カソクキッズ10話:超レアシーンとCP対称性の破れ

2018年1月16日

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Cの鏡とPの鏡が破れている……???

 2008年、カソクキッズの連載開始直前に、KEKの小林誠博士と名古屋大学の益川敏英博士がノーベル物理学賞を受賞した。
 その受賞理由が、お二人の研究「CP対称性の破れ」なのだ。

 

 CP対称性の破れ、と言われても一般人には何のことやら全然わからん。
 ノーベル賞を獲っちゃうくらいなんだから、すごい研究なんだろうとは思うのだけど、何がどんだけすごいのかがわからない。

 というわけで、その研究がどういうものか、それによって何がわかったのかを描いたのがカソクキッズ第10話「CP対称性の破れ」なのだけど……

 ……描いておきながら、ボクも全然わかってないのだ。

 そのわかってないボクが、わかってないなりにCP対称性の破れを説明すると、

「粒子が崩壊するときに、ときどき崩壊を間違えて違うモノになっちゃうこともある」
   ↓
「素粒子の種類が少ないと間違いは起こりにくいから、間違えるくらいには素粒子の種類があるはず」
   ↓
「クォークっていう素粒子は4個しかないって言われてるけど、間違えるためには6個はなきゃオカシイ」
   ↓
「で、調べてみたら本当に6個あった」
   ↓
「ということは二人の理論は正しいらしい」
   ↓
「ノーベル賞受賞!」

 ……ということらしい。

 ……わけ、わかんないでしょ。

 でも、本当に本当で、K中間子(ケーちゅうかんし)という粒子が崩壊するときに、普通は3個のπ中間子(パイちゅうかんし)になるはずなのに、たまに(1000回に1回くらいの確率で)2個のπ中間子になっちゃうことがあるのだ。
 この現象が「CP対称性の破れ」で、つまりCの鏡とPの鏡に中間子さんを映したら、たまに別人が映ることがあるという、ちょっとホラーな現象なのだ。

 Cの鏡に映すときはC変換(見た目は同じだけど電荷が反対になっている)が必要で、Pの鏡に映すときにはP変換(左右と上下が反転して映る)が必要で、その両方を同時にやるのがCP変換で、でも組み合わせパターンが多いと変換を間違って映してしまう、ということらしいんだ。
 ちゃんとCPが常に正しく映るなら、対称性は破れていないことになるのだけど、ときどき間違ってるということは、対称性が破れているということになる、というわけ。


 そのことに気づいたのはジェイムズ・クローニンとヴァル・フィッチという人で、この二人も1980年にノーベル賞を受賞してるんだけど、その時点では「そういう現象がある」とわかっただけで、なぜそうなるのかはわからなかった。

 小林博士と益川博士は「どうしてそんなことが起こるのかを理論的に説明」してみせたんだ。
 それが先の「クォークが6個あると間違いが起きる」という理論なわけ。

 この小林・益川理論が発表されたのは1973年なんだけど、その理論が本当に正しいかどうか証拠がないとノーベル賞にはならないんで、それからず~~っとKEKを始め各国で調べ続けて、発表当時は3個しか見つかっていなかったクォークも、ついに6個まで見つかって、ようやくノーベル賞になったわけだ。

 ……とまぁ、大雑把に説明してみたんだけど、最初に書いたようにボクにも詳しいトコはよくわからない。
 そういうヘンテコな現象が実際にあって、それを理屈で説明できたってことがわかってるだけでね。

 ただ、このCP対称性の破れという現象がなかったら、現在の宇宙は生まれなかったんだ。

 宇宙で物質が誕生したときには、物質と反物質が同じ量ずつ生まれたはずなんだ。
 普通の物質をP変換したものが反物質で、物質と反物質が接触すると、凄まじいエネルギーとなって両方とも消滅してしまう。
 これを対消滅といって、SFなどではそのエネルギーを利用した対消滅エンジンや対消滅爆弾などが登場しているから、SF小説やSFアニメ好きな人なら知ってるよね?

 とにかく、物質が生まれた直後の宇宙では、生まれた瞬間に物質と反物質が出会ってしまい、ほとんどが対消滅してしまったはずなんだ。
 今の宇宙にある物質の全ては、そのときに生き残ったわずかな残骸に過ぎない。無数の星があるように思えるけど、それでも元々の生まれた量のほんのカケラに過ぎないの。

 で、大事なのはここから。

 対消滅では同量の物質と反物質が消滅するんだ。
 つまり、物質(様々な星々など宇宙にある物質の全部)が残っているのなら、反物質も同じだけ残っていなきゃオカシイ。

 だけど、今の宇宙には反物質は見当たらないのだ。
 いや、そのへんにあったら対消滅して消えちゃうんだからなくていいんだけど、でも、反物質だけないのはオカシイのだ。

 両方が同じだけ消えるはずなのに、同じにならない。
 つまり対称性が破れている。
 破れていたからこそ物質だけが生き残り、今の宇宙が、星々が、我々が、生まれた。

 そういうことなんだ。

 ちょっと鏡に違うものが映るというホラー現象が本当に起こっているからこそ、ボクらは生きている。
 そしてそれは本当はホラーじゃなくて、ちゃんと理論で説明できることだった。

 ね、ここまでくるとノーベル賞も納得できてくるでしょ。

 ただ……。

 CP対称性の破れは、反物質がない理由の1つではあるけど、それだけでは説明がつかないらしい。
 また、漫画のラストでちょっとだけ触れたように、CPの対称性が破れているのならT(=時間)の対称性も破れているはずだという。

 1つの答えを見つけると、それまで以上の謎が広がっているのが科学。
 その1つ1つ、果てしない謎に挑み続けるのが研究者。

 かっこいいよなぁ。
 ロマンだよなぁ。

ものすごくレアなサービスシーンがサービスにならなかった件

 小林・益川理論のもとになったアイデアは、益川博士がお風呂に入っているときに閃いたらしい。
 そういう「閃きの瞬間」ってドラマティックだから、漫画の中でも描いたんだけど……実は不満があるのだ。

 だってさぁ……
 ノーベル賞学者のセミヌードシーンなんていう、そうそうなさそうなレアシーン描いたのに全然読者サービスにならないんだぜ!?
 これが不満でなくて何だというのだ!!

 いや、そこだけじゃない。
 この「カソクキッズ:ファーストシーズン/第2章(Run2)」は、海水浴場を舞台にしているから、このエピソードに登場する小林博士は海パン姿なのだ。

 二人も! 実在するノーベル賞学者を二人もセミヌードにしてるんだぜぇえええ!!
 萌えな女の子より、ずうぅううっとレアじゃねぇかよぉおおおおお!!
 それなのに、それなのにぃいいいいい!!

 

 でも、まぁ、怒られなかっただけマシだと思うしかないなぁ。
 この後も、博士に無礼なツッコミを何度もしちゃってるし、それなのにカソクキッズが正式出版されたときにはオビに推薦文まで書いてくださったし、感謝してるんだよ、本当に心から。
(そもそも自分がノーベル賞学者の推薦文付きで本を出す、なんて考えてもみなかったことだしね)

 


※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。

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