小説版イバライガー/第29話:激突! R対初代!!(後半)

2018年9月28日

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Bパート

「ここにいたのね」

 ワカナは、廊下の端に寄りかかっていたミニガールに声をかけた。
 ミニガールは、答えない。

「……大丈夫だよ、ミニちゃん。Rは守る。私たちが、守る。ミニちゃんは何もしなくていいの」
「でも……」

「ブラックの言葉は、忘れなさい。あなたに辛い思いなんか絶対にさせない。私たちを信じて。ブラックはいつも先を読んで動くけど、私、ブラックを出し抜いたことがあるのよ」
「本当!?」
「うん。だいぶ前にね。出し抜くどころか利用させてもらっちゃった」
「ワカナお姉ちゃん、すごい!!」

 初めてルメージョと戦ったときだ。
 私の想いを届けて。そう叫んで、ブラックに力の全てを託した。
 ブラックは別なことを考えていたはずだけど、それでも私の想いに応えてくれた。
 あのときの私は、ブラックの中のシンを感じていたのかもしれない。

「残念でした~~、その作戦を考えたのは、ワ・タ・シ」
 イバガールがやってきて、ミニガールの隣に座った。

「私が作戦を考えるまで、ワカナは泣いてたんだよ。ふぇええんって」
「ちょっとぉ! そんな言い方ないでしょ! 大体、ガールの作戦だって無茶だったじゃん! Rやシン、それに大勢の人たちが助けなかったらやられちゃってたくせに!」
「それワカナもじゃん! ブラックのそばまで行けたのは、みんなが道を作ってくれたからじゃん!」

「うふふ……」
 ミニガールが、笑った。

「ママも、オバチャンも大人気ないな~~」
「マ、ママ?」
「オバチャン!?」
「だってブラックがパパなら、イバガールはママじゃない? そんでワカナはその姉妹みたいだからオバチャンでしょ?」
「お前な~~~~!!」
「でも元気でた。嫌なことは起こらないよね? 怖くないよね?」

 頭を撫でようとした手が、重なった。ガールも同じ動きをしていた。
 顔を見合わせる。思わず笑みがこぼれた。

「大丈夫。ワカナが泣いたって言ったでしょ。あのとき、みんなが涙を止めてあげたいって思ったの。そういう気持ちがつながったとき、私たちは強くなる。いくらでも力が湧いてくる」

 ガールから熱が伝わってくる。
 ワカナもミニガールと向き合い、言葉をつないだ。

「うん。今も同じだよ。ミニちゃんを泣かせない。Rも泣かせない。そのためなら、私たちは……」
 想いが、重なる。二人の声が、1つになる。

「最強になれる」

 


 廊下の角から、マーゴンさんと覗き見してた。
 さっきから、こうしてコソコソしてる気がするけど、エドサキ博士が怒ると怖いからな~。なんせ『暗黒のアルテミス』だし。

 でも、いいなぁ。ワカナさんとガールとミニガール。本当の姉妹みたい。

「バカ、そんなに顔出したら見つかっちゃうぞ」
「見つかったらマズイですか?」
「さっき言ってただろ、最強って。あの二人が最強になったら、そりゃあ怖いぞ。タダじゃ済まないぞ」

 頼もしい。それならイバライガーRだって大丈夫かも。

「さ、行くぞ」
 うなずいて、マーゴンを追った。行き先は、もちろん厨房だ。

 今回は私たちも最強にならなきゃ。ホンのちょっとでもいいから、感情エネルギーをイバライガーRに送らなきゃ。
 だから、たっぷりと食べ物を用意するのだ。口の中がいっぱいで声が出せなくなっても構わない。気持ちが伝われば、それでいいのだ。

 やるぞ。最強になるぞ。
 今日はリミッター解除だ。時空突破でも消せないくらいに食べまくってやる。

 


「合体! クロノ・ダイヴァー!!」

 ミニライガーたちは、合体のタイミングを完全に覚えたようだ。
 ナノパーツをコントロールして姿を変えるのはミニブラにもできるが、他の仲間と一緒だと、どこまでが自分かわからなくなって制御できなくなりそうだ。
 それをやれているのは、ミニライガーたちが3体で1つというようなシステムになっているからだ。
 外見は似ていても、他のミニライガーとはセッティングが全く違う。

 変形に驚いたのか、ねぎが吠えた。
「大丈夫だって。壊れたわけじゃね~から」

 クロノ・ダイヴァーにまたがってみた。小さい。子供用のオモチャみたいだ。トライクは元々が三輪だから、サイズが小さいと本当に三輪車っぽい。

「ちぇ、やっぱNPLを足さないとカッコつかねぇなぁ」
『だから言ったじゃん!』
 トライクの一部となったミニイエローがボヤいた。

「もうちょっとよぉ、このサイズ用の姿になれねぇのかよ?」
『勝手なこと言うなよ! この状態になるだけでも、ものすごく大変なんだぞ!』
『そうだ! それに小さくても性能はすごいんだぞ!』
 ミニブルーとミニグリーンだ。確かにコイツがあったら、オレでも時空突破できるかもしれない。けど三輪車じゃなぁ。

「まぁいいや。とにかく、お前ら。今日は本気出せよ。なんかスゲェ奴が出てくるらしいからな」
『わかってるよ。ミニブラこそ調子に乗って失敗しないでよ!?』
「任せとけって。な、ねぎ?」
 ワンっ!! 元気な声で、ねぎが応えた。

 今日はお前も一緒だな。覚えてるか。あのときのアレだぞ。今度はお前がRを助けるんだぞ。一緒に戦うのは久しぶりだよな。ヤバぇけど、ワクワクするよな。ルインだかニョロンだか知らね~が、オレたちでぶっ潰してやろうぜ。

 


「……どう思うかね、今度の作戦?」

「……かなり危険な賭け……というのは毎度のことだけど、今回はリスキー過ぎるかもしれないわ。予想通りならRの中に潜んでいるエネルギーは、桁違い。それを外に出したらどうなるか……」
「だが、制御できなくなってからでは遅い。こうしている今も危ないのは同じだ。なら、いつものように……」
「彼らに委ねるしかない……のよね……」

 エドサキ博士が、寂しそうに笑った。
 気持ちはわかる。年長者でありながら、大したことができない。打ち込んできた長年の研究も、イバライガーのような常識はずれのテクノロジーの前には、あまり役に立たない。今回も見守る以外にできることはないのだ。

 お茶を注ごうとして、急須が空になってることに気づいた。立ち上がってポットと茶入を探す。え~っと、どこに置いてあるのか。

「ゴゼンヤマ博士、こっち」
 エドサキ博士が苦笑しつつ、茶入を持ち出した。そのまま急須に入れ、お湯を注ぐ。
 お茶を差し出された。

「私はダメだなぁ。こんなこともできん。イバライガーたちのメンテナンスでは多少役に立ってるかもしれんが、それ以外はまるでダメだ」
「私も似たようなものよ、若者たちに振り回されっぱなし。でも……悪くない。それに誰も知らない理論、誰も見たことのない現象に次々と出会える。不謹慎かもしれないけれど、正直なところ、毎日ワクワクしてるのよね……」

「そうだな。大変な状況ではあるが、充実はしているよ。若返っているような感じだ。彼らを危険な目に遭わせずに済むなら、この日々がずっと続いて欲しいとさえ、思っている」
「続くわよ、きっと。彼らなら……」
「論理的じゃない言葉だな。君らしくない。だが、その通りだ。彼らは乗り越えて帰って来る。とりあえず私も最低限の準備はできそうだし」
「準備?」
「お茶の置き場所は覚えた。みんなが戻ってきたときに淹れてやることができる」

 エドサキ博士が少しだけ笑い、お茶に口をつけた。言葉はない。
 不安なのだろう。1つ間違えば、こうした時間は二度と持てなくなるかもしれない。

 もう一度、振り返った。
 ポットはあそこ。茶入はこっち。

 


 建物から数百メートル離れると、少し小高くなって柵が並んでいる場所がある。
 以前ここにあったという小さな牧場の名残だ。

 周囲を遠巻きに囲うように、すでにTDFの隊員たちが配置されている。アケノやソウマはともかく、彼らは何が始まるかは知らないだろう。

 あと2時間。
 ここで、カタルシス・フュージョンを試みる。

「みんな、それぞれに覚悟を決めてるらしいな……」
「……君はどうなんだ、シン?」
「わからない。ずっと前に覚悟はできてるような気もするし、本当は何も考えてないのかもしれない」
「ふ、君らしい。だが……」
「わかってる。もう、アレはやらないって」

 イバライガーXのことは、ミニRやミニガールが生まれたときから考えていたことだった。NPLを使ってボディを生成するというのは、自分のアイデアなのだ。
 アイデアだけで、実際にやれるかどうかはわからなかった。試してみたこともない。

 だが、やれた。やれてしまった。

 イバライガーが混じっている。以前に自分で言った言葉だが、本当にそうなのかもしれない。

 気をつけなきゃならない。自分は冷静なつもりだが、タガが外れることがある。キレやすいというほどじゃないと思っているが、キレると限界を忘れてしまう。
 自分だけならそれもアリだが、今回はワカナを巻き込んだ。戦っているときは夢中で気づいていなかったが、イバライガーXのエキスポ・ダイナモは、ワカナが生成したのだという。

 それはダメだ。ワカナは巻き込みたくない。

 初代には、もうやらないと言ったが、本当は約束できない。もしもの時は、またやってしまうだろう。危険なことはわかっていても、何もしなければ未来もない。やるしかないときには、やるしかないのだ。

 初代は何も言わないが、たぶん気づいている。
 すまん。何度も何度も心配をかけた。危ない目にも遭わせた。これからも、そうだろう。すまん。心から、そう思う。

「それより……ハイパーは使えないのか? あの力があれば……」

「いや、無理だ。というより、当てにできない。ミニRのときに呼び出せただけでも奇跡のようなものなんだ。それに……たぶんハイパーは危険だ。私はこれまでに3度、ハイパーの出現を確認している。未来でシン、君が2度呼び出している。そして、ミニRのとき。そして、どのときも君が鍵になっている。恐らくアレは……ハイパーは、君が限界を超えてしまったときにだけ出現するんだ……」
「イバライガーXと似たようなもの、というわけか……」
「そうだ。だから危険だ。仮にハイパーを呼び出せてRを救えたとしても、君を……もしかしたらワカナまで犠牲にすることになりかねない。もう二度とハイパーに頼るべきじゃない。Rは、私たちの力で救わなくてはならないんだ」

「……わかった。それで……Rの様子はどうなんだ?」
「いつも通り……ではないな。心を閉ざしている。感情が読めない」
「じゃあやっぱり……」

 Rは、死ぬ気だ。
 カタルシス・フュージョンが成功すればいいが、そうでないときは自らのエモーションを暴走させ、体内のモノごと対消滅して消える。
 恐らく、そんなことを考えている。それを俺たちに悟らせないために、アクセスを遮断しているんだろう。
 バカだなぁ。バレバレなのに。

 お前の覚悟はわかる。俺でも、同じことを考える。

 でも、それはさせない。お前も俺も、こんなところで終わるわけにはいかないんだ。
 ハイパーが使えなくても、必ず助けてみせる。

「初代、すまないな。無理をさせることになる」
「いつものことだ。私自身が決めたことでもある。気にするなよ」

 シンは、もう一度周囲を見回した。
 この中央にR。向かい合って初代。周囲に俺たち。

 カタルシス・フュージョン。
 それは、R対初代の戦いから始まるのだ。

 


「行きますっ、初代イバライガー!!」
「こちらもだ! 手は抜かん。ダメージは覚悟しろ!!」

 イバライガーRが、全力で突っ込んだ。初代はカウンターで迎え撃つ体勢だ。
 直前で大きく踏み込む。足が地面にめり込み、急制動をかける。タイミングをズラした。そのまま地面に埋まった足を軸に回転蹴りを打ち込む。ダッキングでかわした初代イバライガーが懐に飛び込む。拳が光っている。ゼロ距離からのブレイブ・インパクト。

 本当に偽闘なのか。
 二人とも本気で倒しに行っているとしか思えない。

 Rが後方に跳んだ。追った初代は、もう追いついている。拳を撃ち込んだ。あの間合いなら直撃だ。その瞬間、Rはクロノ・スラスターを全開にした。背面のまま急加速する。初代の拳は大地を叩いた。地面が爆発し、巨大な穴が開いた。その土煙に紛れて、再びRが飛び込んでくる。ブレイブキック。初代は咄嗟にマントを腕に巻きつけた。そのまま硬質化させたマントは槍状に変化する。身を捩ってキックをかわしながら、槍を突き出す。Rも身を捻っている。槍は、足をわずかに抉っただけだ。

 ソウマは息を呑んだ。
 一瞬も油断できない攻防だ。両者の動きは、肉眼ではとても捉えきれない。PIASのおかげで、ようやくトレースできているのだ。
 ここまでやらなきゃならないのか。

 この戦いは、お互いを倒すためのものではない。
 Rの中に潜んでいるというジャークを誘き出すためだ。ジャークは争いを好む。これは餌なのだ。
 だが、ただの練習では反応しない。必要なのは争闘なのだ。
 本気で戦うしかないということか。

 シンたちの作戦通りにコトが進めば、イバライガーRに異変が起こるはずだ。
 この辺りを……いや、下手をすれば周辺地域の全てを吹き飛ばすような、とんでもないエネルギーが噴き出してくる可能性がある。
 それも、ジャークを伴って。

 それを、この場の全員で押さえ込む。全員のエモーションを集中させ、ネガティブをポジティブに反転させるのだという。
 成功すればRを救えるというだけではない。その巨大なエネルギーを取り込んで、R自身もパワーアップできるかもしれない。

 だが、しくじればイバライガーRの身体が、ジャークに乗っ取られる。

 そうなったときが、自分の出番だ。
 奴が怪物となる前に、殺す。破壊する。

 いかに強化されたPIAS-EXとはいえ、イバライガーを一撃で倒せるほどではないが、このことは奴自身が申し出てきたことだという。
 つまりRは、殺されるために協力するということだ。最後の力を振り絞って、自ら断頭台に上がると言っている。

 大した覚悟だ。ソウマは、初めてイバライガーに敬意を感じた。
 だが、それでも見逃してやることはできない。せめて、苦しませないように一撃で。

 ソウマは、再び二人の戦いに意識を集中した。

 


 戦いながら、心の奥底に呼びかけた。

 そこに、いるのだろう? ずっと、この時を待っていたのだろう?
 出てこい。私の身体を委ねてやる。好きにさせてやる。

 混沌が、コロニアル・ランペイジが疼いた。
 その中心にある意思に集まっていく。ネガティブの波動が、膨れ上がっていく。

 来る。奴が出てくる。私だけでは、もう止められない。
 意識が遠のく。身体の制御が奪われていく。

 頼……むぞ……みん……な……!!

 


 向かってくる。手を開いている。掌底打ちか。だが、間合いが浅い。十分にかわせる。
 初代イバライガーはRの軌道を読んで、わずかに下がった。十分に呼び込めば、空振りさせた直後に膝を打ち込める。それはかわせないはずだ。

 掌底が空を切った。ここだ、と思い、前に出ようとしたとき、胸に痛みが走った。
 切り裂かれている。3本の筋が、ライブ・プロテクターを抉っている。まるでダマクラカスン……。

 ハッとした。Rの指先。爪が伸びている。
 始まったのか!?

 ぐがぁあああああああああああああっ!!

 Rが吠えた。間違いない。
 ジャークが……ルイングロウスが出てきたのだ。

「初代! やるぞ!! 下がってくれ!!」
「まだだ、シン! まだ奴は深い。本体は出てきていない。私が合図するまで待つんだ!!」

 けぇえええええええっ!!

 奇声とともにRが跳んだ。獣の動きだ。四肢の関節が伸び、肉食獣のそれになっている。サイド・スラスターのウイングが割れ、巨大なノコギリのように変形した。顎が伸び、牙のようなものがせり出してくる。背中からもトゲ状の突起が突き出してくる。動きながら、変貌していく。

 そろそろか。だが、まだジャークの気配は弱い。
 これほど変貌しても、まだなのか。

 しゃああああああああああああっ!!

 Rが腕を振り回した。普通なら届かない。だが伸びてくる。まるで中国拳法の通背拳、いや通臂公だ。
 このままでは、かわしきれなくなる。まだか?

 ドクン、とした鼓動のようなものを感じた。

 Rの顔に、ヒビのようなものが走った。フェイス・バイザーが真っ赤になり、吊り上っていく。
 来た。ついに出てきた。あと少し。

 突進してくる。かわせない。いや、かわしてはいけない。Rは暴走状態だ。かわせば、周囲のどこかに突っ込む。被害が出る。受け止めるしかない。並みの方法では止まらない。やるしかない。

「時空……鉄拳!!」

 拳にエネルギーを集中して、引き絞った。これほどの力を撃ち込んだら、Rもタダでは済まない。だが、他に方法はない。
 向かってくるRが拳を構えた。

「……ク……クライオ……イン……パクト……!!」

 クライオ・インパクトだと!? 極低温のブレイブ・インパクトだというのか!? くっ!!
 Rの拳が突き出される。迎え撃つしかない。

「ブレイブ……インパクトォオオッ!!」

 拳同士がぶつかる。凄まじい爆発と反発力。超高温と超低温が互いを飲み込もうとする。
 だが、捉えた。ここだ、ここしかない。

「み……みんなっ、今……だっ!!」

 声にならない、と思った瞬間、パワーが押し寄せてきた。
 感情エネルギー。エモーション・ポジティブ。
 みんなの想いが背中を押す。出力が上がる。いける。

「うぉおおおおおっ!! 行っけぇええええ! カタルシスゥウウッ……フュージョォオオオオオオンッ!!」

 シンの雄叫び。全員のエモーションが、Rに集中した。変貌した箇所が光を放ち始める。対消滅している。
 背面と右腕のスラスターを全開させた。時空突破は無理でも、通常モードなら。
 左手で右腕を支え、フルパワーで押し込んだ。拳が軋む。このままでは砕ける。構わない。この先はない。ここで、全エネルギーを使い切る。心の中で叫んだ。

 R! 聞こえるか、みんなの声が!! お前を呼ぶ声が!! 負けるな!! お前はイバライガーRだ!! お前たちは……未来のシンの心が……ワカナの想いが宿った特別なヒューマロイドなのだ!! こんなところで終わるなど絶対に許さんっ!!

 


 ひび割れが、全身に広がっている。全ての傷から光が溢れている。
 対消滅の光だ。このままでは、R自身が消滅してしまう。

 カオリが倒れた。イモライガーも腰を抜かしている。不安と恐怖で立てなくなったのだ。他のみんなのエモーションも、弱まっている。たぶん私も。
 ダメだ、これじゃダメだ。こんなことじゃRを救えない。

「みんな! ビビるな!! 構わないからRをぶち壊すつもりで本気出せぇええええええっ!!」
 シンの声。そ、そんな……!?

「コアだ! コアさえ生きていればRは救える!! 今のアレはRじゃねぇ!! 俺たちのイバライガーRは、あんな化け物じゃねぇ!!」
「そうよ! アレはRじゃない!! Rはあの中にいる!! ジャークをやっつけて取り戻す!! 絶対に成功させる!! ワカナ!! 言ったでしょ、私たちは……!!」

 重ねた手。
 そうだ。私は……私たちは約束した。

 MCBグローブを握りしめた。まだ力はある。やれる。叫んだ。

「見せてあげるわ、ミニガール!! 私たちは最強!! 涙を……止めるためならぁああ……限界なんて……なぁああああああああいっ!!」

 エモーションが、一気に膨れ上がった。全てのイバライガーのエキスポ・ダイナモが激しく光っている。同じだ、ねぎの時と同じ。

 別な光が見えた。Rのエキスポ・ダイナモ。光ってる。応えてる。私たちの想いに!!

 


 どうする? 介入するなら今だ。

 変貌したイバライガーRは、怪物そのものだ。しかも本当に覚醒すれば、アレ以上になる。あんなものを外に出すわけにはいかない。
 動きは初代イバライガーが封じている。全員のエモーションによって、力も抑えられているはずだ。

 今なら、イバライガーRを殺せる。
 力が拮抗している間が、唯一のチャンスだろう。

 だが。

 奴は戦っている。自分と戦っている。まだ決着はついていない。あきらめていない。シンたちもだ。

 その全てを俺が壊すのか。運命に抗う男の寝首を掻くのか。それが世界を救うことなのか。今ここでイバライガーRを失っても、世界は続くのか。そんなことで救われた世界は正しいのか。そんな世界で俺は生きていけるのか。

『ソウマ、迷うな。行け』

 頭の中に、声が響いた。隊長のエモーションが流れ込んでくる。揺らぎのない強い思念。包み込まれる。命令には逆らえない。訓練した身体は、意思とは関係なく動いてしまう。

 タイミングを測って、一気にダッシュした。シンたちも初代イバライガーも、Rに集中している。十分に接近するまで、こちらの動きに気付けないはずだ。ターゲットが見えた。エキスポ・ダイナモ。届く。狙い通りだ。

 


「……お前の……好きには……さ……せない……っ!!」

 膨れ上がる悪意。呪い。その中心で脈打つもの。
 それが貴様か、ルイングロウス。

 すでに身体のほとんどは、奪われている。
 それでもイバライガーRは意識だけの世界で戦い続けた。

 手を伸ばした。遠い。届かない。それでも伸ばす。あきらめない。あきらめられない。
 掴み取ってやる。握りつぶしてやる。この世界に……お前は放たない!!

 別の手も伸びてきた。

 これは……PIAS……なのか?

 


 初代が気配を感じた時には、もう背後にいた。
 地を這うように突っ込んできたPIASの手が、Rのエキスポ・ダイナモに伸びてくる。

 PIASだと? 何をする気だ!?
 掌が、エキスポ・ダイナモに押し付けられた。まさか……お前たち!?

 記憶が、フラッシュバックした。
 以前にダマクラカスンと戦ったとき。ソウマを救おうとして気を取られた。差し伸べた手に向けられたナイフ。
 またしても、そうなのか。やはり人間は、我々を信じることはできないのか。

「おぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

 気合が、迸った。ソウマとアケノのエモーションが、Rに注ぎ込まれていく。手遅れか。だが、これは!?

 アケノの声が頭に響いた。

『……私たちにはシンやワカナほどのエモーションの力はない。けど、こうして直接触れれば……PIASのエキスポ・ダイナモは動かせなくとも、Rなら……』
「使えっ、イバライガーR!! 俺たちのエモーションもくれてやるっ!!」

「ソウマ!? アケノ!?」

『情にほだされたわけじゃないよ。でもRを救えるなら、そのほうが戦略的にも正しいからね。勝てそうな賭けなら、乗ったほうがいいってだけ。乗ったからには絶対に結果を出してもらう。アタシも出し惜しみはしない。そんなわけで……遠慮なくやっちゃって、ソウマ!!』

「了……解っ!! い、行けぇえええっ、イバライガーR!! 今までのように……お前の力をぉお……この俺に見せつけてみせろぉおおっ!!」

 やってくれた。凄まじい量のエモーション・ポジティブが、ダイレクトにRに伝わっていく。Rのエキスポ・ダイナモは、爆発しそうなほどに輝いている。
 届いている。応えている。
 これがPIASか。人間の心は、これほどの力を秘めているのか。

 もう迷わん。私は何度でも手を差し伸べる。例えナイフで応えられたとしてもだ。心の力を、私は信じる。

 最後のエネルギーを振り絞った。
 一気に突き破ってやる。耐えろ、R。このままお前の中のジャークを貫く。

 どうだ、ルイングロウス!? 貴様がどれほどのエネルギーを持っていようと、人の想いはそれを超える! Rは、渡さん!!
 イバライガーは……ジャークには決して負けん!!

 


 Rの動きが止まった。

 全身から力が抜け、両腕がだらりと垂れ下がっている。光も、消えた。
 全身のひび割れから黒い蒸気が上がり、変身が解けていく。

 シンは、膝をついた。こちらも、もう限界だ。何の力も残っていない。

「……成功……したのか?」
「わ、わかんない……。でも……元の姿に戻っているんだから……」

 ようやく絞り出した声に、ガールが答えた。やはりエネルギーを使い果たしているようだ。

 周囲を見渡した。マーゴンとカオリは気を失っている。ミニライガーたちも座り込んで動けなくなっているが、みんな無事らしい。
 起き上がろうとする初代イバライガーに、PIASが手を伸ばしている。肩を借りて立ち上がった。傷だらけだが、イバライガーならばすぐに治るはずだ。

 その向こうを、誰かが歩いていた。

 ワカナ。よろめきながら、Rに近づいていく。
 Rの外見は、傷はともかく、いつも通りに戻っている。

 だが、何かがおかしい気がした。空気が違う、とでもいうのか。嫌な予感が消えない。

 ワカナが、Rに向かって手を伸ばす。その何でもない光景に恐怖を感じる。ダメだ、ワカナ。戻れ。離れろ。
 イバガールが走り出そうとして、膝から崩れ落ちた。やはり動けない。自分もだ。叫んだ。

「やめろ、ワカナ! 近づくなっ!!」

 ワカナが「え?」という顔で、振り返った。

 その後ろに、真っ赤なフェイス・バイザーが見えた。

 

ED(エンディング)

 ここは……どこだ? 私は、どうなった?
 真っ暗だ。何も見えない。センサーも、反応しない。みんなの声も、聞こえない。
 誰もいなくなってしまったのか。いや、私がいなくなったのか。

 薄っすらと、何かが見えてきた。

 シン。叫んでいる?
 ガール。必死に走っている。
 どうした、何があった?

 誰かが、倒れている。
 私は、それを見下ろしている。

 ワカナ? なぜワカナが倒れている?
 手? 私の手か。髪の毛が絡み付いている。ワカナの?

 なんだ? 何があった? 何をした? ワカナは、なぜ起き上がらない?

 ワカナを起こさなくては。
 もう一方の手を、伸ばそうとした。
 その手は、血にまみれていた。

 なんだ、これは?

 

次回予告

■第30話:ブラック、最後の決断
イバライガーRを救うためにカタルシス・フュージョンを試みた仲間たち。だが作戦は失敗し、最後の四天王ルイングロウスが復活してしまった。重傷を負って倒れたワカナ。力を使い果たしたシンとイバライガーたち。乗っ取られるPIAS基地。意識を失って暴走するR。この絶望の連鎖を断ち切れる者はイバライガーブラックただ一人。己の全てを賭けたブラック最後の戦いが、ついに始まる……!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援……なんかできないよぉ! ふぇえええんっ!!

 

(次回へつづく→)

 


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