キャリアは大事!(ただし本当に実力になってるヤツ)
キャリアが大事だなんてことは、わざわざ言うようなコトじゃないんだけど、ときどきキャリアってモノを勘違いしてる人に出くわすことがあるんだ。
キャリアをつくる、とか言ってるのよ。
いや、確かに作るんだけどさぁ。
キャリアってのは、本当は「積み上げる」モノなんだよ。
これが実績ですって言って、個々の作品を見せたりはするけど、だからって作品を売り込んでるわけじゃないんだ。
それだけの経験を積んだ自分自身を売り込んでるのよ。
これまでの作品なんてのは、所詮は食っちゃった飯なんだ。
キャリアは自分自身。
決して奪えない。奪われない。
だからこそ、キャリアを磨くべきで、泥になるような仕事はしちゃいけない。
そんなわけで、ここでは、売り物になるキャリアを積むために、ボクがどういうふうに仕事に取り組んでいるのかを紹介するね。
依頼内容は徹底的に吟味する
広告を請け負うというのは、広告物の色やカタチを作ることじゃない。
最終的に納品するものは出来上がった作品だけど、実は一番重要なのは「広告主に代わってナニをどう広告して、どういう結果を出すか」を考え、提案する部分なんだ。
ボクも普段、そういうコトをやっている。
デザインしたり漫画を描いたりするよりもずっと多くの時間を、企画を考える部分に使っている。
実際の制作作業は、仕事全体で言えばフィニッシュワークのようなモンなんだ。
それは「こういうモノを作ってくれ」と、企画がまとまった段階以降を頼まれたときでも同じだ。
なるほど、ご主旨は承った。
だが、その主旨が正しいかどうかは独自に検討させてもらう。
ボク自身が納得してからやらせてもらう。
ボクはいつもそんな感じで引き受けている。
まぁ、依頼者にはもうちょっと穏便な言い方をするけどね。「お前の考えが間違ってるかもしれないから鵜のみにしないぞ」なんて言ったら、喧嘩売ってるようなモンだし。
こうした場合、企画はすでにまとまっていて、依頼された仕事はその後の部分だけなんだから、前のステップまで戻って再検討したところで、企画料などを請求できることは滅多にない。
ゼロから企画を頼まれたのなら、当然企画料もしっかり請求するんだけど、勝手にやったことまでは請求できないんだよね。
それでもボクは必ず、依頼された時点のレベルではなく、その前のレベルを再検討してから引き受けるようにしている。
自分のキャリアを引き下げてしまうような仕事は、したくないからだ。
ボクらにとって、1つ1つの仕事はそのときだけのコトじゃない。
アレをやった、コレを手掛けた、こんな成果を上げたというキャリアの積み重ねこそが飯の種なんだ。
ここで言うキャリアとは、腕の話じゃない。
信用の話だ。
腕は売れない
そもそも、腕は売り物にならないんだ。
広告漫画に限らず、広告の世界での取引相手は、その分野の専門家じゃない。
素人なのだ。だからこそ、プロに依頼する。
そして素人である以上、仕事そのものは評価できない。
好き嫌いで選ぶことはできるけれど、これは仕事だ。趣味や遊びじゃない。個人的な好みだけでは選べない。
だけど作品自体の質の良し悪しを判断することもできない。
特に創作物の場合は、見た目が凝ってるとか、使われているテクニックが高度だとか、そういうことだけで選べない。
ヘタクソに見えても売れてる作品はあるし、スゴイ画力でも売れないモノもある。
素人にはラクガキにしか見えないピカソの絵が、何億円もの価値だったりもする。
となると、結果だけが全てになる。
お客が来た、モノが売れた。
「依頼者にとってのイイ結果」が出たからイイ仕事。
そんなふうに判断されるんだ。
結果はイマイチだったけどイイ仕事だった、といった評価をしてもらえる例は滅多にない。
少なくとも最初の取引で、そう言ってもらえることはない。
イマイチだったけど、頑張ってくれたから評価するなんてコトになるのは、それ以前にイイ結果を出している場合だけなのよ。
今までがイイ結果だったのなら、上手くいかないことがあっても、今回はたまたまダメだったんだろうと思ってもらえる。
これまでの仕事と比べて今回の仕事が雑だったとも思えないなら、見限って他所に頼むより同じ人にもう一回チャンスを与えるほうがいい。
そういうふうに思ってもらえる。
でもそうなるのは、それなりに長くお付き合いして、それなりの結果も出して、それなりの信用を築き上げてある場合だけなのよ。
ボクらは、そういう関係の相手を一人でも多く獲得し、維持していかなきゃならない。
元々、クリエイターなんて人種は営業などは上手くない。
出会いのチャンスは多くない。話術巧みに大勢をたらし込むなんてことは苦手なんだ。
その少ない出会いを、できるだけ確実にモノにしていくしかないんだ。
だけど最初でコケれば、それまで。その先は、まずない。
コケた案件でも、仕事をすれば代金は受け取れる。
コケた責任を押し付けられることも、普通はない。
けれど、コケたキャリアでは売り物にならない。
次の誰かに「どうだ!」と見せられない。そんなキャリアばっかりだったら、少ない出会いはさらに少なくなってしまう。
ジリ貧なのだ。
だから、キャリアにならない仕事はしたくない。
背に腹は代えられないといった状況(実はしょっちゅうだ)なら仕方ないけど、できれば後々につながるような仕事をしたいんだ。
ヤバい仕事でもヤバくないように変えていく
けど、そういう都合のいい案件ばかりが舞い込んでくることも、まずない。
ヤバそうな案件を避けていたら、仕事がなくなっちゃうのだ。
だから、あえて受けるしかない。
よほどブラックな仕事でない限り、断るなんて選択肢は最初からないと思うべきなんだ。
フリーのクリエイターなんて、そんなモンなのよ。
だから、企画から見直す。
ヤバいモノをヤバくないモノに変えていくしかないからだ。
そうしていないと日銭を稼ぐだけになってしまい、将来につながらない。
フリーランスは元々不安定なんだから、長さだけじゃなく太さも育てていかないと危なっかしくてやってられないの。
そのときだけを乗り切ればいいのならどうでもいいけど、継続的に生き延びていこうと思ったら、普段の1つ1つの仕事の質を、その時その時で少しずつ高めていかないとダメなのよ。
ヤバそうな案件を、少しでもキャリアになる仕事に変えていこうとしていないと、いざってときに何もできなくなるの。
いや、どの道、超弱小で超零細なんだから、自力で世の中渡っていけるなんて思ってないよ。
自分の力で世の中を斬り従えていくなんて無理。
ただ「いい仕事をする奴」と周囲に認めてもらっていれば、いざってときに必ずどこかから救いの手が差し伸べられてくるものなのよ。
このままツブすのは惜しいと思ってくれる人が、どこかにいる。
ボクは何度もチェックメイト、オシマイって思いたくなる状況に出くわしてきたから、それをよく知っているんだ。
どんなに頑張ろうが、自力ではどうにもならんことが必ず待ち受けている。
だけど、自力でも頑張ろうとしていて、それまでの仕事でも頑張っていたことが周囲の人に伝わっていれば、必ず援軍が現れるものなんだ。
「情けは人のためならず」って言葉があるけど、まさにアレ。
自分がピンチになったときのために、自分以外のピンチも出来るだけ見過ごさないように心がける。それがボクの処世術。
他人の力なんかいらね~よって言い切れるほどの大成功を収めちゃったら別な考えを持つようになるのかもしれないけど、確実に安全圏って言えるほどの大成功って、そうそうあることじゃないでしょ。
なら、人の縁が何より大きな財産なのよ。
だから、言われたから言われたままに引き受けるなんてコトは、していないの。
自分なりに勝率を検討して、もしもヤバそうな箇所に気付いたら、そこを何とかする方法を考える。
そういう算段をした上で引き受ける。
そうするしかないのよ。
言っとくけど、自分のほうが依頼者たちより頭がキレると自惚れているわけじゃないからね。
ボクが「おや?」と思うことでも、そのままのほうが正しいってコトも少なくないもん。
ヤバい案件だらけの広告漫画
でも、中には、先方の言う通りにやったら、どう考えてもトンデモないことになるとしか思えない案件だってある。
そして、特にそういうのが多い広告ジャンルというのも、ある。
それが広告漫画だ。
ボクはどんな広告でも、必ず自分なりに企画し直してみるのだけど、実際には普通の広告で厄介なモノに出くわす確率は低い。
一般企業から直接依頼されるときは、大抵は企画にもなっていない段階だから、企画自体も仕事の一部になる。
つまりボクが考えるんだから、どうにでもなる。
広告代理店などの同業者からの依頼の場合は、向こうもプロだからね。
例え自分の考えとは違っていたとしても、ソレはソレでアリっていう範囲に収まってることのほうが圧倒的に多い。
ボクら末端の制作者には見えない部分でフォローされてたりするし、多少の問題なら、現場レベルで何とかできたりもする。
だから、実際には面倒くさいコトにはならないケースがほとんどなんだ。
単に企画意図を理解するためにチェックしてるってだけだね。
ところが広告漫画になると、ほとんどが面倒くさい。
しかも、一般企業からの直接の依頼でも、広告代理店などの広告のプロが関わっているときでも、ヤバさは同じ。
なんだコレ?
うわぁああ、このまま描いたらエライコトになるぞ。
そんなのばっかりになるのよ。
なぜそうなっちゃうのか。
理由は簡単。
広告漫画を依頼してくる人は、漫画をわかってない人たちだからだ。
一般企業も、広告代理店も、漫画の専門家じゃないのだ。
広告にどれだけ詳しくても、漫画に関してはド素人。
そういう人たちが企画してるんだから、ロクなモンにならないのは当たり前なんだ。
だから、トンデモないシナリオとかを渡されちゃう。
コレを描いてくださいって。
ボクも何度も、そういうのを渡された。
シナリオどころじゃないシロモノを。
起承転結がないというよりストーリーがない。テーマもない。
登場人物というだけでキャラがない、動きもない。
言いたいことを並べただけ。並べてコマ割してフキダシにセリフを詰め込んで、テキトーな絵を入れとけば漫画になると思ってるらしい。
冗談じゃない。
はっきり言うけど、そんなモンを作るくらいなら漫画にしないほうがマシだ。
そんな漫画を描いたって、読者が喜ぶはずがない。
つまり広告としても効果は上がらない。むしろ評判を落とす可能性のほうが高い。
広告主の評判が落ちるのも怖いが、ボクの評判が落ちるのはもっと怖い。
広告は世間に広くバラまくものなんだ。
つまんない漫画を描く奴として広まってしまう。
そんなのは絶対に嫌だ。
先に書いたように、キャリアとは信用のことだ。
信用ってのは、積み上げるのは大変だけど、崩すのは簡単。
傷1つで、何年分もの努力がパァになる可能性だってあるのだ。
え? 名前を伏せて、自分の漫画だとバレないようなタッチで描けばいいって?
いやいや、それでもバレるときはバレるって。
意外にタッチってゴマかせないもんだぜ。
特にボクはそんなに器用じゃないから、上手にバレないタッチで描くなんてできないもん。
それにさ、人様に堂々と言えない仕事って……ちょっと……でしょ。
だからボクは、広告漫画の依頼を、先方の要望そのままで引き受けたことはない。
必ず白紙に戻して、自分なりに再検討して逆提案する。
「ボクのネーム」を出して、それが通ったときだけ引き受けているんだ。
任せてくれない漫画は描けない
そんなコトして大丈夫? と思う人もいるかもしれない。
断言できる。大丈夫だ。
元々、依頼者たちは、自分たちの漫画案に自信があるわけじゃない。
だから、こっちから手を差し伸べてあげれば、むしろ歓迎されることのほうがずっと多いんだよ。
中には「オレの顔をツブすな」的な反応をする人もいるけど、その手の人の場合は、そもそも取引相手として不適当なんだよ。
仕事を請け負うからには、パートナーなんだ。
依頼してくれたお客様には感謝するけれど、だからって卑下することもない。
どっちが上でもなく、お互いを尊重し、支え合うのが正しいのだ。
しかも、請け負うモノは創作物だ。
創作という行為は、作者に依存する。
相手が何を望んでいようが、作者には作者がイイと思うモノしか描けないのだ。
だから、どうしたって最後は「黙って任せろ」になる。
それが出来ない人の仕事は、出来ないのよ。
我儘じゃなくて、創作ってのはそういうモンなんだ。
なので「任せられない人」を相手に、創作物の仕事は引き受けられない。
その場を凌いでも必ずトラブルになる。凌げば凌ぐほど、より大きな問題になっていくようなモンで、採算も合わなくなるし、不愉快だし、キャリアにもならないし、下手すりゃ支払いでもモメる(その手の人は気持ち良く払ってくれないことが多い)し、いいことが何もないのよ。
だから、独自に企画し直して、自分なりのネームを出すことは、依頼者を測ることにもなるんだ。
そういう提案に耳を貸すかどうか。そこを見て、任せてくれそうにないと思ったら逃げる。まだ傷が浅いうちに逃げる。
もっとも、実際には滅多に逃げないけどね。
厄介な人でも、アノ手コノ手でどうにかできることが多いんだ。
あ、こっちは基本的には折れないよ。
任せてくれなきゃやれないんだから、その部分で折れてあげるわけにはいかないから。
でも長いこと仕事してると、厄介な人の捌き方も覚えるもんなのよ。
だいたい、ゴリ押しタイプの人って、そうすることが有効だと思ってるからそうするのであって、それが通用しないとわからせれば、けっこう折れてくれるもんだよ。
それにね、発注側は漫画の専門家じゃないんだから、漫画家を大勢知っているわけじゃない。
目の前の漫画家を断って別な人を探したとしても、今よりマシかどうかわからない。むしろヒドくなる可能性だって十分にある。
普通の人から見れば、漫画家なんてドイツもコイツも理解不能な異星人なんだ。
そういう相手との関係をゼロから作っていくのは大きなストレスなのよ。
だから、人間的に問題があるとか、よほど腕が悪いとかってことでなければ何とかなることのほうが多いんだ。
この人でいいなら任せちゃって楽になりたい。
そういう潜在的バイアスがあることのほうが多いんだよね。
なので、これまでにそこそこのキャリアを積んでいて、その経験に裏付けされた助言や提案をすれば、大抵は受け入れてくれる。
少なくとも交渉の余地は生まれて、ヤバい仕事をヤバいまま進めるということはなくなるんだ。
これもキャリアの力なんだよ。
とにかく、ボクはそういう感じで仕事を引き受けている。
ボクのようなやり方を、みんながしているというわけじゃない。
酷いシナリオを押し付けられて、渋々やってる人もけっこういるらしい。
でもボクは、プロを名乗る以上はプロの仕事をしたいんだよ。
また、そうでなければ広告漫画の力を認めてもらえず、需要も増えない。
いつまで経ってもイロモノ扱いで、市場価値が上がらない。ソコが上がらないと、コッチの収入も上がらない。
そんなコトなら漫画は仕事にしないで、同人やってるほうがマシだと思うのよ。
それに、キャリアを磨くというのは、自分だけのことじゃないんだよね。
広告漫画自体のキャリアも磨いていかなきゃいけないと思うんだ。
広告主からも、世間からも、普通の漫画家さんたちからも、広告漫画も捨てたもんじゃないと思われるように頑張らないと、届くはずのモノにも届かないもん。
※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。