カソクキッズ27話:東日本大震災の真っ只中で描いた「人類のコア」

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運命の3月11日

 カソクキッズ1stシーズン27話は、2011年3月に描いた作品だ。

 事前の打ち合わせでは、このエピソードでは前回の加速器解説の補足的な情報(前回で扱い切れなかった副産物的な部分)を描くことになっていたけど、それだけでは1話分に足りない。

 加速器ネタはいくらでもあるから増やすことはできるのだけど、これ以上増やしても濃くなりすぎてカソクキッズのバランスからは逸脱してしまうと思えたので、ボクは細かい説明よりも、むしろもっと大きな、加速器研究の意義みたいな部分にスポットを当てたかった。

 それで、とにかくネームを切ってみて、それをチェックしてもらって様子を見ようと思っていた。

 だが……。

 シナリオ初稿ができたのは3月9日。
 この時点ではシナリオというだけで、まだネームになっていない。
 翌10日にコマ割して、作画スタッフにラフ絵を入れてもらい、11日にKEKに送るつもりだった。

 でも……。

 3月11日14時46分18秒。

 東日本大震災が発生した。

 

14時46分18秒からの1日

 ボクとスタッフたちは、仕事場のアパート2階にいた。
 安アパートがぐらぐら揺れる。立っていることもできない。本や資料が次々と落ち、デスクトップパソコンも倒れそうだったが、押さえることはできなかった。
 やがて揺れがいったん収まり、ボクらは外へ出た。
 目の前はホームセンターの広い駐車場だ。そこにいれば、倒壊などの危険もない。
 階段を降りようとしたときに2度目の揺れが来て、ボクらは慌てて降りた。

 この時点では、どこで地震があったのか、わからなかった。
 電気も止まり、情報が入ってこない。
 近所の人たちが、千葉で大きな火災などと噂している。
 震源は千葉なのか。あるいは東京直下という可能性もある。
 さっきの揺れは、ただごとじゃない。大変なことになったと思った。

 とりあえずスタッフと一緒に、自宅へ戻った。
 家族が心配だったからだ。
 自宅までは歩いて3~4分なので、すぐに着いた。
 妻、母、義母、愛犬。全員が外に出ている。
 いないのは高校に行っている娘だけ。

 携帯電話で連絡を取る。
 なかなか繋がらなかったが、ようやくメールに返事が来た。
 学校の体育館に、生徒は集まっているという。
 自力で帰れない生徒は、迎えを待っているようだ。

 午後3時半、スタッフも一緒に車に乗せて、出発した。
 彼らは同棲中のカップル(2018年現在は正式に結婚している)で、アパートは娘の高校に近いのだ。
 当時の愛車は7人乗りワゴンだったのが幸いした。

 道路の信号も消えている。いつもなら30分の道のりに、2時間以上かかった。
 途中で立ち寄ったコンビニでは、早くも買占めが始まっていた。
 学校に着いたときには、すでに暗くなっていた。
 娘を連れ出し、スタッフのアパートへ向かう。15分とかからないはずの距離だが、着いたのは1時間後だった。
 彼らのアパートは、無事だった。とりあえず降ろし、後で連絡するから、と言った。

 自宅へ戻ってこれたのは、夜の10時過ぎだった。
 まだ停電は続いている。真っ暗な部屋でストーブをつけ、その周囲に集まって時を過ごした。
 午前0時近くになって、電気が復旧した。
 ガスや水道は、まだだ。
 幸い、隣家に井戸があったので、バケツで水をわけてもらった。
 風呂は無理だが、これでトイレだけは使える。

 テレビをつけて、ようやく東北が大変なことになっていることを知った。
 震災の規模がやっとわかってきたのは、このときだ。

 

今こそ描かなきゃ!!

 翌日、福島第一原発の事故が起こった。

 ここに来て、これは簡単には復旧しないと確信した。
 東北ほどではないにしても、茨城だって震災と呼べる規模(数年前の能登地震と同じ程度)ではあるのだ。
 妻、娘、義母を、千葉の実家に送り出した。
 別に放射能を恐れたわけじゃない。
 ただ、学校や仕事どころじゃないのは間違いないし、水も出ない状況で女性が暮らすのはキツイ。
 少なくとも水道が復旧するまでは、安全なところにいてもらったほうがいいと判断したんだ。

 ボクは残って、仕事場に戻った。
 部屋中めちゃくちゃだったが、何とか(二次災害が出ない程度に)片付け、次にスタッフのアパートに行った。

 スタッフカップルの故郷は、宮城県白石と、石巻。
 震災の真っ只中なのだ。

 白石のほうは家族の安否確認ができたが、石巻は全くわからない。
 報道でも、ひどいことになっている。

 白石出身のほうは、放射能に浮き足立っていた(実家の家族から、怖いから関西に逃げようと連絡があったらしい)が、ボクは一喝した。
 落ち着け。ボクらはカソクキッズを描いてきたんだぞ。何も学んでないのか。今回の事故は大変なことだが、200キロ以上も離れた場所から避難しなきゃならないほどじゃない。そもそも、石巻の人たちはどうなる? 見捨てるのか? 大事な人たちを見捨てて逃げて何の幸せがあるっていうんだ。大丈夫だ、事故現場に近づくような真似をしなければ、当面は危険はない。デマに惑わされるな。

 そう言って落ち着かせ、それから仕事の話をした。

 仕事場には来なくていい。在宅でやろう。
 ネットは使えるようだから、描いたデータはFTPでウチのサーバにアップしろ。
 その後は、ボクが引き受ける。

 ネームは、あるよな。それをそのまま仕上げるんだ。
 KEKとは連絡がつかないが、かまうもんか。
 描いちゃえ。

 いや、今こそ描かなきゃ。何が何でも仕上げよう。
 そして、いつも通りに公開するんだ。

 KEKが被害を受けて復旧できないのなら、自力でサーバー立ててでも公開する。
 今までも原稿を落としたことはないけど、今回は特にそうだ。
 絶対に落とせない。こんなことに負けられない。
 連絡がつかなくても、石巻の人たちはきっと無事だ。そう信じるんだ。
 描いて、普段と同じに公開して、こっちが無事なことを家族に伝えるんだ。

※石巻のスタッフの家族の安否がわかったのは震災から2週間後くらいで、全員無事だった。
でも、後日帰省したスタッフが帰ってきたときに話を聞いたら「見慣れた風景の全てが『はだしのゲン』みたいになってました……」と言っていた。

 ……とまぁ、こんな感じで熱くなって描いたのが、この27話だ。

 描いているときには、本当に公開できるのか、全くわかっていなかった。
 ネームチェックも受けていない。
 いつも数回の直しが出るのが普通だし、このまま仕上げたってNGになるかもしれない。

 それでも、絶対に仕上げる、公開してみせると誓っていた。

 KEKと連絡がついたのは、18日だ。
 サーバーが落ちてしまい、メールも使えない状況だったらしい。
 精密機械だらけだから被害もそこそこ出ていたが、人的な被害はなくてホッとした。

 だが、WEBデータがあったサーバーはクラッシュしてしまい、全データが消失していた。
 もちろん、カソクキッズも全滅だ。

 なので、ボクが持っているオリジナルデータをKEKに届けに行き、やがて復旧したサーバーにデータをアップし直して、元に戻した。

 仕上げた27話は、何の修正・変更もなしで予定通りに公開された。
 これ以前にも、ほとんど修正がない回はあったけど、本当に修正ゼロなのは、これが初めてだ。

 

人類のコア

 震災の中で不安と戦いながら、それでも必死に描いていた。
 地震に負けたくなくて、描き続けた。
 このお話には、あのときのたくさんの思い出が詰まってる。

 また、偶然だけど、ストーリーも、そういう気持ちと重なるような内容だった。

 エピソードのクライマックスでは「人類のコア」というテーマを描いている。

 先人から次世代へ、受け継がれる知識のバトン。
 それを繰り返し、集まっていく叡智。
 お互いに検証しあい、人類全てが自由に使っていい間違いのない理論たち。
 それが人類のコア。
 我々は、そのコアに支えられていて、我々もまたコアの一部なのだ。

 そういうコアを、より大きく、より確かなものに育てていくのが科学研究の意義だ。
 それは生きる意味と言ってもいい。

 震災の直前、ボクは偶然、そういう話を考えた。
 そして震災によって、それはさらに強い気持ちとなって、作品になった。

 人類のコアは、今も成長を続けている。
 災害からも立ち直り、人々は暮らしを続けている。
 その暮らしを受け継いで、さらに続いていくだろう。

 そういう希望を、ボクはキッズたちに託し、彼らはそれを受け止めてくれたと思う。
 そう感じられたのよ。

 そういうわけで1stシーズン27話は、ボクにとって忘れがたいエピソードなんだ。

 

※3月12日には、他の近郊の知人も訪ねて回った。
 一番心配していたボクの師匠(勝手にそう思ってる先輩プランナー)は、ケロッとしていた。
 イバライガー基地にも顔を出した。
 全員元気で、基地には井戸があるから、近所の近所に人に声をかけ、自由に水を使ってもらっていた。
 そして朝からスポンサー企業を回り、ティッシュとかお菓子とかをかき集めて避難所に届け、困っている人がいないかとパトロールもしていた。震災でイベント類が片っ端からキャンセルになり収入の当ても途絶えたのに、そんなこと全然気にせずヒーローしてた。
 そういう姿を見せてもらえたことも、27話を何がなんでも仕上げようと思えた一因だ。
 あいつらに負けられない。自分もやれることをやるんだ。
 そう思ったんだよね。

 

※ボク自身が被災地を訪ねたのは、それから3年後。宮城北端から岩手県にかけての北上山地が「国際リニアコライダー」の候補地に決まり、そこを舞台としたILC漫画を描くための取材に行ったときだ。
 3年も経ってるから瓦礫の山などはほとんどなくなっていたけど、それでも爪痕は至る所にあり、けれど地元の人たちは笑顔で迎えてくれて、人の逞しさと温かさを感じた。岩手県庁の方々に各地を案内してもらったけど、ILC誘致が成功して、それが東北の復興につながればいいなぁと思いながらの取材旅行だったよ。

 


※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。

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