避けたほうがいい仕事ってある?

 引き受けないほうがいい仕事ってのも、あると思うなぁ。

 つ~か、ウチの場合はある。
 倫理的にNGなモノや法律違反になるようなモノはやりたくないし、自分のイメージに合わない仕事もちょっと……。

 それに、世間にはトンデモなく無茶なことを思いついて、自信満々にやっちゃう人もいる。
 そういうのも、そのまま引き受けたくないなぁ。
 後で困るだろうことが最初からわかってるのに注意せずに請け負っちゃうってのは、やっぱり後ろめたいもん。

 ま、個人業って自由業だからね。
 嫌な仕事は断りゃいいってだけのコトなんだけど、一応ね、ボクがどういう仕事をどう避けているのかくらいは書いておこうかと。

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引き受けられない案件と引き受けたくない案件

 ウチの場合は、まず第一に、嘘の広告はお断り。

 まぁコレは当然だよね。詐欺広告に加担しちゃうなんて嫌だ。

 次に「公序良俗に反するモノ」もNGとさせてもらっている。
 つまり風俗とかね。

 いや風俗だって、ちゃんと営業許可取ってやってる限りは合法だし、ボク自身は職業に貴賎はないと思っているから、本当はやってもいいんだけど、ウチの場合、公的機関とか教育関係とかの仕事がけっこう多いので、ちょっと引き受けにくいんだよ。

 それにホラ、よく見る体験漫画とか、ああいうエッチな漫画って苦手なんだ。
 読むのはいいんだけど描くのはね……自分の性癖晒すようなモンになっちゃうでしょ。
 若い頃に、友人たちがゲチョゲチョでモニョモニョな同人やってて、ボクもしょっちゅう誘われたんだけど、どうしても描く気になれなくて。
 仕事でギャラもらって「体験」とか、すごい役得な気もするんだけど、やっぱり無理かなぁって。

 だから個人的事情でNGとさせてもらってるの。
 あくまでもボクの個人的事情だから、引き受けたい人にはいいんじゃないかと思うよ。
 ギャラも割といいらしいって聞くし(真偽はわからないけど)。

 ただし、性的なモノ全部をNGにしているわけじゃない。
 医療として性的な問題を扱っているモノなどなら、堂々と引き受ける。
 性教育もOK。
 照れ臭いけど、大事なコトだから。

 あと、NGとは言いづらいんだけど、できれば避けたいのが疑似科学的なモノ。

 これは騙してるつもりはないのかもしれないんだけど、一応、科学漫画連載してる身だからねぇ。
「水にありがとう」とか「EM菌」とか「パワーストーン」とか「江戸しぐさ」とか「放射脳」とかってのには、あんまり近付きたくないなぁって。
 ネタにして笑ってる分にはいいんだけどね。

 宗教関係も慎重にならざるを得ないなぁ。
 真っ当な説法とか、ご法要のご案内といった程度ならいいんけど、明らかにトンデモに踏み込んじゃってるモノなんかだと……。

そのまま受けちゃダメだぁああ!:その1

 あ、宗教じゃないけど、ややソッチ系なWEBサイトを手掛けたことはある。

 結婚式場なんだけど、どうも社長さんが風水にハマっちゃってるらしくて、方位をやたらに気にして、そういう披露宴を売り込んでるんだよ。

 WEB制作の資料としてご本人が執筆したという本を渡されたんだけど、竜は出てくるわ、鳳凰が飛び交うわ……コレを元に結婚式場のサイトって……どんなんだよ!?

 さらにスゴかったのは「本物の十二単を着て和式披露宴ができるサービス」ってヤツ。
 そういうのがあって、そのイラストを頼まれたんだけど……いや、十二単はいいんだよ。描くの大変だったけど、ソレ自体はいいの。

 でも十二単って、十二枚も重ね着してるから、すごく重たいでしょ。
 だから動くとフラフラしちゃうんだって。
 そして、控室から披露宴会場に向かう途中には橋があって、水が流れてるんだ。
 そこを通るときにフラついて落ちたりしたら、とても危険なんだって。

 だ・か・ら、十二単を着たら必ず「安全ヘルメット」をかぶってもらうのだ、と。

 そう、工事現場で使ってるアレ。
 花嫁にソレをかぶせて描けと。

 いやいやいや!
 それじゃ台無しじゃないか!

 つ~か危ないルートを何とかしろよって思うんだけど、風水的にソコを通ることが絶対に必要なんだって言い張るんだよ。
 いや、まいったなぁ。

 他にもオーダーするのがスゴくキツそう(電話口でサービス名をはっきり言わない限り受け付けないが、ソレを口にするのはすごく恥ずかしい)なサービスがいくつもあって……いやぁ、楽しませていただきました(笑)。
 もちろん、十二単・道路工事バージョンもちゃんと描いたよ。

 そんなわけで、この案件はヘンだったけど断るってほどじゃないので、何とかやっつけた。
 ヘンってだけで断ってたら仕事になんないもんね。

 でも次に紹介する例は、もっと厄介だ。

そのまま受けちゃダメだぁああ!:その2

 依頼されたミッションをそのまま遂行すると、かえってヤバイことになってしまう案件ってのも、たまにある。
 何でもかんでも頼まれたからそのままやっていいというものじゃないんだよ。

 そういうケースの、ちょっと極端な例。
 漫画の案件ではないけれど、10年くらい前に実際に担当した案件だ。

 脱サラして、息子さんと二人で画期的な新規事業を立ち上げるからホームページを作ってくれと頼まれた。

 そりゃおめでとうございます、で、どんな事業をやるんですかと聞いたら……

 ……LANケーブルを持ち出してきた。

 この方、とある有名な大手に勤めていらして、社内LANなどの配線工事の仕事をされてきた方なんだ。

 カバンの中からズルズルとケーブルを引き出していくと……途中に何故か金メッキの招き猫が付いている。
 ものすごく安っぽい小さな招き猫のボディを貫いて、ケーブルが延びている。

 あ、あのぉ……コレは……???

「いいでしょ、100円ショップで見つけたんですよ。たくさん買い占めて来ちゃった。1つあげますよ」

 い、いや、それはどうでもいいっていうか欲しくないんだけど……そんなコトよりコレって……あの、事業の話は……?

「ふっ、わかりませんか。コレです、コレこそが起死回生の事業ですよ! どうです、招き猫が付いた開運のLANケーブル! これは売れると思うんですよね!!」

 ……唖然としたよ。

 でも唖然としてるボクの前に、さらにケーブルが出てくるんだ。
 パチンコのドル箱を貫いたヤツとか……。

「ね、いいでしょ~。コレなら普通のLANケーブルでも何千円も高く売れるに決まってますよ! あ、コレなんかもいいんですよ、マガジンラックとくっつけてあるんですけどね……」

 ああっ、もういい、もういいから!!

 売れるわけないじゃん!
 そんなモンがくっついてたら邪魔すぎて配線できないじゃん。
 しかもノイズの原因にもなりかねないじゃん!
 アンタ、本当に大手企業で社内LAN工事の担当だったの!?

 けどねぇ、当人は自信マンマンなんだよ。
 ただのLANケーブルに100円ショップで買ってきた安っぽい金メッキ招き猫くっつけたモノをネット通販して億万長者目指してんだよ。
 完全に成功のビジョンを描いちゃっていて、酔ってるんだよ。

 ……もうね、ソコから先は、どうやって思いとどまらせようかと。

 わかった、ホームページは作るから、会社は辞めないでよ。
 どうせネット通販なんでしょ。
 しかも息子さんもいるんでしょ。
 そんなら息子さんを代表にしてやらせておいてさ、事業が軌道に乗ってから会社辞めても遅くはないでしょ。
 ね、悪いこと言わないから、そうしなさいって。

 そうやって説得して、ホームページを作ったの。

 タイトル画像は、ご本人の要望で、ボクサーの恰好をして余裕の笑みを浮かべる息子さんを撮影して、背景にゴゴゴと燃える炎を合成して、さらにLANケーブルをリングロープに見立てて……コレのドコが画期的な新規事業だよ!?

 1年後、この新規事業は、ごく普通の配線工事業者になってた。

 こんなコトもあろうかとボクが密かに作り足しておいた空間磁力メッキ……じゃなくて「ご家庭や会社のLAN配線工事も承ります」というコーナーがあって、そっちのほうでオーダー取れるようになったんだ。
 いや、そのくらいにはマトモなモノを入れておかないと怖くて作れなかったんだよ。

 その後もお父さんは大手企業に勤めたまま、2年後には招き猫ケーブル通販のページも完全に削除して、マトモな工事業者としてやっていくようになった。
 招き猫は、とうとう一回も売れなかったよ。

 ……ね、ヤバイでしょ。

 ギャグならいいんだけどねぇ。
 でもマジなんだよぉお。

 マジでこういうのに出くわすことがあるのよ。
 客の希望通りに会社辞めるのに賛成して、招き猫に全てを賭けるのを手伝ってたら、どうなっていたことやら。

 ここまでスゴイ例は滅多にないけど、ビミョーに、しかしけっこうイタイ感じでズレてるケースは少なくない。
 一所懸命すぎてワケがわかんなくなってるんだろうね。
 それに人間誰しも、自分のコトって見えにくいモンだし。

 いずれにしても、こういうお客たちの言うことを鵜のみにして作ってたら、何をやっても失敗作になっちゃうから、ほっとけないのよ。
 失敗してもボクのせいじゃないけど、失敗事例じゃキャリアにならないどころか、むしろ自分の評判を引き下げちゃう危険すらあるから、何でも引き受けるってわけにはいかないのよ。

 まぁ、こういうコトって唯一の正解があるわけでもないから、自分が正しいかどうかもわからないんだけどね。
 どう考えても無茶としか思えないお客の狙いがツボにハマって大当たり、なんてコトもあり得るんだし(それでも「招き猫」はないと思うけど)

自分なりのレギュレーションを作ろう

 とにかく違法なモノは絶対に断る。
 違法じゃなくてもアブナイと感じたら、できるだけ避ける。

 直球で断っちゃうとタクシーの乗車拒否みたいなコトになるので、絶対に通りそうにない見積りをわざと出してみたりして。
 そうやって何とか逃げ回ってきたんだ。

 まぁ、最初から逃げ回ってたわけじゃないけどね。

 個人でやっていくというのは、給料がないってコトだから。
 アレは嫌だとかコレはしたくないとか、ワガママ言ってる場合じゃないってのがあったから。

 とりあえず合法なら、何でもやる。
 そういうつもりでやってきて、今は、自分が大事にしていきたい仕事ができてきたので、それを守るために相反するモノは避けるようになったという感じかな。

 ようするに自分のレギュレーションに反するモノは引き受けない。
 少なくとも反するままでは引き受けない。
 だんだんと、それが出来るようになってきたんだ。

 きっと誰でもそういうもんだと思うけどね。

 なので、自分は何を受け入れるか、何を断るか、受け入れるためには何をどうしなきゃいけないのかなど、自分なりのレギュレーションを作っておくことを勧めるよ。

 それがないと、ヤバいモノに気付かなかったり、ヤバくなってから気付いて苦労したりすることになりやすいからね。

ナメられたままで仕事しない

 他にも避けるというより、そのままでは引き受けないと決めていることがある。

 ボクは「ナメられたままでは、仕事を引き受けない」ことにしているんだ。

 これは、ナメられると不愉快でヤル気出ないとか、そういうコトじゃなくて(いや愉快でもないけれど)、もっと実務レベルでヤバイからなんだ。

 どこかの広告会社や編集プロダクションから、テキトーにデッチ上げたシナリオとかプロットを押し付けられて、広告主にも読者にも全然寄与しない漫画なんか描きたくないよ。
 広告主から直で引き受けるときも、わかってない人に引っかき回されてグダグダになっちゃう漫画なんか、描きたくない。

 シナリオを確定させる前に相談して欲しいし、問題点があれば意見も言いたい。
 任されるのなら、余計なちょっかいは出さずに、ちゃんと任せて欲しい。

 だから、意見に耳を傾けてもらったり、しっかり任せてもらったりするために、ナメられたままで引き受けたくないんだ。

 ナメられたままナメた漫画ばっかり描いていたら、どれだけ作品を手掛けても、ちっともキャリアとして誇れるモノにならない。
 イイモノが描けないとギャラも上がらないし、そんなコトをずっと続けていると、いざチャンスが巡ってきてもマトモなモノを描けない人間になってしまう。
 そのとき、その日は乗り切れても、全然未来にはつながらなくなっちゃう。
 すり減るだけになっちゃう。

 だからナメられたままで仕事しないことにしたんだ。

 態度の問題じゃないよ。

 例え、どんなに丁重に扱ってくれたとしても、こっちの意見は通らないっていうなら、やっぱりナメられるわけだから。
 いっそ無礼だったとしても、聞く耳は持っているというほうがマシ(まぁ、無礼な応対する人で聞く耳持ってる例は滅多にないけどね)。

 このナメられないってのは、漫画の場合だけじゃない。

 広告業(広告漫画も含む)って、ある意味でコンサル業なんだ。
 何をどう広報すればいいのかわからないお客に代わって、考えてあげる仕事なんだよ。

 だから考えて提案したコトに耳を傾けてくれないと、色々と困る。
 特に中層零細企業などを相手にするときはね。

 大手企業やマスコミ系、広告系といった「自分でちゃんと考えられる人たち」を相手にしてるときは、まだいいんだ。

 大手なら広報戦略を考えるブレーンがいるはずだし、マスコミや広告系なら同業者だからね。
 ボクが何を感じようが、それなりに考えた上で発注しているのだろうし、そもそも目の前にいる担当者に何を言っても、それが上層部に伝わることはまずないし。

 けど中小企業の町工場とか、独立開業したばかりのオニーサンとかだとね……先の「金メッキ招き猫」みたいなのが出てくるから……面舵と取り舵の区別つかないような船長の船にパイロットとして雇われるなら、せめて意見具申したコトは聞いてもらえなきゃ、おっかなくて乗れないのよ。

 なので、どうしても一目置かれる必要があるの。

 とはいえ、そう簡単に一目置いてくれるわけでもない。
 ボクも、最初は何も言えなかった。
 気付くこともできなかった。
 何かが起こってからオタオタ、バタバタ。
 その繰り返し。

 そういう経験を山ほど積んで、だんだんと「一目置かれやすい引き受け方」を身に付けていったんだ。

わかってない人を相手にし続けた経験

 ボクが「一目置かれるための経験値」を一番積めたのは、ホームページ制作の仕事だった。

 ボクは今までに800社以上のホームページを作ってきた。
 その数は、今も増えている。

 会社単位じゃなくて、個人単位でこれだけの数っていうのは、我ながらけっこうレアなキャリアだと思うよ。
 しかも作るだけじゃなくて、企画段階から納品・公開、さらにその後の更新サポート、ドメインやサーバー管理まで、全部をやってるんだから。

 で、その大半が中小企業。

 インターネット黎明期からやってるから、初期にはホームページを作れるというだけで名だたる大企業や公共機関もけっこう手掛けたんだけど、それでも中小企業相手のほうが圧倒的に多い。

 前述したように、小さな会社やお店っていうのは、ほとんど家族経営レベルも珍しくなくて、ご自身の本業では「さすがはプロ!」と唸るような人も多いけれど、ネットのことなんか、まるでわかってない人も多いんだ。

 ドメインとサーバーも、WEB制作会社と接続プロバイダも区別できない。
 それどころか、パソコンの基本操作も知らない。

 特にネット黎明期の頃はね、お客のほとんどがそういう人たちだったんだ。

 その手の人は中小だけじゃない。
 どこにでもいた。

 なんせ地方自治体がホームページ立ち上げると、テープカットのセレモニーがあった時代なんだから。

 市役所の視聴覚室(当時は、そういう部屋にしかネット環境がなかった)にテープを張って、記者を集めて、市長がパソコンの前に座る。
 で、慣れない手つきでマウスを操作し、ブラウザのアイコンをクリック。
 そのタイミングで、裏に隠れていたボクが出来たてホヤホヤのホームページを表示させる。

 実際には、ネットになんかつながってないのよ。
 オフラインなの。
 当時の通信速度(ISDN以前)では、サクサク表示なんかできないから、オフラインでオンラインのように見せかけるのよ。

 で、画面が表示されるとテープがカットされ、市長はニコニコ。
 カメラがパシャパシャ。
 ボクは裏でカチャカチャ。

 アホらしいって思いながらやってたな。

 とにかくそんな時代だから、一般企業だって似たようなレベル。
 こっちはホームページ制作を請け負っただけなのに、トンチンカンなオーダーが山ほど来る。

「ネットがつながらないんだけど?」とか「自分で設定したパスワード忘れちゃった」は、まだマシなレベルで「テキトーに新しいメールソフト買ってきたけど使い方がわからないから教えに来い」とか「カミさん(社長)の留守中にアダルトサイト見てたら勝手にブックマークされて消せない。カミさん(社長)が帰る前に消しに来て」とかいう、お前らぁあああ!って叫びたくなる連絡がバンバン来るの。

 仕方なくブックマーク消しに行ってあげたりしたけどさぁ、ぶっちゃけコレじゃ仕事にならんのよ。

 けど、このヒトたちはワガママ言ってるわけじゃないのよ。

 こういうコトも、ホームページ制作会社の仕事だって思ってるのよ。
 ナニがドコの仕事か、区別がつかないのよ。

 だから、そこから教えないと仕事できないわけ。
 わかってないヤツの仕事は断るなんて言っていられないのよ。

 だって、わかってないヤツしかいないんだから。
 ソレを断ってたら仕事ゼロになっちゃうんだから。

わかってない人にわかってもらう工夫

 そんな具合だったから、色々工夫したよ。

 例えば

「ドメイン取得はクルマで言えばナンバー登録みたいなモノで、これは陸運局の担当ですよね。そんでホームページやサーバーはカーディーラー。まぁ、ナンバー取得まではディーラーで代行するのが普通ですから、ウチもドメイン取得代行をやっています。ただ、あくまでも取得代行しているだけで、ディーラーがナンバーを発行しているわけじゃありませんよね。ドメインもそうなんです。
 そしてパソコンの操作となると、これは教習所の領分です。さすがにカーディーラーで自動車教習まではやりませんよね。これもまた同じなんです。ウチもパソコン教習までは担当できないんですよ」

 こんなふうに説明してたよ。

 多少ゴーインな例えかもしれないけど、これで多くの人がピンと来てくれるんだ。
 カーディーラーに運転免許の取得を頼むのはオカシイって、気づいてくれるの。

 すると無茶を言わなくなる。

 なるほど~と納得した経験があると、こちらの意見にも素直に耳を傾けるようになる。
 つまり「一目置かれる」んだ。

 そうなってからが、本当のスタート。

 それ以前に仕事を進めていたとしても、一目置かれるまでは本番じゃないんだ。
 お客は自分がナニを依頼したのか自分でわかってないし、ボクが言ったことも全然わかってない。
 だからナメられる。

 他にもわかってないせいでドタバタした例はたくさんある。

 某自治体の仕事で、ホームページ制作を発注すること自体が町議会で問題にされたときのコトなんかは、わかってない典型例。

 その議題を上げた議員は「ホームページは誰でも作れると聞いている。そんな誰でも作れるようなモノに市の予算を投じるのはいかがなものか」と主張した。
 これに町役場の担当者たちは答えられず、ボクに相談してきたんだ。

 ボクは問題の議員と対面し、彼の目の前でコピー用紙に手書きで町の町政要覧(パンフレット)の一部を書き写して見せた。

「どうです? これは手書きだけど町政要覧と同じ内容ですよ。お店のメニューやたくさんの広告だって、誰だって作れるんです。どんなモノだって、誰でも作れるんですよ。質を問わなければね。誰だって作れるけれど、誰が作っても同じ品質になるわけじゃないんですよ。一定の品質で使い物になるように仕上げなきゃダメだからプロに依頼するんですよ。何でもそうなんです。お分かりいただけましたか」

 これでオシマイ。
 先の議題は撤回された。

 ボクは担当者に評価され、その後は気持ち良く仕事できた。
 やはり一目置かれたんだ。

 こんなことはちょっと考えれば、それこそ誰でもわかりそうな気がするんだけど、やはり「制作」や「創作」と縁遠い人々には、なかなかわからないものなんだ。

 わからないコトなのにナメてしまう。
 甘くみる。

 自分でもやればできるさ。
 忙しいから頼んでいるだけだ。

 先の議員のように、実際にやってみたこともないのに、そんなふうに思う人たちが少なからずいるんだ。

 もう1つ、別な例も挙げておこう。

 これはイラストの仕事の例なんだけど、その人はボクがパソコンを使ってデジタル制作していることを知って、こんなコトを言った。

「パソコンで描くなら、ちゃちゃっと簡単にやれちゃうんだろ。だったら、もっと安くてもいいんじゃないの? どうせ機械が描くんでしょ」

 このときもボクは、素早く紙に鉛筆で絵を描いて見せた。
 そして「今描いたのはボク? それとも鉛筆?」と聞いた。
 相手は「あっ!」という顔をした。

 当然だよね。
 どんな道具で描こうが、描いてるのは道具じゃなくて作者だ。
 そこに変わりがあるわけがない。

 こんなコトも、言われなきゃわからない人が大勢いるんだよ。
 昔の映画やドラマでは、コンピュータに聞けば何でもわかるみたいな描写が多かったからねぇ。
 今でもパソコン=何でも自動でやってくれちゃうスーパーマシン的に思ってる人がけっこういるんだよねぇ。

 仕事を請け負うには、まず、そういう誤解を解かなきゃいけないんだ。

 ナメられたままで仕事をしても、正当な評価は決して得られない。
 買い叩かれたり、嫌みを言われたりと不愉快なコトも起こりやすくなる。

 プロはナメられたまま、引き受けちゃいけないんだ。

 尊敬しろとか、丁重に扱えとか、そういうコトじゃないけど、プロとして認められていること、プロの仕事が必要なのだということは、お客に納得していてもらわないと、真っ当な仕事ができないんだ。

経験を積めばナメられにくくなる

 ボクはネットの仕事をたくさんやったおかげで、一目置かれるための経験値を上げることができた。

 海千山千の人たちと関わってきたから、色々見えて、気付けて、意見も言えるようになったし、その意見が通ることも多くなったんだ。
 経験豊富な分だけ、業種やタイプ別の喋り方、伝え方なども身に付けられたからね。

 それが漫画の仕事でも、大きく役立っている。

 広告漫画の依頼者たちの「漫画の知らなさ加減」というのは、まさにネット黎明期の人たちと似たようなモンなんだ。
 アレもコレも知らない、わからない。

 しかもネットと違って、これから知っていこうという気もないんだ。
 そういう人たちにプロと認めさせて、ナメられずにやっていくというのは、本当に大変なこと。

 だから、たぶんね、最初はみんなナメられちゃうと思うんだ。

 でも、そこで落ち込まないで経験を積んでいけばいいと思うよ。

 ボクにしたって、色々ハッキリ言えるようになったのって、たぶん40代に入った辺りからだと思う。

 ボクは割とズバズバ言うタイプではあるんだけど、それでも20代、30代の若造のブンザイで50代、60代のブチョーとかシャチョーに偉そうに喋るのって、ちょっと遠慮しちゃうようなところもあってね。

 それに経験不足で引き出しが足りないせいで、必殺技を持ってても出し所がわかってなくて、早く出しすぎて失敗しちゃう、みたいなコトも多かった。
 くそぉ、序盤で必殺技を出すときは破られるエピソードだっていうのは、特撮番組で教え込まれてたハズなのに。

 とにかくボクだって、最初の10年くらいは、お客の言うことには従わなきゃと思い込んでいた時期があったんだ。

 それが色んな経験をして、年齢も重ねて、40代くらいになってようやく、年齢的にも経験的にもそこそこになって、ナメられずにやっていけるようになった感じなんだよ。
 年齢と実力のバランスが取れてくるのが、そのくらいの頃なんだろうね。

 だからナメられちゃダメだとは言え、最初からナメられずにやれるってモンでもないように思うよ。

 最初はうまく行かなくてアタリマエで、そういう時期にたくさん経験を積んでおく。
 若いウチのほうが失敗したときのダメージも小さくて済むケースが多いから、たくさん失敗しておくって感じでも構わないと思う。

 最初は難しくても「ナメられちゃダメだ、ナメられちゃダメだ、ナメられちゃダメだ……」って思い続けていれば、ボクのときよりずっと早く、お客のATフィールドを破れるようになると思うよ(でも無理しすぎて活動限界を超えて暴走しちゃったりしないでね)。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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