分を支援してあげられれば、漫画家にとっても広告主にとっても読者にとっても「よい作品」を増やすことになると思うんだ。
セルフ・プロデュースを語る本当の狙いは……
漫画に限らず、何かのプロジェクトってモノは、プロデュースがしっかりしてないとイイ結果が出ない。
だからボクは、本当に大事なのは「ちゃんと描けばちゃんとした作品になるように状況を整えること」だと思ってる。
つまり、漫画家にはプロデューサーが必須だと思うんだ。
漫画家が漫画に打ち込むためには、プロデュース部分をしっかりと整える役割のパートナーがいなきゃいけないと思うんだ。
漫画界にはそれを担う編集者がいるけど、広告界にはいない。
だからこそ本書では、そういうことばっかり書いている。
できるだけセルフ・プロデュースできるようにと思って、自分の体験や経験で知ったことを書いている。
クリエイターたちが、営業とか折衝とか、そういうのが苦手なことは知ってるけど、そこをやらなきゃ描いてもムダになったり、正しく評価されなかったりしがちだから。
頑張りが無駄になったり仇になったりといった空回りしないで済むように思って、漫画家がやりたくなさそうなことも、あえて書いているんだ。
でも本当の狙いは、漫画家にセルフ・プロデュースしてもらうことじゃない。
ボクがそうであるように、広告漫画プロデューサーになりたい人が生まれてきたらいいなぁというのが本音なのだ。
そういう資質のある人と出会いたい、見出したいというのが本当の狙いなの。
ボクがそうだったように「あ、自分はプロデュース役やれるかも」という人がいるかもしれないでしょ。
描く以外の部分がどういうものか知らないだけで、知ればやれる、やってみたいという人がいるかもしれないでしょ。
そういう形で大好きな漫画を手伝える、支えられるって思う人がいるかもでしょ。
セルフ・プロデュースのことをアレコレ書いてるのは、そういうことも知識として知っていてほしいのと、プロデュースできる人が見つかるまでくらいは自力で乗り切ってもらいたいって思うからであって、本当は漫画家本人にプロデュースまで背負わせたくないのよ。
そんなことさせないほうが作品に打ち込めるのは間違いないんだから。
ただ、プロデュース部分がいい加減だと全てがパァになっちゃうことが多いから、その役目の人がいないから無しでいい、ということにはならないの。
だから、こういうことを書いてプロデューサーになってくれる人が増えるのを望んでいるんだ。
そういう人材が増えないと、広告漫画自体の数も増えないもん。
イタタな広告作品がいくら増えても、それじゃあ後々につながらないからね。
ボクは、ウチのスタッフだけじゃなく、できるだけ多くの人をプロデュース部分でサポートしたいと思ってるけど、一人でやれることなんか限られている。
つ~か、自分のことでさえ、まだ満足にやれちゃいない。
だけどお互いに生き延びていれば、いつか出会えて、それぞれが得意なコトに打ち込めるようになるかもしれないし、ボクのようにプロデュースのほうをやりたがる人が出てくるかもしれない。
近年は長期連載が多くなって、短編や読切の数がめっきり減った。
でもさ、短編をしっかりまとめるっていうのは、漫画力を高める上で、すごくいいことだと思うんだ。
それに自分が描きたいものばかりを描くんじゃなくて、テーマやお題をもらって、それを自分流に料理するっていうのも、いい訓練になると思うの。
漫画で大喜利やるようなモンだよね。
広告漫画っていうのは、まさにソレだから。
広告費というギャラをもらって漫画の腕を磨けるんだから、悪くないと思うのよ。
単行本になることは滅多にないけど、ギャラ自体は漫画界のソレより、ずっと多いのが普通だしね。
漫画家たちに、そういうチャンスを、ちゃんと稼ぎながら提供できる。
広告漫画には、そういう可能性があると思うんだ。
だからこそ、それをモノにし続けるために「広告漫画プロデューサー」が必要なんだけど、実際にはいないも同然だから、とりあえずはセルフ・プロデュースを覚えてもらいたいなって思うの。
いつかボクと、あるいはボクより優れたプロデューサーに出会える日まで。
※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。