小説版イバライガー/第28話:禁断のイバライガーX(前半)

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OP(アバンオープニング)

『こちらは、防災つくばです。ただいま、大規模テロによる緊急避難警報が、発令されました。周辺の方は、屋外に出ないようにしてください。屋外にいる方は、大至急、最寄りの建物内に退避してください。……繰り返します。こちらは、防災つくば……』

 内容と裏腹の抑揚のない声。耳障りなサイレン。人間たちが右往左往している。
 Jアラートってやつか。とうとう、始まりやがった。

 ミニライガーブラックは、全速力で基地に向かっていた。
 今回は今までと違う。ジャークも、ほとんど全部の力を集結させているとしか思えない。つまり、決戦だ。
 それなのに、Rは動かない。PIASとかいうイバライガーモドキがいるみてぇだが、どんだけ使えるのかはわからない。

 ちくしょう。ミニガール。子分ども。ねぎ。
 大丈夫か、お前ら。

 こないだ会ったとき、ミニライガーたちは新しい技の練習をしてた。連携技……いや合体技って感じか。
 アレが完成していれば何とかなるかも知れない。

「でも……期待通りの威力になるには、ボクたち3人だけじゃ質量が足りないんだよなぁ……」
 ミニブルーは、残念そうに呟いていた。
 確かに、あのときに見たのは、技どころかギャグみて~なもんだった。狙いは悪くないが、実戦では使えそうにない。

 それでも、あいつらは練習をやめようとはしなかった。
 何か方法があるはず。それを見つければ、みんなの力になれる。だから諦めない。

 そうだ。それでこそオレ様の子分だ。
 無理も無茶も知ったことか。やるしかね~ことは、やるしかね~んだ。
 不可能を可能にしてこそ、イバライガーってもんだぜ。

 到着まで、あと1分。
 待ってろよ、てめぇら。

 


 遠ざかっていくミニブラックの気配と、かつてないほどに膨れ上がっていくジャークの反応。
 それを全身で感じながら、それでもイバライガーブラックは動かなかった。

「行かねぇだと!? てめぇ、何考えてんだ!? このことを予想して色々仕込んでたんじゃねぇのかよ!? シンやワカナは絶対に死なせちゃいけねぇんじゃなかったのかよ!? ミニガールが心配じゃね~のかよ!?」

 ミニブラは、さんざん罵倒した挙句に、飛び出していった。
 それでいい。

 今、俺は動けない。Rの中の力が、目覚め始めている。猶予はない。ここで手の内を見せることはできない。
 この修羅場は、これから起こることを乗り切るために通過しなければならない鬼門なのだ。

 乗り切ってもらうぞ、R。シン。
 例え、業火に飛び込むことになったとしても。

 

Aパート

『ジャーク反応、多数接近! やはりここを目指しています。近隣の被害は軽微。第一波の接触までは、約30秒!!』

 索敵を担当しているTDFオペレータの声が響いた。
 同程度の情報処理や分析はカオリも行っているが、口いっぱいに食べ物を詰め込んでいるため、ワカナ以外の者には聞き取れないのだ。

「大変だぁあ! 来てる! めっちゃ来てる!! キモい感じが山ほど押し寄せて来てる~~っ!!」

 騒ぎながらマーゴン=イモライガーが、コントロール室に飛び込んできて、出動しようとしていたワカナにぶつかりかけた。
 手には、しゃもじを持ってる。以前に呼吸困難になったカオリを救ったというアレにカラーリングを施してイバライガーっぽくしてあるが、タダのしゃもじだ。

「マーゴン、TDFは!?」
「いや、ボクはイモライガー!! ……って、そんな場合じゃない! めっちゃ軍隊っぽくなってる! 戦争っぽい!!」
「すでに臨戦態勢ということか。さすがに対応が早いな」
「とにかく私たちも出るよ! マーゴ……じゃなかったイモライガーは、ここを守って。カオリと博士たちは、Rをお願いね!!」
 ワカナが駆け出していく。シンも、装備を確認して立ち上がった。
「だ、大丈夫か、シン。今回は今までとは違うぞ。まるで戦争だぞ!?」
「わかってる。けどRが動けない今、少しでも戦える者が隠れているわけにはいかねぇだろ。戦争でも相手がジャークなら、俺たちは並みの兵隊よりは戦えるさ!」

「……そうだね、それは認めるけどね……」

 廊下から、声がした。
 ワカナが、後ろ向きに戻ってくる。両手を上げていた。
 続いて、銃を構えたTDF隊員が二人見えた。その後ろから……アケノ。

「悪いね、ちょっと一緒に来てくれる?」
「てめえ……何のつもりだ? 今の状況がわかってんのか?」
「わかってるから、なおさらなの。とにかく来て。手荒なことはしたくない」
 全員が立ち上がろうとしたが、アケノが手を振った。

「あ~、付いてくるのはシン君とワカナちゃんだけでいいよ。他の人は、そのまま仕事してて。もうすぐ10人ほどが護衛に来るし、少なくともアタシたちが全滅するまでは、建物の中にジャークは入らせないから」
「二人を……どうする気?」
 エドサキ博士が尋ねた。シンの位置からは、机の影の博士の足元が見えた。ハイヒールを脱ごうとしている。
 やるつもりか。いや、意外に強いってワカナから聞いてるけど、無茶はしないほうが……。

「心配しないで。危害は加えないから。ただ、初代イバライガーとの約束は守らないとね」
「初代との……約束だと?」

「そう。シンとワカナを、戦いに出さないこと。何としてもエモーションから遠ざけること。初代イバライガーは、君たちの安全と引き換えにこちらの要求を飲んだ。だからアタシも、約束を守るの」

 全員が、唖然とした。
 脱ぎかけた博士のハイヒールは、元に戻っている。

 初代イバライガー。そこまで俺たちを心配していたのか。
 俺たちは、それほど危険な状態なのか。

 だけど。

 どんなに危険でも、今動かなきゃ未来もクソもないじゃないか。
 お前の気持ちはありがたい。でも今は……。

「さ、時間がないから来て。あ、ワカナは手を下ろしていいよ」
 銃を突きつけられたまま、廊下を進んだ。
 地下への階段を降りる。NPLプールへ行くつもりか。あそこに監禁されてしまったら、自力では出られない。

 ワカナが、目配せした。拳を握っている。
 ウインクで応えた。閉じ込められてしまってからでは、遅い。

「君たち、思ってたより訓練してるようだね。この距離なら、銃より早いかもしれない。エモーションで防御もできるかも。けど……」

 アケノが目の前に現れた。バカな。声は、後ろからだったのに。
「……余計なことはやめてね。アタシは君たちより早い」

 


 NPL防壁の向こう側から、凄まじい反応を感じる。
 ジャークゴーストが群がっている。何十体もだ。それがNPLのエモーション・ポジティブによって消滅させられているのだ。

 だが、対消滅だ。NPLも消える。
 消えた場所に次のゴーストが取り付き、その身体を踏み台に登ったゴーストが、また消滅する。
 それを繰り返してNPLを無効化するつもりらしい。自殺行為だが、そもそもジャークゴーストは、生きているというのとは、やや違う。四天王が生み出す分身体に過ぎないのだ。思考力もあまりない。

 防壁のてっぺんから、チラチラと触手が見える。登ってきた。
 すでに防壁はただの壁になりかけている。

「来るわよ! 二人とも、気をつけて!!」

 イバガールはタイミングを計りつつ、ミニガールとミニRに声をかけた。
 二人とも緊張して、やや硬くなっている。彼らは以前の基地での戦いを経験していない。これほどの数のジャークを相手にするのは初めてなのだ。
 あのときの戦闘データは私たちから受け取っているが、知っているのと実際に経験するのとは違う。
 特に、今回は持久戦だ。奴らが引くか倒しきるまで戦い続けなきゃならない。エネルギーを効率よく使う戦い方をすべきだ。
 ガールは、身構えた。まず自分が突っ込んで、お手本を見せなきゃ。

 一体が、壁の向こうから半身を乗り出した。
 今、と思ったとき、後方からものすごい勢いで黒い影が突っ込んできた。

「おらおらぁああっ!! スゥウウパァアアアアッ! オレ様ァアアアッ! キィイイイイイックッ!!」

 身を乗り出そうとしていたゴーストの上半身が吹っ飛ぶ。いや、壁の一部も吹っ飛んでいる。
 黒い影は、ぶつかった反動でV字型の軌道を描き、一回転して着地した。

「どうだ! このミニライガーブラック様が来たからには、てめぇらなんかまとめてブッとばしてやるぜぇ!!」
「こらぁああ!! 壁ごと壊してど~すんのよ!? ていうか、そんな派手な戦い方してたら無駄にエネルギー減っちゃうでしょ!!」
「なんだよ! せっかく援軍に来てやったんだから、もうちょっと喜べよな!!」

 ……ったく。サイテーのお手本だよ。
 でも、まぁいいか。いつものノリのミニブラのおかげで、ミニちゃんとミニRの緊張もほぐれたみたいだし。

「ミニブラック!」
「おう、妹。無事だったか! 他の子分どもも無事みてぇだなっ!!」
「ミニブラック、ここは私たちでカバーできます。あなたはTDFの人たちが担当している南側の壁に向かってください!」

 うん。さすがにミニR。適切で真面目な状況分析してる。
 私たちは北、初代とミニライガーたちが東。西と南がTDFで、PIASは西に配置されている。
 手薄なのは南なのだ。だけど……。

「ああっ!? てめ~、オレに指図してんじゃね~よ! だいたいオレは妹と子分を助けに来たんだよ、TDFなんか知るか!」
「か、勝手なことを……!!」
「ちょっとぉ! ミニブラもミニRも、ケンカしてる場合じゃないでしょ!!」

 ミニちゃんの言う通りだ。
 言い争いをしてる間にも、ジャークはどんどん登ってくる。

「もぉ、いいわ。ミニR、アンタが南に回って」
「わ、わかりました……」
「そぉそぉ、アタマの固いお坊ちゃんはアッチに行ってな~~」
「くっ……! ミニブラック、この話の決着は後でつけさせてもらいますよっ!!」

 珍しく捨てゼリフを残して、ミニRが飛び去った。
 まぁ、悪ガキのミニブラと優等生のミニRだからなぁ。Rとブラックもぶつかってばかりだし、そのバックアップも馬が合わないのは仕方ないか。

「さぁて。邪魔者はいなくなったし……」
 無駄口を叩いている間に、ゴーストが飛び込んでくる。ミニブラックは振り向きもせずに、拳を振り上げた。
 直撃。見事にコアを貫いている。
「……ビシバシやるとすっか!」

 さすがにブラックのバックアップだ。戦い慣れてきている。
 生意気だけど、頼もしい。

「それよりミニブラ。なんでブラックは来ないのよ?」
「しらねぇよ、あんな薄情もん! なんかよぉ、また『見定める』とかカッコつけててよ。相変わらずワケがわかんね~よ!」

 ガールもミニブラも、戦いながら話している。数が多くても量産タイプのゴーストばかりなのだ。このレベルなら、何体来ても怖くない。
 ただ、ザコだけで終わるとも思えない。四天王が出てきているはずだ。
 そのときにブラックがいなくてRが動けないというのは、痛い。主力と言っていい二人が不在なのだ。

 ブラックだって、このままでいいとは思っていないはずだ。
 特に、シンとワカナが傷つくのを見過ごすはずがない。

 自分がいなくても勝てると思っているのか。それほどの力が私たちにあると?
 それともわざとピンチになるのを待って、カッコつけて出てくるつもりなの?
 いやいや、いくらブラックでも、そこまでじゃないよねぇ。つ~か非合理的なことはしないタイプのはずだしなぁ。

「パパが……ブラックが来ないのは……たぶん、Rのせいだと思う……」
 ミニガールの声が聞こえた。

 ミニちゃんは、まだ戦っていない。元々が戦闘用ではなくサポートタイプなのだ。
 今回も、私たちのサポートに徹するように言い聞かせてある。

「あのとき……ブラックは、私に『任せる』と言ったの。なんのことかわからなかったけど、さっきRの話を聞いたときにわかったの。ブラックは、私にRを癒させようとしてる。Rの中の怖いものに気づいていて、ソレを倒すために私に癒しの力を与えたんだと思うの……」

 


「ちくしょう、やっぱり開かねぇ……」
 何度やっても無駄だった。ドアは固く閉ざされていて、びくともしない。他の壁も頑丈すぎる。
 エモーションの力を使っても、物理的な攻撃力が上がるわけではないのだ。ミニRが生まれたときにぶち抜いた天井も、今は塞がれている。
 シンはため息をつき、床に座り込んだ。少し、湿っぽい。ワカナは、カエルの風呂桶を椅子代わりにしている。

「……ねぇ、さっきのミニガールの話、どう思う?」
 外には出られないが、イバライガーたちの状況はヘッドセットのインカムを通じて伝えられてくる。会話も聞こえる。当然、こちらの状況も伝わっているはずだ。それでも誰も助けに来ないのは、それだけ余裕がないか、とりあえず初代の意思に従うことにしたかのどちらか、ということだろう。

「さっきの……って、ブラックがミニガールに癒しの力を与えた理由……のことか?」
「……うん。ミニちゃんが気にしてるのも、わかるよ。言われてみれば、あのブラックが単にガールを助けるためだけにミニガールを生み出したとは思えないもん。何か他の狙いもあったと考えたほうがしっくりくるでしょ……」
「Rの中の、力……か……」

 イバライガーRの中に、とてつもないエネルギーが潜んでいるという。
 今まで眠っていたソレが目覚めかけていて、その影響でRは動けなくなったという。
 信じがたい話だが、初代イバライガーは、未来での戦いの後に全てのエネルギーが消えていたと語っている。アケノも、博士たちも、それらがRに取り込まれた可能性を否定していない。ここ最近のジャークの動きも、今回の総攻撃も、Rを狙ってのことだと考えれば辻褄は合う。

「でも……それが本当だとしても……なぜブラックじゃなくてRなんだ? あの二人は元々が1つなんだから、両方にそういう力があるか、半分ずつになってるとか、そうなるんじゃないのか?」
「それはたぶん……Rの中というよりRとリンクしている別な時空ってことだと思う」
「別の時空?」
「うん。特異点のようなもの。未来と過去が1つになっていて、大きさはなく、エネルギーだけがある一点。だから転移の際にも分裂したりせず、今も本来のボディであるイバライガーRとつながっているんだと思う……」

 その大きさのない点に、数十発の核ミサイル、ハイパー、四天王級のジャークの全エネルギーがあるというのか。
 そんなものが吹き出したら、どうなってしまうんだ?
 ブラックはそれを予測して、ミニガールに癒しの力を与えたのか。

 ミニガールの力は戦闘向きではないが、対ジャークでは誰よりも強力かもしれない。
 ネガティブを、癒す。
 それは、ジャークそれ自体を分解してしまうようなものだ。
 もしもRの中のものがジャーク側の力として目覚めてしまったら。R自身や俺たちに、それが止められなかったら。
 そのときは、Rごと分解・消滅させるために、ミニガールの力を……。

「やっぱり、じっとしちゃいられねぇな。何とかして、ここを出ないと……」
 立ち上がりかけたシンの手を、ワカナが掴んだ。

「落ち着いてよ、シン。今はここにいよう」
「何言ってんだ? Rが戦えないんだぞ。せめて俺たちが……」
「Rは戦ってるよ。今も」

 ワカナが、見つめてくる。
 振りほどこうとしていた手からも、気持ちが伝わってくる。

「動けなくなるほどの異変が起こってるんだから、ジャークの意識が出てきてるのは、たぶん間違いない。でも、今もRはRのままだったでしょ。戦ってるんだよ。たった一人で、ものすごい力と。この世界と私たちを救うために」

 確かにそうだ。Rは戦っている。
 誰の援軍も呼べない場所で、戦い続けている。

「私は、Rを信じる。そして私たちが信じる限り、Rは負けない。信じる想いを力に変えて、必ず勝つ。それがイバライガーでしょ」
 部屋は薄暗い。ワカナの顔は、よく見えない。
 それでもシンには見えた。ワカナの全身から、オーラのようにエモーションが、感情エネルギーが溢れ始めている。

 思いやる。信じる。諦めない。それがワカナの力か。

 未来のワカナも、最後まで信じ続けていたという。滅亡以外の選択肢がない世界で、それでも生きる可能性を探り続けた。
 その想いが初代イバライガーを育み、この時空=別の平行世界への扉を開いた。生き続けようとするワカナの心が、この世界にイバライガーたちを導いたのだ。

「……わかった、ワカナ。俺も信じる。みんなが必ず勝つことを、な」

 俺は、信じれば何でも上手くいくなどとは思わない。どんなに信じたところで、ダメなときはダメだ。
 だが、信じる想いが弱ければ、届かないものがあるのも事実だ。
 自分を、仲間を、未来を信じることで、運命は変わる。信じるからこそ人は歩み続け、新しい可能性を生み出していける。
 ワカナの言うことは理屈ではないが、正しい。何も見えない暗闇で、道があると信じて踏み出すこと。
 それが生きるということなのだ。

「さぁて……わかったらさ、ちょっと、やってみない?」
「何を?」
「初代と初めて出会ったときのアレ。『私の名を呼んでくれ!』っていうやつ。こんなトコでじっとしてるのも癪にさわるじゃん? ちょっとワ~~~って叫んでやりたいじゃん?」

 ……負けた。ポジティブ思考では、ワカナには勝てそうにない。コイツがイバライガーになってたら俺より強かったに違いない。
「わかった。ストレス発散にもなるし、久々にやってみるか!」

 エモーションが伝えてくる気配に、気持ちを集中させる。届ける。俺たちの想いを。声ではなく、心を。
「せぇ~~のぉ……」
 二人同時に息を吸い、叫んだ。あの時のように。

 イバライガァアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

(後半へつづく)

 


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