小説版イバライガー/第24話:未来の想い出:2(前半)

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OP(アバンオープニング)

 土砂降りの雨と、猛烈な水蒸気。
 身体に当たった水滴が、一瞬で蒸発している。体表でライデンフロスト現象が起こり、シンの身体は、薄い膜に覆われたように見えた。
 変身が解かれ、元の姿に戻りつつある。

 いや、違う。
 雨が洗い流しているが、本当は血まみれのはずだ。傷だらけのはずだ。

 直撃を受けた。今までにない強烈な一撃だった。
 シンが、膝をついた。もう立ち上がれないのだろう。

 ワカナは、ヘッド・ディスプレイを投げ捨てた。
 もう見ていられない。自分が行っても何の役にも立たないだろうことはわかっている。
 だが、それはシンも同じだ。いや、今のシンは動くことすらできないはずだ。
 博士たちの制止を振り切って、指揮車のワゴンから飛び出した。

 カンナグールが、シンに近づいていくのが見えた。
 叫んだ。MCB弾を連射しながら走る。
 カンナグールは、止まらない。腕を振り上げた。あの超重量の一撃を受ければ、シンは粉砕される。
 叫びながら撃ちまくった。こっちへ来い、化け物!!
 目を見開く。だめだ。腕が振り下ろされる。何もできない。

 その腕が、雨とともにシンの体表で弾かれた。
 水蒸気が、光っている。輝きが、カンナグールを押し戻す。
 シンから溢れた光が集まり、立ち上がった。

 イバライガー!?

 光のイバライガーは、どんどん大きくなる。

「うぁあああああああああああああああっ!!」

 シンも、立ち上がった。両腕を、前に向ける。その動きにシンクロするように、光のイバライガーも、同じポーズを取る。
 光圧に押されていたカンナグールが、突っ込んできた。

「おぉおおおおおおおおおっ!!」

 シンの気合が響いた。両手から、蒼く巨大な光弾が放たれ、カンナグールが消滅していく。視界の全てが真っ白になる。

 白い闇の中を、ワカナは手探りで進んだ。
 元の風景が戻ってきたとき、ワカナはシンを抱いていた。
 ぐったりとして、動かない。
 水蒸気は、もうない。雨が、叩きつけてくる。

 二人を労わるように、周囲に、なごり雪のような光の粒子が舞っていた。

 

Aパート

「ハイパー……イバライガー……か……」

「そうだ。最初にハイパーにアクセスしたのも君だ、シン。このときのデータがあったからこそ、私はハイパーを呼び出せた……」
 言って、初代イバライガーは、ミニライガーRを見た。ミニRは、とまどっているようだ。

「気にするな、ミニR。君は確かにハイパーの力を借りて起動したが、君がハイパーというわけじゃない」
 イバライガーRが、励ますようにミニRの肩を叩き、初代イバライガーに向き直った。
「初代。ハイパーとは、なんなのです?」

「エモーション・ポジティブそれ自体が力場として形を成したもの……ということしか、わからない。エモーションそのものとチャネリングした、という感じが一番近いだろう」

「ということは……ハイパーこそが、エモーション本来の姿、と考えることもできるわね……」
 エドサキ博士が、つぶやいた。
「ああ、そう考えてもいいかもしれない。姿形は呼び出した者の感情や思考によって形成されるのだろうから、あのイバライガーに酷似した姿が本来の姿ということではないと思うが……というより、姿という概念自体が無意味なのだろうな……」
 ゴゼンヤマ博士が思考を巡らせながら、答えた。
 二人も、ミニR誕生時にハイパーを見ている。エドサキ博士は「まるで宇宙が生まれるようだった」と、そのときの印象を語っている。それぞれに、ハイパーが何かについて仮説を立てて推論を重ねていたのだろう。

「とにかく……未来の俺はハイパーを召喚した……。それだけエモーションに取り込まれていたということだよな……」
「うん。ハイパーの力は絶大だけど……頼もしいっていうより怖い……危ないって気がするよね……」
 シンとワカナも、考え込んでいる。
 エドサキ&ゴゼンヤマ博士と初代イバライガーは、ハイパーとエモーションの関係について議論を始めている。

 


 そろそろ、限界だ。
 さっきから何か言おうと思う度に、他の人が難しいことを言い出してタイミングを失ってたけど、もうアカン。

「こら! そんなことより気になることがあるだろ!? 未来の話でシンとワカナはどうなったんだよ!? フツー、そっちのほうが気になるだろ!!」
「そうですよ! シンさんとワカナさんまでハイパーばっかり気にしちゃって!! もっと自分を大事にしてくださいよっ!!」
 マーゴンとカオリが爆発した。この二人、意外にいいコンビで波長が合うのだ。

「ごめんごめん。でも……ブラックが言った通り、今の私と未来の私は別の人だからね。もう一人の自分のことは気になるけど、今のこの世界を生き抜くためには、もっと気にしなきゃならないことがあって……」

「そんなもん、ないっ!!」
「そう、ない!!」

 なんというシンクロ。ブラックとミニブラ、RとミニRでも、これほどピッタリにはならないかもしれない。
 二人は、熟練の声優かと思うほど見事な男女ボイス重ねで怒鳴った。

「世界も未来もハイパーも知るか! 謎なんかコンビニで売ってるオニギリ1年分のゴハン粒全部よりいっぱいあるんだよ! キリがないんだよ!! だから常に仲間のことが先!! めんどくさいことは後!! それでいいのっ!! そのほうがいいのっ!!」

 しーんとなった。マーゴンたちはハァハァと、肩で息をしている。
 イバガールとミニガールが、そっと近づいて、麦茶を渡した。
 二人が一気に飲み干す。コップを、たぁん!とテーブルに置く。シンクロは、まだ続いている。
 キッと、振り返る。ガールとミニガールも、シンクロに加わった。

「そんなわけだから初代!! 早くその後を教えてっ!! 他の人は脳の電源を切るかマナーモードにしてお喋り禁止っ! あと映画泥棒や違法ダウンロードは犯罪ですっ!!」

 4人の声に、全員が圧倒された。
 確かに、その通りだ。

「わかった、マーゴン、カオリ。もう喋らな……」
「だから! 上映中は喋るなって言っとろうがぁあああああああ!!」
「………………」
 みんなが、黙ってうなずいた。こっちの動きもシンクロしている。

 マーゴンは初代に向き直り、無言で「3、2、1……」とキューを出し、カオリがカチンコを鳴らした。どこから持ってきた?

「わ、わかった……え、え~っと……それじゃあ……」

 


「待たせたわね、さ、いつものように勉強しましょ」
 ワカナは、モニタに向かって語りかけた。

「イエス、マム」
 抑揚のない声とともに、カメラの駆動ランプが点灯し、ワカナのほうに向いた。

 つくば市郊外の大型病院の一室である。
 院内は無人といっていい。
 いや、この周辺に人は、もうそれほど残っていないはずだ。

 ジャークが溢れ出したあの日。
 シンが戦った最後の日。

 あの日を境に、世界は一変した。
 それ以前から軋み始めていた壁が、ついに決壊したという感じだった。
 かつて人々が、笑いながら歩いていた中心街は、いまや廃墟としか呼べない光景になっている。

 もう、間に合わない。
 それを感じながらも、ワカナはAIに向かって語り続けた。

 命とは。生きるとは。人間とは。未来とは。
 自分でも、答えはわからない。想いを伝えるだけだ。

 漠然と語り続けて、ハッとして言葉を止めた。
 これじゃ、まるで遺書のようだ。そんな言葉じゃダメだ。このAIには私たちの希望を、心を伝えなきゃいけない。
 そうでなければ『彼』は生まれない。
 ワカナは振り返り、奥の部屋を見つめた。

 開発室。

 そこには3つのカプセルがある。
 完成したボディは、まだ1体だけだ。それも稼働させるには程遠い。

 LIGER SYSTEM 018。

『彼』が目覚める日は、本当に来るのだろうか。

 


 単身、戦い続けたシンの身体は、限界だった。
 これ以上の変身は、無理だ。
 また、たった一人でジャークの侵攻を食い止めるのにも無理があった。

 新たな力が、必要なのだ。
 そのための「イバライガー開発計画」だった。

 変身したシンから取り出した特殊細胞を分析し、培養し、ゴゼンヤマ博士がナノパーツを創り出した。
 ナノパーツは、コンピュータ技術をも大きく飛躍させた。これまでにない超小型量子コンピュータが生まれ、ほぼヒトと同等の意識を持ち得るAIプログラムの開発が可能になった。エドサキ博士とワカナは、そのAIを育てつつ、ナノパーツとエモーションを制御するための「エキスポ・ダイナモ」の開発に打ち込んだ。

 エキスポ・ダイナモは、本来は変身したシンの負荷を抑えるためのものだった。
 制御せずにエモーションを使うと、身体への負担が大きすぎたのだ。

 人類の力では、未だ届かないはずの技術。
 どんなことが起こるか、わからない。
 それでも、シンの身体が持つ間に、なんとしても間に合わせなければならない。
 シンに代わって戦ってくれる力を、できるだけ多く、できるだけ早く。

 だが、AIを育てるのは大変なことだ。
 まして、ヒトの心を理解し、感情エネルギーであるエモーション・ポジティブを制御できるほどに育てるのは。

 最初は真っ白なのだ。命も、生きる意味も理解できない。本能などで言わずとも理解してくれるわけじゃない。赤ん坊以下なのだ。
 根気よく、教えていくしかない。拙速なやり方で失敗したら元も子もない。
 イバライガーは、感情エネルギーの使徒なのだ。心を生み出すことができなければ、どれほどの力を与えても意味はない。

 そうしている間にも、ジャークの侵攻は続いた。

 当初の局地戦の段階は、シンの戦いで支えていたものの、一ヶ月前、ついにジャークが溢れ出した。
 多くの人々が汚染され、日本はおろか世界が崩壊の危機に陥った。

 やがて、無政府状態と化した日本に、核の照準が向けられた。

 


「核ミサイル!? ……本当ですか!?」

「ああ……日本各地に、数十発の戦略核が撃ち込まれることになる。ジャークの拡散を食い止めるために、日本ごと消滅させてしまおうというわけだ……」
「そんな……」
「ワカナ。ここも危ない。一刻も早くシンを地下に移すんだ。それで助かるかどうかはわからないが、他に手はない。私たちは設備や機材を運ぶ」

 シンは前回の戦いから、昏睡状態に陥っていた。
 ジャーク四天王の一人、強敵カンナグールとの戦いで受けた致命傷のせいだ。かろうじてカンナグールは倒したものの、その身体は、もはや再起不能というしかないダメージを受けてしまった。二度と、目覚めないかもしれない。

 それで、この病院に拠点を移したのだ。
 研究と開発だけなら以前の基地のほうが整っていたが、シンを看病するには病院のほうがいい。

 電力の供給は、すでに途絶えている。それでも、イバライガー研究の過程で、感情エネルギーを電力に変換する方法は見つけていた。それと太陽光による自家発電設備を併用することで、何とか必要な電力をまかなっている。
 だが、感情エネルギーの供給源である人間自体が減ってしまった今では、それも不安定だった。ヒューマロイドを起動するためのエネルギーも蓄えなければならないのだ。

 何もかもが足りない。全てに届かない。
 どうしようもないまま、今、最後の絶望が日本中に降り注ごうとしている。

 ワカナは、シンの部屋に入り、指先から、パルスオキシメーターのプロープを外した。
 さらに点滴を外し、介護ベッドのストッパーを解除する。

 シンは、眠ったままだ。
 シーツの下の身体は、一部が硬質化したままになっている。変身を解いても元通りにならない。

 二度と、目覚めないのかもしれない。

 そのほうが、いいのかも。こんな世界を見続けるよりは。
 それに、目覚めたらシンは、また戦おうとするだろう。

 ヒューマロイドは、まだ使えない。ボディは完成したものの、起動に必要なエネルギーは、予定の半分以下だ。
 なにより、AIが未熟すぎる。感情エネルギーの使徒としてシンを受け継ぐだけの、心が育っていない。

 もう、いい。
 間に合わないのなら、せめて残った時間を静かに過ごさせてやりたい。
 もう苦しませたくない。

 ワカナは、シンの手を握った。
 シンだ。動かなくても、シンの手だ。

 最後まで、一緒にいるからね。
 あと少しかもしれないけれど、ずっとそばに、いさせてね。

 そっと語りかけてベッドを押そうとしたとき、ジャークセンサーが鳴り響いた。

 


 かつてない、凄まじい反応だった。
 何千体ものジャークが、押し寄せてくる。

 市街地には、もはや誰もいない。
 ジャークになったか、死んだか、そのどちらかだ。
 世界は、私たちの世界はもう終わってしまったのかもしれない。
 そして、間もなく何もかもが消える。

「ワカナ! 何をしている!? 早く避難するんだ!!」
 インカムから、ゴゼンヤマ博士の声が響いた。

「は、博士!?」
「奴らは私たちが食い止める。君は……君とシンだけは、生き延びてくれ!!」
「な、何を言ってるんです!? 博士っ!?」
「いいから早く行きなさい! 人類とか世界とか、そんなことはどうでもいいの。私たちはあなたたちを死なせない。論理的じゃなくてもね」
「エ、エドサキ博士? まさか、お二人は……!?」

 轟音が、聞こえてきた。窓に駆け寄る。
 視界を埋め尽くすほどの異形の大群。

 終わりが、近づいてくる。

 

(後半へつづく)

 


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