広告漫画家物語12:広告まんが道のはじまり

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広告まんが道のはじまり

 ……ようやく、ようやくココまで来たよ。

 広告漫画について書いてるのに、ソレを書ける段階になるまで、どんだけかかったんだか。

 でもね、スタートから書くしかなかったんだよ。

 今ボクがやってること、やったことっていうのは、全てがそれまでの体験の積み重ねの上にあるものだから。

 結果だけ披露しても何にもならないと思うんだ。
 なぜ、そう考えるのか、なぜ、そういうやり方なのかは、その人ごとの体験や経験に基づいてるわけだから、過程の部分を伝えなきゃ何の参考にもならない
と思うのよ。
 過程を知っていれば「自分の経験は全然違うから真似しないほうがいいな」とか「参考にしたいから同じようなことを体験してみよう」とか、考えることができるでしょ。

 さて、ここまでの間にもポツポツと広告や広報の漫画は手掛けていた。

 ただ、年に2~3回程度のポツポツであって、あまり稼ぎにはなっていない。稀に大手企業の100ページの大作(冊子全体では100ページで、これは広報漫画としては十分に大作なのよ)とかも混じってるけど、漫画にこだわってきた割には数は少なすぎるレベルだったんだ。

 でも、先の会社社長時代から、ボクはボク自身を売るようにしてきて、そうしてから広告漫画の仕事もそれなりに入ってくるようになった。

 ほぼ毎月、何らかの漫画の仕事がある。
 そうなっていったの。あんだけ売れなかったのに。

 もちろん、大きい仕事ばかりじゃないよ。
 1ページだけとか、イラストだけとか、そういう仕事のほうがずっと多い。

 けど、連載などの継続した案件や、それなりのページ数のある案件も入ってくるようになって、平均すると毎月20枚前後は描いている。
 そんな感じになったんだ。
(漫画だけやってるなら月20ページでは全然足りないのだけど、ウチの場合はWEB制作とか普通の広告制作もあるので、20ページで十分なのよね)

 そういう仕事の1つ1つに、色んなノウハウが詰まっている。
 大きな仕事も小さな仕事も、全部が後の財産になってる。

 経験値。それが一番の武器だからね。

 その1つ1つを披露しているとキリがないから、主立った例、面白かった例をピックアップして紹介しよう。
 あ、一部を除いてクライアント名などは伏せさせていただく。お世話になった方にご迷惑かけたくないからね。勘弁してね。

 さて最初は……4コマギャグをいっぱい描いたアレかな。

 

WEBサイトで4コマギャグ連載

 ウチのホームページのお問い合わせメールフォームを通じて連絡してくれたお客だった。

 この件に限らず、ウチの場合はほとんどがそうだ。
 メールで問い合わせが来る。それに返信して、次に直接会ってみて、お互いにOKなら仕事になる。
 そういう感じ。

 このお客さんは旅行代理店。

 と言ってもフツーの旅行代理店ではなく、海外のオプショナル・ツアー専門の代理店。
 現地のツアー会社やガイドが運営しているアクティビティを紹介し、ネット予約を代行してあげる。
 そういうサービスをしているんだ。お客とは直接会わない。
 オンライン専門の代理店。

 ネットで現地ツアーを予約すると、確かに予約した本人だというのを証明するための文面がメールで送られてくる。
 バウチャーというヤツで、本人確認のためにプリントアウトして持っていく必要がある。

 ところが、ソレを忘れちゃうお客が多いんだって。

 注意事項として「絶対忘れないで!」と書いているのに、みんなソコを読まない。
 オンラインサービスの「ご利用規約」みたいなモンだと思って、読み飛ばしちゃうんだよな。

 そこで、この会社の社長さんは「その手の読み飛ばされては困ることを漫画にして、読みやすく、目立つようにする」ことを思いついた。
 そういう漫画の描き手としてボクに白羽の矢を立てたわけだ。

 けど……実際に会って要件を聞いている間に、ボクはちょっと不安になった。

 いや、相手が不安を感じていることを察したという感じかな。

 コイツで大丈夫なのか?
 こっちの課題を解決できるのか?
 ど~見てもフツーの冴えないヤツにしか見えないぞ。

 言葉のあちこちから、そういう不安を感じているのを察しちゃったのよ。

 なので、ボクは、その場で漫画のアイデアのいくつかを話した。

 そういうコトなら、こういうふうに描けばいいのでは?
 他にも、こんなやり方もありますね。こう描くと読者はこう反応すると思うから、それをあ~して、こ~すれば……と、漫画だけでなくWEBの知識も総動員してライブで提案した。
 もちろん、その場の思いつきを喋ってるだけで、それが起死回生の一手というわけじゃない。

 でも、そういうコトを喋ったおかげで、相手は少し安心したようだ。
 少なくとも素人じゃないな、と。

 それでも、まだ信用されたわけじゃない。

 とにかく、一度使ってみてくれ。
 4コマを2つ。まずはソレだけでいい。
 ソレがダメだったなら、もう忘れてくれていいから、まず味見してみてくれ。

 そう言って商談をまとめた。

 そしてボクは2つの4コマ漫画を描いた。
 解説役のキャラクターには、同社のシンボルになっている犬のマスコットを使わせてもらった。

 そして、ボクの狙い通り……かどうかはハッキリしないけど、少なくともクライアントが満足する反応は出たらしい。
 社長さんはボクの力を認めてくれて、次からは同社が扱っているそれぞれのツアーを紹介する4コマをたくさん描かせてくれることになったんだ。

 いやぁ、楽しかったなぁ。
 キチンと数えてないけど、最終的に100本以上、描いたと思うよ。

 全部ギャグ漫画。

 最後のほうでは4コマどころじゃなくて1本が12コマくらいになった。

 これはWEBサイトを管理・運営している現場の声でそうなったの。

 漫画は1コマずつ、WEBページに縦に並べている。
 バナーみたいな感じで、色々なツアー紹介ページに表示されるんだ。

 閲覧者はついつい漫画を読んでしまう。
 そして漫画を読み進めるために画面をスクロールさせてしまう。
 すると、その隣りに表示されている記事も目に入る。
 ツアー紹介、利用者の声、注意事項などなど、様々な情報を見せることができるんだ。

 なので、閲覧者にスクロールさせるためにも、4コマどころか、もっと長いほうがいいのではないのか。
 そうすれば漫画を追いかけて、画面をどんどんスクロールして、見るつもりがなかったトコまで見てもらえるんじゃないのか。
 現場のWEB担当者から、そういう意見が出てきたのね。

 なるほどな~、というわけで、縦に長~い漫画をたくさん描いたの。
(結果から言うと長けりゃいいってもんでもなくて、たぶん8〜10コマくらいが限界。それ以上だと読者がじれったく感じて読むのを止めちゃうことがあるんだ)

 漫画の内容は、その都度ネームで確認してもらっていたけど、修正や変更を要求されたコトはなかったな。
 好きなようにやらせてくれた。

 マニアックなギャグとか、時にちょっと危ないネタとかもあったんだけど、それも許された。
 いや、あのネズミの国の本国のソレとか紹介するとなると、危ないネタにも踏み込まざるを得なくてさ。
 地雷原に踏み込んで、地雷をギリギリで避けつつ進む、みたいなときもあるのよ(笑)。

 

ギャグの力

 この仕事では「ギャグの力」というのを再確認できたよ。

 人間、興味ないことは覚えないんだ。
 大事なコトだといくら言っても、興味を持てなきゃ覚えない。
 一度は覚えても三歩で忘れちゃう。

 でもね、くだらないダジャレとかは覚えてるのよ。
 全然大事じゃないのに、ソッチは覚えてる。

 ノルマで押し付けられることよりも、アホらしい、笑った、楽しんだっていう記憶のほうが強いんだよな。

 だからソレを利用する。
 ギャグを使って印象づける。
 ネタとして記憶に残す。

 大事なこと自体は忘れても構わない。
 ダジャレやギャグのほうを覚えていれば、そこから連想ゲームのように大事なことも思い出すから。

 ギャグを使って、そういうふうに学習させられるのよ。
 それも無理やりではなく、楽しませながら。
 本人には大事なことを学んでいると気付かせることもなく。
 それでいて忘れないようにできるんだ。

 最終的に、この会社とは8年くらい取引が続いた。
 8年目で終わっちゃったのは、社長さんがね、会社を丸ごと売り渡して、悠々自適の引退生活に入ったから。

 事業は今も続いているけれど、運営会社が丸ごと変わっちゃって、サイトもまるで別なモノになったので、ボクの役目も終わったという感じだったの。

 でも、漫画だけでなくて、ちょっとした広告とかも担当させてもらったし、サイトその他で使うたくさんのイラストも描かせてもらったので、取引量はかなりのモノだったよ。
 漫画がウケていたから、そういうのも全部漫画のキャラで展開してくれたからね。
 元々会社のマスコットキャラを拝借して漫画のキャラにアレンジしたのに、いつの間にかボクが描いたキャラのほうがメインになって広まっちゃった感じ(だからこそ、別会社の運営になって社名もマスコットも変わったから、ウケがよくてもボクの漫画を使い続けられなかったんだけど)。

 なお、会社を売却して莫大なお金を得て、悠々自適の日々に入った社長さんは、やっぱり引退には早いと、また新たな事業を立ち上げて、そっちの仕事でもボクを呼んでくれて、これまた面白い仕事をさせてもらったんだけど、それはまた別の物語 (笑)。

 

「一般の人がイメージする漫画家」のコスプレを始めた

 それと……この仕事を引き受けた直後から、ボクは髪を伸ばし始めた。
 今では、ちょっと油断すると飛天御剣流が撃てそうなくらいに伸びている。

 え? 何の関係があるんだって?

 いや、ボクも髪を伸ばしたかったわけじゃないのよ。
 つ~か、自分が長髪のポニーテールになるなんて、このときまで考えたこともなかったよ。

 でもねぇ、先に書いたように社長さんは最初、ボクに不安を感じていたんだ。
 ボクがフツーの人で漫画家に見えなかったから。

 いや漫画家だってフツーの人間なんだよ!
 ツノなんか生えてね~し、爪がGペンになってたりしね~んだよ!

 でも……それでもねぇ。

 広告漫画の仕事で出会うお客は、漫画とは関係ない世界の人たちだからねぇ。

 彼らにしてみれば芸能人と会うとか、珍獣と会うとか、そういう感じなのよ。
 そのくらいレアな出会いなのよ。

 なのに芸能人に見えない、珍獣どころかフツーにしか見えないようだと、やっぱガッカリするじゃん。
 スペシャルなコトなのにスペシャル感がないんだよ。ソレっぽくないんだよ。

 そのせいで、アレコレ余計な心配をされがちなんだ。

 「アンタ本当に漫画家なの?」と、根掘り葉掘り。
 何とかしてコイツを信じていい理由を見出そうとしてるんだよね。
 だけど、口先で何を言われても本当に信用できるわけじゃなくて、それで素人には口出しできないハズのトコまで口出ししてきて、そのせいでもっと心配な状況になって……と、厄介な展開になりやすいの。

 もちろん、それは後で解消されるんだよ。
 この社長が最終的にボクを信用して長く仕事を任せてくれたように。

 けど、そうなるのは一旦何もかもが終わった後なんだ。
 作品を仕上げて、それが実際に広告物になって出回って、それなりの反響を得て、その結果を見て信用する気になる。
 いい結果が出たから次からは信じよう、ってコトだね。

 あくまでも「次から」なんだ。
 最初の仕事のときは不安なままなの。

 まぁ、それは仕方ないけどね。

 見ず知らずの誰かに自社の運命を委ねるなんてことは、それがいくらの仕事であっても不安なモノなんだ。
 それが当たり前。こっちにとっては数ある仕事の1つに過ぎなくても、先方から見れば滅多にないコトなんだから。

 だから不安。慣れてないから不安。
 任せる相手がフツーすぎるから不安。
 いや、フツー以下だから不安。

 なんせ漫画家なんて種族は、パリっとしたスーツに身を固めていたりしないからねぇ。
 むしろダラっとした洗いざらしのままの服を着て、オンタイムとオフタイムが区別できてなくて、ボケっとした顔してる奴のほうが多いもん。
 そりゃ不安がられるでしょ。

 そういうのは仕方ないとは言え、不安や不信から仕事が始まるのは、あまり望ましくない。
 完全に不安を解消するのは無理だろうけど、少しでも軽減したい。

 だからボクは「一般の人がイメージする漫画家」になることにしたの。

 髪を伸ばした。
 服装も作務衣にして、雪駄を履いた。

 そういうスタイルをトレードマークにすることにしたんだ。

 つまりコスプレ。
 世間一般がイメージしがちな作家のコスプレ。
 カタギの会社に勤めているはずがない姿。
 世間的に見て非日常なスタイル。

 まぁ、コケおどしなんだけどね。

 でもボクが、パリっとしたスーツを着てビシッとキメても、絶対キレモノには見えないだろうから、やるんなら逆を突くしかないのよ。
 つ~か、スーツがサマになったとしても、それはそれでフツーであって、不安解消にはならないハズだし。

 服装だけじゃなく髪まで伸ばしたのは、そこまでやらないとガチっぽくないって思ったから。
 服だけの小細工では本気度が足りない。演出不足。
 どうせやるならもうちょっと踏み込まないと、と思ったの。

 最初にイメージしたのはデーモン小暮閣下なんだけど、メイクまでするのは面倒すぎて。毎日のことだし。
 そんで、髪を伸ばすだけにした。これなら無精なボクでも、ほっとけば伸びるから。
 洗うのは大変だけどさ。

 作務衣と雪駄にしたのは、それならギリギリ受け入れてくれると思ったから。
 ガチっぷりを示すアイコンっていうだけなら、萌え萌えのTシャツ着て、人気キャラの缶バッジがいっぱい付いたバッグ持ったりする手もあると思うんだけど、それだと別な意味で不安に思われそうだったから、やめた(笑)。

 それに作務衣&雪駄って、意外に便利なんだ。フォーマル気味の場所でも許されちゃうようなトコがあってね。
 お客さんの中には取引先を招いて、お洒落なガーデンパーティを開くような会社(外資系にはけっこうあるんだ)だっているんだけど、そういうときも作務衣だと、そのままでオッケーだったりしてさ。
 すげぇラクなのよ。

 そんなわけで、このときから十数年、ボクは髪を伸ばし続けている。

 続けているのは、実際に効果を感じられたから。

 大会社にも研究所にも、ロング・ポニーテール&作務衣&雪駄で、ぺったぺったと訪ねていく。
 会議室にも社長室にも、ぺったぺった。
 そんな恰好で社長室に入ったのはオマエだけだって、言われたこともあったな。
 でも、フツーの恰好してた頃とは、明らかに反応が違うのよ。

 ある印刷会社社長は、ボクが帰った後に部下から「い、今の方は一体どなたですか?」と訊かれたと言っていた。
 今までは「アイツ誰?」程度だったのに。
 いや、ほとんどの場合は、お会いした当人以外に関心を持たれたことはなかったのに。

 当然ながら、会った本人の反応も違うの。

 何かフツーじゃない人来た!って感じるみたい。「ホントに漫画家なの?」と疑われることもなくなった。
 まぁどう見てもフツーの仕事してるはずがない恰好だからねぇ。
 フツーじゃない=漫画家ってコトだね(笑)。

 商談も、若干ラクになったかな。

 自分が漫画家だってわかってもらうところから取りかからなきゃならないのと、最初から漫画家です、プロですって思ってもらえるのでは、まるで違う。

 コッチの言葉が、いちいちプロの言葉に自動変換されて相手に届くんだから。
 バカトークしてても、今まではタダのバカだったのが、今はプロならではの余裕に聞こえちゃうみたい。
 中身はバカのままなのにな~。

 もっとも、ボクの営業トークも多少は変わった。
 意識して変えたわけじゃないけど、変わったと思う。

 相手がコッチを受け入れている、漫画家だと思って話しかけている、漫画家の言葉を聞きたがっていると分かると、コッチもそういうトークになっていくのよ。
 相手が誰でも緊張せず、肩の力を抜いて、自然体で喋れるようになった。
 そうなると、ますます頼りがいがありそうに見えるらしく、スムーズに打ち合わせができることが多くなったの。

 もちろん、いつも上手くいくわけじゃないよ。
 フツーじゃないことを嫌う人だっているからね。
 そういう相手だとボクの恰好は火に油を注ぐようなモンで、以前以上に毛嫌いされることだってある。

 だけど、そこでダメなら元々ダメなのよ。
 髪を切ってマトモな姿になったところで、ボクがフツーじゃない仕事をしているフツーじゃないヤツであることは変わらないんだから、どこかで必ずぶつかる。

 それも多くの場合、お互いに引き返せない段階になってから。
 それで互いにイタくて不快な思いをする。
 せっかくの仕事も黒歴史にしかならなくなる。
 そんな仕事ならやらないほうがマシ。

 フツーじゃない姿のボクを受け入れるかどうか。

 別に私生活まで付きあえって言ってるわけじゃない。
 仕事の間だけ受け入れてくれればいい。それが出来るかどうかを見る。

 そうやって客を測ることもできるのよ。
 自分に合う客に絞り込むの。

 そういうわけで、ボクはこのときからずっと髪を伸ばして、作務衣を着て、雪駄を履き続けている。
 今現在、お付き合いさせていただいているお客様たちは、そういうボクを受け入れてくださった方々で、気持ち良くお付き合いできるし、それだけ本気も出しやすいの。それで「いい仕事」になりやすく、だから結果でも信用してもらえる。

 ありがたいなぁ。本当に感謝だ。

 

(「広告漫画家物語13」につづく→)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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