小説版イバライガー/第27話:アルタード・ステイツ(後半)

2018年9月2日

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Bパート

「やはり……イバライガーRは、目覚めつつあるようだ……」
「では、ついに……」
「そうだ。ジャークの最終作戦を始めるときがきた……」

 ダマクラカスンとアザムクイド。二人の思念が、飛び交っている。
 アザムクイドはダマクラカスンの体内に寄生したままのため、実際には自問自答のようなものだが、身体を共有しているだけで別の意識体ではあるのだ。
 ルメージョは、その思念を聞きながら、これから起こることを考えていた。

 ついに、このときが来た。

 アザムクイドは、イバライガーRと初代イバライガーを利用して、時空の狭間から出現した。初代イバライガーを救出しようとするイバライガーRの体内に潜んで、この世界に現れたのだ。

 だが、本来ならばイバライガーの中に潜むなど、不可能だ。

 奴らはポジティブ。我らはネガティブ。接触すれば対消滅して消えてしまう。
 肉の身体があれば防御も可能だが、アザムクイドは未だにエネルギーだけの存在だ。「こちら側」に現れたときもだ。
 エネルギーの大半を失い、破壊され身体機能のほとんどが停止していた初代イバライガーならともかく、イバライガーRのほうに取り憑くことなど、できるはずがないのだ。

 それでもアザムクイドの本体は、エモーション・ポジティブに擬態してイバライガーRの中に潜んでいた。

 いや、擬態というのは正確ではないだろう。
 あのヒューマロイドの中には、ネガティブな領域があるのだ。そうとしか考えられない。
 しかもソレは、アザムクイドのエネルギーを覆い隠すほどのものだ。

 奴自身も気づかないほど小さな点でありながら、それでいて莫大な力を秘めた混沌。それがイバライガーRの中にある。
 恐らくは、奴がいた未来の世界で取り込まれた何か。
 ジャークとイバライガー。決して交わるはずのない物が溶け合い、変質し、特異点のようになって体内の奥底に眠っているはずだ。

 それが目覚め始めている、とアザムクイドは言った。

 イバライガーたちは、未来の記憶を取り戻し始めているらしい。それが鍵となったのだろう。
 アザムクイドは、イバライガーRの状態を探るため、幾度もゴーストを差し向けた。戦わせ、奴の中の何かを刺激し続けた。
 そして今、Rはついに意識を失い、混沌の目覚めは確実になった。

 今のイバライガーRは、イバライガーとジャークの間を揺れ動く振り子だ。
 かろうじてポジティブの側にとどまっているが、そのバランスが崩れ始めている。

 ならば、振り子をこちら側に倒してやればいい。
 それだけで奴の中のポジティブとネガティブが相転移し、ジャークエネルギーのインフレーションを起こすはずだ。
 そして世界は終わる。
 人間たち……シンやワカナも消える。

 身体の奥が疼いた。

 まだ、そこにいるのかい、ナツミ?
 もう遅い。あの人間たちは消える。お前が私の中でどれほど抵抗しようとも、お前以外の全ては消える。
 それまでは、そこにいるがいい。私に逆らい続けたことを後悔するがいい。お前が一番見たくないものを、私の目を通して焼き付けるがいい。
 そのときに、その絶望を食らってやろう。

 楽しみだよ。
 もうすぐ、熟してドロドロになったお前を食らうことができるのだから。

 


 シンたちが戻ってきたのを知ると、ワカナは席を蹴って立ち上がった。
 眠ったままのRは、ガールや博士たちに任せるしかない。ここで見ていても何もできないのだ。

 ドアを開け、通路を歩く。
 TDFの隊員たちがウロチョロしている。ったく、ムカつく。
 突然押し掛けてきてナニ? 冗談じゃない。

 ロビーを抜けて、外に出た。
 大型トラックが何台も止まっていて、資材を下ろしている。どうやら、別に仮設オフィス的なものを建てるつもりらしい。
 宿舎らしいものが、あっという間に組み立てられている。同様の資材が、他にもいくつか見える。

 またムカムカしてきた。
 ナニコレ? これじゃまるで接収じゃない? どうなってんのよ!?

 マイクロバスに偽装したTDFの指揮車が、ロビー前に停まった。
 アケノが降りてくる。その後ろに、シンとソウマが続いているのを見て、ワカナはさらにムカついた。
 なんで部下みたいに付き従ってんのよ!

「ちょっとアンタっ! これ、一体どういうつもり!? 急に大勢でやってきてナニ勝手なことやってんのよっ!?」
 ワカナは仁王立ちで立ちふさがった。
 納得いく答えを聞くまでは、絶対にここを通さない。いや、納得するつもりはない。
 それでもアケノは気にしたふうもなく、苦笑している。
 まるで駄々っ子を宥めるような顔だ。何なのよ。子供みたいなのはソッチじゃん!

「ま~ま~。基地の中は今まで通り、そっちで使っていいんだからさ。こっちも時々は使わせてもらうけど、そんなに邪魔はしないよ。今まで通りにジャークやイバライガーの研究は続けてもらいたいし、PIASの基地は別にあるしね~~」
「そんならソッチにいればいいじゃん! 何で私たちの基地に来るのよ!?」
「え~~、そういう言い方は心外だな~。ここだってTDFの施設の1つなんだよ。君たちに貸していただけで、所有者はこっち」
「そ、そうだけど……でも、私たちには干渉しないっていう約束だったでしょ!?」

 ワカナは、シンをちらっと見た。困ったような顔でうつむいている。
 何なの? なんで黙ってんのよ!?

「あ~、確かにシン君が、上のほうと話し合って決めたことだったよね~。でも……」
 アケノが、視線を逸らした。ワカナの背後。

「……済まない、ワカナ。だが、やむを得なかったのだ……」

 ぎょっとして振り返った。
 初代イバライガー。まさか、あなたが呼んだ!?

「……そういうこと。まぁ初代イバライガーの要請がなかったとしても、遅かれ早かれ、こうなったとは思うんだけどね。表向きとはいえ、君たちは私の部下のはずだし……」

 アケノの声が、遠く聞こえる。
 イバライガー。なぜ私たちに黙って、こんなことを? 一体……何が起こってるの!?

 


 シンたちが建物の中に消えていくのを、ソウマはPIASの整備をしながら見送った。
 今の状況は、自分も予測していなかったことだ。隊長は想定していたようだが、それが今日だとは考えていなかったはずだ。

 なぜなら、初代イバライガーからの通信があったのは、ついさっきだからだ。

 イバライガーRが倒れた直後に、厳重にセキュリティが施されているはずの隊長のスマートフォンに直接通信で割り込んできた。
 会話は、1分にも満たなかった。どんな会話があったのかは、わからない。

 だが隊長は、スマートフォンをしまうと、即座に命令を下した。
 用意し得る最大装備でイバライガーたちの基地へ急行せよ。そのまま現地に駐留できる態勢を整えろ。
 ソウマには、新型PIASでの出動が指示された。任務はイバライガーRの救出とジャークゴーストの排除だ。

 今のところ作戦は予定通りに推移している。
 恐らく、当分の間は駐留することになるだろう。事実上の接収といっていい。

 シンたちは、これから今後について相談するのだろう。
 一悶着、あるだろうな。
 シンもワカナも、初代イバライガーを信用しきっていた。それが無断で、裏切りと言ってもいい行動をしたのだ。あの二人にとってはショックだろう。
 だが、突然の展開とはいえ、自分にとっては都合がいい。

 視線を、PIASに戻した。
 PIAS-EXと呼ばれる新型で、外見はほとんど変わりない。装着した感じも以前と大差ない。

 大きな違いは、このPIASが「二人乗り」だということだ。
 スーツに入るのは自分だけで、そのまま従来通りに運用することもできるが、装着者だけではなく、外部のもう一人ともシンクロしているのだ。

 シンクロといっても、意識を共有するといったことではない。
 外部からも遠隔操縦できるが、基本的には装着者自身がメインパイロットだ。
 つまりフォワード=装着者とバックアップ=指揮官という、ごく標準的な運用形態に過ぎない。

 だが、PIAS-EXのバックアップは、ただのコマンダーではない。
 イバライガーを模して開発されたPIASの動力や各種武装には、感情エネルギー=エモーション・ポジティブが使われている。
 MCB弾など予めエモーションを充填しておけるものと補助電力を除くと、装着者自身がエモーションの供給源であり、その質と量はPIASの性能に大きく影響する。

 だから、その供給源を2つにする。
 システムに、バックアップが持つ『擬似コア』をPIAS自身だと錯覚させ、パイロットとバックアップ両方のエモーションを取り込み、共鳴させ、増幅する。詳しいことはわからないが、イバライガーブラックが使うオーバーブーストと同じ原理らしい。

 このシステムのメリットは、パワーアップというだけではない。
 以前のように、ジャークに乗っ取られる可能性が極めて低いのだ。

 ジャークは、生体にしか取り憑けない。それも恐怖や憎しみなど、ネガティブな感情を持っているときだけだ。
 そうした感情と融合し、ポジティブを打ち消し、身体を乗っ取り、変異させる。

 だが、PIAS-EXの場合は、エモーション・ポジティブが外部からも供給されている。共鳴によって強化もされている。
 本体のエモーションに耐えてパイロットに取り憑けたとしても、ポジティブエネルギーは消えない。そこに留まれば対消滅するしかない。
 パイロットとバックアップを同時に汚染しない限り、PIAS-EXをジャーク化することはできない。
 まして、現在のバックアップは、隊長のアケノ自身だ。戦闘力も精神力も、並ではない。

 もっとも、それは一時的なことだ。
 彼女がパイロットにならなかったのは、隊長として全体の指揮を執らなければならないからだが、それ以前に、体型が合わなかったことも大きい。

 現在のPIAS-EXは、試作品だ。以前のPIASをベースに急ごしらえで改造したものだ。
 汎用機だから標準的な大人の体型であればフィッティングするように調整できるのだが、隊長の体型は標準的でなさすぎたのだ。

 ただし、自分自身での運用も考えているらしく、PIAS量産化のついでに彼女専用スーツの準備も進められている。隊長のバックアップを受けられるのは、そう長くはないはずだ。
 その間に、できるだけPIAS-EXを自分のモノにしなくては。

 PIAS-EXは、受領直後に稼働テストを行っている。
 最初にPIAS実戦テストを行ったときと同じ場所だったが、今回は模擬戦ではなく、単なる稼働実験だった。

 使ってみて、すぐに理由がわかった。
 模擬戦など、無理だ。威力がありすぎる。
 出力をセーブすることはできるはずだが、まだ加減がわからない。人間相手なら、どんな防御をしていたとしても殺してしまうだろう。

 隊長のエモーションが流れ込んでくるのを感じる。それが自分のエモーションと共鳴しあって、何倍にも増幅される。一人で使っていた時とは、パワーも、スピードも比べものにならない。間違いなく、イバライガーたちと同等だ。
 これなら、四天王にも勝てる。

 ……とは思わなかった。

 奴らの力は、未知数だ。イバライガーでさえ勝てるかどうか、わからない。
 いや、未来の歴史とやらでは、勝てなかったのだ。
 同等では、足りない。このPIAS-EXに眠っている力を、もっと引き出せるようにならなくては。
 あのときのシンのように。

 ソウマは、PIAS-EXの各部を点検しながら、ベルトを見つめた。
 エキスポ・ダイナモ。
 相変わらず機能しない。原因も不明のままだ。

 シンたちの話によれば、エキスポ・ダイナモは本来、エモーションの力を抑えるためのものだという。
 暴発しやすい感情というエネルギーを制御し、身体への負荷を抑えるためのシステムとして開発されたのだと。

 だが、それなら、これが動かなくても威力には影響しないはずだ。
 事実、未来でシンがイバライガーになった当初は、エキスポ・ダイナモなどなかったという。

 にもかかわらず、PIASはエモーションの力を十分に引き出せていない。
 そして、シンが使ったときにはエキスポ・ダイナモは輝き、わずかな時間ではあったが、単独でイバライガーたちに匹敵する力を発揮したのだ。

 エキスポ・ダイナモが機能しないことと、エモーションの力は別なことなのかもしれない。
 エキスポ・ダイナモがエモーションの力を引き出すのではなく、エモーションを使える者が先なのではないのか。
 だとすれば、俺がPIASを使っている限り、全ての力を引き出すのは不可能だ。

 ルメージョは言った。
 エモーションに認められなければならない、と。
 意味は、今もわからない。
 わかっていることは、俺は認められていないということだ。エモーションは俺を受け入れない。

 シンに使わせれば、動くのだろう。
 だが、それは俺が認めない。奴らを倒すのは、俺たちだ。シンでもイバライガーでもない。イレギュラーたちに頼って勝ったところで、根本的な解決にはならない。不安も危険も解消されない。敵がジャークからイバライガーに変わるだけだ。

 エモーションに認められなくても、PIAS-EXはイバライガーに匹敵する力に届きつつある。これからも、さらに強化できる可能性はある。
 ならば、俺にもやれるはずだ。
 エモーションなど、いらない。人の力だけで、俺の力で、奴らを必ず超えてやる。

 


「きゃ~~、やっぱりあった~~~!!」
 冷凍庫からイチゴ味のソフトクリームを取り出したアケノが、はしゃいでいる。

「おい……」
「あ~、君は……ゴーマンくんだっけ?」
「マーゴンだよ!! ていうか、何でウチの冷凍庫の中身知ってんだよ!?」
「甘いね~~。君たちは全員、今でも最重要監視対象なんだよ? 外出記録、物品の購入記録、さらに、ここでの生活のアレコレまで全部キッチリ詳細にチェックしてんの。タダでこんだけの場所使ってんだから、そのくらい当然でしょ」
「でも、そのソフトクリームはボクが買ったもんだぞ!!」
「そのお金もTDFの支給。そんでアタシはその隊長。だから、ここにあるものは全部アタシのもの。文句言うとお小遣い禁止にするよ?」
「お、おのれぇええ……子供のくせにいいい……」

 さすがのマーゴンも、アケノが外見通りの年齢じゃないことくらいは、わかっている。
 それでも、他に何も言い返せなかったのだろう。相手は軍隊といってもいい規模の部隊を引き連れてきているのだ。

「さて、それじゃ今の状況についての話をしよっか」
 アケノは、イチゴ味を舐めながら腰を下ろした。大事な話が始まるようには全く見えない。

「ちょっと待ってよ。なんでアンタが立ち会ってんの? 私たちは初代イバライガーの話を聞くつもりなんだけど?」
 ワカナがツッコんだ。まだムカついているらしい。
「それでいいよ。でも、アタシも同席はさせてもらう。邪魔はしないつもりだから気にせず続けてね~~」
「いや、だから……!!」
「もういいよ、ワカナ。このままで話しましょ。っていうか隠したって無駄らしいし……」
 イバガールになだめられたワカナが、ブスッとしたまま座る。

 ようやく静かになった休憩室内を、シンは見回した。
 イバライガーR以外の全員が集まっている。

 Rは、今も原因不明の昏睡から目覚めないままだが、カオリがモニタで監視しているし、何かの反応があればイバライガー同士はすぐにわかる。
 シンは一度深呼吸してから、口を開いた。

「……今、外にいるTDFの部隊は、初代が呼んだものらしい。だが、そのことについて訊く前に、俺がアケノやソウマから聞いたことを話しておく。まず全員の知ってることを同じにしておいたほうがいいと思うからな」
「いいねぇ、シン君。リーダーっぽいよ。アタシの部下に欲しいくらい!」
「ちょっと! 邪魔しないんじゃなかったの!?」
「あ~、はいはい」

「……まず、Rたちを助けた新型PIASのことだ。あれはブラックからの情報を元に開発されたものだそうだ。基本的にはオーバーブーストの応用で、アケノとソウマ、二人のエモーションをシンクロさせて能力を向上させているらしい」

 場が、ざわついた。反応は似たようなもので、PIASの性能よりもブラックが関わっていることのほうに驚いた者が多いようだ。

「……なるほど……ブラックはかなり前からRに異変が起こることを予想していた、ということね……」
 エドサキ博士が、つぶやいた。
「どういうことです?」
 カオリがキョトンとしている。

「あのイバライガーブラックが、何の理由もなくTDFにデータ提供するはずがないからよ。つまり何らかのことを予想して、PIASを強化しておく必要があると判断したはず。ブラック自身がTDFと組むとは思えないから、それは私たちをカバーするため。私たちが戦力ダウンするか、今までの戦力では乗り切れない事態が起こると考えてのこと。その準備が整った時期に、Rの異変。あまりにもタイミングがよすぎる。全てブラックの筋書きと思ったほうが自然よ」

「すごい、博士! 名探偵っぽい!!」
「推理ものとしては、Rが倒れたのが密室じゃないのが惜しいよな~~」
「殺人事件じゃないし縁起でもないし、余計なボケ入れなくていいから!!」

「……とにかく、今の状況の発端にはブラックが関わってる。ということは、また『未来の記憶』絡みだろう。かつてはRと一体で、同じ体験をしているブラックだからこそ気づいた何か。それが全ての鍵だと思う。初代が突然TDFを呼び込んだことも、な……」

 言って、シンは初代イバライガーを見つめた。
 しばらく初代は動かなかったが、何か踏ん切りをつけるように語り始めた。

「……ブラックのことは知らなかったが、ほとんどはシンやエドサキ博士の推理どおりだ。Rは、とても危険な状態だと思う。R自身にとっても危険だが、それ以上に大きな災厄を抱えていると私は判断した……」

「Rが……災厄……?」
 イバガールの声だ。ミニライガーたちにも緊張が走った。
 ミニガールは、ガールの手を握りしめている。

「……みんなも、最近のRの様子がおかしいことには気づいていただろう? Rは誰にも言ってなかったようだが、彼からの信号が時々、途切れる。それが日ごとに増えていく」
「そうです、今日もでした。そして、とうとう……」
 ミニRが立ち上がった。彼はRのバックアップだ。一緒にいることも多い。特に強く感じていただろう。

「その理由を、私は考えた。恐らく異変の始まりは、ガールの負傷とミニガールの誕生。そして私が未来の記憶を語った直後だろう。つまり、Rが記憶を取り戻し始めたことが原因だ」
「でも、それなら私やブラックだって同じじゃないの? ブラックは最初から覚えてたから別としても、私はRと同じだよ。ミニちゃんが生まれる前から『もう一人のワカナ』の声が聞こえるようになってきてたんだから」

「いや、この現象はRだけのはずだ。ソレが潜んでいる可能性があるのはRのボディだけだからな……」

 ソレ? 潜んでいる? 何のことだ?

「当ててみせようか?」
 全員が考え込もうとしたとき、アケノが口を開いた。

「イバライガーRの中に潜んでいる何か。それはたぶん、4人目の……最後のジャーク四天王」

 


「なんだって!?」
「そんなバカな!?」
「そうだよ! Rに……イバライガーにジャークが……それもよりによって四天王が取り憑いてるだなんて、そんなことはあり得ないよっ!!」

 全員が騒ぎ出したが、アケノは応じない。
 興奮が収まるまで、放っておくつもりなのだろう。見た目は子供でも、やはり大人だ。

「待ってくれ、みんな、落ち着け! ……アケノ隊長。なぜ、そう思うんだ?」

「言ったでしょ、君たちのことは詳細にチェックしているって」
 声が、低い。さっきまでの軽口とは違う。気配もだ。まるで別人。これが本当のアケノか。

「……報告があった『未来の記憶』に関しても、我々は独自に検討している。特に、最後の戦い。降り注ぐ核ミサイルと巨大なジャーク。そして、それに匹敵するハイパー。世界を覆うほどの白と黒の混沌の渦……」

 その光景は、シンも想像した。だが、イメージしきれない。
 まさに黙示録のような光景だっただろうと思うだけで、どんな想像も及ばないとしか思えず、いつもそこで思考停止してしまうのだ。

「この話の証言者は、初代イバライガーだけ。つまり証拠のない伝聞情報でしかない。そのまま全てを鵜呑みには出来ない。けれどイバライガーが実在している以上、否定もできない。少なくとも、そういうことが今後起こる可能性があると考えざるを得ない」

「でも……ワカナが……未来のワカナが外に出たときには、何もなかったんでしょ? 核ミサイルもジャークも消えていたって。放射能すらなかったって。だから、もしも同じことが起こっても、イバライガーなら止められるはずよ。いえ、止めてみせるわよ!!」
「問題はそこだ、イバガール」
 アケノが、ガールを睨んだ。ガールの動きが止まる。
 あのガールを硬直させるとは。

「いいか。何もないはずがない。それほどのエネルギーが消えるなど、物理的にあり得ない。エネルギーの全ては、そこにあったはずだ。消えたのではなく、見えなかっただけのはずだ」

 ……そうか。そういうことか。

 ようやく気づいた。博士たちとワカナも、ハッとしている。
 初代の語った内容の凄まじさに圧倒されて、大事なことを見落としていた。

 アケノの言う通りだ。消えるはずがない。ソレはあった。
 そして、今もある。
 Rの中に。

「……莫大なエネルギーが一点に凝縮し、裏返る。ビッグバンを逆再生したようなもの……というわけか……」
「そうね……あくまでも仮説だし、そんなことが起こり得るのかどうかわからないけれど……でも、そう考えれば辻褄は合うわね……」
「何十発もの核ミサイル、ハイパー、それにジャーク。その全部が1つの点になって、今もRの中に……」
「正しくは、Rの中というよりも、Rという存在の向こう側……別の時空に、でしょうね。それに、取り込んだそのままではないはず。量子的な存在になって、今では別なものに変質していると考えたほうが……」

 ゴゼンヤマ博士とエドサキ博士が、討論を始めている。
 だが、今は理屈はどうでもいい。

「イバライガーRの異変の原因が、本当に4人目の四天王によるものかどうかはわからない。けれど取り込まれたエネルギー量から考えると、四天王……いや、それ以上の脅威だろうことは予想できる。だから我々はここに来た。TDFにどれほどの犠牲が出ようと、イバライガーRをジャークに渡すわけにはいかない」

 アケノの声が聞こえた。
 確かに、それが最重要だ。それで初代はTDFを呼び込んだのか。
 ブラックも、そのためにTDFに協力したのか。

 初代イバライガーを見つめた。
 想いが伝わってくる。話さなくても、わかる。彼はRだけではなく、みんなを案じたのだ。特に、俺とワカナを。
 未来で救えなかった俺たちを、今度こそ守る。彼には、その思いが強い。

 ワカナが初代に歩み寄り、手を握った。同じように感じたのだろう。

「さっきは……ごめん、イバライガー。私、驚いたりしちゃって……。あなたはRの異変の原因に気づいたんだね。それでTDFを……」

「私こそ勝手なことをして済まない。相談すべきだとは思ったが、Rが倒れたことを察知したとき、私は、これまでのジャークの行動の真意に気づいた。一刻を争う危険が迫っていると考えざるを得なかった……」

「ジャークの真意?」

「ああ。以前にダマクラカスンは、エネルギーを使い果たして行動不能になったRに止めを刺さずに消えた。ここ最近の頻繁なゴースト出現も、襲撃というよりRとジャークを接触させることが目的だったように思える。奴らは知っていたんだ。アザムクイドが、私とRを利用して時空の狭間から出現したとき……Rの中に潜んだときに気づいたんだ。Rの中にあるものに」

「だからそれを……目覚めさせようと……?」

「放っておいても、いつかは同じことが起きただろうが……Rの中にはハイパーの力も取り込まれていたはずだ。つまりポジティブとネガティブが拮抗し、どちらでもない状態になっていた。どちらに目覚めるか、わからない。それでジャークは……」

 


「……そう。刺激させてもらったのさ。イバライガーRをこちら側に引き寄せるためにね」


 全員の頭の中に、声が響いた。
 ルメージョ!?
 いや、それだけじゃない。この感じは……!

 カオリの膝で眠っていた『ねぎ』が、唸り声を上げ、初代、ガール、ミニR、ミニガール、ミニライガーたちが、同時に立ち上がった。
 少し遅れて、アラームが鳴り響く。

「ジャ……ジャーク反応です!! それも……こんな数……! この基地の周辺に溢れて……一斉に向かってきてる……!!」

 アケノが、ソフトクリームのコーンを口の中に放り込んで、立ち上がった。
「……予測はしてたけど、とうとう始まったね。アタシたちは、外で迎え撃つ。シン君たちは、イバライガーRを守って! 絶対に、ジャークに渡すわけにはいかない!」

 ガールたちが、駆け出していく。
 アケノは、素早くインカムを出して、部隊に指示を始めていた。

「各隊員は、対ジャーク仕様。MCB弾装填。NPL散布。エモーション・ポジティブで結界を張れ!! いいか、これが決戦だと思え!!」

 決戦。

 アケノの言葉が、シンの脳裏を駆け巡った。
 いきなりか。事情を知ったばかりなのに。
 まだ何の準備もできていないのに。
 

 

ED(エンディング)

「シン! NPL防壁を展開して!!」
 シンたちがコントロールルームに駆け込んだ途端、スピーカーからアケノの声が響いた。

「で、でも外にはジャークが溢れているんだぞ!? 防壁を起こしたら出動できない! それに、あの防壁はここにジャークを入れないためじゃない。むしろ、ここが襲われたときに周辺に被害を及ぼさないための……」
「うるさいっ!! 黙って命令に従いなさいっ!! 嫌ならこっちで強制起動させる!!」
「くっ……!」

「……シンひゃん……ひははないふぇふよ。やひまふ……ひほうひまふ……」
 早くも食べ物を咥え込んだカオリが、今まで一度も動かしたことがないスイッチを操作した。地響きが伝わってきて、ようやく「仕方ないですよ、防壁を起動します」と言ったらしいことがわかった。

 基地エリアを囲むように、地中に設置されていた防壁がせり上がってくる。
 分厚い装甲だが、それ以上に表面にコーティングしたNPLが対ジャークには有効なはずだ。エモーション・ポジティブを流せば、弱いゴーストなら触れただけで蒸発するだろう。

 防壁からの振動を感じながら、シンは外の世界と切り離されていくような気分になった。
 これでいいのか。本当にいいのか。

 再び、マイクを握った。
「……アケノ隊長……。防壁を出して、どうする気だ? 外の……周囲で暮らしている人たちが襲われたらどうするんだ?」
「ジャークの反応は明らかに、ここを目指している。無差別なテロの動きじゃない。気にするな」
「け、けど……被害が出ないとは思えない! 目的地がここでも人を見たらゴーストは襲ってくるはずだ! 知っているだろう!?」

 言いながらシンは、自分が期待している言葉が返ってこないだろうことに気づいてた。
 そして、その通りの声が聞こえた。

「……ある程度の犠牲は、やむを得ない……」
「アケノ! あんたぁあっ!!」
 ワカナが叫ぶ。だが、それよりも遥かに強い声が響いた。

「うろたえるな! 今はイバライガーRを奴らに渡さないことが最重要だ!! Rの中にあるという『力』をジャークに奪われれば、周辺の被害どころじゃない! お前たちは世界を守るのではなかったのか!! 一時の感情で世界を滅ぼすつもりかっ!!」

 シンは、硬直した。ワカナも、他の者も同じだ。
 世界を救うために、人々を見捨てる。それしかないのか。それでいいのか。

 振動を感じなくなった。防壁の展開が終わったのだ。
 世界と断絶された。
 そしてまもなく、戦いが始まる。

 人々を救うためではなく、自分たちが生き延びるためだけの戦いが。

 

次回予告

■第28話:禁断のイバライガーX /イバライガーX登場、クロノ・ダイヴァー発動
Rの身体の中には、未来での戦いの際に取り込んだ巨大な力が眠っていた。その秘密に気づき、Rを奪うべく基地に押し寄せるジャークの大軍団。動けないRに代わって自ら戦おうとしたシンとワカナだったが、その身を案じる初代によって幽閉されてしまう。君たちだけは生き延びろ。だが仲間に危機が迫った時、シンの意識がNPLに干渉し……!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

(次回へつづく→)

 


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