小説版イバライガー/第24話:未来の想い出:2(後半)

2018年7月20日

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Bパート

「ブレイブ……インパクトッ!!」

 引き金を引く。培養したナノパーツに、圧縮したエモーションを込めて撃ち出す砲台だ。射出時の調整によって様々なバリエーションが可能で、イバライガー並みの威力がある。ジャークの侵攻に備えて設置しておいたものだが、この大群相手では心もとない。
 そういえば、子供の頃に観たテレビアニメでも基地の防衛設備は、あまり役に立ってなかったなぁ。バリアがパリンと割れたりしてたっけ。

 それでもゴゼンヤマ博士は、引き金を引き続けた。
 一体でも減らすのだ。奴らがここに到着するまでの時間を、少しでも引き延ばすのだ。
 ワカナとシンが、避難するまで。

「クロノ・スライサー!!」
 スピーカーから、エドサキ博士の声が聞こえた。
 半月状に広がったナノパーツが撃ち出され、数体のジャーク・ゴーストを両断した。

「その技は?」
「ふ、言ってみただけよ。なんとなくね」
「もう少し時間とエネルギーがあれば、もっとマシなものが作れたかもしれないな」
「仕方ないでしょ。もう電力も多くは作れないし、人もいない。私たちだけにしては、よく粘ったと思うわよ」
「君は、もっと早く避難すると思っていたよ。意外に要領の悪いタイプだったんだな」
「そうね。自分でも意外なのよ。ワカナをね……いつの間にか妹みたいに感じていたなんて……」
「妹? 娘じゃなくて?」
「失礼ね、そんな歳じゃないわよ!!」

 言い合いながら、撃ち続ける。かなり倒したはずだ。だが、減ったようには見えない。
 それでも構わない。ほんの少しの時間稼ぎでいいのだ。

 全てが終わるとしても。一瞬でしかないとしても。

 その一瞬を、あの二人に残してやりたい。
 私たちを、人々を守るために戦い続けた二人に、ほんの一瞬の時間をつくってやりたい。

 もう、それだけだ。最後の大人として、やれることはそれだけなのだ。

 数体のジャークが、砲台の外壁に取り付いた。表面にコーティングしたナノパーツのエモーション・ポジティブと反応して、対消滅していく。
 それでもジャークは、次々と押し寄せる。視界が暗くなっていく。

「エドサキ博士。楽しかったよ。研究者として素晴らしい体験ができた。感謝している」
「お互い様よ。エモーションの謎。宇宙の謎。その一端に触れられた。何もせずにいるより、ずっと良かった」

 そうだ。新たな発見の連続だった。
 若者の情熱と共に、それを感じ続けた。悪くない日々だった。

 外壁にヒビが入った。
 あと一発、撃てるかな。
 ゴゼンヤマ博士は、それだけを思った。

 


 火柱が上がった。
 声が、聞こえなくなった。
 博士たちが永遠にいなくなったことを、ワカナは理解した。

 もうシンと二人だけ。それも、あと少し。
 せめて、一緒に。

「ワカ……ナ……」

 声。

「お前……だけは……お前……は……俺……が……」

 握った手が、熱い。シンの周囲が、陽炎のように揺らいでいる。
 これは……イバライガーになるときの……。

 ダメ! もういい! もう何もしなくていい!! 忘れて!! 一緒にいるだけでいいの!! もう他に誰もいないんだよ!!
 私を置いて行かないで! 一人にしないで!!

 爆発音が聞こえた。
 開発室。試作イバライガーのボディがある場所から、蒼い閃光が溢れている。

 まさか!?

 


 カプセルを砕いた。コードを引きちぎる。
 やはり動く。動かせる。

 窓を突き破って、一気に跳んだ。
 眼下の全てが、ジャークで埋まっている。

「エモーションッ……ブレェエエイドッ!!」
 着地すると同時に、パワーを全開にしてなぎ払った。数十体のジャークを一気に切り裂く。
 そのまま、躍り出る。一体も近づかせない。ワカナだけは、何があっても守り抜く。

 いつもと同じだ。動く。
 俺はまだ、やれる。

 


 ワカナは、シンの手を握り続けていた。
 熱い。鼓動も聞こえる。
 でも、シンはここにはいない。

 シンの心は、意識は、今、イバライガーになっている。
 私たちがつくったボディに宿って、戦っている。

 こうなる気がしていた。
 せめて一緒に行けたらいいのに。私の心も、連れて行ってくれればいいのに。

 ワカナは、ベッドから離れて窓に近づいた。

 逃げないよ、私は。
 シンは最後まで戦うんでしょ。
 なら、絶対に勝つ。相手が千体だろうと1万体だろうと、絶対に勝つ。
 それがイバライガーだもん。

 ずっと見ているよ。あんたの姿を。
 私を愛し、守り続けてくれた姿を、最後まで見届ける。
 そして帰ってきたあなたを、抱きしめる。

 


「おぁあああああああああっ!!」
 押し返した。数は多いが、大半はゴーストだ。
 今の自分なら、負けない。

 ブレイブキックで突っ込んだ。一気に数百体を突き抜ける。
 受け止められた。ダマクラカスン。そしてルメージョ。
 出てきたか、四天王。

 爪が、ライブ・プロテクターに食い込んだ。それがなんだ。引き裂かれても、今の俺は止まらない。貴様を撃ち抜くだけだ。
「ブレイブ・インパクト……バァアアアアニングッ!!」
 顔面に拳を叩き込んだ。ダマクラカスンが悲鳴をあげて、吹き飛ぶ。数体のゴーストが巻き込まれて蒸発した。

 その奥から、人間たちが津波のように押し寄せてきた。
 生気のない目。変色した皮膚。ルメージョに操られ、戦闘員と化した者たちの群れだ。
 力は、さほどない。だが、しがみついてくる。噛みつこうとする者もいる。

 まとめて吹き飛ばした瞬間、凄まじい衝撃が来た。
 ルメージョが嗤っている。
 今のは痛みか。数百人分の人々の悲鳴を、苦痛の感情を、そのまま俺にフィードバックさせたというわけか。

 それでも、前に出た。
 今の俺はリミッターを外している。痛みなどで止まりはしない。
 俺は、いつもの俺じゃない。俺の中に眠っていた「もう一人の俺」が目覚めたようだった。

 貴様らを、一体残らず殲滅する。一人も生かして帰さん。
 たとえ、この世界が消えたとしてもだ。

 崩れ落ちたビルの窓に、自分の姿が映った。
 粉塵と返り血にまみれて、真っ黒になっている。これが俺か。構わん。修羅になろうと、俺は貴様らを倒す。この世界を壊した貴様らを、全員道連れにしてやる。

 戦闘員たちを弾き飛ばしながら、駆けた。一人ひとりの悲鳴がぶつかってくる。無駄だ。
 間合いを一気に詰めた。ルメージョのプロテクターが、変形しはじめた。なるほど、それが本当の姿か。だが、遅い。
 両腕のブレイドを展開した。それは、もはやブレイドなどではなく、果てしなく伸びたビームの奔流だった。
 そのまま、肘を回す。ビームが横薙ぎに、全てを斬り払っていく。

 屍の山の中に、女の顔が見えた。
 ルメージョ。いや、ナツミか。
 だが今は、ジャークだ。躊躇しない。
 その顔が、一瞬微笑んだように見えた時、ブレイドは女の身体を貫いていた。
 痙攣する全身から、黒い粒子が吹き出していく。

 唇が、動いた。シン。

 人に戻ったか。もういい。休め。全てを忘れて眠れ。この地獄は、俺が、俺だけが覚えていてやる。

 黒い霧となって、ルメージョは消えた。
 その闇の中に、無数のゴーストたちが折り重なって蠢いている。ダマクラカスンもいる。
 かつてルメージョであったものとゴーストたちが溶け合い、蠢く波となった。人外の声で呻きながら、押し包んでくる。

 跳躍して、突き抜けた。かすかな抵抗と嫌な音が聞こえた。
 地上を覆い尽くす黒い泥濘の中で、ダマクラカスンが吠えた。腕を、掴んでいる。俺の腕だ。
 よかろう。片腕はくれてやる。その腕とともに、消えろダマクラカスン。

 気を、放った。千切れた腕が爆発する。破片となったナノパーツが変形し、無数の刃となってダマクラカスンの身体に突き刺さる。全ての傷口から光が溢れた。体内から、対消滅しているのだ。断末魔の叫びとともに、ダマクラカスンが塵と化していく。

 無数のゴーストが融合した濁流は、まだ蠢いている。
 まだ、いる。

 最後の四天王、アザムクイド。

 濁流が盛り上がり、巨大な貌が浮かび上がった。
 そのまま、立ち上がる。黒く蠢く皮膚を持った数百メートルの怪物。

 その向こうに、光が見えた。
 来たか。核ミサイル。

 だが、そんなものでエモーションを消せると思っているのか。
 今の俺にはわかる。
 エモーションとは、この宇宙そのものだ。
 ちっぽけな核ミサイルごときを何十発撃っても、宇宙を消せるわけがない。

「舐めるな、人間ども!!」

 自らも暗黒に染まったイバライガーが叫んだ。
 全身から、エモーションが吹き出す。そのエネルギー流の中に、アザムクイドに匹敵する巨大な幻影が現れた。

「ハイパー……ブラスト……!!」

 巨人が放った一撃と、黒い奔流がぶつかりあい、世界が白と黒の渦に飲み込まれていく。
 それは、易経における宇宙生成モデル=太極図のような光景だった。

 易に太極あり。これ両儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず。
 陰が極まれば陽が生じ、陽が極まれば陰が生じる。円環は循環し、永遠に続く。

 まさに、その通りのことが起こっていたのかもしれない。

 白と黒はぶつかる度に光を放ち、やがて全てが、光の中へと消えていった。

 


 閃光が消えて、ワカナは身体を起こした。

 核爆発が起こったはずだ。
 でも、生きてる。

 階段を駆け下りた。外に飛び出す。
 病院の周囲だけを残して、何もかもが消えていた。ジャークも、いない。

 ただ一人、粉塵の中に立つ影があった。
 最後の一撃を放った姿のまま、動かない。
 ワカナはそっと近づき、真っ黒に染まった身体を抱いた。

 ワ……カナ……俺……は……

 声が、聞こえた。
 今、抱いている身体が発した声ではない。
 彼が戦い始める前。
 ベッドの上で、発した言葉。

 ……帰ってきてね。私は、待ってる。ずっと、待ってる。

 ああ……帰る……さ……
 新しい世界に……きっと……お前……と……

 その言葉を思い出しながら、ワカナはイバライガーの身体を抱きしめた。

 シンは、帰って来た。帰ってきたんだ。
 今も、ここにいる。
 この身体の中に、いつまでも。

 いつまでも。

 


 カオリが、泣きながら冷蔵庫を開けた。
 肉まんを取り出す。冷たく、固いままだ。それを必死で頬張っている。
 袋を、マーゴンがひったくった。同じように口に突っ込む。涙も鼻水も一緒に。
 ミニライガーたちは、黙って座り込んでいる。涙は流せないが、やはり泣いている。

「やっぱ……キツイな……。薄々、予想はついていたんだけどさ……」

 長い沈黙の後、ようやくシンが口を開いた。
 ワカナは、うつむいたままだ。

「すまん、シン。ワカナ。私は……未来の君たちを守れなかった……」
「ううん、いいの……。辛い話だけど……でも、私は嬉しかった。シンが……最後までシンだったことが。ずっと私を守り続けてくれたことが……」
「そうだ、ワカナ。シンはシンだった。それは俺が保証してやる」
 イバライガーブラックの声だ。

「ありがとう、ブラック。わかったよ、あんたが、いつ生まれたのか。辛い生まれ方だったんだね……」
「気にするな。それに俺は『あのとき』に生まれたわけではあるまい。それ以前からずっといた。自我がなかっただけでな」
「そうだな。ブラックも俺だ。つまり、今の俺の中にもブラックはいる。俺自身が気づいていない、もう1つの人格として。Rもブラックも、最初からずっと俺の中にいたんだ」

「そして、Rの中にもブラックがいて……」
「……ブラックの中にも私がいる、ということだな」
 イバガールとイバライガーRが立ち上がった。
「黙れ。お前のように甘い人格など、俺の中には残っていない」
「もぉ! この意地っ張り!!」

 シンとワカナは、顔を見合わせて笑った。

 こういうときのイバガールは、いつもながら絶妙だ。天性のタイミングで割って入り、一気に空気を変え、緊張を解きほぐし、和ませる。彼女のバックアップシステム=ミニガールが癒し系の能力に特化しているのも、わかる気がする。

 カオリやマーゴンも泣きやんで、電子レンジに肉まんを入れている。ようやく温める気になったようだが、すでに最後の一個だ。

 大きなため息が聞こえた。博士たちだ。
「そうか、私たちは……」

「すみません、博士……。私はあなた方も救えなかった……」
「いやいや、いいんだ。それよりも……」

 ゴゼンヤマ博士が、顔を上げた。紅潮している。
「私がブレイブ・インパクトとは!! いやぁ、一度やってみたいと思ってはいたんだよ。未来の私は実現したのか! 痛快だっただろうなぁ!!」
「え、そこ!?」
 誰かがツッコんだが、興奮気味のゴゼンヤマ博士は気づいていない。
 代わりに、エドサキ博士が答えた。

「人は永遠ではありえない。だから未来で死ぬのは当たり前のこと。何も驚くことじゃないわよ。しかも私たちは、なかなかヒーローらしい最後だったようだし、悪くないわね。もっともワカナを妹のように感じているかというと……う~ん、まだそこまでじゃないんだけど……私の妹にしては猪突猛進すぎると思うし……」
 ワカナが顔を赤くしてムスっとしたのを見て、シンは苦笑した。

 さすがに大人だなぁ。博士たちだってショックだっただろうに、まず第一にムードを切り替える役目を果たしてくれている。ガールが作った空気に合わせて、あえて苦手なズッコケ役を買って出て、みんなの緊張を解きほぐそうとしてくれているのだ。
 未来の俺も、この人たちが支えてくれたから頑張れたんだろう。いい仲間だ。俺たちも捨てたもんじゃない。そういう人々と一緒にいられることは、誇っていいことだ。

「さて、少し気持ちもほぐれてきたようだし……」
「そうね。物語の続きを聞かせてもらうわ。今につながる、最後の部分を……。生き延びたワカナとイバライガー自身のことを……」

 博士たちが促し、初代がうなずいた。
 ワカナは腰を下ろして、初代イバライガーのフェイス・バイザーを見つめた。

 受け止める。
 もう一人の私が、どう生きたか。
 イバライガーたちを通じて、私たちに何を託したか。
 想いを、受け取る。

 それは未来の歴史を知ることよりも、ずっと大事なことだ、とワカナは思った。

 

ED(エンディング)

 写真を飾った。
 私とシン、ナツミ。3人で笑いあっている写真。

 振り返った。殺風景な研究室。
 まだ荷物はある。少しずつ、運び込むしかない。

「よっこらしょ!!」
 ワカナは、わざと声に出した。
 私は、まだ生きている。みんなの想いを託されて。

 生きるだけ、生きてやる。
 それに、ひとりぼっちじゃない。

「すみません、ワカナ。手伝えなくて……」
 声が、聞こえた。まだぎこちないけれど、前よりずっと感情を感じる声だ。

「いいのよ、イバライガー。いつかあなたが起動したら、私の分も全部やってもらうから。それまで貸しよ」

 扉を開けた。外の日差し。太陽は、以前のままだ。

 生きてやる。
 いつかシンたちと再会するまで、私は生きる。

 ナップザックを背負って、ワカナは廃墟となった世界に駆け出した。

 

次回予告

■第25話:未来の想い出:3
遠隔操作でイバライガーを起動させたシンは、修羅と化して戦い抜き、消えていった。一人残ったワカナは、シンの魂を宿したままのイバライガー1号機に祈りを込めてRの刻印を施す。そして時は流れ、世界はジャーク汚染によって崩壊の日を迎えようとしていた。絶望に支配された世界で最後の日々を送るワカナ。それを見つめ続ける初代イバライガーのAI。悲しい未来が、閉じようとしている……
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援……おう……えん……ううっ…………!!

 

(次回へつづく→)

(第23~24話/筆者コメンタリー)

 


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