小説版イバライガー/第10話:犬とわたしの10の約束(後半)

2018年2月13日

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Bパート

 人間の世界は、まだよくわからないが、ここは『駅ターミナル』というところらしい。
 人が多い。もっとも、みんな逃げ去っていくから、今は周囲には誰もいない。遠巻きに囲んでいるTDFとかいう連中だけだ。

 たまに銃撃が来る。それは全てはね返した。

「てめぇらぁああ! ふざけんなよ!!」
 ミニライガーブラックは怒鳴りながら、振り返った。

 犬、という生き物だ。子犬らしいが、ものすごく大きかった。データにある犬とはまるで違う。
 背中から触手が出ている。牙も長く伸びて、爪も巨大だ。これで親になったらどんだけスゴイのかな。
 ミニブラックはちょっとワクワクしている。

 犬が吠えると、応じるように銃弾が撃ち込まれてくる。
 たたき落とす。

「おいっ! コイツが何したってんだよ!? オレは知ってるぞ。コイツに聞いたからな。お前らがコイツのオカアサンを殺したんだろ! そんで今度はコイツまで殺すつもりなんだろ!!」

 ムカついた。コイツは悪くね~じゃね~か。『親』がどんなモノか知らないが、殺されれば怒るのは当たり前だ。
 ジャークってのはやっつけなきゃなんないらしいけど、コイツは別だ。コイツは悪くねぇ。

「おい、弾に当たんなよ?」
 子犬に呼びかけた。伝わっているかどうかはわからない。

 歩き出した。
 あのバカたちをブッ飛ばしてやる。

 


 隊員の一人がランチャーを構えた。
 市街地では強力すぎる武器だが、そんなことを言っている場合ではなかった。発射する。直撃。

 だが、小さなヒューマロイドは身じろぎもしない。そのまま近付いてくる。
 もはや総攻撃をかけるしかない。ソウマは、第二次世界大戦後、日本国内では初めての本格的な市街戦になることを覚悟した。

「やろうってんだな? おもしれぇ。オレ様は生まれたばかりなんだ。この力がどのくらいか試してみたかったんだよ。お前ら相手なら遠慮しね~からな!」

 一気に飛び込んできた。装甲車に手をかける。そのまま持ち上げた。
「へへ、軽い、軽い!」

 十数メートル先のパトカーに向けて、ぶん投げる。
 一瞬、寝ぼけたようなサイレンの音がして数台が潰れる。

「オラオラ! そっちも行くぜ!!」

 拳を振るった。拳圧だけで数名の隊員がバリケードごと吹き飛ばされる。
 ソウマはかろうじてかわしたが、攻撃を加えることはできなかった。

 戦力に差がありすぎる。このままでは、こちらが制圧される。
 だが、撤退は許されない。街の真ん中でジャークが暴れているのだ。

 ミニブラックが動きを止めた。
 何かを察知したように、犬のほうを振り返った。

 数体の影が、飛び込んできた。
 やっぱり来やがったか。

「ソウマ、オレたちに任せてくれ」
 背後から、声がした。仲間たちが、素早く銃口を向ける。
 シンとワカナが立っていた。

「お前らは何もするな。そう言ったはずだ」
「わかっている。だけど、アレはTDFの手には負えないはずだ。今はまだ、な」

 例のデータは、解析が進んでいるはずだった。
 あの中にある技術さえ手に入れば、こいつらを凌駕できる可能性はある。

「アレは何だ? 動物のジャークなんてのもいるのか?」

 ジャークとの戦いの中で、わかってきたことがある。
 ジャークが取り憑くには、その対象にも『悪意(攻撃的な衝動など)』が必要らしい。
 ジャークの悪意と対象生物の悪意がシンクロしたときにのみ、憑依できるのである。

 あらゆる生物に憑依することができるが、憑依条件に「悪意」が必要なため、人間以外の生物が憑依対象になる可能性は低い。
 動物が他の生き物を襲うのは悪意によるものではない。他者に害意を持つ生物とは、すなわち人間なのだ。だからジャークは人間体ばかりなのだ。

 だが。

「動物だって、怒りや憎しみを持つことはあるからな……。人間のように、見ず知らずの誰かに対して害意を持ったりはしないのかもしれないが、襲われたり、いじめられたりすれば怒る。そこをジャークに狙われた……ということなんだろう」
「ち、やりづらい相手だ」

 舌打ちするソウマに、ワカナはちょっとだけ好感を持った。
 哀れな動物に共感する気持ちがあるのだ。それはワカナも同じだった。

「私たちも戦いたくはないよ……。でも、どっちみち、アレをほっとくわけにもいかないし……」
「何とかできるのか? あの小さいのはブラックだろう? この間の爆発みたいなことになったら、どうする? ここは街の中心だぞ。前回のような郊外じゃない」
「それはTDFでも同じだろ。ブラックの怖さはよく知っている。少なくともお前らよりは、オレたちのほうが可能性はある」

 その通りだった。戦闘員やゴーストレベルならTDFでも対処できる可能性はあるが、四天王やブラックには無力だ。
 ソウマは空しくなった。分かっていながら、型通りの対応をしただけだ。お役所仕事かよ。

 ため息をついて仲間たちにサインを送った。銃が下げられる。人垣が割れた。
 シンとワカナは、何も言わずに歩いていった。

 


 正面に、ミニブラックが待ち受けていた。

「あんたがシンか? お前らも、あのバカの仲間なのか?」
「お前が、ミニライガーブラックか。なんで、こんなところにいる?」
「社会勉強ってヤツかな。オレ様は生まれたばかりだからな。あちこち見て、勉強してこいってさ」

 自我を育てている、ということか。
 ただのブラックのコピーではなく、独立した人格を持っている。
 それが成長し、強固な意思を持てば持つほど、シンクロ時のパワーも上がるのかもしれない。
 イバライガーの力の本質は、意思の力と言ってもいい。

「だ、だけど……なんでジャークをかばってるの? ブラックだってジャークの味方なわけじゃないでしょ?」
「バ~カ、ブラックは関係ねぇよ。それにジャークもな。オレ様は子犬を助けてやってるだけだ」
「で、でもアレは……」
「うっせ~よ! お前ら人間はアイツのオカアサンを殺した。悪いことをしたら罰を受けるってのは人間が決めたんだろ。なら罰を受けろよ。自分で決めたくせに、人間以外のときには守らないってのかよ!?」

 純粋なのだろう、とワカナは思った。
 ミニブラックの言い分は、確かにわかる。

 動物に罪はない。ジャークの影響だとはいえ、あんなふうにしてしまったのは、人間たちなのだ。
 都合よく利用して、都合が悪くなったら捨てたり殺したりする。そんなことは間違ってる。

「けど……それでも人間を殺していいわけでもないだろ。ほおっておくと、奴はそうなる。それは食い止めなきゃならないんだ」
「なんでだ? なんで人間だけ特別なんだよ? 気にいらねぇ。気にいらねぇものはブッ潰す。どうしても止めたいなら、オレ様が相手になるぜ!」

 くっ。戦うしかないのか。だが、ミニブラックの言うことは基本的に間違っていない。
 それだけに厄介だった。最初に人間不信を学んでしまったようなものだ。
 このまま成長したら、いつかブラック以上の脅威にもなりかねない。

 ワカナが、うつむきながら袖をつかんだ。

「シン……、この子の言う通りだよ。倒しちゃダメ。殺しちゃいけないよ」
「お前……」
「あの犬は、ナツミなのよ! ナツミと同じなの! 私はあきらめられない!!」

「そうよ、シン!」
 ガールの声。犬と対峙しながら、叫んでいる。

「この子が人間を襲うのは止めなきゃならない。でも、この子を殺すことはできないわ。ミニブラックの言う通り、この子は悪くない!!」
「そうだよ! 悪くないものを殺すなんてオカシイよ!!」
 ミニライガーたちも、声をあげた。
「へへ、どうやら分かってる奴もいるみて~だな」
 ミニブラックが笑った。

 シンにも、わかっている。この犬もナツミも、被害者なのだ。
 それをさらに追いつめ、苦しめるなんてことを、イバライガーたちが受け入れるわけがない。

 だが、本当に救えるのか?
 あそこまで怪物化してしまった者が、元に戻るのか。

 ふと気がついた。Rがいない。

 出動は、一緒だった。どこかにいるはずだ。
 だが何故、ここにこない?

 


 イバライガーRは、駅ターミナルを見下ろすホテルの屋上にいた。

 状況は分かっている。
 あのジャーク化した犬を止めなくてはならない。

 だが。

 ブラックの言葉を思い出していた。

 世界を治療する。

 それは確かに必要なことだ。自分たちがジャークを倒したとしても、人間たちの中に悪意がある限り、ジャークは何度でも蘇るのではないか。
 我々が倒すべきはジャークではなく、悪意そのものではないのか。

 だが、人間の悪意は切り離せない。ほとんど全ての人間の中に潜んでいる。シンやワカナの中にも。
 多くの者は、それが表面に出てくることが少ない。出たとしても小さなもので、重大な犯罪に至ってしまうケースは少数だ。

 だが、それは人間自身の自制によるものなのか。法で縛っているから出てこないだけではないのか。
 縛りがなくなったら、悪意たちが吹き出してくるのではないのか。

 悪意を持つ生物=人間を救うことは、本当に正しいのか。
 人間を救うことは、地球という生態系を救うことにつながるのか。

 人間以外の『悪ではないジャーク』を目の前にして、Rは迷っていた。

 戦っていいのか。それは本当に正義なのか。
 正義とは何なのか。

 


 犬が吠えた。駆け出す。こちらに突っ込んでくる。
 ガールが回り込んで押さえた。爪と牙が、ガールのプロテクターを引き裂こうとしている。背中の触手が、首を締める。
 それでもガールは、ただ押さえるだけで、攻撃しようとはしなかった。

「おい! 邪魔すんなよ!」
 ミニブラックがガールに飛びかかろうとしたが、ミニライガーたちが、阻んだ。
「へぇ、チビ軍団のくせにやろうってんだな!!」
「待て!!」
 シンはミニライガーの前に飛び出した。
「ミニブラック、もう少しオレたちの様子を見てくれ。ガールは攻撃してはいない。ただ押さえているだけだ」
「待って……どうなるってんだよ?」
「わからん。あの犬を傷つけずに助ける方法があるかどうかも分からない。どうしようもなくなれば、少なくともオレは戦うしかない。けど、そのときまでは待ってくれよ」

 シンは正直に言った。ミニブラックに嘘は通じない。いや、嘘は人間不信を広げるだけだ。
 もしかしたらミニブラックは、ブラックと分かりあうための鍵になるかもしれない。わずかな可能性だが、それを失うわけにはいかなかった。

「よし、待ってやるよ。だけどダマしたら、ただじゃおかね~ぞ」
 ミニブラックが下がった。
「ありがとう、シン」
 ワカナが言った。

「……ナツミのときと同じことを、もう一度やってみるしかねぇな……」
 ルメージョのとき、ワカナはエモーション・ポジティブのエネルギーそのものを流し込んで、ナツミではなくルメージョのコアだけを倒そうとした。
 あれがどうなったかは未だに分からない。倒せたわけではあるまい。
 だがルメージョは引いた。効果はあったはずだ。

「シ、シン! それ……無理……!!」
 犬を押さえながら、ガールがうめいた。

「ダメ……なの。できるなら……もうやってる。でも、この犬の場合は……ジャーク粒子が体全体に散らばってしまっていて……コアがないの。この子の……悲しみそのものをコアにしているのよ!!」

 殺さないかぎり、止まらない?
 そんな!?

 犬のパワーが上がった。周囲の絶望。人々の恐怖。ネガティブな感情を吸収している。
 ガールが押し切られた。犬が跳躍する。ミニブラックの上を飛び越えて、シンとワカナを狙った。考えるどころか、構える間もない。

 


 飛び降りながら、パワーを叩きつけた。犬は、シンたちの直前で、目に見えない力で押え込まれたように押し潰された。
 それでも、ほとんどダメージはない。頭を振って起き上がる。そのとき、すでにイバライガーRは、シンたちの前に立ちはだかっていた。

「R!?」

 みんなの声が聞えた。だが、答えられない。

 人間を守ることの意味。答えは出ていない。
 それでも、このままでいいはずはない。シンやワカナの危険を見過ごすことはできなかった。

「イバライガーR! お前っ!?」
「下がっていろ、ミニブラック! 私は私自身の答えを探す。そのために、この犬を救う。救ってみせる。それができなければ、私たちは……イバライガーは、何のために生まれたのだ!!」

 犬が飛びかかってくる。かわす。横から肘を撃ち込んだ。体勢を崩して着地した犬に組み付いた。首を押さえ、牙を掴む。
 犬は凄まじい力で抵抗した。爪がアスファルトをひっかく。紙のように引き裂かれ、瓦礫が飛び散る。

 犬の想いが、流れ込んでくる。
 オカアサン、オカアサン、オカアサン。

 思い出が見えた。

 母犬の顔。ミルクのおいしさ。じゃれあった楽しさ。
 迫ってくる黒いもの。動かない母犬。泣き叫ぶ少女。

 悲しみが見える。

 Rは泣いた。流せない涙を流しながら、泣いた。

 すまない。お前の悲しみを止められない。オカアサンを取り戻せない。
 すまない。お前の怒りは、私が受け止める。
 怒りの全てを出し尽くすまで、その牙も、爪も、思う存分、私に向けてくれ。
 私がしてやれることは、それだけだ。

 


 Rの想いが、伝わってきた。

 泣いている。ミニライガーたちも、ミニブラックも泣いている。
 ガールも同じだった。かわいそうだ。犬も、Rも。

 そう思ったとき、エキスポ・ダイナモが輝いた。Rも、ミニブラックも。

 ミニライガーたちも反応している。輝きが、周囲を包んでいく。何かが変わっていく。
 犬の中の、ジャーク反応が小さくなっていく。

 浄化?

 エモーション・ネガティブが、ポジティブに変化していく……!!

 

ED(エンディング)

 爪が短くなり、牙が引っ込んでいった。
 恐ろしい姿だった犬は、どんどん小さくなっていく。

 子犬。Rが、そっと抱き上げた。
 眠っている。ぬくもりが伝わってくる。命の温かさだ。
 ガールが歩み寄ってきて、そっと頭をなでた。

 ワカナに手渡した。子犬の姿を見たがって、ミニライガーたちが覗き込んでいる。
 ミニブラックが「オレの犬だぞ」とか言い張って「こら、起きちゃうでしょ!」とワカナにたしなめられている。

 Rは、自分のベルト……エキスポ・ダイナモに触れた。
 輝きは、もう収まっている。しかし。

 ガールと顔を見合わせた。ガールにもわからないようだ。

 悪意を浄化し、癒す力。
 自分たちも知らなかった力。
 エキスポ・ダイナモには……いや、感情エネルギーには、そんな力もあるのか。

 Rは、答えを見つけたような気がした。

 悪意は消せる。
 例え、表に吹き出してきても、それを浄化する力がある。

「よかったな」
 シンが、肩をたたいた。
「シン、私は希望を見つけた。人間自身の中にだ」

 迷いの全てが消えたわけではない。それでも希望があれば進んでいける。
 Rは、ワカナの胸で眠り続ける子犬に、心の中で呼びかけた。

 助かってくれて、ありがとう。

 

次回予告

第11話 星守る犬
子犬を救ったことで、ミニブラックと和解できたRたち。だけど子供のメンタリティを持つミニライガーシリーズは、子犬をマスコットとして可愛がって、子犬の身体を調べたいみんなの邪魔をして、とうとう、子犬とともに脱走しちゃうの。
そんなミニライガーたちの前に現れたジャーク怪人……!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

(次回へつづく)

(第9〜10話/作者コメンタリーへ)

 


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