小説版イバライガー/第25話:未来の想い出:3(後半)

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Bパート

 時が、流れた。

 誰もいない。

 ワカナの時間が止まってから、どれほどの時が過ぎたのか。

 私は、受け取った。
 人の願い。人の悲しみ。人の希望。

 つなぎたい。託されたものを、次の世界へ。
 ワカナの望みを叶えたい。

 もう、それだけだ。私には、それしかない。

 だが、未だに起動できない。
 時が経つほどに、感情エネルギーの充填は進まなくなっている。人々が死んでいく。希望が失われていく。

 あと少し。誰か一人でもいい。希望を、勇気を、祈りを。
 それでゲージが動く。起動できる。

 私に……イバライガーに、みんなの力を……。

 


 暗黒。永遠とも思える静寂。
 全てが息絶えた世界。

 泥の中に、少年が埋もれていた。顔は見えない。
 彼の時間も、まもなく尽きようとしている。
 少年は、最後の力で泥を握りしめた。
 それしか、できない。

 涙が、ひとしずくの輝きが、彼の命とともに、地中に吸い込まれていった。

 


 その涙に応えるように、エキスポ・ダイナモが咆哮した。
 届いた。最後の想い。青い輝きが、迸る。

 手を見た。動く。動いている。

 だが、この手で救うべき人は、もういない。
 何もかもが、遅すぎた。ワカナやシンが生きた世界は、すでにない。

 叫んだ。
 私が、私となって初めて発した声は、応える者のない、絶望の叫びだった。

 


「……その後、私は、さらに長い時をかけて、粒子加速器を稼働させるエネルギーを蓄え、独自に研究とテストを重ね、時空転移技術を生み出した。そして……」
「この世界へ……私たちの元へ、やってきた……」
「そうだ。その先は、君たちが知っている通り……だ……」

 全員が沈黙した。

 イバライガーたちの生まれた未来が、滅んでしまった世界だということは、知っていた。
 どんな世界だったのか、どんな歴史だったのかは、何度も想像した。
 想像のいくつかは当たっていて、その意味では意外な話ではない。

 だが、ただの想像と、実際に知ってしまうことの重さは、まるで違う。

 重たい。あまりにも、重たい。
 これを受け止めなくてはならないのか。背負っていかなければならないのか。

 そう思ったとたん、シンはハッとして顔を上げた。

 初代イバライガー。
 そしてイバライガーブラック。

 彼らは、この記憶を背負い続けていたのだ。今日まで、誰にも明かさずに、託されたものを抱え続けていた。

 二度と、こんな悲劇は繰り返させない。
 そのために初代は戦い、ブラックは非情を貫いてきたのだ。

 落ち込んでいる場合か。
 前を見ろ。未来をつかめ。聞かされた物語とは違う、俺たちの未来を。

 


「ミニブラ、行くぞ」
 イバライガーブラックが立ち上がった。

「ええっ!? 帰っちゃうのかよ!? マジか!?」
「話は聞いた。俺が知りたかったことも、わかった。もう用はない」
「ちえっ、オレはもうちょっとココに居たかったんだけどな~~」
「好きにしろ」
「ま、待てよ、付き合うって。じゃあミニガール、ねぎ、またなっ!」

 歩き出したブラックを追ってが駆け出したミニブラックが、その背中にぶつかった。
「なんだよっ!? いきなり止まるなよっ!」
 ブラックは振り返らず、ドアの前で静止している。

「R……。お前は、あのとき……あの閃光の中で見たものを……覚えているか?」
「いや……わからない。ただ……話を聞いたことで、記憶を隠していたモヤが薄らぎ始めているような感じは、ある……」
「そうか。なら……『そのとき』が来たら、また会おう。それまでは……ミニガール、お前に任せる」

 言い終えるとともに、ブラックの気配は消えた。
 リノリウムの床を叩く足音が、遠く聞こえる。
 それを追いかける、ミニブラックの声も遠ざかっていった。

 


「……任せるって……なんのこと??」
 全員の視線が、ミニガールに集中した。
「全然、わかんないよぉ。ブラックはパパだけど……でも私は生まれたばかりで、ほとんど話もしてないんだもん……」
「じゃあ、R……そのとき、って言ってたけど……?」
 今度は、Rに視線が集中する。だがRも、首を振った。

「……わからない。私自身には、自覚はない。記憶も。あのときの私はブラックだった。戦ったのは私のボディだったとしても、実際に戦っていたのは、未来のシンとブラックだ。だから……」
「そのブラックが、何かを見た、気づいたということか……」
「ブラックが覚えている未来の記憶は、その辺りから……のはずだもんね……」
 ワカナの言葉に、全員がうなずいた。

 イバライガーブラックという人格が独立したのは、間違いなく「最後の戦い」のときだ。
 戦いの中で、修羅となった。リミッターが外れて、いわゆる「キレた状態」になったのだろう。そのときにブラックという人格が表に出てきた。
 未来のワカナは、Rやガールにプロテクトを施して戦いの記憶を消そうとしたが、もう1つの、全く別な人格があったことには気づかなかった。だから『R』は封印されても『ブラック』は封印されなかった。
 ブラックだけが未来の記憶を保持していたのは、そういうことだったのか。

「ルメージョ……ううん、ナツミはそれに気づいてたのね……。彼女と私は、二人ともシンを見ていたけど……それぞれ違うシンを見てたんだ……」
「そう……なんだろうな……。俺にもピンと来ねぇけど……」
「間違いないよ。ナツミはシンの中の『ブラック』に気づいてた。むしろ、そっちに惹かれてのかも。だから……」

「その意識がルメージョを止めていた……というわふぇにゃ……」
 シンの言葉が終わらないうちに、ワカナがほっぺたをむにゅ~っと引っ張った。
「にゃ、にゃにをひゅる!?」
 ワカナは無視して、口の中を覗き込む。
「もぉ! この中に本当に『ブラック』がいるわけ!? 悔しいなぁ、私全然感じなかったのに! アンタ私に隠してたわけ!?」
「隠しても勝手に家探しするくせにナニ言ってんだ! 俺は俺! ブラックでもRでもねぇよっ!! そんでお前もガールじゃねぇ!!」
「そ、そりゃそうだけど……」
「未来で初代が言ってただろ。クローンでも同じにはならないって。最初が同じでも二つに分かれたその瞬間から、別々になっていくんだよ。生きること、暮らすこと。その1つ1つによって常に変わり続けていく。だから俺たちは別々なんだ。未来の自分たちもな」

「その通りっ!」
 いつものタイミングで、イバガールが叫んだ。

「気にしなくていいよ、ワカナっ! 私たちは今、ここにいる! だから悲しいことは、もう起こらない!! 絶対に起こさせない!! 悲しかったことは過去で、実は未来で……ええっと何だかややこしいけど、とにかく、もう今は悲しくないの!! 気にしなくていいのっ!!」

「そうですよ、ワカナさんっ!!」
「うん、お姉ちゃんが辛いときは癒してあげるから!!」
「ボクたちも、一緒に遊ぶから!!」

 ずっと黙っていたミニR、ミニガール、ミニライガーたちが、集まってきた。
 マーゴンが麦茶を注ぎ、カオリが、新しく封を開けたあんまんを差し出している。またしても、すでに最後の1個だけど。
 みんなに囲まれたワカナは、笑いながら涙を拭った。

 そうだ。気にしない……というのは難しいけど、みんなの言う通りだ。
 ワカナは、真っ暗な廊下を見つめた。
 今の私も、未来の私も、ブラックに気づいていなかった。それでよかったのだ。
 だからこそ、ブラックはこの世界に現れた。

 これまでの戦いを思い返すだけでも、ブラックという存在は大きい。
 もし、ブラックがいなかったら、ナツミは未来と同じように、完全にルメージョになりきってしまっていただろう。
 初代イバライガーを特異点から救い出すこともできなかった。
 ミニガールを生み出すこともできなかった。

 誰も予測できなかった奇跡。絶望の戦いが生み出したイレギュラー。
 それが、イバライガーブラック。
 Rとはまるで違う、シンの別の可能性。

「ブラックのことは、私もこの時代に来るまで気づかなかった。だが奴は……奴こそが、未来のシンの意思をもっとも強く受け継いでいるのかもしれん……」
「それが、本当にいいことかどうかは、わからねぇけどな……」
 初代と、シンのつぶやきが聞こえた。

「アイツの厳しさ、覚悟の大きさはわかった。でも、だからこそ、それに縛られちまってるのかも知れねぇ」

 そうかもしれない。

 強い心。折れない心。
 それは硬直してしまっているとも言えるのかもしれない。

 ブラックは、今も「あの日」の戦いを続けているのだ。時空を越えてなお「あの日」に囚われているのかもしれない。
 それがブラックの強さなのだとしたら、なんて悲しい強さなんだろう。

 肩を、叩かれた。またしてもガールだ。

「気にしなくても大丈夫だよ。ブラックはブラック。ああいう奴なの。これからも、態度悪くて協調性ゼロで、いつもオイシイとこを持ってっちゃうズルいキャラのまんまなの。それでいいと思うよ」
「お姉ちゃん、的確すぎるよ~~」
 ミニガールがツッコんだ。
「ああ、ごめんごめん。あれでもミニちゃんのパパだもんね~~」
 答えて、イバガールは一瞬だけ硬直した。
 どこかから、ブラックの「パパじゃねぇ!!」が来るかと思ったらしい。

 ガールのギクシャクした動きに、ワカナはちょっと吹き出した。シンも、博士たちも、マーゴンやカオリも笑ってる。

 やっと笑えた。
 未来の話を聞いてから固まってしまっていた身体と心が、少しほぐれたような気分。
 やっぱり、笑うっていいな。
 未来の自分たちが悲しかったのなら、ブラックがその悲しみを背負っているのなら、なおさら私たちは笑わなきゃ。
 イバガールは、そう言っているのだ。たぶん、彼女に託された未来の私も。

 


 場が和んで、雑談が始まった。いつものノリだ。
 シン、R、初代は、みんなから離れて、その光景を眺めていた。

「初代イバライガー。これが、あなたが求めていた光景なのでしょう? この笑顔に出会うために、守るために、あなたは時を超えた。その想い。それこそがあなたの……いや、イバライガーの強さなんですね……」
「その強さは、R、お前の中にもある。お前はシンの心を宿しているが、シン自身ではない。未来でワカナが言ったように、お前はお前なんだ」
「そうだ、R。俺たちは双子の兄弟みたいなもんさ。いや、三つ子か。ま、何にしても今まで通りにやっていこうぜ」

「いや、シンは、今までよりは少し慎重になってくれ。ワカナもだ」
 初代イバライガーが、シンに向き直った。

「私は……未来のワカナがあえて封じた記憶を話した……。私を生み、育んでくれた君たちを裏切った……」
「気にするなよ、初代。お前が全てを話したのは……それも、俺やワカナのためだったんだろ?」

「私は……永遠に伏せておくつもりだった。ワカナの望み通りに。だが、君たちは……エモーションに近づきすぎている。私がいない間に、あまりにもエモーションと関わりすぎている。このままでは、未来と同じことが起こりかねない。君がエモーションに憑依される前に私が救ったとはいえ、全く影響を受けなかったというわけでもないはずだ。つまり君には恐らく……」
「……変異するはずだった要素……イバライガーが混じっている……というわけか……」
「君だけじゃない。ワカナも、危ない。シンほどではないにしても、君たちはエモーションに触れ過ぎている。そのことが、君たちにどんな影響を及ぼすかは未知数だ。これ以上、エモーションには関わらないほうがいい……」

 シンは、以前にルメージョが言っていたことを思い出した。

「あなたたちもイバライガーや私たちと同じ、エモーションの申し子なのよ。自分でも気づいていたはずよ。他の人とは違うって。あなたたちは『こちら側』にいるべきなのよ」

「わかった……。出来るだけ気をつけるよ」

 初代も、Rも、答えない。
 だが、出来るだけとしか言いようがないのだ。未来の悲劇を知った今では、なおさらだ。
 この身体がどうなろうと、今聞いた歴史は、絶対に歩ませない。未来の俺も、そう思っていたはずだ。

 


「シン! R! 初代も!! そんなトコでナニ難しい顔してんの? こっちに来なさいよっ!!」
 ガールが手招きしている。

「お前はノーテンキでいいなぁ」
「ハイテクだらけのヒューマロイドをバカみたいに言わないでよ~~。だいたい、未来のワカナが言ってたでしょ、生きろって。それは楽しめってことだよ。彼女たちの分まで、私たちは楽しく元気にならなきゃダメでしょ」

「……そう……だな。難しいことは博士たちに押し付けて、久々にバカになってみるか!」
「よし、そんじゃ未来の次は過去編だ。小学生だった頃のシンがどんだけバカだったか、全てを見届けてきたボクが語ってあげよう!」
「黙れマーゴン! お前だって似たようなモンじゃね~か!!」
「だがボクはお笑いに生きている。柄にもなくヒーロー系になっちゃったキミとは違うのだよ! 恥ずかしい思い出を山ほど作っておいたことは、未来への伏線だったのだ! これぞ神をも欺く時空操作!! うわ~~っはっっはっは!!」
「いばることかぁああああ!!」
「よし、聞かせてもらおうマーゴン。私の知らないシンの物語を!」
「初代! やめろぉおおお!!」

 


 バカになってみた。

 だが、本当はフリだけだ。心から笑えているわけじゃない。
 みんな、そうだ。あまりにも重たい物語を、本当に受け止めるには時間がかかる。
 
 自分たちは、運命を乗り越えていけるのか。
 未来の、もう一人の自分たちから送られたメッセージに、応えられるのか。

 何も、わからない。

 けれど、わかっていることもある。
 この仲間たちだ。

 ワカナ、マーゴン、カオリ、エドサキ博士、ゴゼンヤマ博士。
 R、ガール、初代、ミニR、ミニガール、イエロー、ブルー、グリーン。
 そしてミニブラとブラック。

 さらにナツミ。

 未来にはなかった力が、こんなに集っている。

 俺たちは負けない。
 別の時空の俺たちが夢見た世界を、必ず掴んでみせる。

 

ED(エンディング)

 薄暗い地下室を、わずかな機器の光点のみが照らしている。
 そこは研究室だった。人がいなくなって、どれほどの時が経つのか。

 その朽ち果てた暗闇の中で、蠢く人型がいる。
 人型のモノは、埃がうず高く積もったデスクに近付いていく。

 私たちは、カプセルの中から、それを見ていた。
 カプセルの表面も埃に覆われているため、光学的にはほとんど見えない。いや、光学的な認識機能も含めて、身体のほとんどが停止しているのだ。

 それでも感情が、伝えてくる。
 人型は、一枚のフォトスタンドを愛おしそうに見つめ続け、それから振り返った。

「取り戻す……。あの笑顔を……。本当の未来を……」

 答えられない。想いを感じるだけなのだ。
 周囲に光が溢れた。黒一色だった空間が、一転して白に変わっていく。

 行ってくれ。
 新しい可能性を生み出すために。想いをつなぐために。
 生きるために。

 いってらっしゃい。
 新しい世界から、あなたの声が届くその日まで、私たちはここで待っている。
 そして生まれ変わる。

 私はR。
 私はガール。

 心は、いつか羽ばたく。
 生きる力は、途絶えない。

 

次回予告

■第26話:燃えろ!イバライガーショー!!
全てを知り、未来で朽ちた自分たちの思いを受け止めたシン、ワカナは、新たな覚悟で運命に立ち向かうことを決意する。一方、かつてイバライガーたちに救われた元ジャークの人たちは、密かに集まってジャークの危機とイバライガーの活躍をみんなに知らせるライブショーを計画するの。それに気づいたTDFやイバライガーたちの思惑も交錯し、グダグダのまま、ついに上演の日が。そんなんでショーが成功するのぉ!?
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

 

(次回へつづく→)

 


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