小説版イバライガー/第13話:裏切りの報酬(後半)

2018年3月3日

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Bパート

 大型トレーラーが動き出した。
 見た目は運送会社のモノに偽装しているが、中身は戦闘用の装甲トレーラーであり、移動基地とも言えるシロモノだ。

 ソウマは、その助手席にいた。例の全身タイツは、すでに吹き付けてある。
 後ろのカーゴではPIASのセッティングが行われているはずだ。

 初の実戦だ。筑波山のふもと、北条地区の山林に化け物が出たとの通報があったのである。
 この地区の住民に、青白い顔で徘徊する者が増えていた。
 明らかにジャークの影響を受けている。

 密かに監視させてあったが、その一人の連絡が途絶えた。
 そして化け物の目撃情報である。

 斥候のようなものだろう。これまでもジャーク化した人々の周囲に、ジャーク・ゴーストが出没している。
 そのほとんどはイバライガーたちによって駆逐されているが、最近は出現頻度が著しく増えている。
 あいつらだけに任せておける状況ではなかった。
 早急にPIAS部隊を配備しなくてはならない。

 だがPIASには、まだ不確定要素が多い。四天王クラスと戦うのは早すぎる。
 今回の事件は、実戦テストにうってつけの状況だった。
 PIAS実戦投入のために、事態を察知しながら上層部が放置していた可能性すらある。

 現場が近付いてきた。登山道の入口の1つ。
 トレーラーが走るには狭すぎるとも思える道だが、この辺りではこうした道にもバス停がある。
 山奥に砕石場があることも少なくなく、地域の人々は大型車が上ってくることに違和感がないようだった。

 住宅や商店が立ち並ぶエリアを抜け、山門の鳥居の手前で右折した。少し広くなっている空き地がある。
 その空き地を囲むように、観光バスが停車していた。周辺住民からの目隠しのためだ。
 TDFの仲間たちは、すでに周辺に配備されているだろう。

 一般住民の外出は禁じられている。刃物もしくは銃器を持った通り魔が、この地区に逃げ込んだため、という設定になっているはずだった。
 恐らく誰も信じていまい。

 いくら情報統制を行っても、漏れるものは漏れる。
 ジャークのことまでは知らなくても、得体のしれない事件が頻発していることは隠しようもない。
 公式には一切認めていないが、ネットのSNSなどでは「つくばヤバイ」とか「茨城って魔界?」といったキーワードが飛び交っていて、情報課の連中がネットワーク事故やエラーを装って、情報漏洩につながりそうなアカウントを消去したりしているという。

 無駄なことだ、とソウマは思う。

 この事件は、こんなものでは終わらない。
 そのうち隠しようもない規模になる。

 シンから聞いた未来の情報では、全世界がジャークによって破滅しているのだ。
 それを食い止めるために、未来を変えるために戦ってはいるが、それほどの相手との戦いを小細工でごまかしきれるとは思えなかった。

「……例えそうでも、知らないほうが幸せ……か」

 ソウマはボヤきながら、カーゴに移動した。
 運送会社の制服を脱ぎ、ヘルメットを受け取り、カプセルの前に立つ。

 イバライガーたちの戦いを、一番見ているTDF隊員はソウマだった。
 顔見知りだから、現場で遭遇した際にも臨機応変に対応できる。ソウマ自身の身体能力も高い。
 それでパイロットに志願したのだ。

 あいつらと同じ力を手に入れなければ、戦えない。
 何度も出動して、それを思い知った。

 何もできずに倒れていった仲間たちのことは忘れない。必ずこの手で敵を討つ。
 世界も未来も知ったことか。守りたいものなどない。
 だが、ジャークは滅ぼす。仲間の復讐を果たす。
 こいつはそのための力だ。

 カプセルに入る。周囲からパーツが装着されていく。
 数百に分割されたボディパーツ。コンバットブーツ、甲冑、手甲、バックパック、各種武装。最後にフェイス・ガードがかぶせられ、真っ暗になる。
 NPLが注ぎ込まれる。全神経がPIASと接続されていく。
 闇が消える。カプセルが開いていく。

 


「どうだ?」
「トレーラーが開いた。出てくるぞ」
「ジャークは?」
「いる。だが、正確な位置は捉えられない。このエリアはエモーション・ネガティブが濃すぎて特定できないんだ。もう少し近付けばわかると思うが……」
「TDFに補足される……か……」

 シンとRは、国道125号線沿い、つくば市役所北条庁舎の屋上にいた。
 現場までは1キロ弱というところだ。現場が見通せるわけではないので、Rのセンサーだけが頼りだ。

「勝てると思うか?」
「たぶん。ただ不確定要素は多い」

 PIASは、個人用の装備としては人類史上最強と言ってもいいだろう。
 自立型ヒューマロイドではないが、ある意味で量産型イバライガーと呼んでもいいほどのものだ。
 本来、この時代には存在しない力でもある。

 シンは、それがジャークと戦うためだけに使われるなどとは信じていなかった。
 歴史がそれを証明している。平和のため、正義のためのお題目はあっても、武力は権力や欲望を満たすために使われることのほうがずっと多いのだ。
 今回も、地域の人々の安全よりも、PIASのテストが優先されている気配がある。

 だからこそ、決して目は離さない。
 イバライガーの力が、欲望のために使われることは認められない。
 そうした兆候が見えたら、即座にPIASを破壊する。他の研究データの全ても。
 例え、TDF本部を襲撃することになってもだ。

 これまでに調べた限りでは、PIASはイバライガーには遠く及ばない。
 従来の装備に比べれば格段に強力だが、ジャーク・ゴーストと互角に戦えるという程度で、四天王クラスには対抗できないと思われた。
『エキスポ・ダイナモ』が正常に動いていなければ、イバライガー本来の力は発現しないのだ。

 エキスポ・ダイナモは、イバライガーの魂に呼応して輝く。暴力のためには決して輝かない。
 Rとガールはそう言った。

 イバライガーとは一体何なのだろう。
 ジャークに対抗して生み出されたヒューマロイドだというなら、それはつまり兵器ということだが、兵器に感情だの魂だのを求めるとは思えない。
 それは兵器を扱う我々人間が持つべきものだし、感情に左右される兵器など、不安定で実用には不向きだとしか思えない。

 だからイバライガーは兵器じゃない。
 少なくとも、そういう考え方で生まれたわけではないということだ。
 もちろんシンたちも、彼らを兵器だと思ったことはない。
 彼らは仲間だ。人間と何も変わらない。生まれ方がちょっと違うだけだ。

 未来で自分たちに何があったのか。
 何がイバライガーを生み出したのか。

 爆発音が聞こえた。

「始まったか……」
 Rのつぶやきに、シンは思考を中断して現場を睨んだ。

 煙が立ち上っているのが見えるだけだが、戦いの気配は感じる。
 ボンヤリとだが、エモーションの流れを感じ取れるような気がする。

 ばかな。イバライガーじゃあるまいし。

 


 初弾を、かわされた。
 予想外だった。ESがほとんど役に立たない。

 正常に機能はしている。
 ただ、同種の反応が多すぎて、モヤがかかったようにしかイメージできないのだ。

 元々、ジャークに侵された者たちは感情が希薄だ。ゴーストは感情そのものを持っていない。
 ただ、エモーション・ネガティブの固まりではあって、それ自体は感知できる。
 その反応が、霧の中に紛れて分かりにくい。

 訓練での疑似戦闘とは、まるで違う。
 だが、実戦とはこういうものだ。その場その場で、臨機応変に対応していくしかないのだ。

 直接捉えられなくても、濃淡はわかる。
 奴はいる。このエリアから逃げることはないはずだ。

 この場所はリングだ。周囲は全てTDFが固めている。
 罠どころではなく、あからさまなショーのステージのようなものだった。
 それでも出てきた。
 つまりジャークもまた、PIASをテストしようとしている。
 ゴーストと戦わせてみる。そういうことなのだろう。

 気配が動いた。近い。ハンドガンでは捉えきれない。
 ソウマは、とっさにブレイドを展開し、向かってくる濃い霧を振り払った。刃がぶつかる。その閃光の中に敵の姿が浮かび上がった。
 オオカミのような牙。目は4つ。両腕が半月状の刃。長い尻尾のようなものもある。
 すばしこい奴だ。弾け飛ぶように分かれた。

 バスの窓が砕けた。そこを蹴って跳躍したのだろう。頭上から何かが振り下ろされる。回転してかわす。
 尻尾だった。立っていた場所の地面には、断ち斬られたような亀裂が走っている。

 もう一撃。今度は横からだ。掴んだ。振り回し、バスに向かって叩き付けた。
 右のガンを抜く。撃ち込む。プラズマが奔る。甲高い悲鳴が上がった。

 いける。動きにも追いつける。攻撃にも耐えられる。
 ソウマは確信した。こいつはザコだ。いつまでもじゃれあっていられん。一気にカタをつける。

 両腕に銃。肘のブレイド。全てを展開した。撃ちながら突っ込む。
 ゴーストが地を蹴って横っ飛びに避ける。その先に回り込む。ブレイド。手ごたえはあった。敵は両腕を失っている。
 戦闘能力のほとんどを奪った。あとはとどめを刺すだけだ。

 そのときESが、異様な反応を感知した。
 周囲の家々から、人々が覗いている。ネガティブの霧が濃密になっていく。

 


「いかん!」
 異変を察知したRが立ち上がった。シンも感じた。

 手間取りすぎている。
 初めての実戦だから仕方ないだろうが、それでも遅すぎた。

 周辺に広がっていたネガティブ……ジャークの気配が、一点に集まろうとしている。
 ゴーストは、それを取り込んでいく。再生する。

 シンは介入すべきか迷った。
 周囲のジャーク粒子が集まっていくということは、それに侵されていた人たちが開放されるということでもある。
 今のところPIASは、ゴーストを圧倒している。
 このまま任せても問題ないかもしれない。今ここで介入すれば、そのままTDFと戦うことになる可能性もある。

「わかってるシン。だが、もしものことがあれば周辺の人たちに危害が及ぶ。それを見過ごすことはできない」
 シンの思考を察したRが言った。

 そうだ。イバライガーは、いついかなるときでも、人々を守るために戦うのだ。
 駆け引きもクソもない。

「よし、行こう!」
「いや、行かなくても支援はできる。シンが案じているように、今TDFと敵対状態になる危険は避けたほうがいい」
「何をする気だ?」
「ガールの真似をしてみる。エターナル・ウインド・フレアの要領で、私のエネルギーをあそこに送る。それでエモーション・ネガティブを相殺する」

 確かに、ゴーストの再生さえ封じられれば、PIASは勝てるだろう。
 だが。

「1キロ近くも離れているんだぞ?」
「わかっている。放出したエネルギーの大半は、周囲と反応して消失する。全エネルギーを叩き込んでも、あそこまで届くのは、ほんの一部だろう。だがそれでも、あの霧を消すくらいはできる」

 Rが身構えた。ブレイブ・インパクトのモーション。
 右腕に全パワーを集中していく。

「シン、私を支えてくれ。この一撃を放ったら、私のエネルギーはゼロに近くなる。後は君に任せるしかない」
「わかった」

 拳が白熱する。引き絞る。

「行くぞ! シンッ!!」
「おおおっ!!」

 


 とんでもなく巨大な気が、押し寄せてきた。
 周囲の空間がキラキラと輝いている。ネガティブとポジティブの対消滅。霧が打ち消されていく。
 ゴーストが悲鳴を上げている。再生エネルギーを失っただけでなく、エネルギー流によって皮膚の表層が焼かれたようになっている。

 人々の周囲にも、粉雪のような煌めきが舞っていた。
 うつろで無感情な顔に、徐々に表情が戻っていく。

「ち、余計な手出しをしやがって」
 ソウマは毒づいた。どこにいるかはわからないが、見ているのは知っていた。

 オレが危ないとでも思ったのか。
 くそ。なめるな。

 助けられたというよりも、馬鹿にされたような気分が強かった。
 その苛立ちをゴーストに向けた。消し去ってやる。この手で、叩き潰してやる。

 走った。ゴーストの牙がせり出してきた。攻撃態勢に入っている。

 構うものか。見せてやる。
 オレにだってできる。お前を超えてやる。

 牙が槍のように伸びた。ブレイドで斬り払って、かいくぐる。
 左手で首を掴み、地面に叩き付け、そのまま押え込んだ。もがくゴーストの触手が、身体に巻き付いてくる。
 全身に気を込める。各部のナノパーツがそれを感じ取り、ソウマのエモーションを熱に変換する。触手が、蒸発しつつ弾け飛ぶ。

 パワーを右腕に集中させた。拳が熱くなっていく。熱は遮断されているから、実際には何も感じない。
 それでもソウマは、その熱を感じたかった。もっと熱くなれ。オレの怒りを吸って、オレ自身をも焼き尽くしてみせろ。

 パワーが上がっていく。拳が白熱していく。

 拳を振り降ろす直前、一瞬だけ、エキスポ・ダイナモを見た。

 いつもと変わらない。何の変化もない。
 拳の熱も、伝わってはこない。
 構うものか。

「もう、消えろ。化け物!」

 拳はゴーストの顔面を貫き、大地を叩いた。
 地面が沸騰し、爆発した。

 降り注ぐ破片と粉塵の中で、ソウマはゆっくりと立ち上がった。
 まだ不安はあるが、一応、テストは成功だろう。

 後は、コレを量産するだけだ。それで、あいつらは不要になる。
 俺が、俺たちが、全ての異物を消し去ってやる。

 


 待機させておいたワゴンに、Rを乗せた。
 後部座席は外からは見えない。
 シンは助手席に乗り込むと、ぐったりとシートに沈み込んだ。

「こら。さっさとシートベルトしろ。そんなことで検問に引っ掛かったらバカみたいでしょ」

 面倒臭そうにベルトを締めるのを横目で見ながら、ワカナはアクセルを踏んだ。慌てず、ごく普通に。
 それでもTDFの監視には気づかれたかもしれない。目立つことをしてしまったのだ。
 だが制止を受けることもなく、ワゴンは現場を離れていく。
 どうやら今回は敵対せずに済んだらしい。

「Rは、大丈夫?」
「ああ、パワーのほとんどを使ってしまったが、特に異常はないようだ。しばらくすれば回復するさ」
「とうとうPIASが実戦に出てきたのね……」
「戦いの規模が大きくなるかもしれないな。このところジャークは目立った動きを見せていなかったが……」
「前にルメージョが言っていたもんね。もうすぐダマクラカスンが目覚めるって」
「オレたちも、例の計画を急がなきゃならねぇな。恐らく、この戦いを勝ち抜くには『彼』の力が必要だ。イバライガーにまつわる様々な謎を解くためにも」

 その通りだ。

 けれど、そんなこととは関係なく、もう一度会いたい。
 Rやガールとも会わせてあげたい。

 ワカナは少しだけ、アクセルを踏み込んだ。

 

ED(エンディング)

 真っ暗な湖面は、さざ波もなく、磨き上げた鏡のようだ。
 だが、何も映らない。闇の中なのだ。

 魚さえ、いない。湖は死んでいた。文明に汚染されながらも、かろうじて保たれていた生態系は、すでに絶たれてしまった。
 命の全てが、吸い取られてしまった。

 岸辺に、闇より黒い女が立っていた。
 女は、湖面へと踏み出す。

 その足が水面に触れた瞬間、湖面が凍りつく。
 そのまま、歩いていく。

 女が立ち止まる。髪が逆立つ。

 その全身から、汗が染み出すように無数の赤い光が発せられた。
 赤い光は、やがて1つの鬼火となって漂い、一点で止まった。

 かつて、命だったものが集まった場所。
 そこには、命ではないものが脈打っている。

 鬼火が、ささやく。刻がきた。始まるぞ。

 脈打つものが応える。力は集めた。二度と遅れはとらん。

 ならば、受け取れ。扉を開く力を。この世界は終わる。人間たちの時代が終わる。

 いや、始まるのだ。我々の世界が。

 そうだ。滅びが、始まる。

 湖面が盛り上がり、口を開いた。
 ヘドロのようにドロリとした穴から、黒い光としか呼びようがないモノが吐き出される。
 それは鬼火を吸い込み、満足したようにドクリと鼓動した。

 

次回予告

■第14話 サウンド・オブ・サンダー
時空の狭間に封じられているはずの初代イバライガーのサルベージ計画。でも、それに気付いたルメージョは、計画を利用して時空の裂け目に眠る巨大なジャークを蘇らせようと企むの。つくば市上空に出現した黒い球体は一体何!? イバライガー、ジャーク、TDFがついに全力で戦うときが来た!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

(次回へつづく→)

(第13〜14話/作者コメンタリーへ)

 


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