カソクキッズ15話:ニュートリノをご案内、あっちが神岡

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あっちが神岡……

 カソクキッズでニュートリノをテーマにする事にしたので、その実験に使われた場所を見学に行った。

 古びた廃屋みたいな建物。
 その手前には古墳のように盛り上がった地面が続いている。

 その下に加速空洞が埋まっていて、この建物の地下にあるターゲット(タングステン)に陽子ビームを打ち込み、パイ中間子を生み出す。
 パイ中間子が崩壊すると、ニュートリノとミュー粒子になり、そのニュートリノを約250km先の岐阜県神岡の地下1000mにあるカミオカンデ(現スーパーカミオカンデ)に打ち込んでいたのだ。宇宙創成の謎を解きあかすために。

 この実験は「K2K実験(KEK to Kamioka)」と呼ばれていて、その後、茨城県東海村の「J-PARC」に引き継がれ「T2K実験(Tokai to Kamioka)」となった。
(そっちも後に見学させてもらった)

 なので、この建物は今は使われていない。一般公開等でも公開していない。
 本来は立ち入り禁止。
 けど、特別に実験棟に入らせてもらったのだ。

 廃屋マニアが喜びそうなドアを、そっと開ける。薄暗い内部。
 だが、そこは科学最先端の実験が行われた場所だ。どれほどのスゴイ設備が眠っているのだろう。
 歴史的な場所に足を踏み入れる、そういう気持ちでドアをくぐった。

「あっちが神岡」

 デッカく、そう張り紙してあった。

 い、いや、そりゃそ~なんだろけど、科学最先端でしょ、あっちって……。
 幼稚園の出し物じゃなんだから……。

 スゲ~ことやってるのに、なんとなくマヌケなノリ。
 面白いから、そのまま漫画のイントロに使った。

「あっちが神岡」。
 いい言葉だなぁ。

 

ニュートリノはおニューなトリノじゃない!

 最近は名前を知ってる人も増えてきた感のあるニュートリノ。
 幽霊みたいに何でもすり抜けちゃう素粒子で、光速で飛び回っていて、地球にも山ほど降り注いでいる。

 ちなみにニュートリノは「ニューなトリノ」じゃなくて「ニュート(中性)でリノ(小さい)」ってことだからね。
(エラソーに言ってるが、これを描いた頃のボクはニュートリノとタキオンを混同してたトコがあって、保護者会でバカな発言をして博士たちを困惑させた覚えがある)

 さて、このニュートリノは何でも素通りしちゃうけど、ものすごく稀には何かにぶつかることもある。

 その稀な機会をキャッチするための施設が、岐阜県神岡の地下1000メートルにある「スーパーカミオカンデ」だ。

 ちなみにスーパーカミオカンデは「スーパー(Super)」「カミオカ(Kamioka)」「ンデ(Nucleon Decay Experiment)」だよ。
(劇中で描いたように、会議で「なんでンデ?」とツッコんだのだが、ボケたつもりがフツーに返事が返ってきてミョーな敗北感を味わったものだ……)

 スーパーカミオカンデには、5万トンの純水(何も不純物がない純粋な水)が蓄えられていて、そこをニュートリノが通過した際に、稀に水素原子などにぶつかることがある。その反応をキャッチして、ニュートリノの性質などを調べようというわけだ。
 地底に作ったのは、大気中にはミュオンなど、他の素粒子もあって観測しにくいから。

 KEKからニュートリノビームを打ち込む「K2K実験」をしていた頃は、まだカミオカンデはスーパーではなかった。純水も3000トンしかなかった。
 それを大幅にパワーアップさせ、ビームも東海村のJ-PARCから、さらにパワーアップして打つようになったのが、その後の「T2K実験」なのだ。

 大気中をいっぱい飛んでるニュートリノを、わざわざ施設で生成して発射するのは、そうしないと、どれだけの量のニュートリノを打ち込んだか、わからないから。

 ちなみにニュートリノは何でもすり抜けるんだから、東海村から打ち出されたニュートリノの大半は、カミオカンデもすり抜けて、さらに地球を貫いていく。
 なので韓国では、その延長線上に実験施設を設置して、こっちが発射したニュートリノを利用して研究したりもしてるらしい。う~ん、賢いというか、ちゃっかりしてるというか(笑)。

 それと……しつこいほどに言っとくけど、ニュートリノは何でも通り抜けるんだからね。
 何でも通り抜けるってことは、他のものに物理的な干渉を及ぼさないってことだからね。

 いや、311の大震災の後に、長野県でも大きめの地震があったでしょ。
 そのときにね、ネットに「震源地はT2K実験のニュートリノ軸線上にある。怪しい」などという意見がチラホラしてたのよ。

 ニュートリノ地震兵器説。
 いやいやいやいや……。

 もっとも、本職の研究者の中には「地球大気圏外に富士山の直径よりデカい円形加速器を作って、大量のニュートリノビームを生成して全世界に発射すれば、世界中の核兵器を一気に無効化できるはずだから、やっちゃおう」などいう説を唱えた方がいらっしゃったようだから、地震兵器はないにしても、ニュートリノにまつわる無茶な妄想は、けっこうあるのかもしれない……。

 

陽子崩壊とシャッフルユニットとパパラッチ

 スーパーカミオカンデといえばニュートリノ実験、というイメージがあるけど、実は元々の目的は違う。

 カミオカンデは「陽子崩壊」を観測するための施設として生まれたのだ。

 宇宙が生まれたときには、この世の全てが1つだった。
 今では重力、電磁気力、強い力、弱い力の4つに分類されている力も、最初は1つだったはず。
 そして、そうならば陽子や中性子を構成しているクォークなどの素粒子と、電子やニュートリノなどの素粒子が相互に入れ替わる現象があるはず、と考えられている。
 つまり、陽子が崩壊して別の粒子に変わる「陽子崩壊」が起こっているはずなのだ。

 だけど……。

 陽子って頑丈なのよ。
 壊れないのよ。長生きなのよ。

 どのくらい長生きかはハッキリしてないんだけど、10の30乗年分以上の寿命だと言われている。
 つまり1000000000000000000000000000000(ゼロが30個)年よりも長生きらしいのだ。
 宇宙の寿命でさえ200億年くらいだと言われているのに、陽子は宇宙の1兆倍のさらに1億倍もの寿命なのだ。

 長生きすぎる!!

 けど、全部の陽子が長生きというわけじゃない。
 これは確率なのだ。
「1個の陽子が10の30乗年後に崩壊する確率」と「10の30乗個の陽子の1個が今すぐ崩壊する確率」は同じなはずなのだ。

 だったら、10の30乗個の陽子を観測すれば、1個くらいは壊れるところを確認できるかもしれない。

 そう考えて作られたのが「カミオカンデ」なのだ。

 元々の、スーパーじゃなかった頃のカミオカンデには、3千トンの純水が蓄えられていた。
 3千トンの純水の中には、10の32乗個くらいの陽子が含まれている。

 これを全部チェックしてれば、1年に数百個くらいは崩壊してくれるはず!
 誰も見た事のない陽子崩壊を、宇宙の終焉まで観測しても壊れないはずの陽子の最後を、確認できるはずだ!!
 それに成功すれば、科学者の夢「大統一理論」が完成する! ノーベル賞は間違いなし!!
 
 というわけでカミオカンデは稼働したのだけど……

 全然、陽子崩壊は観測できなかったんだよね……。

 どうも、予想より陽子はさらに長生きらしいんだ。

 少なくとも、日本海丸ごとくらいの水に含まれる陽子を全部チェックしないとダメっぽい
 でも、そんな超巨大施設の建設は、いくらなんでも不可能……。

 それで陽子崩壊の観測はあきらめて、ニュートリノ研究に切り替えたわけ。

 でも、なんとかして陽子崩壊を確認しようという研究は世界中でも行われているから、いつか本当に陽子の最後を見る事ができるかもしれない。
 それにニュートリノ研究だって、宇宙の謎を解き明かす上で重要なことだしね。

 


※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。

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