カソクキッズ:2ndシーズン/イントロダクション

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連載再開までの1年間

 このエピソードを描いたのは2012年9月。
 1stシーズン完結が2011年6月だから、1年以上が経っている。

 カソクキッズ再開は最初から想定されていて、1stシーズンが終わった直後から次のシリーズではどんなネタを扱っていくか、KEK内では激しい議論があったらしい。
 これまでは、ずっと主に素粒子の謎、宇宙の謎を扱ってきたけれど、KEKで研究されているのは宇宙の謎だけじゃない。宇宙、物質、生命の謎を解き明かす、というのがKEKの使命なのだ。

 つまり、生命と物質の謎も扱わないと、KEKの連載漫画としてどうか、というわけだ。

 まぁ、これまでにもちょっとだけは物質の謎を扱ったことはある。16話で描いた「フォトンファクトリー」のエピソードだ。
 フォトンファクトリー(以下PF)はKEKでも古くからある施設の1つで、加速器で作られる「放射光」という特別な光を使って、ミクロな物質の構造などを調べている。16話では、PFでの研究の一部を紹介し、ここで研究してノーベル賞を受賞したアダ・ヨナット博士のことを取り上げた。

 でも、そんだけ。
 全30話で素粒子や宇宙以外のネタは、1エピソードしかないのだ。

※参考
こちらのカソクキッズ関連コラムでもフォトンファクトリーを紹介している。漫画執筆のために取材したときの写真をまとめた記事で、下手すりゃ本編より詳しいかも(笑)。

 

 そんなわけで、今後もカソクキッズを続けるなら物質や生命の研究も扱うべきだという声が上がり、KEKでは、ソッチ系の研究者にもミーティングに参加してもらい「これからのカソクキッズ」について熱い激論を続けていたらしいのだ。

 そんなにアッチコッチ取り上げてたら、テーマがまとまらず散漫になってしまうでしょ。
 でもKEKの広報作品でもあるんだから、宇宙と素粒子ばっかりというのはオカシイでしょ。
 加速器そのものについても、もう少し詳しく扱ってもらいたいでしょ。
 いやいや、宇宙のことだけだって、まだまだ足りない。脱線していられないでしょ。

 以前から監修してくれていた研究者さんと、新たに加わった研究者さん。
 あ~でもない、こ~でもないと、本当に会議は紛糾していたらしい。

 でも、これはKEK内部でのことで、ボクはそんなコトちっとも知らなかった。
 早く再開のゴーサインが出ないかな~って、鼻くそほじりながら待ってただけなの。

 お声がかかったのは、2012年7月。
 スイス・ジュネーブのCERN(欧州原子核研究機構)で、ヒッグス粒子が発見されたのだ。

 このノーベル賞確実(実際2013年に受賞している)の大発見に世界中が湧いた。
 そして「ヒッグス粒子って何なの?」という問い合わせも激増した。

 このため、新シリーズについての議論はいったん置いといて、ヒッグス粒子についての「特番」を作ろうということになり、カソクキッズが復活することになったのだ。そのミーティングで、先の「ず~っと揉めてた経緯」を聞いたの。

 そういうことだったのか~。
 いや、研究部門同士が奪い合いするほどにカソクキッズを重視してくれてたってことだから、ボク的にはそんだけで嬉しいんだけどね。

 まぁ、今までのカソクキッズを守りたいという意見は、わかる。
 ボクだって、そのつもりだ。
 そもそもカソクキッズは、単なるKEKの広報作品じゃない。
 監修メンバーとボクの志は「21世紀の新しい物理の教科書をつくる」だったんだから。

 だけどKEKの広報作品の側面もあるのは事実で、そこは無視できない。スポンサーだからね。
 それに、物質や生命の研究者も研究を紹介してもらいたい気持ちもわかる。
 ボク自身も、そういうネタにも興味はある。

 そんなわけで、ボクは会議で言っちゃった。

「皆さんのご意見、ご要望はわかりました。ボクが何とかしてみせます。どう料理していくかは漫画家としてのボクの腕の見せ所。科学というより漫画の領域です。漫画のことはボクに任せてください」

 いやぁ、またまた大言壮語

 頭のいい研究者さんが幾人も集まって、1年かけても決着できなかった問題を5分で終わらせた……というのはカッコイイけど、本当は根拠ないのよ。自信もない……わけでもないけど、でも、やってみなきゃわからないのは確か。どうにかなるか、どうにもならないか。全然読めてるわけじゃないんだ。

 けどねぇ、このまま議論を続けていても先に進まないとしか思えなかったんで、とにかく走り出してしまったほうがいいと判断したの。

 それが正しい判断だったのかどうかは、今もわからない。
 でも、あそこで動かなきゃカソクキッズ2ndシーズンはいつまでも始まらなかっただろうし、下手すりゃ再開自体が流れてしまったかもしれないとは思う。そこまでの会議の経緯を聞く限り、どう考えても永遠に平行線に思えたからね。

 そういうわけで、大口叩いてカッコつけて再開されたのが、このイントロダクションから始まる『カソクキッズ/セカンドシーズン』なんだ。

 セカンドシーズンの連載期間は、前回同様3年間。
 エピソード数は35話。
 以前より5話増えていて、1話あたりのボリュームもアップしている。
 扱うテーマも、多岐にわたる。これまで以上の大冒険。

 でも、最初に始まったときと同じ程度の緊張だったなぁ。

 初めてカソクキッズを描いた頃は、素粒子のことも、加速器のことも、KEKのことも、ほとんど知らなかった。
 知らないから、怖くない。
 大変なことに挑んでるという実感はあったけど、どうにかなるだろ、とも思ってた。

 今度は、そこそこ知っている。
 知ってる分だけ、アレコレ不安や危惧もある。

 だけど、3年を一緒に戦ったキャラクターたちがいるんだ。
 気心の知れた戦友が一緒なのだ。

 ならば、やっぱり怖くない。

 どんな謎が待ち受けていようが、キッズたちはキッズたちだ。今まで通りだ。科学漫画だけど、科学研究するわけじゃない。ボクは漫画を描くのだ。そして漫画なら自分の土俵なんだ。

 怖さはちょっぴり。
 ワクワクはたっぷり。

 そんな気分で始まったセカンドシーズンだったんだ。

 

あのキラキラを忘れない

 2012年9月。その第一日曜日に恒例のKEK一般公開がある。
 ボクも毎年行っていて、様々な研究者さんとお話ししたり、色々見学したりしている。連載してるから特別に取材を申し込むこともできるんだけど、わざわざ研究者さんをわずらわせなくても済むように、見れるときには見ておいたほうがいいからね。

 で、このとき、一人の少年と出会った。

 小学3~4年生くらいからなぁ。カソクキッズのファンだという。
 ボクが作者だと知って、大喜びしてくれた。
 そして寂しそうな顔をした。

 キッズの連載が終わっちゃって残念だ、と。もっと色々読みたいのに、と。

 そんな少年に、ボクは答えることができた。
「今日、お家に帰ったらカソクキッズのホームページを見てごらん。新しい冒険が始まってるよ」

 少年は大興奮してくれた。

 あのときのキラキラした目を、ボクは一生忘れないだろう。
 あの目に出会えたというだけで、カソクキッズを描いてよかったと断言できる。

※厳密には、この時点ではセカンドシーズンは再開されていない。でも8月末に「ヒッグス特番」が公開されていて、そのラストシーンで9月からセカンドシーズン再開が告知されていたので、そのことを伝えたんだ。カソクキッズは終わってしまったと思い込んでいて、特番も読んでなかったようだったしね(笑)。

 その翌年も、さらに翌年も、何度も同じような子供たちに出会えた。
 カソクキッズを読んだことで科学に興味を持ち、今は博士を目指しているという子もいた。
 大人にもカソクキッズのファンと言ってくれる人がいた。
 中には、カソクキッズを読んでKEKに憧れ、本当に職員になってしまったという人までいた。

 漫画ってすごいよね。
 誰かの人生を変えちゃうんだ。ボクが軽いギャグのつもりで描いたことでも、どこかの誰かの人生を大きく変えるほどの影響を及ぼしてることだってあるんだ。

 頑張らなきゃ。雑なことをしない。1コマ、1コマを大事にしなきゃ。
 セカンドシーズンは、そういうことを感じながら描いたんだよ。

 本当に、充実した日々だったよ。

 


※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。

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