広告漫画家物語14:思うように自由に描いて感謝もされてワ~イ!

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 今回の事例は、中小企業の例だ。

 中小っていうより零細かな。
 元々、従業員数5人(経営者含む)程度の小さな会社をやっていた社長さんが、新しい事業を始めた。
 その新事業を広報するための漫画を依頼されたんだ。

 そして、その漫画が、ボクが手掛けた「広告漫画の枠を超えて広がっていける作品」の第一号になった。

 それが、このブログのカテゴリ「メール商談ライブ」でも紹介している『失敗社長』という作品だ。

 そんなわけで、より詳しいことは「メール商談ライブ/失敗社長編」で順次掲載しているんで、ある意味では重複になっちゃうんだけど、まぁ元々は、それぞれ別の本に書いた文章なんで勘弁してね。
「メール商談の中身なんかどうでもいい、要点だけで十分」という人には、こっちのほうが手っ取り早いだろうし(笑)。

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払えないお客様は払えるようにしちゃえばいい?

 この依頼主とのご縁は、このときよりも数年遡る。

 前の項で触れたボクのライバルだった相棒
 彼と二人で「24時間ぶっとおしでIT相談会」という大バカ企画をやったときに、本当に明け方午前4時に訪ねてきた人。
 それが、この会社の息子さんだったの。

 中小企業向けの会計士みたいな仕事していて、全国各地の顧客を飛び回ることが多い。
 その日は遠くの客先に行くために始発の新幹線に乗ることになっていて、それで、始発よりも少し早起きして、出掛ける前にボクらの相談会に立ち寄ってくれたのね。
 いやぁ、自分たちで企画しておいて何だけど「そんな時間に客が来るわけね~じゃん」と、寝袋出してウトウトしてたトコに奇襲食らったから、慌てたよ(笑)。

 詳細は伏せるけど、彼の会社は非常にユニークなやり方をしていて、それなりの顧客数も獲得しているように思えた。

 ただ、単価が安すぎるので、もっと顧客を増やしたい。
 今のままではギリギリすぎて、資金繰りに苦労する日々。
 そこでネットで広報して何とかならないかな、と。

 ボクらは勝算アリ、と思った。

 多くの中小企業がそうなんだけど、ぶっちゃけ広報が下手なのよ。
 せっかくイイ仕事してるのに、それを広めてない。
 自分の持っているコンテンツを眠らせちゃっているの。

 他の同業他社とはちょっと違うユニークなやり方をしていて、けれどまだ知られていない。
 これは、やり方次第で面白い事例になりそうだと感じた。

 そこで、是非担当させてくれ、と話した。

 先方は喜んでくれたけれど、会社はいつもギリギリでやっているから、十分な予算が出せない。
 彼らが用意できる予算の枠内でやったのでは、大した効果は見込めそうもない。

 そこでボクは

「わかりました。足りない分の予算はボクたちが作ります。払えないのなら、払えるようにしてみせます」

と言ったんだ。

 いやぁ、我ながら大言壮語だよなぁ。恥ずかしい。
 でもね、実際その通りになったんだよ。

 相棒が考えたセールス企画、ボクがまとめたWEB。
 それらが上手く回って、起業家向けの雑誌社から取材されたりもして、1年後くらいには顧客が一気に増えたんだ。

 社長さんは「これは第二の創業だ!」と感動して大喜びしてくれた。

 その後も、ボクらは「足りなかった分」を請求したりはしなかった。

 一時的にキツくても、いい結果を出せば、きっと社長は感謝してくれる。
 そうなれば、必ずイイ仕事を回してくれる。そうやって末永く付きあえる会社を増やす。

 契約書で縛ったりはしない。
 あの社長を信じるだけだ。

 あれは投資。
 ボクらが、ボクら自身の考えでやったギャンブル。
 信じて裏切られたら、それはボクらの失敗。
 人を見る目がなかったというだけ。

 そういうつもりでやったんだ。

 

払えるようになって帰ってきてくれたお客様

 そして数年後。

 新たな事業を興すまでに成長した社長は、その新事業のサイト制作をボクらに依頼してきた。
 今度こそ、真っ当な予算で。

 そして、その新事業をPRするための漫画も依頼してくれたんだよ。

 いやぁ信じてよかった。

 漫画は1話10ページずつの全5話。毎月1話ずつ、オンラインで公開していく。
 全話完結したら冊子にもまとめる。

 社長の新事業はコンサル業。
 それまでの仕事をしながら培ったこと、これまでの体験で学んだこと。
 そういう知識で、自分と同じように苦しんでいる中小企業や個人事業主をラクにしてあげる。
 もちろん実務も、元々の本業でサポートする。
 そういう事業計画だった。

 漫画の内容は全面的にボクに任せてくれたので、ボクは社長にインタビューし、様々なコトを聞き出した。

 社長は元々、地域で最大規模の会社の御曹司だったそうだ。

 その会社が倒産した。
 大学を卒業し、結婚し、息子が生まれ、二代目として会社を継いだ直後に。
 この社長が倒産させたわけじゃなくて、先代のうちに会社はダメになっていたんだ。
 でも、会社を傾けた戦犯はみんな逃げちゃっていて、それでも誰かが引き継いで清算しなきゃならず、その戦後処理だけのために社長にならざるを得なかったんだ。

 地域最大の会社の倒産は、大きなニュースになった。
 地域最大どころか、その時点では県内最大の倒産。
 立派な屋敷は人手に渡り、小さなアパート暮しになった。
 一時は30億円もの負債を抱え込むことにもなった。
 そういうドン底からようやく立ち直り、小さな会計会社を始めた。

 そうして十数年。
 ギリギリの生活をしながら耐え続けて……ボクらと出会ったんだ。

 30億円もの大失敗。滅多にあることじゃない。
 その体験が武器。失敗から学ぶ。
 辛い失敗体験をしないで済むように、自分の失敗から学んで欲しい。

 そういうことを伝えていきたいと社長は言った。

 それをボクなりに描いたのが、漫画『失敗社長』なんだ。

 

事実に基づいてるけど完全オリジナル新作

 ボクが描くんだから、もちろんギャグ漫画だ。
 社長さんがボケで、共同経営者の息子さんがツッコミ役。
 そんなデコボココンビの珍道中。

 笑いの中にヒューマニズムを仕込んだつもり。
 最終回では社長号泣のシーンがあるんだけど、そのシーンのネーム考えてるときは、ボクまで泣きながら書いていたよ。

 社長に聞いたことをベースにしているけど、中身は全部ボクのオリジナル。

 セリフも全部ボクが勝手に考えた。
 毎回ネームを送っていたけど、直しが出たことは一度もなかった。
 実在のモデルがいるというだけで、ボクは完全オリジナル新作のつもりで描いた。

 織田信長を描くのと一緒だ。
 事実に基づいたフィクションってヤツだね。
 講釈師見てきたように嘘をつく。

 こうして描かれた漫画は、予定通りに公開され、冊子にもまとめられた。
 冊子版の編集も、WEB公開版のデータ作成も、ボク自身がやった。

 漫画は今でも全然有名じゃない。
 小さな会社のサイトに公開されてるだけだし、冊子も社長が出会った人に配ってるだけだもんね。

 でも、ネットで読んでくれた人にも、受け取った多くの人にも喜んでもらえた。
 泣けたとか、ためになったとか、そういうファンレターもたくさんいただいた。
 ボクに直接じゃなくて、社長を通じてだけどね。

 そして、社長の話を聞きたい、という「お客」も出てきた。
 講演会に呼ばれたりもするようになった。
 本も出版した。
 定期開催のセミナーに参加してくれる人も増えた。

 さらに面白かったのは、漫画劇中の「ボクが創作した社長」を、社長本人が自分自身だと思い込み始めたことだ。

 いや、確かに社長がモデルなんだけど、でも劇中の社長はボクが創作したキャラなのよ。本物とは違うの。
 だいたい、アナタは犬に化けたりしないでしょ。

 それでも社長は「社長」化していって、漫画の中でボクが感じたこと、ボクが伝えたかったことを講演で喋ってくれている。
 自分の言葉として。

 ありがたいことだ(笑)。

 

鉄火丼の思い出

 漫画が完成したとき、社長はボクを招いて接待してくれた。
 高級寿司をオゴるから、と。

 でもボク、鉄火丼が好きなの。だから鉄火丼でいいって。
 カウンターで時価いくらみたいなネタを握ってもらうより鉄火丼が好きって言って、一緒に鉄火丼(特上)を食べた。
 美味しかったなぁ。

 何より、社長に心から喜んでもらえて、読んでくれた人にも喜んでもらえたっていうのが、最高の味だったからね。

 そして、それ以上に、初めて自分自身が思うこと、作者として伝えたいことを自由に描けたことが嬉しかった。

 もちろん、広告漫画だから広告の部分は忘れるわけにいかない。
 だから題材は選べない。

 でも、作品自体は本当に自由にやれたんだ。

 『失敗社長』は広告用として企画された作品だけど、アレはボクのオリジナル。
 普通の漫画とほとんど同じ。広告主じゃなくて、ボク自身の想いを込めた作品なんだ。

 そういう仕事ができたことが誇らしい。

 あ、今も社長とは仲良しだよ。もう年金暮らししてもいいお歳だけど、今もコンサルは続けていらっしゃる。
 もしかしたら、もう一幕あるのかもしれないけど、それはそれとして、いつまでもお元気でいて欲しいなぁ。

 またいつか鉄火丼食べましょう。
 今度は割り勘で。

(「広告漫画家物語15」につづく→)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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