小説版イバライガー/第23話:未来の想い出:1(前半)

(←第22話後半へ)

スポンサーリンク

OP(アバンオープニング)

 食事を済ませた。牛丼弁当である。
 今日はたくさんのことがあったから、誰も炊事当番ができなかったのだ。
 これからのことが気になって食が進まないかも……と思ったが、全員がキレイに食べていた。

 空になった容器を集めながら、カオリはホッとした。
 袋に詰めて、外のゴミ置場に持っていく。見事な月に気づいて、足を止めた。

 いつもなら食後はねぎと遊ぶが、今はいない。
 ミニブラックと一緒に、地下だ。
 昼間の戦いのダメージを癒すために、イバライガーたちは全員、地下のNPLプールに行っている。
 まさに、銭湯かジャグジー状態。

 ブラックやミニブラックは初めてだろうと思ったけど、そうではなかったらしい。
 以前から、密かに侵入して浸かっていたんだって。
 侵入者に備えてエモーション・センサーはあちこちに設置してあるけれど、同じイバライガーが侵入してくるというのは想定してなかった。

 生活班の自分の目を盗んで使われていたことを知って、カオリはちょっと悔しかったが、同じくらい嬉しくもあった。

 やっぱり、仲間だ。
 ブラックはちょっと怖いけど、それでも、きっと仲間だ。

 今夜、これから、初代イバライガーが大事なことを話してくれる。
 それはきっと辛い話だろうけど、でもそれで、みんなの気持ちがもっとつながるかもしれない。

 そよ風が吹いて、袋の中の容器が擦れ合う音がした。
 いかん、早く捨てて休憩室に戻らないと。

 カオリは月を見上げながら、早足で歩き出した。

 

Aパート

 休憩室に集まった全員……シン、ワカナ、カオリ、マーゴン、エドサキ博士、ゴゼンヤマ博士、R、ガール、ミニR、ミニガール、イエロー、ブルー、グリーン、そしてミニブラックとブラック。
 一人ひとりを見渡してから、初代イバライガーは、ゆっくりと、しかし決然と言葉を発した。

「R、お前はシンだ。そしてガール、君はワカナだ。お前たちは二人の心を受け継いでいる」

 初代イバライガーの言葉を聞いても、動揺した者はいなかった。
 やはり、みんな気づいていたのだ。
 一人を除いて。

「ええっ!? イバライガーRがシンだって!? ナニ言ってんだ!?」
「落ち着いて、ミニブラ。あなた以外、みんなわかってるから」
「なんだとぉ!? おい、ブラック! 本当に知ってたのかよ!?」
「もう黙れ、ミニブラ。俺に恥をかかせるな」

「じゃ、じゃあミニガール……」
「私は生まれたばかりだから、わかんないよ。ふ~ん、そうなんだって思っただけ」
「そうなんだ……って、おいおい!? こっちにシンとワカナがいて、あっちにRとガールがいるだろ! 全然違うだろ!?」
 誰も、答えない。あ~~、コイツらぁああああ。

 けれど、ミニブラックも本当は気づいていた。シンとRが時々、びっくりするほど似て感じることがあるのを。
 そしてブラックとシンも。
 性格はまるで違うが、ブラックとシンが似ていると感じたこともあったのだ。

「……ということは……まさかブラックも……?」
 全員が、無言でブラックを見つめた。ブラックは部屋の隅で壁に寄りかかったまま、何の反応も見せない。初代だけがミニブラの問いに答えた。

「そうだ。イバライガーRとイバライガーブラックは、元々は1つ。同じ存在の別の可能性だからな」
「どいつもこいつもシンかよ!? わけがわかんね~~~~っ!!」

「いいから、初代の話を聞こうよ。私たちに何があったのか、どうしてこうなったのかを……」
 ワカナがミニブラの肩を叩いた。
 憮然とした感じで、ミニブラックが座り、その膝にねぎが駆け上がった。

「では……話そう。全ては、あの日……。ジャークがこの世界に現れた日から始まったのだ……」

 


「ほぉ。ニンゲンの分際で向かってくるか。見上げたものだ。だが……」

 全身が硬直した。何か禍々しいものが、身体に入り込もうとしている。
 動けない。意識が、遠のく。

「ふふふ、オマエを引き裂くわけにはいかんようだ。オマエたちもジャークとなるのだからなぁ!!」
 シンはとっさにふり返った。ワカナの全身も、ふるえている。
 バケモノになるのか。オレたちも。ナツミを連れ去った、あの怪物に。

 二人の目が合った。
 ワカナの目から涙が溢れている。人間の証だ。
 身体に入り込もうとするナニカに必死に抵抗している。
 バケモノになんか、なるものか。

「無駄だ。いくら抵抗しても、まもなくキサマらはジャークの一部となる。楽になれるのだぞ。ほれ、この博士のボディもそう言っておる。愛だの夢だのという煩わしいモノは全てなくなる。オマエらは必ずジャークに感謝するようになる」

「うわぁあああああああああああああ!!」

 


「……あのときは、もう本当にダメだと思ったけど……イバライガーが現れて、私たちを助けてくれたのよね……」
「ああ。だけど……」

「そうだ、シン。確かに私は君たちを救った。だが『元の歴史』では、私が現れるわけがない。私は、あの窮地を生き延びた君たちによって造られたのだから。すなわち、私が現れなくても君たちはジャークにはならなかった……」

「けど……あの状況を自力で脱出できたとも思えない……」
「つまり、俺が……」

 シンは、いったん言葉を区切ってワカナを見た。黙って見つめ返してくる。

 やはりワカナも気づいている。今まで自分の仮説に関しては話し合っていない……というより避けていたが、同じことを考えていたのだろう。
 当然だ。全てのことが、それを示しているのだから。

 ソウマを助けたときのことを、思い出した。

 


「てめぇ、ソウマッ!! いい加減にしろぉおおおおっ!!」
 掌底を叩き込んだ。ワカナのストリングスも、塊を覆っている。
「そこにいるのか、ソウマ!? 応えろ! てめぇ、このままジャークになるつもりかよ!? ふざけんじゃねぇぞ! 出てきやがれぇええ!!」

 返事はない。それでも、怒鳴り続けた。残ったエモーションの全てを、くれてやる。いや、それ以上でも構わない。
 絶対に、この化け物を止めてやる。ソウマを引きずり出してやる。

 今のソウマは、あの日のオレだ。
 ジャークが、そしてイバライガーがこの世界に現れた時のオレたちと同じだ。オレは取り憑かれ、身体の自由を奪われ、それでも必死に抵抗していた。
 ナツミは救えなかった。連れ去られてしまった。だからこそ、ワカナだけは守りたかった。死んでも守る。死んでも戦う。

 オレを化け物にするだと? やってみろ。例えどんな姿になったとしても、オレは……オレは……

 オレ? あのときのオレ?

 あのときオレは……何をした?
 変貌する力に抗えないと悟ったとき、オレは何をしようとしていた?

 そうか……オレは……オレが……

 


 シンは覚悟を決めて、今までずっと感じていたことを言葉にした。

「……俺が……イバライガーだったんだ……!!」

 


 身体が、汚染されていく。おぞましい何かに侵食されていく。
 ダメだ。ワカナ。ワカナだけは……。
 俺がどうなろうと、ワカナだけは……。

 そのとき。

 エモーションの輝きが巨大に膨れ上がった。
 白い闇。その光の闇を切り裂くように、一筋の蒼い輝きが迸る。
 蒼い光が、シンを貫いた。

「エモーション・ポジティブ!? まさか、この者を……使徒に!?」
 ダマクラカスンが動揺している。

 使徒? なんだ?

 なんでもいい。ワカナを救う力をくれ。化け物になるのなら、せめてコイツを倒す力になりたい。

 蒼い光が、シンの全身に広がっていく。
 身体の中に、さっきまでとは別な意志が流れ込んでくる。

「がぁああああああああっ!!」
 身体が引き裂かれる。いや、変化していく。

「くっ、人間め、エモーション・ポジティブが取り憑いたか! だが……我らジャークに仇なす者は生かしておけん!!」
 ダマクラカスンの爪が、突き出された。
 それを受け止めた。

「うっ、き、貴様……!?」
「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

 激痛が走る。だが、身体は動く。

 跳んだ。ビル数階分もある粒子測定器が、下に見えた。
 作業用のアルミ製仮設階段の床に、自分の姿がぼんやりと映っていた。
 赤い全身。高質化し拡張した肘。そして自分とは違う顔……。

 ダマクラカスンが見える。ワカナも見える。あそこに……と思った瞬間、背中が震えた。
 知っている。スラスターだ。
 俺は人ではなくなった。だが、ジャークでもない。俺は……俺は……。

「おおおおっ!!」
 拳を握った。白熱する。急降下しながら叩き込んだ。躱される。床に大穴が開く。衝撃でワカナが吹っ飛んだ。追いつく。抱き止めた。

「シ、シン……? そ、その姿は……!?」
「掴まってろ、脱出する!!」

 ワカナを抱いたまま一気に跳躍し、天井を突き破った。
 振り返る。ダマクラカスンが見上げていた。

 

(後半へつづく)

 


※このブログで公開している『小説版イバライガー』シリーズは電子書籍でも販売しています。スマホでもタブレットでも、ブログ版よりずっと読みやすいですので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです(笑)。

うるの拓也の電子書籍シリーズ各巻好評発売中!(詳しくはプロモサイトで!!)