小説版イバライガー/第22話:天使の歌声(後半)

2018年6月23日

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Bパート

 敵の拳が、ブラックのマスクをかすめた。
 一瞬、フェイスバイザーにノイズが走り、すぐに修復された。
 だが、わずかずつダメージは蓄積されているはずだ。

 瞬時に修復されるから見た目には変わりないように見えるが、身体全体のナノパーツは減っている。ダメージを受けていない細胞を代用しているだけで、徐々に削られているのだ。ナノパーツ自体も作り出せるが、瞬時というほどではない。人間の細胞分裂よりは遥かに早いが、本当の回復には一定の時間をかけるしかないのだ。

 それでも、イバライガーブラックは前に出る。カンナグールの攻撃を受け止め続ける。

「なぜ、ミニブラックを連れてこなかった?」
 後方で撹乱に徹していた初代イバライガーは、ブラックに問いかけた。言葉ではない。イバライガー同士は、意思を直接伝達できる。
 ブラックには、オーバーブーストという大技があるという。己の分身体であるミニライガーブラックとシンクロすることで、能力を何倍にも増幅する技だ。それを使えば、市街地自体が吹き飛ぶ危険はあるが、これほどの苦戦をしなくても済むはずだ。

「そういう貴様こそ、ハイパーを喚び出したらどうだ?」
「それは……できん……」
「なら、俺もそういうことだ」

 ハイパーは、使えない。いつでも都合よく顕現する力ではないのだ。いざとなれば躊躇はしないが、その気になったからといって喚び出せるとは限らない。それに、危険すぎる。前回はやむを得なかったが、あの力に、シンやワカナを近づけたくない。

 衝撃が、伝わってきた。
 ブラックが押されている。戦いの場が徐々に、ワカナに近づいている。

「舐めるな、ジャーク」
 伸びてきたハンマーに、ブラックが拳を叩きつけた。両方が砕けていく。その傷口から刃が飛び出した。ハンマーを真っ二つに切り裂く。
 残った腕で、刃を引き抜いた。日本刀のように見える。

「それは……!?」
「……もう少し、精錬してから、と思っていたのだがな……」

 黒光りする刀だ。自分の体内で、自分自身を材料にして、武器を作っていたということか。
「切り札は俺にもある。貴様から時空のデータを受け取ったのは、Rだけではないのでな」

 時空のデータだと? ならば、あの刀はRのクロノ・ブレイクに匹敵する武器だということか。時空の力を、ブラックなりにアレンジしたということか。

「だが、今はこれは使わん」
 ブラックは、失った腕の傷口に、無造作に刀を突き刺した。
 刀はブラックの身体と融合して、消えていく。

「コイツを始末するのは、Rに任せる。奴がミニガールを目覚めさせ、イバガールを救うことができれば、自分が眠らせていたものにも気づくだろう。奴がどれほどボンクラでもな」
「それを確認するために、Rを待つというわけか」

「時空突破を成功させられるかどうかで、それはわかる。奴が本当に『意志』を受け継いでいるか、残りカスでしかないのかが、な……」
「……そういうことか。だが、その腕でまだやれるのか?」
「気にするな。奴らが戻って来るまでは、持つ」

 


 ガールの身体を、NPLの中に浸した。
 沈んでいく。
 その胸元に、ミニブラックが輝きを置いた。

「……さて、オレ様の仕事はここまでだぜ。あとはR、アンタの役目だ」
「だ、だが……何をすればいいんだ? 私はブラックとは違う。何も覚えていない。何も思い出せないんだ!!」

 背中を叩かれた。シン。

「R、一緒にやろう。ガールのことを思い浮かべるんだ。彼女のことだけを考えろ。未来なんかどうでもいい。お前の知ってるガールを想えばいいんだ」
「シン……」

 プールに手を浸した。
 これで何が起こるのか、まるでわからない。
 イバライガーRは戸惑いながら、この世界に来てからの日々を思い返し、ガールに語りかけた。

 ガール。イバガール。
 私たちは、いつから一緒だったのだろう。
 私たちは、いつ生まれたのだろう。

 一緒に、この世界に来た。
 君はいつも、私のそばにいた。
 ずっと私を見守り、支えてくれた。

 そうだ、ずっとだ。

 私が眠りについたときにも、君はいてくれたのだろう?
 時の流れすら感じず、二人で並んで眠り続け……

 なに?

 今のビジョンはなんだ? 私の記憶なのか?

 そうだ。私は……戦って……戦い続けて……「R」の刻印を託されて……

『いつかきっと、帰ってきてね。それまで待ってる。ず~っと、待ってる』

 この声は……ワカナ? 君なのか?

『帰るさ……新しい世界に……きっと……』

 シン。いや、私?
 やはり君は……君と私は……

 身体の中で、何かが目覚めた感じがした。

 これは……ブラックと戦ったときの……そうか、これが……あのときブラックが言っていた『本当の力』……。
 私自身と、私の中に眠る意思が1つになったときに目覚める力……。

 そうか……。
 私は……私たちは……。

 


「……始まったわ……ミニRが生まれたときと同じ現象よ……」
 エドサキ博士が、つぶやいた。

「うむ。やはりRとブラックは……そして、シンとワカナは……」
 ゴゼンヤマ博士も、つぶやいている。

 カオリには、何がなんだかわからない。
 それでも、凄まじい反応を感じた。目の前のモニタを見るまでもない。シンさんやワカナさんのようにエモーションを感じたりはできないけど、それでもわかる。

 何かが起きている。

 カオリは、自分の掌を見た。ご飯粒がべったりとついている。
 オニギリを、思わず握りつぶしてしまったのだ。
 舐め取った。しょっぱい。さっきまで泣いていたからなぁ。涙が染み込んじゃったのかも。

 お米には、たくさんの神様がいるんだよね。
 ちゃんと食べます。無駄にしません。
 だから、天使を遣わしてください。

 新しい天使と、私たちの天使。
 二人を、どうか、私たちの元へ。

 


 プール全体が輝いている。
 シンも、Rも、ミニブラも、ねぎさえ、動かなくなった。
 いたたまれなくてマーゴンは何かボケようとしたが、自分も動けない。

 けど、これは知ってる。こないだ、同じような現象を見たばかりだ。
 プールの中に沈んでいるイバガールを見つめた。

 壊れたままだけど、死んでない。だって、こんなに光ってんだから。
 早く起きろよ。眩しいんだよ。

 これがヒューマロイドの、イバライガーの産声ってやつなのかな。
 ドキドキするよな。おっかないよな。わけがわかんないよな。
 生まれるのって、死ぬことに似てる気がするよな。
 でも、もう起きろ。眩しいから。

 マーゴンは、そんなことを思った。
 思ったと思っただけで、本当は何も考えてなかったのかもしれない。

 とにかく起きろ。眩しいから。

 


 私、死んじゃったのかな?
 自分の身体を感じない。みんなのことも感じない。
 何もないのかな? 終わっちゃったのかな?

 あの子猫は助かったかな?
 抱っこしたところまでは覚えてる。
 温かかった。
 あったかい命を抱いたままなんだから、こわくないよね。
 私が消えても、あの子は残る。命は残る。

 でも。

 誰かが、呼んでる気がする。
 何も感じないのに、誰かを感じる。

 R? シン? ワカナ?

 え、私?
 呼んでるのは、私?
 私じゃない私?

 ブラック? ブラックの中に私がいる。
 Rの中にも、私がいる。

 二人が覚えていてくれた私。
 誰かの想いの中にいる私。
 私の中にいる私。
 その全部が1つになって、私を呼んでいる。

『生きて』
『きっと、きっと、幸せになって』

 ずっと聞こえていた声。
 よく知っている声。

 うん、わかった。

 私は生きるよ。ずっと生きるよ。
 私の中の私も、みんなの中の私も、ずっと生きていく。

 あなたのために。私のために。

 一緒に行こう。今までの私。
 一緒に歌おう。新しい私。

 


 ミニRが、触脚の1つを払い飛ばした。
 すでに攻撃が、ワカナの目前に迫っている。ミニRやミニライガーたちも、傷を受け始めていた。
 それでも、ワカナはじっと動かずに戦いを見守っていた。

 跳ね飛ばされても、膝をついても、イバライガーたちは立ち上がり続ける。
 傷は増えても、気力は下がらない。
 いや、むしろ上がっている。

 基地で、何かが起こった。ワカナ自身は感知できないけれど、イバライガーたちは感じている。基地にいるRやミニブラックを通じて、何が起こったかを察知している。それが彼らを通じてワカナにも伝わってくるのだ。

 来る。帰って来る。

 全員のフォーメーションが変わった、と感じた時、ワカナはミニライガーたちに抱かれて宙を飛んでいた。
 一気に、戦場から遠ざかる。

 カンナグールが見えた。こちらを見て……いない。
 自分よりも、やや左。

 振り向けないけど、風を感じる。
 来た。やっぱり来た。

 思わず溢れてきた涙を、2つの風が優しく拭っていった。

 


 カンナグールのハンマーが叩きつけられてくる。
 だが、イバライガーブラックは動きを止めた。

「来た……な……」
 初代イバライガーが、つぶやいた。

「ああ、俺の見込みよりは少し手間取ったようだが……な……」
 風。ハンマーの軌道が、途中でねじれた。

「時空旋風……っ!!」
「……エターナルッ! ウインドフレアァアッ!!」

 聞き慣れた声が響いた。輝く風が、周囲を包み込む。威力は、あまりない。
 それでもカンナグールは肩を落として、動かなくなった。
 ハンマーが千切れ、触脚が根本から崩れて、身体から抜け落ちていく。
 風が、イバライガーブラックを撫でる。風に触れた体表の傷が消えていった。

「癒しの風……か……」
 振り返った。
 ふわりと、2つの影が舞い降りてくる。

「お待たせっ! もう大丈夫よっ!!」
「ふん、お前らを待っていたわけじゃない。こうなることは最初からわかっていたからな」
「あ~~っ、相変わらず可愛くない~~~っ!! 少しは優しい言葉も覚えなさいよっ!!」
「やかましい。それより……」
 ブラックは、もう一人に向き直った。

「お前がミニガールだな。予想通りの機能はあるようだが……」
「うん、パパ。ちゃんとやれるよ!」
「パ、パパだと!?」
「だってブラックが私のコアをくれたんでしょ。だったらパパでしょ?」
「そうだぜ、パパ~~ァン?」

 ミニブラックが近づいてきた。表情は変わらないが、明らかにニヤニヤしている。
「貴様ら……それ以上くだらんことを言えば破壊するぞ!」
「あ~あ、ヤベぇパパだよな~~」
「そんなことより、早くあのオバケをやっつけたほうがいいよ。私の風で一時的に機能停止してるけど、まだ私、慣れてないから完全に癒せなかったの」

 ミニガールの言葉通り、カンナグールは再起動しようとしていた。
 ミニガールのウインドフレアは、イバガールのそれとは別な能力を持っているようだ。
 癒す。復元する。そういう風らしい。

「なるほど~、カンナグールは元々がPIASだもんね。ミニちゃんの風で元の状態に復元されようとしたせいで、機能が停止したわけね」
「うん、でももうすぐ動き出すよ……」
「問題ない。すでに奴が向かっているからな」

「わかってる! ミニちゃん、手伝うわよ!!」
「うん!!」

 イバガールとミニガールが、舞い上がる。
 それと交差するように、もう1組の影が突っ込んできた。

 


 急降下しながら、ミニライガーRが叫んだ。
「お待ちしていました、イバライガーR! いつでも、いけます! 私たちもオーバーブーストを……!!」

「いや、いい。ミニR、下がっていてくれ。オーバーブーストは使わない」
「なんですって!?」

「大丈夫だ、今の私なら、やれる。わかったんだ。私の中で眠らせていたものが何だったか。それを引き出せば必ず届く。時空を超えた本当の力に……!」
「時空を……超えた力……!?」

 地上に、イバライガーブラックが見えた。

 見せてやるぞ、ブラック。
 お前が見ていた世界、その一端を私も見つけた。お前の覚悟が、今ならわかる。
 だが私は、お前とは違う道を選ぶ。そのための力を掴んでみせる。

 Rの思考に応えるように、ブラックが見上げた。
 見せてもらうぞ、イバライガーR。
 お前の本当の力を。眠らせていたものが目覚めたかどうかを、見極めさせてもらう。

 


 イバガールとミニガールは、上空で身構えた。

 イバライガーRが、急降下していく。
 腰だめに両手を合わせ、その内側の、原子よりも小さな一点に全てのエネルギーを集中させている。

 宇宙開闢……というほどではないが、原理的には同じ現象だ。
 真空が相転移し、特異点が生まれようとしているのだ。
 カンナグールが、ぴくりと動いた。

「邪魔はぁああああ……させなぁあああああああいっ!!」
「お姉ちゃん、行くよぉおおっ!!」

 二人の、ありったけのパワーを解放した。

「ジャーク! 改めて言うわ、覚えておきなさい! 私は時空天使イバガールッ!! あの人の……あの人たちの、生きる願いを託された者……っ!!」
「私は、時空天使……ミニガールッ!! 私は……私たちは……!!」

 周囲にエモーションが満ちていく。風が、カンナグールを止める。Rを導く。

「……絶対にぃいいいい……!!」

 光の中で『私』が微笑んだ。
「……生きるっ!!」

 


 ガールたちの風が身体を包むのを感じた瞬間、Rはクロノ・スラスターを拡張させた。地上に向かって一気に加速する。

「おぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 両腕を一気に開く。特異点が広がる。その全てを掴み、身にまとう。エキスポ・ダイナモが激しく輝き、Rを中心に空間が歪んでいく。

「時空……突破……!!」

 突然出現した真空によって、激しい衝撃波が生まれる。
 風を貫いて、触脚とハンマーが向かってきた。ぶつかる、と同時に空間ごと消滅した。そのまま、軌道にある空間を喰らい尽くしながら突き進む。みんなの想いが光となって見えた。初代イバライガーを救出するために特異点に飛び込んだときと同じだ。届く。時空の向こう側へ。

「食らえジャーク! クロノォオオッ……ブレェエエエイクッ!!」

 全エネルギーを込めて、両方の掌底を叩き込んだ。圧縮空間にカンナグールが飲み込まれ、凄まじい潮汐力によって素粒子レベルで分解されていく。
 空間が閉じていく。巻き込まれれば自分も消える。一瞬を見極めろ。いや、時間は関係ない。特異点では一瞬と永遠は同じだ。時空そのものを感じ取れ。想いの導きに、身を委ねろ。

「はぁああああああっ!!」

 


 輝きながら消滅していく空間の中から、気合が響いた。
 ブラックがここだと思ったタイミングより一瞬遅れて、Rが現れた。

「……ブレイクッ……アウトッ!!」

 声と共に、光の粒子を残して空間が閉じた。全ての音さえも消えてしまったかのような静寂。

「……なるほど、それがクロノブレイクか。相変わらず自滅と紙一重の強引な技だが、それだけに威力は大したものだ。何より……」
 残心を解いたRが、歩き出した。

「……どうやら、お前も『声』に届いたようだな」
「ああ、全て……ではないが、見えた。聞こえた。私とお前、いやイバライガーが何なのかが……」

 並んで歩く。
 ワカナと抱き合っていたイバガールが振り返った。手を振っている。

 R、私、わかった。

 ああ、私もだ。

 視線を移した。
 初代イバライガー。全てを見ていた者。
 うなずいている。

 わかりました、初代。
 私が、ブラックが、ガールが、誰なのかが。シンやワカナも、気付いているでしょう。

 教えていただきます。今日までの全てを。

 彼らがどう生きたのかを。
 私たちが、どう生きていくべきなのかを。

 

ED(エンディング)

 休憩室に、全員が集まっていた。
 ブラックまでも。

 全員が、初代イバライガーを見つめている。

「揃ったようだな。では、私の知っている全てを伝える……」
 初代は周囲を見回しながら、語り始めた。

「まず最初に……一番大事なことを伝えておこう。すでに気づいているとは思うが……」
 言いながら、シンとワカナを見つめた。そしてRとガール。

「R、お前はシンだ。そしてガール、君はワカナだ。お前たちは二人の心を受け継いでいる」

 

次回予告

■第23話:未来の想い出:1
この世界とは違う、イバライガーが生まれた歴史。その全てを語るときが来た。イバライガー誕生の秘密、未来世界でのシン、ワカナ。「以前の歴史」では彼らはどう生きたのか。物語は、全てが始まったあの事件の日にさかのぼる……。
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

 

(次回へつづく→)

(第21〜22話/作者コメンタリーへ)

 

 


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