小説版イバライガー/第17話:ゴーストハウス(後半)

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Bパート

 ミニイエローを先頭に、ブルー、グリーンが出てきた。
 全員、顔にお札が貼ってあり、手を前に出してぴょんぴょんと跳ねている。

 キョンシー?

「な、何やってんだ、お前ら?」
「こうしていれば呪われないってマーゴンが言ったんだ~~~」
「の、呪われない?」

「そうだ! この館は呪われているっ!!」
 声が響いた。

 ミョ~に間の抜けた音楽と共に、マーゴン=イモライガーが出てきた。
「しゃきん!しゃきん!しゃきぃ~~ん! イモライガー見参!!」

「い、いや、そういうのいいから! つ~か、その格好は何なの!?」
 イモライガーはいつもの姿ではなかった。普通じゃない。いつも普通じゃないけど。

 頭にろうそくをつけて、たすきをかけている。八つ墓村か。
 左手にはウィジャ盤(西洋版コックリさん)と、右手には神主さんが使うお祓い棒を持っている。
 正式には「幣(ぬさ)または大幣(おおぬさ)と呼ばれる神道の祭祀用具(実用日本語表現辞典より引用)」だそうだが、そんなことはどうでもいい。
 ていうか、どこにあった、そんなもん。

「怨霊退散! はらたまきよたまぁあああああ!!」
「やめんかっ! 何やってんだよ!?」
「シンんんんんん~~~~っ、この建物は呪われてるんだよ~~、ポルターガイストなんだよ~~~」
「はぁ?」

 


 またドアが開いた。今度はカオリだ。

「わぁあああん! ワカナさぁあああああん!!」
 泣きながら駆けてきて、でもワカナの脇をすり抜けてワゴンに駆け寄り、テキトーに積み込んだ混沌の中から確実に食料のダンボールを見つけ出し、一番上にあった煎餅の袋を開けて口に放り込んだ。

「マズイな。これはマジでマズイ。カオリが食わずにいられないということは、尋常でない何かが起こっている証拠だからな……!」
「いや、すでに十分尋常じゃないって!!」

 ワカナは夢中で貪るカオリに近づいて、頭を撫でながら尋ねた。

「何があったの?」
「ほ、ほひゃへふぁ~~……」
「お化けが?」
 ワカナは口いっぱいに頬張ったカオリの言葉を、自然に理解している。慣れとは恐ろしいものだ。
「ほひょ……バリボリ……おふぁけは……ボリボリ……ふぇるん……ボリ……ごっくん……ですぅう~~」

 ワカナが、怪訝な顔で振り返った。

「ここ……バリボリ……お化けが……ボリボリ……出るん……ボリ……ごっくん……です、と言ってるよ」
「バリボリはカットして翻訳しろよ!!」

「とにかく、本当に出るんだよ、シン~~~~っ」
 マーゴンが真剣な顔をしている。ミニライガーたちは、相変わらずぴょんぴょんしている。やはり尋常じゃない。

「R、ガール、どう思う?」
「わからない。何かの気配を感じるような気もするが……」
「私もそんな気はするけど……でも気のせいかもしれないし、少なくともジャークの反応はしないし……」
「でも見たんだよ~~」
 ミニブルーが口を挟んだ。イエローとグリーンもうなずいている。

「そう、あれは……ここで目を覚ました直後のこと……。草木も眠る丑三つ時……じめじめとして、でも妙にヒンヤリとした夜……」
「ヤダな~ヤダな~と思ってたら……」
「ソレっぽく言わなくてもいいから先を聞かせろって!」

「ボクたち、目覚めてすぐに初代イバライガーが収容されているカプセルを見に行ったんだ。そしたら……」
「何かぼんやりしたモノが……カプセルに覆いかぶさるようにして……じぃ~~っと覗き込んでいるみたいで……」

 ちょっと、ぞっとした。
 が、まだ超常現象かどうかはわからない。

 感情エネルギーだの、未来からきたヒューマロイドだの、ジャークだのといったモノが実在しているんだから、超常現象を信じないというわけではない。
 シンもワカナも元々は研究者だから根拠不明なモノを信じたりはしないが、否定論者というわけでもない。
 というか、科学者にも幽霊をバカにしたりはしない人は多いのだ。

 キワモノの霊現象やUFOなどをそのまま鵜呑みにすることはないが、それらの現象を合理的に解釈できる可能性はあるし、そもそも、わからないものはわからないと言うしかない。先入観で決めつけない。それが正しい科学的態度というものなのだ。

「それで……そのぼんやりしたモノは、幽霊だったと思うか?」
「ユーレイって何?」
「は?」
「ボクらは何かを見たっていうだけだよ。すぐに消えちゃったから何だかわかんないし、ボクたちもずっと眠ってたからシステムが安定しなくてバグっただけかもしれないでしょ。だから朝になってから報告したの。そしたらマーゴンが呪いだって言い出して……」

「………………」
 シンは、ゆっくりと振り返った。

 テントが張られている。
 マーゴンは中に食料を持ち込んで、カオリと共にピクニックモードに入っている。

「お前らなぁああああああああっ!?」
「こら、テントを揺さぶるな! ピラミッドパワーが乱れるだろ!」
「何がピラミッドパワーだぁああ! つ~かネタが古すぎるわっ!!」

「で、でも気味が悪いのは本当だもん! ミニライガーが再起動する前も、ぞわぞわしたりしてたんだもん!」
「そうだ、絶対に霊がいる! 長年オカルト雑誌『モー』の愛読者だったボクの言うことに間違いない!」
「あのなぁああ……」

 


「そんじゃ……」
 ワカナがテントに潜り込んだ。
「とにかく、シンとRが調べてくるまで、私たちはここで待ってようか」
「なに?」

 覗き込んだシンの目の前に、さっきのお祓い棒(正しくは幣(ぬさ)または大幣(おおぬさ)と呼ばれ……以下略)が突き出された。

「ほら、これ持って早く見てきて。ジャークは平気だけど、幽霊はいや。Rとシンで、そんなのいないって確認してきて。もしいたら、お祓いしてきて」
「何言ってる!? いいから、さっさと荷物を運んじゃおうぜ」
「いや! もしお化けがいるなら、そんなトコ住めないもん! 運んでも無駄だもん」

 3人とも絶対に立たないというオーラを放ちながら、煎餅を食べ続けている。
 あっという間にしょうゆ味が空になり、すでに塩味が開けられていた。

「お、お前らなぁあああ~~~」

 ミニたちはキョンシーごっこが気に入ったらしく、ぴょんぴょんしながら敷地内を散策し始めている。
 イバガールもそっちに駆け去っていった。

 イバライガーRが、肩を叩いた。
「あきらめろ、シン。今回も私たちの負けだ……」

 


 正面ホールから、館内に入った。
 吹き抜けで広いロビーフロアがあり、左側に守衛室がある。
 もちろん今は誰もいない。

 ロビー奥には螺旋階段があるが、上の階は居住スペースに利用する予定になっているので、そちらにも今は誰もいないはずだ。

 ロビーから通路が左右に伸びている。シンとRは、右の通路へと進んだ。
 博士たちはそちらの棟にいるはずだ。

 ひんやりとしているが、特に異常は感じない。Rも同様らしい。

 薄暗い通路だが、人が通るとセンサーでライトが点く。以前の震災で節電が必要になった頃に、そういうシステムに変更されたのだという。
 突き当たりの左側の部屋に、博士たちがいる。初代イバライガーも、そこに眠っているはずだった。

「博士……」
 声をかけてドアを開ける。

「やぁ、シン、それにRか。もう元気になったんだな、よかった」
 ゴゼンヤマ博士が普通に立っていた。

 ほっとした。いや、幽霊なんか信じてなかったぞ。
 つ~か何が幽霊だ。こんなお祓い棒(正しくは幣(ぬさ)または……以下略)まで持たせやがっ……

「下がれ、シン!!」
 Rが叫んだ。

「時空鉄拳!ブレイブ……!!」
「お、おい、ちょっと待て!! 何やってんだよ!? 博士しかいないだろ!?」
「なんだって!? シン、君にはアレが博士に見えるのか!?」
 思わず振り返った。

 博士だ。どう見ても、いつも通りのゴゼンヤマ博士だ。
 驚いたような顔をしているが、いきなり必殺技を撃ち込まれかけたのだから当然だ。

 だが、Rには何か別なものが見えているらしい。
 それもとっさに必殺技を出そうとするほど危険な何かに。

 背後から、銃声が聞こえた。MCB弾の連射音。

 廊下にエドサキ博士が立っていた。銃口をRに向けたままだ。

「博士! 何をするんだ!?」
「いいから! シン、MCBグローブをチャージして!!」

 状況がわからない。
 それでもシンは、反射的にグローブを握りしめた。

「そのままエネルギーを全力で! イバライガーRに撃ち込んで!!」

 なんだと? 何を言ってる!?
 そもそもエモーション・ポジティブを撃ち込んだところでイバライガーには無意味のはずだ。
 さっきのMCB弾も。

「シ……ン……」

 Rの動きが止まった。硬直している。MCBが効いている? そんなバカな。
 あの程度でイバライガーがダメージなど受けるはずがないし、MCB自体はむしろエネルギー補給になるはずなのに。

 頭が混乱した。幽霊のほうが、まだマシだ。
 何が起こっている?

「シン! 何をやっている!? 早くグローブをRに!!」
 呆然としているシンを、ゴゼンヤマ博士が一喝した。

 わけがわからない。
 それでもシンは、グローブをRの身体に当てた。

「おおおおっ!!」

 気を込める。自分のポジティブエネルギーを、Rに注ぎ込む。
 攻撃ではなく、援護のつもりだった。

 その途端、イバライガーRの身体がガクガクと震え出した。
 全身から、黒い霧状のものが吹き出してくる。これは……なんだ!?

 同時に部屋の奥、PIAS開発施設にあったのと同じ大型の設備の中からも、黒い霧が吹き出す。
 それらは合流し、混じり合い、膨張し、部屋全体に広がっていく。

「エ……エモーション・シールドォオオオッ!!」

 シンは、とっさにエネルギーを拡散させてシールドを展開し、自分と博士たちを覆った。
 シールドのエネルギーに触れた霧の一部が蒸発する。対消滅の煌めきが見える。エモーション・ネガティブ?
 まさか、ジャークなのか!?

 やがて霧は、壁に染み込むように消えていった。
 Rががっくりと崩れそうになり、シンは慌てて抱き止めた。

「博士……これは一体……!?」
「それは……」

 エドサキ博士が言いかけた時、スピーカーの音が響いた。

『シン……聞こえ……るか……?』

「初代!? イバライガーなのか!? どこだ、回復したのか!?」

『いや、私は……NPLで満たした……カプセルの中だ。私の……ボディは……まだ……動かない。今は……スピーカーシス……テムに、直接接続……して話している……。私自身のシステム……も不完全……なので長くは話せ……ない』

 シンは、部屋の奥を見つめた。
 PIAS設備の奥に、カプセルの一部が見えた。
 ミニライガーたちが封じられていたものと同型で、やや大型のものだ。

『……Rは私を……特異点……から救出した……。だが、その時……に、彼が特異点の……中で掴んだもの……は私だけでは……なかっ……た……』

 Rが、特異点の中で掴んだもの?

 そういえば、イバガールが言っていた。
 ダマクラカスンは、Rにとどめを刺せるはずなのに撤退した、と。

 それは、さっきの黒い霧がRの中に潜んでいたからなのか。
 Rと初代に取り憑いて、この世界に何かが出現した、ということか。二人が合流したことで、ソレが生まれ出た?

「ミニライガーたちが何かを見たと言い出したとき、私たちはそれを信じたわ。幽霊だとは思わない。けれど、彼らのセンサーが何かを感知した可能性は十分に考えられた。特異点の中に入って戻って来た事例は1つもないのだから。何が起こっても不思議じゃないわ」
 エドサキ博士が、銃をしまいながら起き上がった。

「それで私たちは、初代との直接ケーブルによるダイレクトアクセスを試みた。そして知ったんだ。Rか初代、もしくはその両方に何か問題が起きている可能性をな。だから君たちが来るのを待っていた。マーゴンの幽霊騒ぎは、みんなをここから遠ざけるために利用させてもらったんだよ。本当に何が起こるかわからなかったからね」
 ゴゼンヤマ博士も、よっこらしょという感じで起き上がった。

 3人で、壁を見つめた。
 黒い霧が消えた壁だ。

 シンは、見つめたまま初代に呼びかけた。
「イバライガー……。アレは……なんだったんだ?」

 だが、答えは返ってこなかった。
 彼が言った通り、喋れたのは、あのわずかな時間だけだったようだ。

「彼は……無事だ。さっき、私も声を聞いた。彼はきっと……目覚めるはずだ……」
 Rの声だ。ようやく、元の状態に戻ったらしい。

「大丈夫か、R?」
「ああ、すまなかった。アレが体内に潜んでいることに自分でも気づけなかった……」
「なんだったと思う?」
「ジャークだ。私や初代イバライガーの中にいたときは、ジャークではなかったはずだ。ただの、とてつもなく小さなエネルギーのかけら。それが外に出て融合し、ジャークとなった。そういうふうに擬態していた、というべきかもしれない……」

 ポジティブに擬態する、だと?
 そんなことが?

 シンは再び、壁を見つめた。
 実体はなかったが、とてつもなく禍々しいものを感じた。

 あのとき、ルメージョも何かを喚び出そうとしていた。
 阻止できたと思っていたが、間違いだったのかもしれない。
 オレたちは、初代イバライガーを助けるつもりで、とんでもないものを喚び出してしまったのではないのか。

 初代イバライガーは、それに気づいた。いや、知っていた。

 未来の記憶。
 それを知る日が近づいている。

 シンは、それを恐ろしく感じていた。

 

ED(エンディング)

 陽が落ちた。
 皆は、それぞれ割り当てられた部屋に入り、引越し荷物を解いている。
 騒ぎのあった部屋は真っ暗で、いくつかの計器の光が見えるだけだ。

 その部屋の一角に、光の粒子が煌めいた。

 その粒子の中に、先夜ミニライガーたちが目撃した「ソレ」が浮かび上がった。

「ソレ」は、初代イバライガーのカプセルの傍に立ち、いつまでも見つめ続けていた。

 

次回予告

■第18話:ショートサーキット
初代復活とともに、本来の役目=初代イバライガーのサポートシステムに戻ったミニライガーたち。そんなわけで基地では、R専用のサポートシステム「ミニライガーR」の開発を急いでいたの。でも、なぜか動かないのよ。そんな中、ジャークは新たな力を手に入れようと……
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

 

(次回へつづく→)

(第17〜18話/作者コメンタリーへ)

 


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