カソクキッズ:ヒッグス特番

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セカンドシーズン連載開始の予告でもあった特番

 この「ヒッグス特番」を描いたのは2012年8月。

 1stシーズン完結から1年2ヶ月後で、翌月からセカンドシーズンが始まるということもあって、その予告的な意味合いも兼ねている。
(セカンドシーズン再開への経緯は「2ndシーズン/イントロダクション」の記事に書いたので、そっちで読んでね)

 さて、この時期に特番を描くことになったのは、もちろん、この年の7月にCERN(欧州原子核研究機構)で、ヒッグス粒子が発見されたからだ。
 この発見は、日本でも新聞の一面になるなど大きな話題になった快挙で、テレビでも特集が組まれ、当然ながらKEもは問い合わせや取材に追われた。

 そこで、この反響に応えるためにも、気軽に読んでもらえる漫画で紹介しようということになったのだ。

 

発見したけど、正体は不明のまま

 このエピソードで注意していたのが「この発見が本当にヒッグス粒子発見かどうかは、まだわからない」という点だ。

 この翌年には、正式にヒッグス粒子発見と確定するのだけど、この2012年7月の時点では「ヒッグス粒子と思われる粒子を発見した」というだけで、まだ検証は済んでいなかったんだ。

 それに、2013年に確定したとはいえ、見つかったヒッグス粒子が、これまで考えられていた通りの性質を持っているのかどうかは全然わかっていない。もしかしたら丸っきり想像と違っていて、ヒッグス粒子の発見でわかるとされていたことが何1つわからないといった可能性だってある。

 見つけたということだけじゃ、ダメなんだ。
 見つけたことは快挙だけど、それがどういうものか、ちゃんと調べなきゃ。
 それまでは発見したというだけで、正体不明なままなんだ。

 だから、過剰にヒッグス発見で浮かれないように描いた。
 すごいことなんだけど、本当にすごいかどうかは、まだこれから。そういう研究者らしい冷静さをきっちり盛り込んだの。

 2018年現在も、ヒッグス粒子の性質については、ほとんど解明されていない。
 CERNの粒子加速器「LHC(Large Hadron Collider=ラージ・ハドロン・コライダー)」は確かにヒッグスを見つけたけれど、その検証を行うには不向きなんだ。
 ある家の中に小さな宝石が1つあるとする。そこで、それを見つけるためにデカイ大砲で家ごと吹き飛ばす。そんで瓦礫の中から宝石を探す。その宝石と似たガラス玉なんかもたくさんある中から、たった1つを探すのだ。CERNでヒッグス粒子をつくるというのは、そういう感じなんだ。検証するためには毎回同じような手間をかけなきゃならない。非効率的すぎるんだ。

 なので、本格的なヒッグス粒子研究には「国際リニアコライダー(ILC:International Linear Collider)」が必要なのだ。こっちなら、ヒッグス粒子があるはずのピンポイントに絞ることができる。瓦礫もなく、ヒッグス粒子だけを作れる(正しくは「だけ」じゃないはずだけど、CERNより遥かに効率がいいのは間違いない)。

国際リニアコライダーは全長30キロの直線型加速器(電子用・陽電子用がそれぞれ15キロ)として計画されていたけど、2017年に20キロに変更された。これは建設費削減のためというよりも(そういう側面もあるかもしれないが)CERNでの実験結果から20キロが適切だとわかったからだ。その距離がヒッグス粒子をつくるには最適なエネルギーになるので、20キロ加速器に変更されたわけ。

 なんにしても、国際リニアコライダーの建造はこれからで、建造が確定しても完成まで10年はかかるだろう。本当のヒッグス粒子研究は、それからが本番だということだ。
 今は学生だったり子供だったりする人が、ヒッグス研究の最前線に立つことになるのだ。

 カソクキッズを読んで育った人が、いつかノーベル賞、なんてことも本当にあるかもしれないよなぁ。

※なお、国際リニアコライダー(ILC)については、カソクキッズとは別な解説漫画も描いている。かの村山斉博士に監修していただいた作品で、劇中にも「M博士」として登場してもらっている。冊子版もあるけど、ILC PROJECT[国際リニアコライダー計画]のWEBサイト上でも公開されているので、興味があったら是非読んでみてね。

 

質量と重さの違い

 ヒッグス粒子は「物質に質量を与える粒子」ということになっている。
 この仕組みは、厳密にはヒッグス粒子ではなくヒッグス場あるいはヒッグス機構と呼ばれるんだけど、面倒臭いことはここでは書かないでおくね。とにかく、ヒッグス粒子がないと物質の質量がなくなってしまい、我々の体を構成している物質も光速で飛び散ってしまうのだ。おっかねぇ。

 でも、この質量という概念、意外にわかりにくいらしく、テレビ番組などでは「重さ」と言い換えている例が少なくなかった。
 なのでボクも、最初はソレを見習おうとしたのだけど、そこに監修の博士から「待った!」が。

 質量と重さじゃ全然ちがうよ、と。

 思い出した。
 そういや、以前に重力の話を描いたときにも言われたっけ。

 質量ってのは「物体の動かしにくさ、あるいは動かしやすさ」のこと。
 重さとは意味がちがうんだよな~。

 例えば、宇宙のどこに行っても、ボクの質量は変わらない。自分を構成している物質はそのままなんだから。
 だけど、重さは変わる。月面の重力加速度は地球の約6分の1だ。つまり体重は6分の1になる。
 宇宙飛行士が宇宙空間でふわふわ浮いているとき、質量は変わってないけど、重さはゼロになってるのだ。

 そういうわけで質量と重さは、全然別のもの。
 いくらわかりやすくても、天下のKEKとしては間違ったことは教えられない。

 そういうわけで、カソクキッズでは質量と重さの違いにこだわってるのだ。

※先の「別なILC漫画」では、監修者がKEKではないので、そのへんがちょいとアバウトになってる。
 これもまた間違いとは言い切れない。厳密なのはKEKのほうだけど、そこにこだわって理解しにくくなるくらいなら、とりあえず重さと言い換えてもいいだろう、質量と重さの違いにこだわらなきゃならないくらいに理解できるようになるまでの一般向けの解説としてはそのほうがいい、という意見もそれはそれで一見識だと思うのだ。
 こういうふうに科学情報には「多少難しくなってもこだわるケース」と「わかりやすくするためにアバウトなケース」の両方が入り混じってるので、1つの情報源だけで理解したと思い込まないほうがいい。むろん詳しくなる気がないなら、トンデモ理論とかじゃなければ十分だとは思うけど(笑)。

 

標準理論を超えていけ!!

 これまでの物理学をまとめていたのは「標準理論」と呼ばれる理論で、これが全ての根幹になっている。

 だけど……。

 今の研究はずっと進んでいて、標準理論では足りなくなっているのだ。
 標準理論だけでは説明がつかないことがいくつも見つかり、新たな仮説も次々と出てきて、すでに研究者たちは標準理論の先を見ている。

 にもかかわらず、標準理論の先が本当にあるかどうかは実証できずにいた。
 あるに決まってると考えられていながら、その証拠が実際に見つからなくて、モヤモヤしっぱなしだったわけだ。

 もっと先に行きたい。行ける。
 そう思ってるのに、踏み出せない。そんな感じだったらしいんだ。

 このヒッグス粒子発見は、そこに道を示した。
 ヒッグス粒子が見つかったというのは、標準理論の先が本当にあると実験で示したようなもんなんだ。

 ここが大事なトコなの。
 ヒッグス粒子の発見そのものより、標準理論の先に進んでいいよ~というゴーサイン的なものが出たことが大きいんだよ。

 超対称性粒子。超弦理論。大統一理論。ダークマター。インフレーション。
 科学の世界には、理論的には納得だけど、それが本当かどうか確認できずにいることがいっぱいある。
 超弦理論などは有名だけど、それを検証できる可能性は、今のところゼロに近い。

 ヒッグス粒子の発見は、その1つに光明を与えた。
 科学が、次のステージに進むための第一歩だったんだ。

 これからどんなことが起こるのか。何が明らかになっていくのか。
 すっげぇ楽しみだよね~~。

 


※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。

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