小説版イバライガー/第20話:メモリーズ(後半)

2018年5月25日

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Bパート

 その祈りに応えたように、イバライガーRが特異点の中に出現した。
 シンやワカナ、他の仲間の想いも感じた。

 気づいたときには、こちら側の世界に戻っていた。Rが私を救出したのだ。

 特異点の中では時間は無意味だ。永遠と一瞬は、同じものだ。

 故に、私にとっては消滅した瞬間に救出されたようなものだったが、外部の世界では、かなりの時が過ぎていた。
 そして私の予想を超えたことが、いくつも起きていた。

 


 未来で眠り続けるイバライガーRとイバガールは、目覚めることができないはずだった。
 あの世界には、彼らを起動させるだけの感情エネルギーは、ないのだ。

 だが、奇跡が起こった。
 私がダマクラカスンを倒すために試みた、捨て身の時空突破。

 それによって生じた特異点を通じて、こちら側の世界の感情エネルギーが逆流した。
 むろんそれは、わずかなエネルギー量に過ぎなかったが、その多くがシンとワカナのエモーションだったことが運命を変えた。
 お互いに引き合うように、届くはずのないものが、届いた。

 そして二人のヒューマロイドを、こちら側へと呼び寄せたのだ。

 私の消滅と同時に出現したイバライガーRとイバガールによってシンたちは救われ、さらなる戦いに身を投じていくことになったのだ。

 


 イバライガーRは、私とほぼ同型のヒューマロイドだ。
 数体造られた試作義体。私もRも、その1つを使っているため、外見的にはほとんど同じだ。
 違いは『R』の刻印のあるなしだけ。
 今回の破損で私の外見は変わってしまったが、そのほうがよかったのかも知れない。
 元のままでは、見た目で区別がつきにくい。

 ただし、同型なのは義体だけだ。
 中身は違う。誕生の経緯が、まったく違うのだ。

 R自身には、それがわからないだろう。
 彼の記憶は、その多くが封印されている。そのように処置するところを私は見ていた。

 それはイバガールも同じだ。
 ガールの誕生も、私は見ている。あのときのワカナの想いを、祈りを、私は決して忘れない。
 Rとともに戦ったシンの姿を、忘れない。

 あの光景を繰り返させないために、私は今、ここにいるのだ。

 


 二人の時空転移は、さらにもう1つの、大きなイレギュラーも引き起こした。

 イバライガーブラックの出現だ。

 ブラックは、未来世界には存在しない。
 イバライガーブラックとイバライガーRは、同じ1人なのだ。

 時空転移は量子的な現象であり、量子の世界では可能性が重ね合わせになっている。
 生と死が、どちらでもあり、どちらでもない状態で重なっていて、誰かがそれを観測した時点で一方の可能性に収束する。

 だが、時空転移という特殊な状況が、2つの可能性の両方を出現させた。

 イバライガーRの、もう1つの可能性。
 それがブラックなのだ。

 シンたちは、そうした現象が起こった原因を、私の迷いによるものではないかと考えたようだが、たぶん違う。
 多少の影響はあったかもしれないが、それではRとブラックにだけ、そうしたイレギュラーが起こったことに説明がつかない。

 考えられる原因は、未来での『あの事件』だ。

 恐らく、あのときにブラックが生まれた。
 混乱と絶望の中で、誰にも気づかれることなく、イバライガーRの中に、もう1つの人格が生まれていた。

 しかもブラックは、記憶を封じられていないという。
 そのはずだ。封印されたのは、Rの記憶なのだ。

 メモリーの多くは共有されていたはずだから全てを覚えているとは考えられないが、それでも『ブラック』が誕生してからの記憶は残っているのだろう。
 最も辛い記憶だけが残ったはずだ。それを味わい続けていたのか。あの永遠の闇の中で。

 故に、イバライガーブラックは峻厳であり、孤高だった。

 元々は1つであったにも関わらず、Rとブラックはまるで別人だ。戦闘力においても、Rを大きく上回る。
 基本スペックは同じでも、経験値が違うようなものだ。
 未来の記憶と、それに向き合う覚悟と意志が凝縮した漆黒のボディ。肉食獣のようなしなやかさ。
 イバライガーブラックの力は、他のイバライガーを遥かに凌駕している。

 だがイバライガーブラックは、味方ではない。

 彼は、シンたちと合流せず独自に行動している。
 ジャークを倒すという目的は同じでも、その他の部分が決定的に違う。
 彼は、必ずしも人間を救うとは考えていない。

 かつてブラックは、イバライガーRに言ったという。

「ジャークを何体倒しても、その源である人間がいる限り、何の意味もない。ただの延命にすぎん。人間を救うには、害となる患部を取り除くしかあるまい。これは外科手術というだけのことだ。オレがやっているのは治療なのだ」

「人間の法は、人間を守っていない。法を守って暮らしている者が小さくなり、マフィアやギャングが大きな顔をして歩き回る。善人が殺され、悪人がのうのうと生き延びる。そんな例はいくらでもある。人間のルールは歪んでいる。そんなものに縛られていては、世界を救うことなど出来はしない。だからこそオレたちは生まれた。人間自身では解決できないことを糺すためにな」

 ジャークは、マイナスの感情エネルギー=エモーション・ネガティブが生み出す。
 そのエモーション・ネガティブを生み出すのは人間だ。

 すなわち人間は、ジャークの発生源でもあるのだ。
 恨み、妬み、裏切り。そうした感情に囚われた者たちを放置していては、ジャークは何度でも蘇る。

 故に排除する。
 イバライガーブラックにとっては、人間もジャーク同様、処理すべき対象なのだ。

 そんなブラックとイバライガーRは相容れず、幾度か対立したようだ。

 だが、彼は敵でもない。
 Rやガールに対してはともかく、少なくともシンやワカナと敵対することはないはずだ。

 シンたちに危機が迫った時、ブラックは私同様、自分を捨ててでも彼らを守ろうとするだろう。
 全てのイバライガーにとって、あの二人は特別な存在なのだ。

 そのためか、これまでのところブラックとの関係は、敵とも味方とも言えない微妙なバランスを保っているようだ。
 ブラック自身が生み出した分身体=ミニライガーブラックとも、親密な関係を構築しつつあるらしい。

 このバランスが崩れる前に、世界を救わなければならない。

 だが、Rとガールの時空転移、そしてブラックの顕現によって、この世界の歴史は、私の予測を大きく超えて変化している。

 予想外の力は、ジャークにも生まれていたのだ。

 


 最初に出現した四天王がダマクラカスンだったことは、以前の歴史と同じだ。
 しかし、第二の四天王はルメージョだったという。

 ルメージョは、三番目のはずだった。以前の歴史で出現した第二の四天王は、まだ現れていない。

 また、ルメージョ自身も、私の知っているソレとは、かなり違う。

 ルメージョの本体になっているのは、シン、ワカナ、マーゴンの友人だった『ナツミ』だ。
 それは元の歴史と変わらない。

 だがナツミ自身の意識は、未だに消滅していないらしい。

 未来世界でのルメージョは、完全なジャークだった。
 ナツミの記憶はあるが、心はない。ダマクラカスン同様の凶暴な怪物として現れ、戦い、死んでいった。

 心があるからといって、こちらのルメージョが弱いわけではない。
 むしろ、以前よりも遥かに危険だ。

 ナツミはワカナの親友であり、シンの幼なじみだ。そして密かにシンを愛している。
 その想いが、彼らを危険へと引き込むだろう。事実ルメージョは、彼らの関係を度々利用して策を仕掛けてきている。

 そして今回、私とRを利用して特異点から、こちら側に出てきた者。

 それは霧状のエネルギー体だったが、そのエネルギー量の大きさから、第三の四天王だと考えられている。
 こちらの世界に、まだ現れていなかった者。

 アザムクイドか、カンナグールか。

 いずれにしても手強い。
 特にアザムクイドに関しては、ほとんどデータがない。
 未来での、シンたちの最後の戦いの最終局面で、わずかにその姿を見たというだけなのだ。

 


 戦いは、さらに激化していくはずだ。
 それを乗り切るためには……やはり、伝えなければなるまい。

 私が知っている未来の出来事を。
 イバライガーの本当の姿を。エモーションの真実を。そして私たちがなぜ造られ、何を受け継いだのかを。

 知らせることは危険だ。
 だが、知らないことも危険すぎる。

 特に、シン。

 私は彼の力を抑えるために、ハイパーイバライガーを呼ばざるを得なかった。

 ジャークを倒すためではない。ミニライガーRを起動させるためでもない。
 シンの力を目覚めさせないために、ハイパーを呼び出すしかなかったのだ。

 彼は、自分の身体に起こっていることを知らない。どれほど危険な領域に踏み込んでいるのかに気づいていない。
 これ以上、エモーションの力を引き出せば、未来での悲劇が再び起こりかねない。

 それだけは止めたい。
 世界を救うことが私の使命だが、シンとワカナを救うことは私の意志なのだ。

 自重してもらうためにも、話さなければならない。
 全てを。

 以前に、シンが言った。
 私が、この世界に出現したときに、まるでパンドラの匣から最後に出てきた希望のように感じた、と。

 そうかもしれない。

 あらゆる災厄を封じたはずのパンドラの匣の奥底に、なぜ希望があったのか。

 それは希望こそが、災厄そのものだからではないのか。
 希望があるからこそ、人はさらなる苦しみの中へ足を踏み出す。

 私は、災厄をもたらしてしまったのではないのか。
 シンとワカナの苦しみを拭おうとして、彼らをより深い奈落へと追いやってしまったのではないのか。

 だが私は、もう二度と戻れない。私の知る未来は、過去なのだ。この世界の先には、あの時代は存在しない。
 例え希望が災厄だったとしても、前に進むしかないのだ。

 見えない未来。
 それでも1つだけ、信じ切れるものがある。

 どんなに苦境になったとしても、彼らは決して諦めない。
 シンも、ワカナも、Rも、ガールも。ブラックもだ。

 この目で見た。彼らの生き様は焼きついている。
 あの強さが、きっと災厄を本当の希望に変えるはずだ。

 鎖は、つながる。

 そうだろう、ワカナ。

 あなたの祈りは、きっと届く。
 論理的ではなくとも、私はそれを信じる。

 

ED(エンディング)

「イバライガー! みんな待ってるよ、早く、早く!」
 ミニイエローに手を引かれた。

 私の復活祝いだそうだ。

 イバガールとカオリが手を振っている。
 ミニブルーとミニグリーンが、全員にグラスを配っている。
 イバライガーRとミニRが料理を運び、つまみ食いしたマーゴンが、ワカナに追い回されている。
 博士たちは席に着いて、早くも一杯やっているようだ。

 こういうところは、以前と何も変わっていない。
 この笑顔に出会うために、私は還ってきたのだ。

「全員、揃ったな。それじゃ乾杯するぞ。せぇのぉ……!」
「かんぱ~~~~~い!!」

 シンの掛け声で、宴会が始まった。
 外の闇に、ちょっとだけ目をやってから、私は懐かしい喧騒の中に入っていった。

 今は忘れよう。未来も、運命も。

 

次回予告

■第21話:時をかける少女  /カンナグール登場
謎のハイパーイバライガーのおかげでミニRの起動には成功したものの、同じ方法でミニガールを生み出すのは無理っぽくてガッカリのイバガール。一方ジャークは、奪ったPIASのデータをもとに、強力な怪物「カンナグール」を造り出して……!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

(次回へつづく→)

(第19〜20話/作者コメンタリーへ)

 


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