広告まんが道の歩き方/序文
ようこそ、広告漫画の世界へ。
……と言いたいところだけど、いやぁ、厄介な世界に来ちゃいましたね。
この世界では、これまでに身に付けてきたアレとかソレとか、アナタが頼りにしていた色々な力が全然通じなかったりするのです。
逆に、アナタが取るに足らないと思っていたアタリマエすぎるコトが、思わぬ力になることもあります。
ココは漫画を描くという行為は同じでも、実は全く違う世界です。
本ブログは、そんな世界のガイド。
知りあいに頼まれちゃったからとか、広告漫画ならやれそうだからとか、とにかくお金稼がなきゃならないからとか、そういう理由でコッチの世界に飛び込む前に、まずはご一読を。
本気でやればココはココなりに楽しいですけど、迂闊に飛び込むとイタイことになる可能性だって低くはないですからね。
※このブログの記事の多くは、ボクの電子書籍『広告まんが道の歩き方』シリーズを再掲載したもので、ほとんどの文章は元の本そのままですが、この「序文」だけは、文体が「ですます調」に変更されている他、いくつかの大きな改稿を加えています。
漫画界は一般社会から見れば異世界
最近は、様々な広告・広報に、漫画やイラストが使われることが多いですよね。
いや実際、イラストやカットが全く使われていない広告物を探すほうが大変なくらい、アッチにもコッチにも何らかの絵が組み込まれています。
もっとも「いかにも広告用」なイラストやカットなら、昔からほとんどの広告物に使われていましたから、今さら言うまでもないことです。
ですので、このブログで主なテーマにしているのは、もっとガチな漫画やアニメ絵などを使った「広告漫画」です。
つまり、漫画やアニメなどのコンテンツを広告や広報に使う、というヤツですね。
秋葉原あたりだと街中がそういう広告で溢れてますけど、アレじゃないです。
漫画やアニメやゲーム関連のグッズなどを売るために、そうしたイラストを使うのは当たり前ですから。
ここで言う「広告漫画」とは、漫画やアニメと関係ないジャンルの広告・広報に漫画を使う、という種類のものです。
普通の会社やお店のチラシ、パンフレット、WEBページなどで、漫画で商品やサービスを紹介したりする例ですね。
このブログではちょっと広義に解釈して広告漫画という言葉を使っているので、一部の学習漫画、解説漫画、コラボレーション的なルポ漫画なども含めて「広告漫画」と呼んでいます。
とにかく、モノを売るとか何かを知らせるとか、楽しませる以外の意図を持って描かれてる漫画全般を広告漫画と呼んじゃっているんで、そういうつもりでお読みください。
で、ボクは、そういう広告、広告漫画をつくる仕事を約30年、やっています。
最初に広告用の漫画を描いたのが24歳のときで、今は53歳(2017年11月現在)ですから、本当に約30年になっちゃいました(笑)。
そして、その間に世の中も色々と変わりました。
近頃は出版業界が斜陽で厳しい、という話をよく耳にします。
漫画雑誌の廃刊・休刊も多く、生き延びている雑誌の発行部数も年々縮小し続けています。
単行本のほうも、初版1万部以下で増刷は期待できず印税も6%程度、といった例も多いようです(ボクが2013年に出した単行本もそれでした)。
世の中には何百万部、何千万部も発行されている漫画単行本が溢れていますけど、実はあんなもんはピラミッドの頂点だけなんですよね。漫画家全体から見たら、本当に点。
なのに質量はとてつもなくデカくて、その下のピラミッド全体を軽く上回っちゃうという感じ。
多くの漫画家はギリギリで、それでも漫画が好きで踏ん張っているんですよね。
そんな世の中ですから、広告や広報用の漫画やイラストを手掛ける人もどんどん増えている印象です。
普通の漫画家を続けながら副業的にやっている人もいるし、ボクのように広告漫画のほうをメインでやっている人もいます。
同人活動などでオリジナルや二次創作をしながら、頼まれたときだけ広告用の作品も引き受けるという人も。
今ではインターネットのSNSや作者さんのブログ、メールなどを通じてオファーを受けることもできますし、その手の仕事のマッチングサイトもいっぱいありますから、発注側も受注側も間口が大きく広がっています。
でも。
だからこそ、トラブルも多い印象です。
作品をつくるクリエイター側から見ると、安すぎる、リテイクがひどい、資料がもらえない、最初に受けた説明と違う、納期が無茶すぎる、勝手に改変された、無断使用された、タダ働きさせられた……などなど。
発注するクライアント側から見ると、希望したものと違う、締め切りを守らない、追加料金取られた、思ってた通りの使い方ができない、要望を聞いてくれない、逃げられた……などなど。
この手のトラブルは、本当に枚挙にいとまがないって感じです。
そうしてお互いに「広告の仕事なんてロクなもんじゃない」「やっぱりオタクはダメだ」などと言い合うことになってしまったりするんですよね。
なぜ、そうなっちゃうのか。
それは、お互いが「異世界」だからです。
黒歴史になりやすい広告漫画
漫画に限らず専門職の世界は、それ以外の人にとって「異世界」なのですが、どのくらい他の世界とズレてるのかは当事者は気づきにくいものです。
ボクは『カソクキッズ』という素粒子物理ギャグ漫画を長く連載したことがあり、そのときに多くの研究者さんとお会いしましたが、彼らが「皆さんご存知のように……」と言うコトって、全然ご存知じゃないことが多いんですよね。
でも彼らは、別に上から目線で言ってるわけでも、知らない人たちをバカにしてるわけでもないんです。
研究者の世界では、あまりにも当たり前でありすぎて、それが他の世界では一般常識じゃないことに気付けないだけなんです。
それと同じことが、漫画界と一般社会の間でも起こるわけです。
漫画家同士、漫画編集者、ファンには通じる言葉も、一般のオッチャン、オバチャンには全然通じないといった例は多いです。
反対に、普通の広告デザイナー、制作会社に依頼するときには問題なくても、漫画家を相手にすると通じなくなる、ということもあるように思います。
化学の世界には「鏡像異性体」というのがあります。
SFなどのアイデアにも使われることがあるから、知っている人もいるかもしれませんね。
同じ分子構造でありながら、鏡に映したように性質が反対の物質のことです。
同じ材料で同じくっつき方。つまり見た目は同じ。
なのに、左右反対の鏡像というだけで全く別の性質になってしまうんです。
それに似てる気がします。
広告・広報用に描かれる漫画と、出版社などで描く作者のオリジナル作品は鏡像異性体みたいだと思います。
漫画を描くという仕事そのものは同じなのに、仕事の意味も、目的も、価値観も、評価基準もまるで違うんです。
そういう両者が、広告漫画の仕事で出会って打ち合わせをするわけです。
表面上、会話は成立しているように見えます。和やかに談笑していたりもします。
けれど、それは見た目だけ。本当は全然噛み合っていないことが多いんです。
漫画家は、広告だろうが漫画を描くことに変わりはないから「漫画の仕事」だと思っています。
でも依頼者は、漫画を使おうが広告をつくることに変わりはないから「広告の仕事」だと思っているんですよ。
前提がまるで違うんです。
でも互いに「ソコは言うまでもないこと」「ご存知のこと」だと思ってるから、違っていることに気付かなかったりします。
あるいは気付いているけれど、畑違いなコトに首を突っ込んでも仕方ないから触れなかったり。
そうして、基礎になる部分の認識に致命的なズレがあるまま、仕事が進んでしまうんですね。
そのズレは、最初は目立たないんです。
でも、だんだんと大きくズレていくんです。
工程が進めば進むほどズレは大きくなり、やがてお互いに黙っていられなくなります。
広告と漫画がぶつかってしまうわけです。
多くの場合、これがトラブルの原因なんですよね。
もちろん、中にはズルい依頼者、ズルい受注者もいるし、これ以外にもトラブルの要因はいくつも考えられるんですが、そうした場合でも、この「ズレ」が根っこになってることは多いです。
根本のところを最初に補正して、お互いに理解しあっておけば問題が起こっても、その部分だけに対処すれば済むのに「気付かない致命的なズレ」があるせいで、何をどう対処してもズレっぱなしになっちゃうんですね。
まぁ基本的には、漫画の側が折れるしかないことが多いでしょう。
元々が「広告のための仕事」なんですから、漫画のために広告を犠牲にすることはあり得ないし、なんといっても相手は仕事を発注してくれるお客様ですから。よほど著名で、踏ん反り返っていられるような作者でない限り、どうしたって受注側のほうが立場は弱いですからね。
でも、そうだからといって何でもかんでも広告優先で考えて漫画に折れさせていたら、漫画家は理不尽に感じます。
そんなコトしたら、漫画が台無しじゃないか。
この段階に来て変更とか、冗談じゃない。
そんなコトまでやるなんて聞いてない。
色んな「漫画家的には納得できないこと」が噴出して、イライラする。
それでも結局は折れるしかない。いつまでもグダグダやりあっていてもラチがあかない。
さっさと終わらせて手切れしたほうがいい。
そうなってしまいます。
そうして「台無しになった作品の残がい」が、広告として世に出ていくのです。
広告のプロと漫画のプロ。プロ同士がタッグを組んだハズなのに、互いのプロの部分は理解できてないままだから、かろうじて重なるのは素人な部分だけ。
だから出来上がるモノも素人作品になっちゃうんですね。
絵だけはそれなりだけど、内容はメチャクチャ。
そんなモンになってしまうんです。
そして両者にとって黒歴史になります。
カネのためにやっただけ。カネを受け取った以上は忘れてしまいたいモノ。
こうしたコトが、ありがちなんです。
ボクは広告界で生きてきた漫画家
ボクは漫画家です。
デビューから約30年だから、そこそこのキャリアだと思いますが、最初に書いたように漫画雑誌に描いていたのは駆け出しの頃の数年間だけ。
その後の四半世紀以上を、ずっと「広告漫画家、広告デザイナー」としてやってきました。
ボクはフツーに持ち込みをして、新人賞をもらって、その後何本かの読切を描いてから連載をもらって……という、ごく普通の漫画家人生スタートだったのですが、実際に漫画家になってみると「漫画界」のほうに違和感を感じてしまいました。
原稿料が事前に示されない、連載になっても契約書を交わさない、掲載誌が休刊になることさえ直前まで通知されない、といった漫画界の慣習に納得できなかったんですよ。
それで、自ら異世界=広告界に飛び込んだのです。
いや、漫画家を辞めるつもりは全くなかったんですけどね。
むしろ続けるために広告界に移った、という感じでした。
広告業界に詳しかったわけじゃありません。
生活のために広告会社に1年だけ勤めたことがあったけれど、下働きだった上に自分の本業は漫画家だと思っていたから、仕事を本気で覚えようとしない役立たずでした。
つまり何にも知らないのと同じだったんです。
それでも、漫画界で納得できなかったコトが、広告の世界ではちゃんとしている(とは限らないけど一応はちゃんとしなきゃいけないことになっている)と思えたので、広告の世界で漫画を生かしていこうと思ったわけです。
思っただけで具体的なビジョンなんか、何にもなかったんですけど。
ボクは広告をナメてました。
広告のことは知らないけど、漫画に比べたら広告なんか軽いハズだ。そう思っていましたから、未経験のくせに要経験者の募集に応募して、しかも運良く採用されちゃった。
今思い返すと、当時の自分をぶん殴ってやりたいくらいに無謀すぎる行動ですね。
でも、さらに運のいいことに、その広告会社には漫画に理解のある人がいてくれたんですよ。
その上、入社3ヶ月目くらいの頃に「漫画を広告で生かすしかない特殊な状況」にも出くわすことになりました。
ここでは詳細は割愛しますけど、ようするに自分以外の先輩デザイナーたちが、いっぺんに辞めちゃったんです。ど素人同然のボクが、いきなり実質チーフデザイナーになるしかなくて、でも何にもできないから、唯一できることだった漫画を広告に応用するしかなかったんですよね。
そして、またまた運のいいことに、それが売れちゃったんです。
当時がバブルで、バカな企画でも売れたってのが大きかったんでしょうけど、とにかく売れましたね。
そういう、たくさんの運に恵まれて、ボクは漫画家の資質を残したままで、広告界での生き方を学ぶことができて、さらに漫画界出身ならではの能力の使い方にも気付くことができたわけです。
その後ボクは独立して、フリーランスとして、自分の足で広告界を放浪するようになりました。
何度もピンチになりましたが、その度にいい人に出会えて救われてきました。
そうやって、二度と漫画界に戻ることなく、今日まで異世界でサバイバルし続けているわけです。
漫画は異世界で生き延びるための切り札だった
ボクは、異世界での成功者じゃありません。
ただ、生き延びてきただけです。
漫画家だけをやっていられた期間も、ほとんどありません。
そんなのは雑誌連載していた数ヶ月間だけですね。
デビュー直後はバイトや副業をしなければ生活できなかったし、広告界に移ってからも広告漫画だけをやってるわけにはいきませんでした。
いくら漫画が得意とはいっても、所詮は数ある広告表現の1つに過ぎないですからね。
漫画と関係ない広告を手がけることのほうが圧倒的に多かったです。
生き延びるために何でもやって、色々身に付けてきました。
それで、ようやく生きているんです。
けど、漫画ばかりやっていたわけじゃないけれど、漫画家であることを休んだこともないんですよ。
仕事が入らなくて、事実上開店休業だった時期は何度もあるけれど、漫画を手放したことは一度もないんです。
漫画を手放さなかったのは漫画が好きだったからだけど、それだけじゃありません。
ソレが切り札だからです。
普段は漫画以外の、広告界で身に付けたコトのほうがずっと役に立つんです。
そもそも広告の部分をちゃんとやれなきゃ、漫画の力を発揮する機会にもありつけませんし。
特にボクの場合は、漫画界に席を置いたまま広告の仕事も引き受けるというのではなく、広告界に引っ越しちゃってるんですから、広告をちゃんとやれなきゃ話にならないんですよね。
でも、いざってときに「広告界の人間にはない特殊能力」を持ってるというのは強いんですよ。元の世界では並以下だった能力が異世界転生したら無双になっちゃうというのは、本当にあるんですよ(笑)。
漫画と関係ない仕事をしているときにも、漫画家の見方、考え方ってヤツは意外な力になるものなんです。
ボクの漫画家としての才能がどれほどかは自分でもわからないのですが、例えちっぽけな力だったとしても、異能力者ってのはそれだけで有利なんです。
漫画家なら大なり小なり必ず持っている想像力、いや妄想力ですね。
それが広告の仕事でも生かせるんです。
漫画家や漫画ファン同士なら、そのくらい誰でも考えるだろと思っちゃうことでも、一般の世界ではそうではないらしいんです(笑)。
クリエイターの営業を本にまとめてみた
繰り返しますが、ボクは成功者じゃありません。
名前だって売れてません。一部の狭い世界(そりゃもう、とても狭い世界です)では知る人ぞ知るっていうくらいには色々やってきましたけど、基本的には無名のままです。
無名のままで淡々と日々を積み重ね、生き延びてきたのです。
そして、そうやってるうちに、次々と漫画界から転生してくる人を見かけるようになりました。
そういう人たちが、漫画家のままで、ボクのように運良くイイ人に救われることもなく、玉砕していく様子も何度も見ました。
その中には、誰かアドバイザーや現地ガイドがいれば、この世界を切り従える英雄になれた人もいたかもしれません。
あるいは漫画界に帰還して、ボクがワクワクするような作品を生み出してくれたかもしれません。
新しい世界を見出して、そこを開拓する人だっていたかもしれません。
もったいない。
あまりにも、もったいない。
そこで、電子書籍で『広告まんが道の歩き方』というシリーズを出版しました。
資金もないし、そもそもニッチな内容だから出版社で出してもらえたとしても初版だけでオシマイにされて継続的に流通しないだろうと思ったから、自分たちで電子書籍にまとめたんです。
広告用の漫画も請け負う漫画家はそれほど珍しくないのですが、大抵の場合は、いずれかのプロダクション、広告代理店などが間に入っていて、ボクのように、作者自身が広告主と直接話して、営業や企画の段階から全部をやっている例というのは稀なようなんですよね。
まぁ大変だから、ソコからやらずに済むなら、そのほうがいいかもしれないんですけど。
でも、上手くいかないとき、手助けしてくれる代理店などがいないとき、そうした相手がいても作品や自分の扱いに納得がいかないときなどには、自分自身だけで単独でも戦える力も持っておくほうがずっといいと思います。
人生、都合のいいときだけじゃないんですから。
いや、むしろ都合よくいかない時のほうが多いくらいですから。
いざとなったら、自分だけでやっちゃう。
自分で営業して、自分で客と折衝して、自分で作品を考え、自分で描く。
その経験を武器にして次の仕事を見つけ、また同じように自分でやっていく。
それを繰り返して多くの人と出会い、コネクションを増やし、自分の居場所をつくっていく。
ボクはそういうことを、ずっとやってきました。
漫画の仕事をするために、漫画以外のアレコレに多くの時間と労力を注いできました。
そのおかげで得たものもあるし、無駄にしたものもあります。
だから、ボクのやり方が正しいとか、そういうことじゃありません。
ただ、クリエイター自身がそこまでやってる事例というのが非常に少ないので、ボクは自分の経験を本にまとめておくことにしたんです。
誰かが、そうしなきゃならなくなったときのガイドとして。
広告界で戦うなら、まず広告を知ってほしい
ボクは今では、必ずしも漫画家とは言えません。
便宜上、漫画家を名乗ってるけど、漫画家じゃないときもあります。
そもそも漫画家の部分でさえ、漫画と広告が融合して溶け合った変異体と化してしまっています。
もはや、どちらの人間でもないのです。別の生命体なんです。
だからこそ、両方の橋渡しができるんじゃないかと思ったんですね。
ボクは漫画界に違和感を覚えて広告界に来たけど、それでも漫画は故郷です。
漫画界で生きている人たちが広告の世界を利用して、元気になってくれたらいいなぁと思っています。
一方で、ずっと暮らしてきた広告界にも愛着があります。
この世界を利用してもらっていいと思うけど、利用するだけで寄与しないというのでは困ります。
広告を利用するからには、出資する広告主に寄与しようと思ってもらえないとマズイんですよ。
そうでないと広告界での信用を失ってしまい、広告が漫画家の力になれなくなってしまいますから。
漫画家や絵師の皆さん。
あなた方の本来の世界では、漫画家のままで構いません。
けれど、広告界に来たら「広告漫画家」に変身していただきたいのです。
いや、変身しなくてもいいですね。
『修羅の門』という人気漫画には、伝説の千年無敗の武術を受け継いだ主人公がボクシングに挑戦する話があります。
ボクシングをする以上は、ボクシングのルールに従わなきゃならないわけですが、それでも彼はボクサーになるのではなく、ボクシングルールの中で己の武術をやるだけなんです。
それと同じです。
漫画家のままで、広告ルールの中で戦ってもいいんです。
ボクのように住み着いて変異体になるトコまでいかなくてもいいんです。
ただ、あくまでも「広告ルールの中で」です。
広告界に殴り込んでおいて、漫画のルールを振りかざしてはいけません。
そのためには、広告の世界を知ることです。
広告という視点が抜け落ちたままで、広告漫画を手がけるのは危険すぎると思います。
それでは広告主にとっても漫画家にとっても、黒歴史な作品しか生まれないと思います。
そんなのつまらないです。
漫画が好きなら、そんな悲しい漫画なんか生み出したくないじゃないですか。
だからボクは、少しでもいいからガイドしてあげたいな、と思うわけです。
(あくまでも「土地勘があるだけの現地ガイド」ですけどね)
自分で自分の編集者になるしかないときのために
本ブログに書かれていることの多くは、漫画家にとってはノイズに思えるでしょう。
だって本来なら、編集者やプロデューサーが担当すべきことであって、漫画家自身がやるべきことじゃないと思いますもん。
漫画家は、いい漫画を描くことに集中したほうがいいに決まってるんです。
でも、広告業界には、漫画家を漫画に集中させられるような、そういう都合のいい人は、いないんですよ。
絶対にいないとまでは言わないけど、まず、いない。巡り会えない。
そう思っておくべきです。
一応は、広告漫画の仕事を持ち込んでくる広告代理店や広告制作プロダクションの人たちが漫画編集者の役割を担うことになるはず……なのですけど、実際にはやれません。
彼らは、広告は知っていても漫画は知らないですから。
読んだことはあっても、作ったことはないですから。
だから、ちゃんとやってるつもりでも、できてない。
漫画家的にはトンチンカンとしか思えないようなことを、どんどん言ってきたりします。
けど、怒っちゃダメです。
多くの場合、いい加減なのでもナメてるのでもないんです。
どんなに真面目に一所懸命だったとしても、やったことのない人にはできない、という当たり前のことなんですから。
けど、できないからって放っておくわけにもいかないんですよ。
誰もプロデュースしなかったら、ドタバタするだけでロクなことにならないんだから。
行き先がわからないままウロウロしてるだけになっちゃうんですから。
そうして「こんなにウロウロして疲れたから、もうこのへんでいいだろ」的なシロモノを作っちゃうわけです。
……そんなわけで、そういう世界で広告漫画や広告イラストの仕事を請け負うのなら、最低限のセルフ・プロデュース力を身に付けておかないと危ないんです。
つまり、漫画家自身が編集者も兼ねるしかないんです。
本当は向いてないのは知ってますよ。
漫画家は漫画家、編集者は編集者。
資質も仕事内容も、ぜんぜん違いますよね。
ボクだって、そんなことしないで済むほうがいいですもん。
けど、どんだけ苦手でも、漫画家自身がやるほうがマシなケースが圧倒的に多いんですよ。
自分がダメで自信もなくても、もっとダメな人に任せて大ダメージ食らうのはキツイですから。
やりたくなくても、こっち側の世界に来るのなら、やるしかないときがあるんです。
どうしても嫌なら、来ないこと。
迂闊に、広告仕事なんか請け負わないことです。
自分の身の守り方、受け流し方などを知っていないと、辛い目に遭う可能性が高いですから。
広告漫画から新しい何かが生まれてほしい
そんなわけで、このブログには、たくさんの「普通の漫画家ならやるはずがないこと」あるいは「やりたくないこと」を書いていきます。
その多くは、ボクがこれまでに広告漫画の仕事で体験してきたことです。
ボクは普通の漫画家がやるはずないこと、やりたくないことばかりやりながら漫画を描いてきたんです。
そして今では、そういうことも多少は楽しめるようになっています。
色々覚えると楽になっていって、余裕も出てきますからね。
ボクがそうだからって、他の人もそうなるとは思っていません。
何かを教えようとも思っていません。
ボクが知ってること、体験したことを披露することで、これから飛び込んでくる人たちが、ちょっとでも楽になったらいいなと思ってるだけです。
また、広告漫画を始めとするコンテンツ広告、学習漫画などを発注しようと考える広告主さんや広告制作会社さんにも、漫画家との付き合い方、その力の引き出し方などを考えるための資料になればいいなと思っています。
参考にしてもいいし、反面教師にしてもいいのです。
ボクはボクの体験と、ボクなりのやり方を披露するだけですから。
何より、広告漫画の世界はまだ未成熟だと思います。
世の中には、漫画やイラストを使った多くの広告物が溢れているのに、漫画と広告を正しく結びつけてプロデュースできる人材が圧倒的に不足していて、下手すると漫画と広告が相殺しあっているようなシロモノになっていることも珍しくありません。
それでも、そうした広告はこれからも増え続けていくでしょう。
だからこそ、広告と漫画がお互いを理解しあって「本当の広告漫画」が生まれて欲しいと願っています。
ボクが見たもの、体験したことの全ては、これから生まれてくる世界のイントロダクションに過ぎないはずなんです。
漫画家や絵師たちが、広告界に来て作品を描き、それが広告界のためにもなり、元の世界に帰還した後の漫画家たちの力にもなる。
さらに広告と漫画がコラボすることで、今までとは違った世界が生まれてくる。
そういうコトをボクは願っています。
そのために、電子書籍やブログで、ボクはボクの知っていることを伝えていきたいと思っているのです。
※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。