やはり愛すべきバカだった!!(再掲載/2009.10執筆)
このコラムは、ボクの公式サイト(www.urutaku.com)上で以前に公開していた「イバライガー観察日記」という連載コラムに掲載していたものを抜粋・一部改定して再掲載したものです。

イバライガーの名を取り戻すために……
かつて「時空戦士イバライガー」だったものは、2008年12月からイバライガーRと名前を変え、IHPの名の元で活動を再開した……というところまでは以前の記事で紹介した。
だが、その体制はわずか10ヶ月にも満たなかった。
ボクが再び関わり出す2009年秋、広告代理店はイバライガーからの撤退を決定したのだ。
同年、日本経済を揺るがしたリーマン・ショックの影響で、本業の不振などが重なり、採算の上がらない部門を切り捨てることになったのである。
実は、イバライガー活動には内部的に様々なトラブルが頻発していて、事業としては扱いにくいものになってしまっていたのである。
パトロンが消えたというだけなら、新しいやり方を探ればいい。
元々、誰の支援もなしで立ち上げた活動なのだから、元の状態に戻るだけだ。
だが、今回はそれでは済まなかった。
イバライガーの名称の使用権(商標権)を広告代理店に譲渡してしまっていたからだ。
それが支援の条件だったのだろう。
コスチュームの意匠権や活動拠点(工房)などは、元々BOSS氏個人のもので、彼はそれらをIHPに無償で提供していた。
だから、それは今後も使用できる。
だが、商標権を取りかえさなければ、イバライガーを名乗れなくなってしまう。
それはマズイ。
広告代理店は完全撤退するのだから、イバライガーの商標権を持っていても何の意味もない。
当然ながら返却の相談をした。
だが代理店も10ヶ月の活動で1000万円以上の資金を使っていた。
その資金は正しく使われたとは言いがたかったのだが、それでも企業の資金を1000万円も注ぎ込んだ以上、商標権を手放すわけにはいかなくなっていたのである。
交渉は難航した。
代理店側は商標権の所有にこだわってはいない。
だが、投じてしまった資金がある以上、無償で返却に応じる事もできない。
株式会社なのだ、情だけでは動かせないことも多い。
一方、IHPにも資金はない。
元々、代理店の資金援助で「給料」をもらっていた若者たちなのだから、1000万円もの投入資金をどうにかすることはできるわけもない。
話は平行線だった。
そこで、これまで影に回っていたBOSS氏が乗り出す事になる。
ボクはうっかり忘れていたが、考えてみればBOSS氏からイバライガーに関する連絡が来る事がオカシイのである。
彼は代表権を手放していて、今はイバライガーの活動はIHPに変わっていたはずなのだから。
BOSS氏は代表権を放棄した以上、すでにIHPのメンバーではなかったが、ヒーローの著作権者である上に、意匠権も有しているし、コスチュームの所有者でもあり、活動拠点の提供者(これらは無償で提供されていた)でもあるわけで、代表権はなくとも、彼抜きでイバライガーの活動ができるわけもないのである。
つまりIHPの背後には常にBOSS氏がいて当たり前だったわけだ。
IHP側では、BOSS氏の存在をうるさく感じたりしていたようだが、まぁ、若いうちは保護者が目障りに思えるものだ。
BOSS氏が交渉の場に出ていったことで、条件が変わったわけではない。
両者の間には、相変わらず経済的な問題が立ちはだかっている。
そうしているうちに、朗報も飛び込んできた。
テレビ東京の人気番組「ピラメキ~ノ」での出演が決まったのである。
年末からの出演で、茨城のヒーローとして番組に出られる。
だが、出演するにはイバライガーの名を取り返さなければならない。
今のままでは飛躍のチャンスをみすみす逃してしまう。
テレビ東京への返答期限も迫ってくる。
もう、交渉を続ける時間もない。
そこでBOSS氏は決断した。
あまりのことに請求書を出せなかったボク

広告代理店が10ヶ月の間に使った費用の全てを、彼個人が弁済する事にしたのである。
1000万円以上の赤字を全部引き受けると。
ボクが「マトモじゃね~ぞ」と言ったのは、このことである。
BOSS氏は資産家なんかじゃない。というよりも借金のほうが多いはず。
それなのに、この上他人が作った赤字を背負うというのか?
だが、そこは広告代理店も考慮したようだ。
弁済の意思を示し続けてくれればいい、と。
毎月ちょっとづつでもいいから、とにかく弁済が続けば、それでいいと。
元々、解消する当てもない赤字だったのだから当然と言えば当然でもあるが、1000万円の借金には変わりない。
返済期限はなくとも、少しづつコツコツずっと払い続けるしかないのだ。
やはり普通なら背負えない。
でも、BOSS氏はその条件を飲んだ。
月々最低3万円以上を支払う約束を交わし、全てを背負う事で、イバライガーを取り戻した。
ボクが彼等と再会し、その活動に関わるようになったのは、この交渉がまとまりかけている頃だった。
BOSS氏は雑談の中で、この経緯を語ってくれた。
…………………………。
エライことを聞いちゃったよ!!
どうすんだ、おい! そんな状態でボクにも発注だって? 払えるのか?
いや、それより請求していいのか?
この事情を知った上で、こいつらに支払いを求めるのって、人間としてどうなんだ?
筋としては請求していいに決まってる。ボクだってスタッフの給料を作ってあげなきゃいけない立場だし、今年はけっこう苦しい収益状態。
1円だって無駄にしちゃダメなときだ。
でも、彼等に請求するのって、ちょっと……。
いや、ここで請求しないのは、ウチのスタッフに対する裏切りじゃないのか?
そもそも全部分かった上で注文してきたのは彼等だろ。
もし苦しんだとしても自業自得だろう。
でも、それでも……。
結局、ボクは請求しなかった。
スタッフには正直に話して理解してもらった。
キミたちが頑張ってくれた仕事の1つは、ノーギャラになってしまったと。
むろん、その弁済はボクがする。
ボクが招いた結果をスタッフに押し付けたりはしない。
カミサンには謝った。
ごめんなさい。ボクは、BOSS氏のやり方に感動しちゃった。男を見ちゃった。
それで請求すべきことを請求できなかった。
経営者としては失格です。ごめんなさい。
もちろん、文句1つ言わずに許してくれたよ。
ずっと苦労をかけてきたけれど、彼女はボクを信じてくれている。
どうだ、いい女房だろ!
これ以降、ボクはイバライガーに本気で惚れ込む。
姿じゃなくて心意気のほうに惹かれてしまったからだ。
自分には到底できないことをやった奴を見てしまうと、多少の道理なんか吹っ飛んでしまう。
まさか、これほどの「愛すべきバカ」だったとは!
これほどの覚悟を見せられたら、負けていられないじゃないか。
それに、こういうことに首を突っ込みたくなる性分なんだから、仕方ないしね。
さて、そんなわけで、この年の暮れ近くイバライガーは生みの親の元へ帰還した。
巨大な借金と引き換えにBOSS氏は代表に復帰し、IHPではなく、またしても新しい体制「茨城元気計画」としてスタートすることになった。
ボクが全力で作ったポスターも出来上がって、あちこちに掲示され評判もよかった。
テレビ東京への出演も確定した。
万々歳、とは言わないけれど、ほっと一息……かと思ったら、そうではなかった。
ヒーローにはトラブルがつきもの。
ヒーローに関わっていくことの凄まじさを、この後、ボクは何度も目撃することになる。
2018年追記
ボクが請求をあきらめたのは、ここに書いたことだけが理由じゃない。
他にも心を打たれることをいくつも知ったからだ。
IHP体制だった時期、BOSS氏は表立って活動することができなかった。
スーツも設備も、何もかもが自分のものなのに、契約上それを使うことができない。
けれど彼はこっそりとスーツを持ち出し、イバライガーに変身することがあった。
病気でずっと入院中のお子さん、養護施設に預けられているお子さんなどを励ましに行ったのだ。
ビジネス優先で、そうした活動をしようとしない代理店とIHPに代わって、密かにヒーローとして為すべきことをやっていたのだ。
自分がイバライガーだとは名乗れない。
謝礼なども受け取れない。
それでも行く。
そうした人たちを励ましてこそイバライガーだからだ。
このことだけでなく、他にもいくつもの「ちくしょう、泣かせやがって!」なことがあったんだ。
そういうのを知ってしまうと、どうしても熱くなっちゃうんだよ。
ほっとけない、自分も何かしたい、彼らの力になりたいって思っちゃうんだ。
イバライガーは今も、そうした活動を続けてくれている。
目立たず、お金にもならないことだけど、決してやめようとはしない。
2011年の東日本大震災のときには、イベントのほとんどが自粛になって収入が途絶えたにも関わらず、無償で被災者を見舞い続けていた。
2016年には、イバライガーブラックがご高齢のファンのお通夜に出席したことがネットで大きな話題になった。
ボクにとっては、あれこそがイバライガーの本当の姿だ。
ステージショーで見せている颯爽とした姿よりも、そういう密かな活動のほうにボクは心を惹かれている。
そういうヒーローだからこそ、応援している。
これからもずっと、応援してきてよかったと思えるヒーローであり続けて欲しいなぁ。
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※このブログで公開している『小説版イバライガー』シリーズは電子書籍でも販売しています。スマホでもタブレットでも、ブログ版よりずっと読みやすいですので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです(笑)。









うるの拓也












