小説版イバライガー/第15話:悪夢、再び(後半)

2018年3月19日

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Bパート

 PIASは躊躇なく、トリガーを引いた。
 セッティングは散弾だ。この距離なら、顔面はぐしゃぐしゃになって吹き飛ぶ。

 だが、ルメージョは微笑んだままだった。

 連射する。ルメージョは嗤い続けている。
 何かの力が、弾をはね返している。

 ソウマは接近戦に切り替えた。
 ESがある。奴の動きは読めるはずだ。左にかわすはずだ。そこを斬り裂く。

 しかし、杖が突き出された。壁に叩き付けられてようやく、自分が吹き飛ばされたことに気づいた。
 ゴーストたちが跳ねる。先を読め。かわせ。

 だが、何も見えなかった。気配がない。感情がない。
 氷のオオカミたちは実体も希薄で霧のようだ。動体センサーでも捉えにくい。
 噛み付かれた。ダメージはほとんどない。だが、こちらの攻撃もほとんど効いていない。
 バカな。そんなはずはない。

 光が見えた。周囲のゴーストが消滅する。
 シンとワカナ。

 そんなバカな。このPIASが、生身の人間より劣ると言うのか。
 よろめきながら立ち上がった。
 オレは力を得たはずだ。こんな女に勝てないはずがない。

「バカな人間ね。そんなオモチャが何の役に立つというの? あんたよりはワカナたちのほうがずっとマシよ。ねぇ、ワカナ。少なくともあなたたちは、エモーションを使いこなしているものねぇ。まだ未熟ではあるけれど……」

 エモーションだと?
 そのエネルギーならPIASにも使われている。いや、感情エネルギーは、全ての人間が持っているはずだ。
 何が違うと言うのだ。エキスポ・ダイナモとやらのせいなのか。
 だが、シンたちにはそんなモノはない。

「何もわかってないのね。そう、エモーションは誰にでもある。ポジティブも、ネガティブもね。だけど、その力を本当に発揮するには、エモーション自身に認められなければならない……」

 ルメージョが近付いてくる。
 エネルギーが認める? 何を言っている?

「イバライガーはね、ヒューマロイドだから強いんじゃないのよ。彼らはエモーションの使徒。エモーションの意思を、その身に宿した者たちなのよ。そしてそれは、私たちジャークも同じなの」

 息を吹きかけられた。それだけで全身が凍りついたようになる。動けない。
 バカな。バカな!

 エネルギーは十分にあるはずだ。エモーションの意思とはなんだ? テクノロジーでは勝てないというのか。
 ジャークを倒す力は、何か別のものなのか。

 それでも、折れるわけにはいかない。何もなくても、化け物に好きにさせることは我慢がならない。
 世界のためじゃない。誰かのためでもない。オレが、お前らを許せない。動け。オレは戦える。オレに従え。

「おや、今の気配……。そうかい、どうやらお前は、イバライガーよりも私たちに近いみたいだねぇ。それでいてネガティブの波動に囚われてもいない。面白い存在かもしれない。もう少し早く知っていれば調べてみたい素材だったんだけどねぇ」
 言い捨ててルメージョは、シンたちに向き直った。

「ふふふ……シン、ワカナ。あなたたちもイバライガーや私たちと同じ、エモーションの申し子なのよ。自分でも気づいていたはずよ。他の人とは違うって。あなたたちは『こちら側』にいるべきなのよ」

 ルメージョの気配が変わった。凄まじい悪寒。
 何かが起こっている。

「……ただ、私たちとあなたたちでは仕える神が違うのよね。ジャークはネガティブ、イバライガーはポジティブ。同じ力の光と影……。だから相容れない。同じでありながら、永遠に引き裂かれる運命……。『ナツミ』にそんな思いをさせたくなかったんだけどねぇ……」

「何を……企んでいる?」
 シンがうめくように問い掛けた。

「その神にもうすぐ会えるということよ。あなたたちも、そのつもりだったんでしょう? そのためにミニライガーたちにエネルギーを蓄えさせていた。それを手伝ってあげるわ」

 言葉とともに、強烈な風が吹き下ろされた。
 破片が舞い上がる。コンクリートが抉れていく。隠し通路のマンホールが吹き飛ぶ。
 そこに風が流れ込んでいった。

 全てが崩れ落ちる。
 その中でルメージョの笑い声が聞えた。

「うふふ……あははは!! 残念だったわねぇ! 目覚めるのは初代イバライガーじゃない! 新たな力をその身に宿して、今こそジャーク四天王全てが目覚めるのよっ!!」

 


 壁に亀裂が走った。様々なものが落ちてくる。ビル全体が、地震のように振動している。
 マズイ!! マズイ!! マズイ!!

 カオリは必死だった。あと少しだ。
 夜食を隠しておいた箱が頭にぶつかった。お菓子が散らばる。
 それでもモニタとキーボードに集中する。

 背後の壁が吹き飛んだ。
 風が、槍のような風が、いくつも貫いてくる。槍は部屋中に突き刺さり、崩していく。

 エドサキ博士が腕を掴んで引っ張った。もうやめなさい。逃げなさい。そう言ってる。
 返事はできなかった。何故かはわからない。きっと集中しているからだ。

 心の中で叫んだ。ダメ、これが終わるまではダメなんです。
 完璧に計算したデータを、イバライガーRやイバガールに委ねるまでは、死んでも動けないんです。

 エドサキ博士が倒れた。怪我をしたのかも。
 風がこっちに来る。まだ来ないで。計算が終わるまで来ないで。

「イモライガァアアア! シールド!!」

 声が聞えた。マーゴンさん、いや、今はイモライガー。とにかく私を守ってくれてるみたい。
 エモーションの力はイモライガーにもあるんだ。いつもふざけていてネアカだから、もしかしたらポジティブの力は強いのかもしれない。

「いや、そんなに強くないから! いつまでも持たないから! 早くしてぇえええっ!!」

 ナニ? 心の声にツッコまないで。
 いやもう、どうでもいい。とにかくデータを仕上げる。それ以外は何も考えられない。

 息が苦しい。意識が遠くなる。
 でも、あと1つ。

 最後のキーを叩いて、カオリは気を失った。

 


 怖かった。それでもカオリを襲う風を、かろうじて止められた。
 今は気を失って倒れているだけだ。
 呼吸困難。食べるのとコンピュータを操作するのとで夢中になって、飲み込むのを忘れたらしい。
 顔が、冬眠前のリスのように丸く膨らんでいる。

 イモライガーは、口の中のオニギリをしゃもじで掻き出してやった。
 なんでしゃもじを持ってるか? そんなことは聞くな。それにしても、相変わらずオイシイとこを持っていく子だ。

 エドサキ博士は、腕をちょっと切っただけで済んだみたいだ。
 でも、他には手が回らない。まだ風は荒れ狂っている。

 シンは? ワカナは? イバライガーはどこ行った?
 ナンマイダナンマイダ~~。消えて。風消えて。イモライガーは祈り続けた。

 圧力が消えた。静寂。
 祈りが通じた?

 そう思った瞬間、通路側の壁が吹き飛んだ。
 瓦礫の向こうに、ミニライガーたちのカプセルが見える。ヤバイ!

 イモライガーは走った。

 駆けつけてどうする? ボクじゃジャークに勝てない。それでも行かなきゃ。あのチビたちが危ない。
 パンツをズリ下ろされた。ゲームの邪魔された。水着ギャルのDVDにアニメを上書きされた。それから、それから……。

 いやダメダメ! ナニこの走馬灯。動きもスローモーションになってる気がする。
 そういうのダメだってば!!

 手を伸ばす。伸ばしてどうする?
 わからない。あとちょっと。

 だが、そこでカプセルは砕けた。
 光が迸る。何も見えない。

 


 ルメージョは消えた。
 何かが起こった。よくないことが。

 レシーバーが鳴っている。雑音だらけ。
 前にも同じことがあった。思い出したくない。それでも声は聞える。

 ガールの声だ。でも、いつものガールじゃない。
 叫んでる。悲鳴みたいに聞える。

「……ワ……カナ! シ…ン……!! 早く……逃げ……!! 空……上空……危な……い……!!」

 何かが起こっている。
 とても、よくないことが。

 あらゆる場所に、亀裂が走っていた。ビルが鳴動している。
 もうすぐ全体が崩れ落ちるだろう。

「つかまれ。脱出する」
 ソウマがつぶやいた。背中に折り畳まれていたウイングを展開する。緊急離脱用のものらしい。

 PIASはシンとワカナを抱きかかえると、ブースターを全開にした。
 ロケットの打ち上げのようなものだ。長く飛べるわけではなく、飛び上がった後は、ウイングで滑空するのだろう。

 地上に飛び出した。そのまま舞い上がる。
 見下ろす。マーゴンやカオリたちが逃げ出してくるのが見えた。

 Rやガールも見える。みんな無事だったか。
 TDF隊員たちが倒れているが、死んではいないようだ。守り抜いてくれたか。

「シンッ! 上!!」
 ワカナが叫んだ。見上げる。PIASの身体に隠れて、よくは見えない。

 光の柱が、ビルを貫いて空へと伸びている。光は、球体の内部へと吸い込まれていくように見えた。
 その周囲を氷嵐の渦が覆っている。ガールがウインド・フレアでやろうとしていたことだ。
 ルメージョも、風の力で真空の加速トンネルを作り出している。

 わずかだが、渦の外周に煌めきが見える。
 ミニライガーのエネルギーとルメージョのエネルギーが接触する部分が対消滅しているのだろう。

 ドクン。

 球体が脈動した。脈動しながら膨らんでいく。
 すでに直径は数百メートルに達していた。まだ成長し続けている。

「ソウマ、降ろせ!」
 降下していく。地上が近付いたとき、シンもワカナも、PIASの腕を振り払って飛び降りた。
 そのまま駆ける。

「R! ガール!!」
「シン! ワカナ! よく無事で……!!」
 イバガールが、二人を抱きしめた。

「再会を喜ぶのは後だ。R、『奴』はどこだ!?」
「わからない。気配を殺しているらしい。だが、近くにいるのは確かだ」
「うん、来てるわね。すぐそばに」
「奴って……まさか……!?」

 ワカナが周囲を見回した。崩れていくビル。立ちこめる粉塵。逃げ惑う隊員たち。
 でも、探している姿は見当たらない。

「いるさ。アイツが黙って引っ込んでいるはずがねぇ。恐ろしいヤツだが、今はアイツだけが最後の希望ってやつだ」

 


 ルメージョは混乱していた。

 大量の人間たちから集めたエモーション・ネガティブ。
 イバライガーたちが集めていたポジティブ。

 その2つを対消滅させれば、莫大なエネルギーを生みだせる。時空の狭間に眠る大いなる力を呼びだせる。
 それで世界は終わるはずだ。イバライガーたちが、どれほどの力を身に付けようが、世界そのものが変わってしまえばどうにもならない。

 狙い通りだった。タイミングも誤っていない。

 だが、今の反応は違う。

 大きすぎる。
 どこかから、計算外のエネルギーが流れ込んでいる。
 これでは生まれ出たものまで、特異点に吸い込まれてしまう。

 そうであってもダマクラカスンは蘇るだろう。以前よりも遥かに強くなっているはずだ。

 しかし狙っていたのは、それではない。
 ダマクラカスン自体を依り代に、さらなる力を現出させる。
 時空の狭間に眠る最強の四天王『アザムクイド』。
 世界を変える者が降臨し、全てが終わるはずだった。全てが始まるはずだった。

 邪魔をされた。
 ルメージョは怒りに震えた。よくも。よくも……!!
 叫んでいた。

「……やってくれたねえぇええ! イバライガーブラックゥウウッ!!」

 

ED(エンディング)

 ビルの屋上から、激しい輝きが迸った。

「あ、あれは……イバライガーブラック!!」

 凄まじいエネルギーが、凝縮されている。この反応。
 オーバーブースト!?

「へへへ、そういうこった!」
 崩れかけたビルの中から、ミニライガーブラックが現れた。ねぎを抱いている。

「お、お前、今までドコに……」
「切り札は最後まで見せないモンだろ。とにかく、こいつを頼むぜ。オレ様は、ちょいと忙しくなるからな」
 ミニブラックはワカナにねぎを預け、空を睨んだ。

「何をするつもりだ?」
「決まってんだろ。あの黒いのをブッ飛ばすんだよ!」

 言うとともにミニブラックが飛び上がった。飛びながら振り返る。
「R。ブラックからの伝言だ。『飛び込んで掴め』だってさ」

 ミニブラックはビルの壁を蹴って、屋上へと登っていく。
 それとほとんど同時に、レシーバーに、カオリの声が割り込んできた。
 叫んでいる。

「い、今の時空曲線……これは……これは……初代イバライガーが消滅したときと同じです!! 今なら……今なら届きますっ!!」

 

次回予告

第16話 時空突破  /初代イバライガー、ダマクラカスン復活、クロノブレイク発動
イバライガーブラックのおかげで最悪の事態はまぬがれたけど、蘇ったダマクラカスンはすごいパワー。Rやガールでも歯が立たないし、ブラックでさえ、力を使い果たしちゃって大ピンチ!
でも奇跡は起こる! みんなの叫びが、祈りが『彼』を呼び覚ます! そしてついにイバライガー最大の、アノ必殺技の封印が解かれるっ!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

(次回へつづく→)

(第15〜16話/作者コメンタリーへ)

 


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