漫画の話なのにデザインとか印刷とか聞いてくるんだけど?

 これ、漫画家が一番戸惑うことだろうなぁ。

 普通に聞かれるからね。
 さも当然って顔で。
 そして実際、お客にしてみれば当然なんで。

 以下、その理由を説明していこう。

 なお、これは漫画を使ったあらゆる広報物に当てはまることなんだけど、話を簡単にするために「漫画冊子」に限定して話を進めるよ。
 もちろん、冊子をパンフやチラシやWEBページに置き換えて考えてもいいからね。

スポンサーリンク

「漫画をつくる」は、実は「漫画冊子をつくる」のこと

 漫画冊子を作るために漫画家が呼ばれる。

 漫画家にしてみれば「漫画を描く仕事」だと考えるよね。

 けど、お客のほうは「漫画冊子を作る仕事」だと思っているんだよ。

 漫画を描く部分が最も大きな工程だから、そこを最重視しているけど、そこだけでは考えていない。冊子になって配布できなきゃ作る意味がないんだから。

 そして「漫画家は漫画冊子までは作らない」とは考えもしないんだ。

 いや、普段は漫画家は漫画を描くだけで、編集とか印刷とか配送とかはやってないことくらいは知ってるよ。

 でも広告漫画のときは「漫画冊子を作る仕事」として呼びかけているんだよ。
 それに応じたからには、普段は冊子までやってなくても、今回はそこまでやるってコトが前提になってるんだ。
 そこまでやれるから応じたんでしょ、というわけ。

 そんなわけないでしょと思うのは、漫画家が漫画を描くだけで済む漫画界にいるからで、普通の世間では専門職だから専門部分だけやってれば済む、なんて例はそうそうないんだよ。
 専門外のアレコレもやれないと、専門の仕事をやれないコトがすごく多いのよ。

 例えば普通の広告だって、広告を作るのと印刷するのでは別々の会社の仕事。
 もっと言えば、企画はプランナー、文章はコピーライター、写真はカメラマン、デザインはデザイナー、イラストはイラストレーター、DTPや編集はレイアウターというように専門分野は違う。

 でもお客がフリーのプランナーをプランナーの仕事だけで雇うことは、滅多にないの。

 自分の専門分野がプランニングでも、デザインも印刷も引き受けられなきゃダメなのよ。
 全部自分でやらなくてもいいけど、最終納品に至るまでの全工程を引き受けられなければ仕事なんか獲れないんだ。

 請負の窓口はプランナーでもカメラマンでもいい。
 けど、とにかく最終的には全部やれるってことじゃないとダメなわけ。
 どの工程の専門家がどれだけの仕事をしたところで、どれか1つの工程がダメなら、ゼロと同じなんだから。

 だから漫画家だって同じ。
「漫画冊子を作る仕事」を請け負うなら、漫画冊子として納品するところまで全部の算段が付いてないと、仕事にならない。

 ボクはフリーランスで漫画家、デザイナーの両方をやっていて、漫画冊子も、普通の広告物も、WEBサイトも作っている。
 個人業なんだから印刷まで自分でやれるわけがないし、WWWサーバーを自前で用意できるわけでもない。
 けど、それらもウチで対応しますよってコトじゃないと仕事にならないから、印刷会社やサーバー会社と誼みを通じて、全部やれるようにダンドリした上で営業している。

 そうするのがアタリマエだから。
 そうでないと商売にならないから。

 コッチの世界では「漫画家だから漫画を描くこと以外はできない」は通用しないんだ。

 

漫画という商品は漫画家だけでは作れない

 色々やれなきゃいけないからといって、何もかも自分でやらなきゃいけないというわけじゃない。

 広告代理店やデザイン会社がそうしているように、それぞれの専門家を雇えばいいのだ。
 自分でやっていなくても、自分を通じてソレができるのであれば何でもできるのと一緒だからね。

 じゃあ、何をどれだけできればいいんだろう。

 まず、冊子にして世に出すには、本としての編集や、印刷データとして仕上げるDTP作業が必要になる。
 オンラインで公開する場合だって、そのためのWEBページを用意しなきゃならない。

 さらに広告や広報の漫画だと、漫画に付随して記事ページもあるといったことも少なくない。
 なんせ広告や宣伝のために作るんだから、漫画だけではフォローしきれない(というか、漫画にしないほうがわかりやすい)部分の解説とか、色々なカタログデータとか、商品やサービスの実際の写真とか、そういう部分は必須と言ってもいいくらいだ。
 むしろ漫画のほうが、それらを見てもらうための前フリと考えていい。

 とにかく、そうした部分もないと世に出せないんだから、それらをキチンとまとめあげられる職能を集めなきゃならないということだ。

 漫画家、デザイナー、カメラマン、ライター、DTPやWEBのオペレーター、それら全部を統括するディレクターやプロデューサー。
 さらに企画段階ではプランナーも必要だろうし、進行管理や打ち合わせのためにはマネージャーや営業マンも必要だ。
 印刷するなら印刷会社もいなきゃならない。

 オンラインの場合だって、WEBのデザインやコーディングができるスタッフがいないと作れないし、サーバ事業者やドメイン管理者も必要になる。
 さらに、代金を請求したり入金確認したりする経理だって重要だ。

 ……ざっと15~16人くらいかな。

 漫画家が漫画家だけをやるのだとしたら、他の専門家も自分の専門分野だけをやると考えていいだろうからね。
 う~ん、全員雇ったら、いくらかかるんだろう。

 でも、広告漫画の案件を受注しようと思ったら、この全部の職能を集めなきゃならないのよ。

 例え漫画部分が全体の9割だったとしても、漫画家という能力だけでは仕事をフィニッシュまで持ち込めない。
 こうした職能のどれか1つがないだけで「発注者にとってはゼロと一緒」なのだから、これらを何とかするダンドリをつけなきゃ引き受けようがないんだよ。

 

専門外のアレコレを覚えたからこそ生き延びられた

 ……というわけで、漫画を世に出すためには漫画家だけではどうしようもなく、数多くの専門家が必要なのだけど、実際に前述の15~16人ものスタッフを使っていたら採算が合わなさすぎる
 人数はコストそのものだからねぇ。

 だから大抵は兼任だ。

 デザイナーはデザインだけでなく、DTPや編集レイアウトやWEB制作もやる。
 プランナーはライターも兼任していて、取材に行くとカメラマンも兼ねる。
 担当営業が全体のプロデュース&マネジメントもやる。
 そして社長さんが経理も兼務。

 こんな感じで15の職能を3~4人でカバーしていることが多いわけだ。

 なら、漫画家だって他の職能を兼務していいでしょ。

 ていうか、みんな色々兼務でやってんだから、漫画家だけが漫画だけでやっていきたいと思うほうがアマイのよ。
 特に秀でている得意なモノを持つのは大事だけど、それ以外の能力も最低限は抑えておかないとツブシが効かないからね。
『ハンター・ハンター』でも、ビスケが「得意な能力を中心に、その両隣りの能力もそこそこには伸ばしておけ」といったコトを言ってたでしょ。

 だからボクは色々覚えた。

 最初はタダの漫画家。漫画以外、何も知らなかった。

 その後、広告会社に勤めてデザインとレイアウトを覚えた。
 というか、その会社に就職した直後にアレもコレもやらざるを得ない状況になってしまい、結果的にライターやプランナーも覚えることができた。

 独立してからは、徐々に営業やマネジメントや経理も覚えていった。
 そして手作り時代からパソコンで制作する時代になると、DTPやWEB制作を覚えた。デジカメの性能が上がって、カメラマンも自分でやれることが多くなった(多少ダメでもフォトショップでごまかせるようになった)。

 こうして、いつのまにか、広告制作に関することなら、ほとんどを自力でこなせるようになった。

 そうなると仕事全体を自力で管理できるから、一般企業へのダイレクト営業ができるようになり、今度はプロジェクトそのものを管理・監督するディレクターやプロデューサーとしての部分が伸びていくようになる。

 そうやって30年。

 そのときそのときでアレコレを覚えてきたから、今もやっていられる。

 とはいえ。

 いくら営業やマネジメントも覚えたって言っても、資質的には制作者だからね。
 漫画でも、デザインでも、ライティングでも、プランニングでも、「創る」や「考える」は好きなんだけど、営業は好きじゃない。

 覚えたけれど苦手なままなんだ。
 ガンガン売り込めるわけじゃないの。
 腕を磨きながら、数少ないチャンスが舞い込んで来るのをじっと待つ。
 そんな感じなんだよね。

 それでも、もしも漫画だけだったら、とっくの昔にツブれていたと思う。
 ボクの性格、ボクの営業力で生活が成り立つだけの仕事量を確保し続けられたとは思えないもん。

 アレもコレもやれたから漫画の仕事も獲れて、それなりの稼ぎを維持してこれたんだ。

 

アレコレやって、1つの仕事での稼ぎを増やす

 漫画以外のアレコレがやれれば、その部分も自分の仕事にできる。
 これが、かなり大きい。

 お客の予算100万円に対して、漫画の分が50万、デザインが10万、編集が10万、印刷が20万だったとする。
 印刷は印刷設備を持ってないと無理だけど、それ以外の部分は、自分にその能力や技術があれば自分のモノにできる。
 漫画だけだと50万だけど、他もやってれば80万になるわけだ。

 まぁ、この例だと漫画だけでも50万円になるんだから、そこそこアリに思えちゃうかもしれないけど、漫画部分だけで50万なんて案件はそうそうないのよ。
 ボクは有名な大手企業や研究機関の漫画をたくさん手掛けてきたけど、そういう企業や組織だって、今どきは予算キビシイのよ。
 50万もらえたとしても年に1~2回あるかどうかじゃ、生活苦しすぎるでしょ。

 実際には漫画は1ページだけで、それ以外の広告ページが9ページといった案件のほうが遥かに多いんだ。
 仕事全体では100万の予算があっても、漫画だけやってると、表紙などまで描いたとしても3~5万程度にしかならないわけ。

 そういう仕事を積み重ねて先の50万クラスを目指すとなれば、それだけの数を受注し続けられるだけの営業力がいる。
 でも、その営業が苦手だと、どうしようもないんだよね。

 頑張って数を獲れたとしても、そういうのって続かないし、獲れたら獲れたで、営業的な負荷が大きくなりすぎちゃうんだよ。
 額面が小さくても、客数は多いわけだから。

 大勢と付きあうのって、それだけで大きな負担なんだ。
 請け負った漫画を描いてる時間がなくなっちゃうくらいに。
 精神的に消耗して、漫画を描く気力が落ちちゃったりもするしね。

 漫画自体を高く売るというのも無理だったな。
 高く売りつけるのも営業力だから。

 だから、どうしても1つの仕事での稼ぎを増やさなきゃならなかったのよ。
 自分にとって負荷が大きな業務(営業)をたくさんやらなきゃならないくらいなら、同じ創る仕事を増やすほうが、ずっとラクだったのよ。

 営業が得意な人にとっては5分で片づく仕事でも、コッチにとっては何時間分もの負担だったりするんだもん。
 いや5分で済んだとしても、精神的には何十時間もの疲労だったりするのよ。
 苦手なコトをやるってのは、そういうことなんだ。

 苦手でも何でも、最低限はやらなきゃいけない。
 ゼロにはできない。

 でも、たくさんやるのは嫌だ。
 そもそもが苦手なんだから、たくさんやったとしても得意な人ほど上手くいくわけもない。

 だからアレコレなんだ。
 デザインだって覚えてみりゃ、漫画に負けないくらいに面白い。
 好きなことなら何百時間でもやっていられる。
 5分で済むことに1時間かけることになっても、そのほうがずっとラクなんだ。

 少なくともボクはそうなんだ。

 

自分以外の誰かのせいで自分が苦労するのは嫌

 それに、他にも理由はあるんだ。

 先にも書いたように漫画を世に出すためには、たくさんの職能が関わることになるでしょ。
 すると、自分がキッチリ仕事を果たしても、他の部分の担当次第で台無しになっちゃったり、入金までものすごく待たされちゃったりすることもあるんだよ。
 描いたことを忘れちゃうくらい先になってからようやく支払い、なんてことも珍しくなかったんだ。

 例えばデザイン担当がサボっていて、いつまでも納品にならないなんてことがあるんだよね。
 営業担当の打ち合わせが下手くそで企画を通せないとか、ソイツが嫌われてるせいで、やたらと修正が多くなるとかってコトも。

 自分は一人でも、発注側から見ればチームだから、チームの誰かがNGなら全部NGと見なされちゃうんだよね。

 いっそ本当にチームならボクも口や手を出せるんだけど、漫画家の部分だけを下請けしてると、それ以外の部分では部外者だから発言権がない。
 つ~か、問題になっていても、それを知ることすらできない。

 しかも、窓口が自分じゃない場合は、漫画に関することでゴタゴタしていても、ボクに伝わらなくて、漫画をわかってないデザイナーとかがアレコレなんとかゴマかそうといじって、さらにドツボみたいなコトになっていたりする。
 そして、もはやどうにもならなくなってから「何とかして」と戻ってきたりする。

 何ともならんわ! ここまで悪くなる前に言えよ!

 大なり小なり、こういうことが起こるのよ。
 それでボクは、自分でやる道を選んだの。

 自分の見えないとこでメチャクチャされるのは、もう嫌。
 メチャクチャにされたモノを押し付けられて採算合わない仕事になっちゃうのも嫌。
 自分で全部やるのは大変だけど、それでも、そのほうがマシ。
 少なくとも結果に納得はできるから。

 もちろん、漫画以外の技術や能力を習得するのは大変だったよ。
 苦労したし、ひと通り覚えた後も勉強し続けなきゃならないしね。

 でもボクは「誰かに頼む=誰かのせいで苦労する」よりも「自分でやる=自分で苦労する」のほうが、何倍も気楽だったんだ。
 それに、一度身に付けた力はずっと自分のモノになる。
 いつまでも頼み続けるよりも、自分自身を強めていくほうがいいと思ったんだよね。

 

アレコレやることで生まれる可能性もある

 専門家が専門の部分だけをやっていたいなら、専門家だけの世界から出るべきじゃないと思う。
 一般の世界=専門でない世界と直接触れ合おうとしたら、どうしたってアレもコレもやるしかないんだから。

 一般のお客は、調理人だけを買わないんだ。
 レストランになってなきゃダメなの。

 ものすごく美味しいハンバーグを作れても、椅子やテーブルやナイフやフォークも用意できて、マトモな接客もできなきゃ客は来ない。
 それがアタリマエ。

 こっちの世界に来るなら、全部できなきゃいけないの。

 お客は全部できることを前提にしている。
 得意な分野を特に評価しているにせよ、それ以外のコトも平均点レベルではやれること。
 それは得意なモノがあるかどうか以前の、最低限の話。
 得意なトコで何百点取っても、できないことが1つでもあれば0点なんだ。

 だからボクは、色んなことを覚えてきた。

 そしてボクにやれたんだから、他の人にもやれるはずだと思っている。
 ボクだけに可能な特別な能力だったとは思えないもん。

 全ての職能でトップクラスとかいうなら超人でないと無理だと思うけど、得意分野以外は「とりあえずOKなレベル」でいいんだから。

 もちろん「とりあえずOKなレベル」になるだけでも苦労するはずだ。
 しかも、いつまでも同じレベルでいいというわけでもない。

 やるからには上を目指す努力は続けなきゃならない。
 世間のレベルも上がっていくからね。
 少しずつレベルアップして、ようやく横ばいというのが普通なんだ。

 そんな具合だから、アレコレを覚えて全部自分でやれるようにすることが正解だとは言わない。
 ボクはそうする道を選んだけど、ちょっとした出会いや工夫で別のやり方もあったかもしれないから。

 ただ、やればできる。
 すぐには無理でも、だんだんとできるようになる。

 いや、できるからやるんじゃなくて、やるしかないからやる、という感じかな。

 やれてないけどやる。見様見真似でやる。
 それを繰り返しているうちに、いつしか本当にできるようになっている。

 そういうもんだと思うから、アレコレを大変なことだと考えないほうがいいとは思うな。
 ええい、やっちゃえと踏み込んじゃって、その後も踏み込み続ける。
 そんだけで十分だと思うのよ。

 ボクは、そうやって覚えてきた。
 そしてアレコレを覚えたから、漫画も続けてこれた。

 色々やれば、その分だけ漫画に集中できなくなる。
 でも、ゼロにはならずに済む。あきらめなくて済む。

 そして、アレコレで覚えたことが漫画にフィードバックされる。
 漫画だけやっていたら覚えなかったことが、自分の漫画に新しい可能性を与えてくれたりもするんだ。

●補足1
 デザイン費まで漫画とコミコミにされちゃって、デザイン料をもらえない例もあるんだけど、そういうズルい依頼は断ったほうがいいと思う。ズルい依頼を引き受けちゃう人がいるから、ズルい奴が笑い続けるんだから。自分と業界を苦しい状態に追い込まないためにも、ズルい仕事は断るべきだと思うなぁ。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

うるの拓也の電子書籍シリーズ各巻好評発売中!(詳しくはプロモサイトで!!)