作品って、どうやって売ればいいの?
……う~ん……。
たぶんボク、広告漫画の仕事で「作品」を売ったことないんじゃないかなぁ?
っていうか、作品なんか売りようがないんだよね。
広告漫画や広告イラストを描いている人には「依頼された絵や漫画を描いて売っている」と思っている人も多いのかもしれないけど、ボクは、そうは考えていない。
だって、依頼を受ける時点で契約するでしょ。
契約書を交わさない場合だって、引き受けた時点で売買契約が成り立っていると考えるのが普通でしょ。
でも、その時点では作品はまだ描いてないんだよ?
存在しないモノをどうやって売れと?
そんなのヘンでしょ。
これから作る「結果」を売るってヘンじゃない?
制作業ではゲンブツが存在しない時点での売買になるのがアタリマエ。
広告に限らず、住宅を建てるときだって実際の家が出来上がる前に売買契約するしね。
ただね、漫画やイラストの場合は、制作だけじゃなくて「創作」でもあるんだ。
むしろ創作のほうがメイン。
そして創作物は創作者が作る。
ストーリーも、キャラも、構図も、ボクはこう思う、こう感じる、これがカッコイイ、という作者の主観に基づいて作られる。
主観なんだから、自分の感じ方は唯一無二の絶対真理なんかじゃない。
自分が「イイモノ」と感じていても、他の人にはそうは思えないということも、よくある。
それどころか同じ作者でも、その日のバイオリズムだのメンタリティだの、直前に観た映画やテレビ番組や出会った人の影響などによって、全然違うモノになったりする。ボクも納品直前に気になってチョコチョコ手を加えることは、けっこう多い。
それは別な日だったら気にしないでそのまま納品して、それはそれでアリだったりするコトで、けれどソレが作品の運命を大きく左右したりすることもある。
良くも悪くもね。
いずれにしても、自分には自分がイイと思うものしか描けないでしょ。
自分がヘンだ、カッコ悪いと思うモノをカッコよく描くのは無理だ。
ソレをカッコイイと感じる人がいるのは知っていても、自分ではそう思わないんだから、カッコイイのかどうか判断できないもんね。
だから最終的に出来上がる作品は、ボクにも見えないんだ。
完璧に見えてる人もいるのかな?
でもなぁ、ネームが確定していても、細部の描写とか、ちょっとしたニュアンスとかまでは、描きながら考えてるコトのほうが多いんじゃないのかなぁ。
当初のイメージ通りに描けたと思っても、実は「当初のイメージ」自体が描きながら変化していて、完成に近付くごとに具体的になっていって、完成時には、その変化したモノと照らし合わせて「イメージ通り」って感じてるようなモンなんじゃないのかな?
まぁ、ボクはそうだな。
だから作品とは「結果」であって、結果が出るまでは見えてない部分が必ずあるんだ。
終わってみなければ、どうなるかわからないモノ。
つまり契約の時点では存在しないモノ。
ないモノは売れない。
これから作る「結果」を売るっていうのは、どう考えてもオカシイと思うんだ。
結果を得る前提だと苦しすぎる
さて、そういうコトで最初の、制作業(創作業)の売買をどう解釈するかという話に戻ってみる。
もし「出来上がった作品」が売り物で、契約の時点では「結果が出たら買い取るという約束だけ」という解釈だとしたら、ボクは怖くて仕事できないなぁ。
だって結果がどうなるか読めないんだもん。
何かの結果は出るけど、それが「お客が気に入る結果」かどうかはわからないんだもん。
そもそも契約の時点で合意して盛り上がったとしても、実は別々の結果をイメージしてたなんてコトもあり得……いや、普通はソッチだな。
どんなに似たイメージを抱いたとしても、ピッタリ同じってコトは、まずないんだから。
けど、お客が買うモノが「結果」だとしたら「お客がイメージした結果」になるまで、延々と修正させられたりしても文句言えないってことにならない?
その上、お客のイメージも日々刻々と変化してるわけだよ?
しかも本人も自覚してないんだから。
そんなの読み切れるわけがない。
永遠に修正は終わらない。
けど締切はあるから、どこかでイメージと違うけど折れるということになる。
締切がなかったとしても、お互いに付きあいきれなくなって「もうコレでいいや」ってコトになる。
納得できてないけど仕方ないから妥協して引き取る、という感じだから当然ながら評価は低い。
余計な横槍が入ったせいで、元のモノより質も下がっちゃってるコトが多いから、なおさら不満を感じる。
漫画家のほうも、アレコレ引っかき回されて、余計な仕事をさせられた上に不本意なモノにされちゃって、不満だらけになる。
テメーの結果なんか知らねぇよ、フザけんな、という気分になりがちなんだ。
どう?
広告の漫画やイラストやってる人には、そんな体験した人、多いんじゃない?
いや、ボクもそういうコトをたくさん経験したんだよ。
嫌な思いをいっぱいした。
お客も嫌な思いをしただろう。
一所懸命やっても、全然いい結果に届かない。
好きな仕事のはずなのに楽しくないし、お客を満足させられないから固定客も増えなくて、生活も安定しない。
自分が下手だからかも、と一時は考えた。
才能ないんじゃないか、ズレたことしか出来てないんじゃないかと。
けど、そうだったとしても納得できない部分もあるんだ。
作品は結果で、結果とは未来のこと。未来は誰にもわからないんだから、ソレについて文句言われるのって理不尽じゃないの?
いや、そもそも存在しないモノを売るなんてオカしくないか?
筋が通らないじゃないか。時空歪んでるよ。
それでね、解釈を変えたんだ。
作品なんか売らない。
存在しないモノは売らない。
その代わり、確実に存在するモノを買ってもらう。
つまり、自分自身。
結果ではなく「結果を出せる可能性」を買ってもらう。
これ、考えてみたらアタリマエなんだよね。
自分が美味しいと思うハンバーグを作って、同じように美味しいと思う人に食べてもらう。
思わない人は来店しなくていい。
他所のハンバーグを食べてもらって構わない。
ウチはウチの味を売る。
ウチの味を好きになってくれる人だけがお客。
ソレしかできない。できるわけがない。
アタリマエだよね。
でも、ボクはソレに気付くまで何年もかかった。
漫画とはいえ、サービス業なんだから、お客に合わせるのが当然だよな、要望に応じてこそプロだよな、こっちが譲らなきゃいけないよなって、そう思ってたから。
それは今でも同じなんだけど、今は「基本的にはお客優先だけど、何でもかんでも応じるわけじゃないし、応じるのが不可能なコトもある」という、これまたアタリマエの解釈になっている。
いやぁ、生活かかってると仕事欲しいし、お金も欲しいから、何とかしてお客の要望に応えたくて、それで「ちゃんと考えたら無理なコト」まで何とかしようとしちゃうんだよなぁ。
で、客のほうも、ボクがそういう態度だから何とかするんだろうと思っちゃって、それが何ともならないから不満になって、モメたり怒られたりする、と。
ボクが勘違いを前提にしてるから客も勘違いして、ズレたまま仕事が進んじゃうから、最後の、ズレたままでは済まない段階になってからゴタゴタする、ということだったように思うんだ。
お客を恨んだりしたけど、お客は悪くないんだよな。
素人なんだから、わからなくて当然。プロを名乗る者に引っ張られて当然なんだ。
わからんものはわからん! とハッキリ言ったほうがよかったんだ。
買ってもらうのは自分自身
そんなわけで、今のボクは、以下のような考え方でお客に話している。
結果は未来のコトだから、売れない。
買っていただくのは、ボク自身。
もちろん、モノが出来上がらなければ代金はいただかないけれど、ボクは「ボクがイメージするアナタにとっていい結果」しか目指せない。
「アナタが求める結果」に近付くように努力はするけど、それでもボクには「ボクが結果だと思うモノ」しか見えないんだ。
だからボクが約束できるのは、全力で、本気で「ボクの結果」を目指すこと。
何が何でも勝つ気でやること。
どんなに低い勝率だとしても、負けるつもりでリングには上がらない。
勝てないと思えば辞退する。
ボクは勝てる。
そう思うから、この仕事を引き受けたい。
引き受けて、アナタに勝利をプレゼントしたい。
だけど必ず勝つとは言えない。
どんなに本気で戦っても、アナタが満足できない結果になってしまうこともあり得る。
だが、勝てる。勝てるはずなんだ。
だから、ボクに賭けてくれ。
ボクを買ってくれ。
ま、こんなカッコイイ言い方はあまりしないけどね(笑)。
けど、根が熱血好きだから、近いセリフは吐くかな。
とにかくオレの本気に賭けてみろ、と。
オレの目を見て信じろと。
実際、そうするしてもらうしかないし。
で、そういうスタンスでやるようになってからは、お客とモメないんだよ。
以前ならモメたハズのタイプに出会っても、モメない。
問題になった場合も、モメるんじゃなくて相談して知恵を出し合うという感じになっている。
少なくとも、後に引きずらなくなった。
実際にはね、先のカッコイイ言葉の前に、そもそも創作ってナニかについて、説明するんだ。
「作品はこれから描くんだから、まだないですよ。
ないモノは売れないんだから、アナタが買うモノは作品じゃなくて作品を描くボク自身ですよ。
モノを買うんじゃなくて人を雇うってコトですよ」
っていう理屈を説明しておく。
その上で、さっきのセリフを吐くの。
ボクがかつて、他人のイメージを何とかできると思い込んでいたように、お客も「出来上がったモノを買う」と思い込んでいるんだ。
一般人の多くは創作という仕事そのものが理解できてないから、なおさら。
だから、ちゃんと言葉にして言ってあげなきゃいけない。
言えば大抵の人はわかる。
ああ、なるほど、そういうことか、と。
わからないなら、わかるまで言う。
まずソコをわかってもらえなきゃ仕事にならないから、仕事自体の打ち合わせなんか後回しにしてでも、ココだけは最初に理解してもらうようにしているんだ。
そして、わかってくれれば、任せてくれる。
A店に入ってB店のハンバーグを求めるようなコトは言わなくなる。
それどころか「イメージ通りだ」とか言い出すんだよ。
いやいや、絶対何もイメージしてなかったでしょ、コレ見たからそう言ってるだけでしょって思うけど、満足してくれてるならOKだよね。
他人に任せる以上、自分を押し付けても無理なモノは無理と気付いてしまうと、どうせ無理なら任せきって身を委ねちゃったほうがいいから、余計なイメージしたりしなくなって、それで結果だけ見るから「イメージ通り」になるんだと思うんだ。
とにかく、作品なんか売らない。
ないものは売らない。
そう考えるようになって、かなり仕事が楽になって、評価も上がったのは確かだよ。
ボクが売れるものは、いつだってボク自身でしかない。他には何にもない。
そう開き直って、ようやくやっていけるようになったんだ。
だから、皆さんにもお奨めする。
ないモノなんか、売らないほうがいい、と。
自分自身を買ってもらうべきだ、と。
※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。