広告漫画家物語15:りこうなふふくじゅうだったアノ時

2018年4月3日

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 この事例も後々「メール商談ライブ」のカテゴリで詳しく披露していく予定なのだけど、まぁダイジェスト版を先に紹介しよう。

 脅されたり、威圧されたり、厄介な状況から仕事が始まる、ということは稀にある。

 もちろん、そんな状態なら断って逃げちゃっていいのだけど、逃げずに噛み付いたって構わない。そんな扱いをするような人と良好な関係なんか築けないし、そうなら仕事なんか引き受けたくない。
 そして仕事を引き受ける気がないなら、どんだけ嫌われたって知ったことじゃないのだ。

 だからボクは、そういう相手と出会ったときは、ズバズバと言いたいこと言っちゃって、喧嘩になろうが構わないって態度で臨む。

 こっちは専門職なのだ。
 依頼してくるお客にはやれない事をやるのが仕事。
 素人に、それも感情論でグダグダ突っ込まれたら仕事にならない。

「オレを雇うならオレを信じろ。それが出来ないのなら最初からやめておけ」

 いくらお客が相手でも、そう言うしかないときがあるのだ。

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キミで大丈夫なのか? 責任取れるのか?

 会議室に通された。

 薄暗い部屋。
 コの字型に並べられたテーブル。

 ボクに連絡をくれて、今日の打ち合わせをセッティングしてくれた専務さん(女性)は、入口近くの席に、奥の席には社長が両脇に部下を立たせて座っていた。
 専務さんは40代後半、社長は60歳くらいだろう。

 う~ん、専務さんとの打ちあわせだって聞いていたけど、社長さんも同席するのか。
 あの両脇の部下らしき二人は何のためにいるのかな。

 と思いつつも、挨拶をして着席する。

 専務が社長に、ボクのことを大ざっぱに説明する。
 そしてボクに向き直って、今回依頼したい漫画広告について、改めて説明をしてくれた。
 お問い合わせのメールをいただいた際に簡単な説明は受けているのだけど、詳細は聞いていなかった。

 というか、詳細はないんだろ~な~。

 この会社からの問い合わせメールをもらったのは、数日前。
 企業年金とかの福利厚生関係の仕事をされている会社。
 そういう自社サービスを、漫画でわかりやすく解説するパンフを作りたいとの話。

 でも具体的なビジョンはないようだ。

 漫画ならイケル、漫画ならわかりやすいハズと思っているだけで、何をどう漫画にすればいいのか、どんな漫画にしたいのかなどは五里霧中という感じ。
 まぁ、それが普通なんだけどね。

 だからこそ会って、色々な話をする。
 その会話の中から、どんな漫画を描くべきか、どんな要素を盛り込まなきゃいけないのか、何に注意すべきなのかなどを洗い出していくんだ。

 しばらく専務さんと話した。

 社長は黙ったまま。
 両脇の二人も立ったまま。

 少し話が弾んできた頃、社長が口を開いた。

「打ち合わせもいいが、そもそもキミで大丈夫なのかね? 役に立つものを本当に作れるのか?」

 ムッとした口調。
 明らかに面白くないと思っている。
 ようするにボクが気にくわない。
 それがハッキリとわかった。

「いや、だからこうして打ち合わせしているわけで……」
 専務さんがフォローに入るが、社長はムッとしたままだ。

「だいたい、漫画なんかで当社のサービスを伝えられるのか? 本当にウチのパンフレットを任せていいのか? キミ、自信はあるのかね? 今までにどんな成果を上げたというのかね?」

 はは~ん。

 どうやら今回のことは専務さんが進めていたコトで、社長はあまりピンと来ていないんだな。
 漫画もほとんど読まないタイプっぽい。

 つまり漫画で広報するという企画自体に不信を持っている。
 釈然としないまま今日を迎えて、そのまま打ち合わせが進んでいくのを見て、とうとう堪忍袋がキレはじめたってトコか。

 両脇の二人が、社長の言葉にいちいちうなずいている。
 取り巻きってヤツだな。

 取り巻きを引き連れて、数で圧倒しようというわけか。
 ふ~ん。

 

■無名の漫画家だからってナメんなよ?

「どうなんだね、キミ? 本当に漫画で売上を上げられるのか? 責任を取れるのか?」

 言葉が、どんどん威圧的になっていく。
 専務さんは困った顔でボクを見ている。

 たぶん、普段からこういうやり方で周囲を制してきたんだろうなぁ。

 でもね、ボクには通じないよ、ソレ。

 ボクは、社長に言いたいだけ言わせて、一息つくのを待ってから、口を開いた。

「社長、見ず知らずの誰かに仕事を任せるのが心配なのはわかりますよ。ボクだって責任なんか取れない。やるからには結果を出すために本気で取り組みますけど、結果を保証することなんか誰にもできっこない。そんなコトが出来るなら、広告漫画なんか描いてないで、自分で事業をやりますよ」

 社長も、取り巻き二人も、ちょっと意外という顔をした。
 反論される、意見を返されるとは思ってなかったという顔だ。

 ボクが追いつめられてアタフタすると思ってたな。
 ロクな社会常識もなく、コミュ障でオタクで根性もない漫画家風情が言い返してくるとは思ってなかったんだろ。

 ボクは、さらに畳みかけた。

「それと……ボクの実績がどうこうおっしゃっていましたよね? ボクは自分の実績、経歴は全部WEBサイトで公開しています。あなた方はそれを見て、ボクを呼んだはずだ。ボクのほうから売り込んだ覚えはないですから。御社のことも知らなかったですから。
 それなのに、御社にとって大事な仕事を任せるというのに、社長はボクについて何も知らないとおっしゃるんですか? そんないい加減な気持ちでボクを呼びつけたわけですか?」

 ボクはノートやペンをバッグにしまい、立ち上がった。

「どうやら、しっかり考えもせずにボクを呼んだようですね。ボクは自分の力にそれなりの自信も持っていますが、こんな状態では仕事になりません。
 今回の件は白紙に戻して、もう一度検討し直してください。その上で、改めて呼んでくれればボクはまた来ます。では失礼します」

 そう言って、ドアに向かった。

 パフォーマンスだけど、本気でもあったよ。
 どうにでもなれ。こんなヤツのためには働けん。

 落ち着いて喋ったつもりだけど、ボクもムカついていたんだから。
 口調も、ここに書いたモノより乱暴だったかもしれない。
 少なくともムカついてることがはっきりと伝わる口調だったのは間違いない。

 社長はポカ~ンとしてたよ。

 そしてドアを出る前に、専務さんが慌てて止めてくれた。
「社長。この人なら任せられそうだと思ったから、私は彼を招いて、今日の打ち合わせをセッティングしたんですよ。とにかく今回の件は私に任せてくれませんか?」

「わ、わかった。それなら好きにしてくれ」

 それだけを言って、社長は席を立った。取り巻き二人も出ていく。

 ボクと専務さんは気を取り直して、打ち合わせを再開した。
 そうして夜、自分の事務所に戻ってから、預かった資料を読み、大ざっぱなサブジェクトにまとめ、シナリオを起こし、さらにネームに仕上げて専務さんにメールで送った。

 ネームを読んだ専務さんは大喜びだった。
 想像以上に上手くまとまっている、と。

 

逆らいながら進めた仕事

 ただし、直しがない満点っていうわけでもない。

 細かいトコではアレコレ修正や変更の要望が出た。
 中には、そんなコトしたら台無しになっちゃうような無茶なコトも。

 ボクは、その1つ1つに対応して、修正してもいいと思える部分はボクなりにアレンジした上で描き、やっちゃいけないと思えることは、なぜやらないほうがいいのかをメールで説明して納得してもらうようにした。

 本当はね、説明しても納得はしてないのよ。
 一般人には漫画が理解できないんだ。

 しかも相手は客だからね。
 客の要望をはねつけるわけだから。いくら専務さんがボクに味方してくれたと言っても、何でも受け入れてくれるわけじゃない。

 それでも受け入れてもらうしかないのよ。
 役立たずの漫画にしないためには、お客にNOと言うしかないときも多いんだ。

 理解できないハズの相手に説明する。

 これは無駄なようで無駄じゃないの。
 わからなくても、こちらが何とか説明しようと努力しているコトだけは伝わるから。

 それなりの文量で丁寧にメールを書く。
 感情論や作家の身勝手なこだわりなんかじゃなく、ちゃんと理由があってNOと言っているんだ。
 理由そのものは理解できなくても、ボクの主張に根拠があるらしいことは伝わるんだよ。

 ボクを選んでくれたんでしょ。
 ボクに賭けてくれたんでしょ。

 それならボクを信じてくれ。
 納得できなくても、とにかくココはボクに任せて。

 ボクだって、いい結果を出したいんだ。
 そのためにNOなんだ。
 心配でも、不安でも、それでも身を委ねてもらうしかないんだ。
 それでダメだったのなら、ボクを二度と使わなくていいから。

 そういうやり取りを何度かしながら、本番の作画を進めていった。

 そうして完成。納品した。
 代金も、振り込まれた。

 そして、2ヶ月後。
 専務さんから、第二弾の制作依頼が来た。

 あの社長の指示だそうだ。

 社長自身が、できあがった漫画パンフを持って取引先に顔を出したところ、評判が良かったんだって。
 それで、別なサービス用のモノも漫画パンフを作れと指示が出たそうだ。

 してやったり! って気分だったね。

 社長とは、あのとき以来直接は会っていないけど、その顔が見えるようだ。

 たぶん、照れ臭いのを隠して、ムスっとした顔のまま、単なる業務命令みたいな感じで切り出したんだろうなぁ。
 専務さんは、一瞬ハッとして、それからわずかに微笑んで、はいと応える。
 きっと、そんな感じだったんだろう。

 

利口な不服従

 この第二弾の依頼メールには、依頼だけではなく、専務さんの個人的な気持ちが書いてあった。

 専務さんは、若い頃に保育士をしていたそうだ。
 メールには、そのときに子供たちに読んで聞かせた絵本が紹介されていた。

「りこうなふふくじゅう(利口な不服従)」という、盲導犬の絵本。
 目の見えないご主人を守るために、あえて命令に逆らう賢い犬の話。

 専務さんは、ボクがソレだとおっしゃってくれた。
 最高の賛辞を送ってくれたと思ったよ。

 最初に問い合わせがあってから、完成・納品まで約3ヶ月。

 その短い間に色々あったけど、やってよかった、あのときに帰らずに済んでよかったと思った。
 もちろん、気持ち良く第二弾を引き受けて、前回よりもずっとスムーズに完成し、これまた喜んでもらえた。

 この会社の仕事をしたのは、この数ヶ月だけだけど、専務さんからは2年くらい過ぎてから、メールをいただいたことがある。
 他の会社のパンフレットで、ウチが描いた作品を見かけたのだそうだ。
 ウチも、このヒトに描いてもらったのよと、誇らしくなったと書いてあった。

 これも嬉しかったなぁ。

 お客様から、ファンレターとしか思えないメールが届く。
 そこまで行ってこそ、成功。

 ボクは、そう思っている。

 そしてフアンになってくれたお客は、その後もずっと覚えていてくれるんだ。
 その人が別な会社に転職しても、縁は残る。そうやって仕事がつながっていく。

 ボクは、このときだけじゃなく、そういう例を何度も体験している。

 本当に縁は最強なのよ。

 

他にもあった威圧タイプとの戦い

 このときの社長のような威圧タイプというのは、ときどきいる。
 コレ以前に、WEBの仕事を担当した会社社長がそういうタイプだった。

 とにかく怒鳴る。
 下請けや従業員を怒鳴って萎縮させて、それで有利な契約や取引に持ち込むタイプ。

 そのときは事前に「そういうタイプ」だという情報を得ていた。
 嫌なヤツとしてアチコチで知られていたんだ。

 だからボクは、わざと社長を怒らせる手を使った。

 手ぶらで、名刺すら持たずに会いに行ったの。
 そして、ぶっきらぼうな態度を取る。

 当然のように社長は激高する。
 名刺すら持ってこんとは何だ。そのオカしな恰好はなんだ。ウチをナメてるのか。

 どんなに騒いでも知らん顔して、言いたいだけ言わせる。
 騒いでるだけで殴られるわけじゃないしね。
 ただのノイズ。
 道路工事でもやってると思えばいいんだ。

 そしてゼイゼイ、ハァハァになるのを待って、反撃する。

「名刺が仕事するわけじゃないでしょ。ボクはあなたを知らなかったし、あなたもボクを知らないでしょ。だから名刺じゃなくてボクを見て欲しかった。だから名刺は持ってこなかった。ボクを見て、話してみて、コイツには任せられんと思ったのなら、名刺だっていらないでしょ。タダのゴミになるだけ。
 なので、仕事を任せてみようと思ってくれたのなら、ボクは改めて名刺を持ってご挨拶に伺います。でも名刺に仕事を頼みたいのなら、ボクは役に立たないので帰ります。じゃ」

 もう、思いっきり屁理屈だよね~~。

 だけどね、このときも慌てて社長は引き止めたよ。

 こら、いきなり帰るヤツがあるか。
 せっかく来たんだ、話くらいしていけ。

 そうして話をして、結局仕事は受注した。
 4年くらいボクに任せてくれたな。
 このときに引き受けたWEB制作だけじゃなくて、色々な仕事ももらったよ。

 この社長もね、逆らわれたことがないんだと思うのよ。
 威圧タイプは、そうすることが有益だからそうしているのであって、ソレが通じないとわからせれば、それほど厄介じゃないコトも多いんだ。
 まぁ、さらに逆ギレしちゃう人もいるだろうけど、そういうヤツなら、取引しないほうがマシだから。

 

いっそ喧嘩のほうがマシなときもあるんだよな〜〜

 ボクは割と頑固で反骨心が強い。
 どっちかと言うとソレで損しているコトのほうが多いんだけど、こうした例のようにいい結果に結びついたコトもある。

 他にもね、やっぱり威圧タイプで同業者がみんな泣かされて困ってたときに、ボクに回ってきたコトがあったよ。

 地域で有名な大手企業なんだけど、とにかくワンマンで理不尽で業者泣かせ。
 そういう会社の仕事を持ち込まれて困っていた人たちが、ボクに頼んできた。

 いやボクだって、そんなヤツの仕事はしないよって言ったら「それでもいい、キミならハッキリと言えるだろ? 言えない奴らの代わりに言ってやってくれよ」と。
 損な役回りだな~って思ったけど、確かにみんなが遠慮して言えないことでも、ボクは言えちゃうトコはあったんだよね。
 それに地縁で商売してる人たちと違って、ボクはその会社と取引できなくても困らないし、地域の有力者に睨まれても主要なお客は地域にいないから平気だったし。

 そういうわけで、ボクなりのプレゼン案を作って、出かけていった。

 その社長はボクにも横柄な態度で、ムチャクチャな額面を要求してきた。
 待ってました、という感じでボクは切り返す。

 ナニ非常識なコト要求してんの。そんな要求飲めるわけないじゃん。
 どうしても飲ませたいって言うなら、それでも飲むってヤツを探しなよ。ボクはゴメンだ。たぶん他の人もゴメンだと思うけどね。
 それでもプレゼン版のデザインは作ったよ。
 もちろん、コレはプレゼン用で正当な額面で発注してくれない限り、本番の仕事は引き受けないけどね。

 こんな感じで、言いたいだけ言って帰ってきた。
 いや、もちろん口調はもっと丁寧だった(と思う)けどね。

 そんで、そんなコトをすっかり忘れた半年後に連絡が。

「マトモな業者は誰もコッチの言い値で引き受けてくれないんで、素人のバイトにやらせることにした。でも素人じゃロクなデザインを作れないんで、あのときのプレゼン版デザインを売ってくれ」

 アキレ果てたね。

 でも、これ以上関わるのは嫌だったからデザインは売った。
 割と高めで。手切れ金をもらうと思えばいいやって(笑)。

 その半年後くらいに、その会社のWEBサイトはボクのデザインで公開された。
 やはりサイト構築は素人バイトじゃ無理だったそうで、結局これもボクの知り合いの会社が請け負った。
 やや安めではあったようだけど、それでも妥協できる額面で受注できたと、お礼の電話があったよ。

 とにかく、長いこと仕事していれば、色んな奴に出会う。
 ときには腕でも知識でもなく、度胸とか駆け引きとかのほうが重要なコトもある。

 ボクはそういうのが得意なわけじゃないけど、それでも、やりあわなきゃならないときもあったんだよ。
 その度に逃げ回っていたら商売しづらくて困っちゃうから。
 家族やスタッフを食わせていくには、厄介な奴ともやりあって、厄介じゃない奴に変えていくしかなかったの。

 ほら、昔の番長漫画とかでボコボコやりあった後で「テメ~もやるじゃね~か」って仲良くなっちゃう展開あったじゃん。アレだよ(笑)。

 

(「広告漫画家物語16」につづく→)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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