小説版イバライガー/第11話:星守る犬(後半)

2018年2月17日

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Bパート

 剣のような三日月が上っていた。

 エレベータ坑を抜けて、屋上へ。そこから別の屋上へ。ホテルの壁を蹴って、つくば駅ターミナルを一気に跳び越える。
 昼間なら、人々にも空を切り裂く黒い影と、それを追って跳ぶ3つの色が見えたかもしれないが、わずかな月明かりでは気づく者はいなかった。
 後日、ガラスの清掃員が、あり得ない場所に付いた足型に頭をひねるくらいだろう。

 中央公園に一瞬着地して振り返る。
 3つの影が追ってくる。また跳び、エキスポセンターのロケットの上で身を翻す。
 追いすがってくるミニライガーたちと交錯した。

 戦っているわけではない。ただのオニゴッコだ。

 胸で『ねぎ』が吠えた。
 怖がっているふうではない。むしろ嬉しそうだ。

 ミニブラックは本当に楽しんでいた。子分たちと一緒に、自由に駆け回る。

 高く跳躍した。地上の灯がかすみ、三日月に手が届きそうだ。
 そのまま自由落下。一瞬、ねぎを離す。無重力で浮かんだようにジタバタするのを、もう一度つかまえる。

「あはははっ! ど~だ、おもしれ~か?」
「きゃう」

 ミニブラックの胸の上で、ねぎが応える。そのまま背面に落ちていく。
 地面に激突する直前、ミニライガーたちが円陣を作って受け止め、はね返した。トランポリンみたいだ。
 ミニブラックは空中で一回転してから地面に降り立った。

 ねぎを降ろす。
 あちこちの匂いを嗅ぎ回って、興奮したように跳ね回っている。

「気持ちいいのか? 一人で遊んでてもいいけどネギは見つけても食うなよ?」
 言って、ミニブラックはごろりと芝生に寝ころんだ。

 夜空に光る三日月。ブラックのブレイドみたいだ。

 ブラックは自由にしていいと言った。

 どこへ行ってもいい。誰が敵で、誰が味方なのか。何を守り、何を排除するのか。
 全て自分で考えて決めろ。オレも含めてだ。

 お前を生み出した。お前が存在するというだけで、オレの目的の大半は達成されている。
 お前はオレの分身だが、今はお前自身だ。自分の道は、自分で選べ。

 どういうことかは、よくわからなかった。

 それでも、突き放されたとは感じていない。
 オレとブラックはそういう関係じゃねぇ。人間の言う『親子』ってのとも違う。
 オレはアイツで、アイツはオレで、だけどアイツとオレは別々だ。
 それでいいんだ。重なるところは重なる。
 だからオレは今はここにいる。ここにいたいから、ここにいる。

 ミニライガーたちが覗き込んできた。

「よぉ、どうだ、楽しいだろ」
「うん。だけど壁を壊すことはなかっただろ」
「お前らが、そっちが出口だって言ったんじゃね~か」
「ドアを開けろってことだよ! 壊すんじゃなくて開けて閉めるの!」
「ま、気にすんなよ。ねぎだって検査ばっかりじゃつまんね~だろうしな。たまには、こうやって外に出て遊ばね~とな。お前らだってそうだろ?」
「うん、まぁ、たまにはいいか」
「それにボクたち、もうすぐ外に出られなくなっちゃうしな」
「なんだ? 外出禁止ってヤツか? そんなのムシでい~んだよ!」
「ちがうよ。ボクたちが、そうしたいんだ。大事な人を助けるためにね……」
「ふぅん。よくわからね~けど、ま、上手くやれよな」

 ミニライガーたちも周囲に座った。みんなで月を見上げる。
 ねぎが近付いてきて、ミニブラックの顔を舐めた。くすぐったいが、気持ちいい何かを感じる。

「なぁ、お前ら、なんであんなトコにいっつも隠れてんだ?」
「仕方ないだろ、ボクらはお尋ね者なんだから」
「わかんねぇな。人間なんかにオレたちが捕まえられるわけね~だろ。Rなんかブラックも一目置くほどなんだぜ? ブッとばしちゃえばいいだろ?」

「……仲よくなりたいから……だと思う」
 少し間を置いて、ミニイエローが答えた。

「仲よくなりたい?」
「うん、人間たちと戦えばボクらのほうが強いと思う。でも、ケンカして力づくで子分にするんじゃなくて『仲間』になりたいんだ」

 今度はミニブルーが答えた。
 子分じゃなくて仲間? ねぎは子分だから仲間じゃないのか? 仲間ってなんなんだ?

「シンやワカナみたいな奴のことか?」
「シンたちもそうだけど、他にもいるよ。今までの戦いでも、Rやガールや初代に力を貸してくれた人間は何人もいたんだ。そういう『仲間』が与えてくれるエモーションは、普通のとちがうんだ。ずっと大きな力になるんだぜ」

 ミニグリーンが誇らしそうに語る。
 仲間の力か。さっきの舐められたときの気持ちいい感じがソレなのかもしれない。

 だけどそうなら、ブラックはなんで一人でいるんだ?
 たった一人の仲間のはずのオレでさえ自由にさせて。

「ちぇ、オレにはよくわかんね~や」
 起き上がろうとしたとき、ふいに気配を感じた。

 人間……ではない!!

 ねぎが、今までに聞いたことのないような唸り声を上げた。
 ミニライガーたちも、身構える。

 木立がさわめいた。
 瘴気。黒い霧がうごめく。そこだけ闇が濃くなり、空間に穴が空いているようにも見える。その闇が凝縮していく。

「マズイ、ジャークだ!」
「ふん、それがなんだってんだ。ジャークだろうが何だろうが、オレ様の遊びタイムを邪魔したお礼はキッチリさせてもらうぜ」

 闇の粒子が固まり、人型を成した。
 ジャーク・ゴースト。それも強力なヤツだ。
 だが所詮は一体のゴーストにすぎない。こっちはミニライガーたちも加えて4人だ。
 四天王クラスでもない限り、負けるはずがない。

「グゲゲ……」

 黒い身体。赤い目。全身から伸びる触手。鞭のような腕の先にかぎ爪が光っている。
 その姿に見覚えがあった。ねぎだ。怪物化したときのねぎそっくりだ。

「まさか!?」
 思わず振り返った。ねぎは震えている。

「ソウダ。ジャークはジャークを呼ブ。そノ生き物ハ、我ラの眷族ダ」
「な、なにっ!?」

 ねぎの身体を黒い霧が包み込んでいた。体内に染み込んでいこうとしている。

「おいっ、どうなってる!?」
「そ、そんなバカな!? ジャークの力は、Rやガールが浄化したはずだよっ!!」

 だがミニブラックは、ねぎの体内からジャークと同じ反応を感じ取った。
 ほんのわずかな、普段なら気づかないほどの小さな反応。
 それがジャークの波動と呼応して増幅されている。
 ちくしょう。このままじゃ。

「ね、ねぎぃいい!?」

 ねぎが膨らんだように見えた。
 変貌が始まる。あの怪物に戻ってしまう。

「グゲゲ……。オマえのナかマとヤラに引キ裂かレるがイイ……」

 


 やはり、反応があった。
 ジャークに襲われている。

 うかつだった。やはりあの子犬にはジャークの力が眠っていた。
 今まで発現しなかったのは、自分たちが周囲にいたからなのか。

 Rはクロノ・スラスターを全開にした。
 一気に跳ぶ。

 目標まで、あと数百メートルのところで、別の気を感じた。
 両腕のサブ・ブースターを噴射して急制動をかけ、中央公園の一角に着地した。

 右上方、公立図書館の上。
 見なくてもわかる。

 三日月を背に、イバライガーブラックが佇んでいた。

「くっ、ブラック、邪魔をするな! ミニブラックも危ないんだぞ!」
「邪魔なのはお前のほうだ。黙って見ていろ」
「なんだと?」
 ブラックは答えず、争闘のほうに顔を向けた。

「Rっ!!」
 イバガールが追いついてきた。
「ガール、私はブラックを引き受ける! 君は急いでミニライガーたちのところへっ!」
「落ち着いて、R。あの子犬……ねぎの反応を探ってみて」
「!?」

 


「バ、ばカなァあアアッ!?」
 ミニブラックたちも、あぜんとしていた。

 ネガティブからポジティブへ。
 ねぎの身体に取り込まれたジャークの力が、変異していく。
 ねぎの身体が大きくなる。爪と牙が伸びる。四肢にパワーがみなぎる。

 だが、それは禍々しいものではなく、むしろ頼もしさすら感じる。
 ねぎが咆哮する。まるでイバライガーのように。

「ね、ねぎ! お前……!?」

 ミニブラックが近寄ると、ねぎが振り返ってペロリと顔を舐めた。
 そしてジャークに向き直る。
 一緒にやろうぜ、とでも言うように。

「そ、そうか! お前、子分じゃなくて仲間になったんだな!!」

 ねぎの身体からエモーションの力を感じる。流れ込んでくる。
 これか。普通のとは全然違う力。確かに、すげぇ力が出てくる。オレの中の何かと一緒になって、全身にみなぎってくる。

「よぉおおしっ! 行くぜ、オマエらっ! オレ様についてこいっ!!」
 ミニブラックが叫んだ。
「ボクらは子分のままかよっ!?」
 言い返しながらも、ミニライガーたちもスパークした。

 ねぎの爪とミニブルーの手刀が闇を切り裂く。
 ミニイエローの拳が触手を撃ち落とす。ミニグリーンが跳躍し、ゴーストの爪を砕く。

「とどめはオレだぁああああ!! 時空ぅっ! 雷っ撃ぃ拳んんんっ!!」

 


 静かな夜が戻ってきた。

 ねぎは、いつものねぎに戻って、しっぽを振っている。
 抱き上げた。嬉しそうに舐める。
「よせよ、バイザーがくもっちゃうだろ」
 言いながら、ミニブラックはねぎの頭を撫で、振り返った。

 三日月。

 見ているんだろ、ブラック。
 オレ、もうちょっとココにいるぜ。裏切ったんでも寝返ったんでもね~ぜ。
 オレとブラックは、仲間以上だ。お互いがどこにいてもな。
 だから、オレはもうちょっとココにいる。

 何か、わかりそうな気がするんだ。

 

ED(エンディング)

「ふ、やはりな」
 顛末を見届けたイバライガーブラックが身を翻した。

「待て、ブラック。これを……予想していたのか?」
 Rは振り返らず、ミニライガーたちを見つめたまま、ブラックの背中に呼びかけた。
 ビルの屋上と地上。だが、お互いの姿ははっきりと感じる。

 ブラックもまた、振り返らずに応えた。

「……あの戦いの時、お前の中の『エモーション』は目覚めかけていた。その影響でお前のエキスポ・ダイナモは『第2段階』になったのだ」
「第2段階……だと?」
「そうだ。あの子犬は、イバライガーの別の可能性だ。お前の『エモーション』を受けて、その力が宿った。いや、あれこそが本来のイバライガーと言うべきか……」
「どういうことだ?」
 Rは思わず振り返った。

 だが、すでにブラックの気配は遠く消えていた。

「ブラック……。第2段階とはなんだ? 私たちは……イバライガーとは、一体なんなんだ?」
「ま~ま~、そんなに気にしないの。子犬を助けたり、その上ヒーロー犬に変身できるようにしちゃったり、イイコトには違いないでしょ」
 ガールはいつもの楽天ぶり。
「そ、そうなのか? これでいいのか?」
「いいの、いいの。それよりホラ、ミニちゃんたち、楽しそうよ。私たちも混ぜてもらおうよ!」

 ねぎとじゃれあい始めたミニライガーたちの元へ、ガールが駆けていく。

 Rは、その背中を眺めながら、しかしブラックの言葉を忘れることができなかった。

 

次回予告

■第12話 還るべき場所
どんなに洗脳されても、家族や恋人への気持ちは忘れられないよねぇ。ジャークにつかまって戦闘員にされちゃってる人の中にも、そういう人はいるんだよ。家族の元に帰りたい。そんな人たちに気づいたシンたちは、救出作戦を計画するの。だけど、それを見抜いたルメージョは、脱出メンバーの中にスパイを送り込んで……。
ショーでお馴染の、ジャークをやめたい戦闘員を救うエピソードのイバノベ・バージョンだよ!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

(次回へつづく→)

(第11〜12話/作者コメンタリーへ)

 


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