小説版イバライガー/第8話:ジャーク・オブ・ザ・デッド(後半)

2018年1月9日

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Bパート

 エネルギー流が、ガールを中心に広がった。
 ガールの風が人々とつながる。その感情の流れにセンサーを集中する。

 見つけた。正面の女性は右肩、左の男は首筋、その後ろの少女は右足首。
 決して当ててはならない。指先にパワーを集め、ミクロの一点にのみ叩き込む。

 それでもわずかなダメージはある。
 Rが駆け抜けた場所の十数名が、繰り糸を断たれた人形のように崩れ落ちる。
 その痛みがガールに伝わる。

「くっ……ガール……!!」

 ガールの風は止まらない。ときどき風と風がぶつかって稲妻が走った。
 ルメージョの氷嵐。ガールはルメージョとも戦いながら、人々の痛みを引き受けているのだ。

 ワカナたち。まだ、あまり進んでいない。人の壁に遮られて、思うように進めないのだ。
 このままでは間に合わない。援軍が必要だ。

 だがミニライガーたちは動けない。
 彼らがガールのダメージを修復し続けているからこそ、耐えられるのだ。

 背後からナイフが振り下ろされてきた。すばやくかわす。
 ソウマだった。

 目は生きている。さすがは訓練されたTDF隊員だ。ルメージョに操られながらも、心で抵抗しているのだ。

 その額にパワーを撃ち込んだ。
 ソウマが膝をつく。気を失ってはいない。

 頭を振りながらRを見上げていた。ナイフは握ったままだ。
 今、ここでTDFとまで戦っている余力はない。
 だがソウマは、ナイフを収めた。

「……また助けられたか。ついでにオレの仲間たちも元に戻してやってくれないか? 状況はわかっている。お前らの手助けができるかもしれん」

 Rはうなずいた。

 可能性の光。今はそれに賭けるしかない。

 


 ワカナとシンの進路を遮るように人の群れが動く。
 攻撃はできない。ダメージを与えれば、その感覚はガールに向かう。ガールの邪魔はさせられない。
 反撃せずに耐えるしかない。攻撃を受けながら走るしかないのだ。

 シンが飛び出し、両腕を広げて群れに背を向けた。
「行けっ、ワカナ! オレはこいつらを少しでも止める!!」

 だが数が多すぎる。
 シンをかいくぐった男たちが、ワカナにも手を伸ばしてくる。
 殴りかかってくる。
 食らうしかない。ワカナは歯を食いしばった。

 何よ、そんな拳。私は絶対に止まらない。

 だが、別の影が割って入った。男の拳が、その顔面に当たる。

 ソウマだった。他のTDF隊員たちも、ワカナの進路に飛び込んでくる。
 スクラムを組んで、人の群れを食い止めている。

「……すまん。ようやく目が覚めた」
「……ったく。遅いんだよ、TDF!!」
 シンが殴られながら毒づいた。
「ふん、あんなヒューマロイドを連れている、お前たちが反則なんだよ」
 やはり殴られながら、ソウマが言い返す。

「ドサクサに紛れて、てめぇに一発入れてやりたいぜ」
「お前の拳なんぞ、こいつらと同じで効かん」
「その割には、足にきてるんじゃね~の?」
 喋っている間にも、拳が何発も打ち込まれている。

 シンもソウマも、足が震えている。
 それでも踏ん張る。
 お互いに、こいつには負けられないという意地のようなものがある。

「ふふふ……」
「わはは……」
 ボロボロになりながら笑いあっていた。
 どっちも男の子。
 こんな状況なのに、ワカナはなんとなく羨ましく感じた。

 ソウマが振り返った。

「ワカナ、急げ。あの女を助けられるかどうかは知らんが、このゾンビ共を人に戻すには、お前に賭けるしかなさそうだ」
「いや、助ける! ワカナなら絶対に助けられる。ナツミも、みんなもな!!」

 シンが人垣を押し返した。
 道が、開いていく。

「ふん、分の悪い賭けだが……やれるかもしれんな。お前らを信じているのは、どうやらオレだけじゃないらしい」

 ソウマの目が流れた。
 その視線の先に、駆け寄ってくる人々の姿があった。

 


 道が広がる。

 普通の人たち。Rによって正常に戻った人の中にも、立ち上がる人がいたのだ。
 シンやソウマたちに混じって、人垣を押し返していく。

 無抵抗に殴られながら、それでも折れない心が集まっていた。

 中年太りのオジサンが、ワカナに振り返った。
「あんたらのおかげで目が覚めたよ。他の連中も、あの赤いヒーローが元に戻してくれるだろう。オレもガキの頃は、ああいうヒーローをたくさん見たよ。本物は初めて見たけどな」

 女子高生も声をかけてきた。
「ワタシの家族は、まだ目覚めないの。でも、きっと助かる。そのためには、あなたを通してあげなきゃならないんでしょ。怖いけど……痛いけど……我慢するから、みんなを助けて!」

 人々が口々に叫ぶ。
「そうだ! 行ってくれ、おねえちゃん! あんたらとヒーローたちの道は、みんなで作るから!!」

 涙が溢れた。

 ブラック、見える? これが人間なのよ。
 人は弱いだけじゃない。時に自分の身を捨ててでも、未来に賭けることができる。
 自分だけじゃなく、誰かの痛みを感じることができる。
 誰かの苦しみを救ってあげたいとも思う。

 悪い人だって、悪いだけじゃない。
 良い人だって、良いだけじゃない。

 それが人間なの。

「おおおおりゃぁああああ!!」
 シンの掛け声とともに、みんなが一気に人垣を押し返した。

「行けぇええええ! ワカナァアアアアアッ!!」

 道が見えた。ナツミ。
 もう振り返らない。痛みも怖くない。

 ワカナは全力で走り出した。

 


 ゴーストの一匹を切り裂き、もう一匹の顎を掴んで捻る。
 数は多いが、ザコに過ぎない。こんなモノで対抗できないことは、ルメージョにもわかっているはずだった。

 ルメージョは微笑んでいる。
 ゴーストを切り刻むブラックを愛おしむように。

 やはり死にたいのか。殺されたいのか。あのときと同じように。

 背後で感情エネルギーが膨れ上がっていくのを感じた。
 ポジティブのパワーが増え始めている。ネガティブの波動を相殺し始めている。

「なるほど。これが可能性か」

 センサーが、よく知っている感情を捉えた。

 ワカナ。こちらへ突っ込んでくる。
 さっきまではネガティブな意識に覆われていたというのに、今は火の玉のようだ。

「面白い。その力、届くかどうか、見届けさせてもらおう」
 つぶやきながら、イバライガーブラックは、飛びかかってきたゴーストをたたき落とし、踏みつけた。

「……だが、R。ガール。お前らが間に合わなければ、人間共は死ぬことになる。奇跡を起こせるか?」

 


 半数は救ったはずだ。
 だが、まだ操られている人は多い。

 ワカナは人垣を突破したようだ。ルメージョに肉薄している。
 ブラックも、それを待つかのように力をセーブしている。

 やって見せろ。そう言っている。

 やってみせる。

 人間たちは可能性を見せた。私たちを信じてくれた。
 必ず応える。

 異変を感じた。ガールの風が、揺らいでいる。弱まっている。
 振り返った。ガールが崩れ落ちようとしていた。
 ミニライガーのバックアップ。人々の応援。それでも無謀だったか。

 ガールは答えない。

 だが風は吹いている。意識が途絶えても、まだ戦っているのだ。

 もう長くは持たない。
 一人ひとりを相手にしている時間はない。
 一発でキメるしかない。

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

 Rが叫んだ。クロノ・スラスターがスライドして拡張した。
 超高速モード。

「ガール、君とシンクロするっ! 君の感覚が捉えているジャークの因子へ、エターナル・ウインド・フレアの風に乗せて、私の全エネルギーを叩き込むっ!!」

 Rの全身が蒼く輝く。飛翔した。

 心の光。それを歪める異物。全てを同時に捕捉する。
 ガールの視界。エモーションの流れが見えた。

「ガールの風を辿って飛べ! ショット・アロォオオオッ……バァアアストッ!!」

 全身から光が放たれた。粒子が風と共に人々に吸い込まれていく。
 その輝きは正確に、ジャーク因子のみを貫いた。

 エネルギーの全てを使い果たしたRが落ちてきたのと同時に、全ての人が倒れた。

 


 走れ。息が切れても、身体が砕けても。

 シンや大勢の人々が、ガールが、Rが、命を賭けて作ってくれた最後のチャンス。
 ナツミを助けるために、私の痛みを止めるために、みんなが力をくれた。

 でも相手は四天王。私にルメージョを止められるの?

 いいえ、絶対に止める。
 もう私の痛みなんか、どうでもいい。
 みんなの痛みを、きっと止めてみせるっ!!

 


 ついに来たか、ここまで。
 だが惜しい。ワカナの力はルメージョには届くまい。

 どれほどの力を託されていたとしても、それを木偶のように食らうほどジャークは甘くない。
 ワカナが拳をふるう。それよりも早くルメージョの刃がワカナを貫く。

 一瞬先の光景が、ブラックには見えた。

 ここでワカナを失うわけにはいかなかった。この先の戦いのために、シンとワカナは必要な「力」だ。
 ワカナを抑えようとブラックは前に出た。

「!?」

 MCBグローブが光っている。ブレイブ・インパクトにも匹敵するエネルギー。

 だが何故だ。ここで力を使っても、まだルメージョには届かない。
 混乱しているのか。

 違う。ワカナはルメージョを狙っていない。

 


 グローブを握りしめた。感情エネルギーが……エモーション・ポジティブがスパークする。
 氷嵐が叩き付けられる。それを押し返す風もある。
 ワカナを支える人々の想いが、イバガールの風に乗って流れ込んでくる。

 ルメージョが身体を翻した。氷が刃となる。斬り込んでくる。かわせない。構わない。もう痛みは恐れない。

 ナツミ。振り返って。みんながあなたを待ってる。あなたは死んでいない。そこにいるはず。私を斬ってもいいから、帰ってきて。
 ルメージョの動きが一瞬止まったように見えた。

 唇が動いた。

「ワ……カ……?」

 その瞬間、ワカナは全力で拳を振った。

 まだ届かない。

 いいえ、届く。
 私には、まだ最後の『仲間』がいる。
 きっと応えてくれる。
 それを信じる。

 祈りを込めて叫んだ。
「ブラック! お願い!! 私の想いを……ナツミに届けてぇえええええ!!」

 


 ブラックはセンサーを集中させて、ルメージョのコアを探った。

 受け止めた『力』を、さらに凝縮させる。
 それは巨大な光の槍となった。

 強烈な輝きが、世界をモノトーンに変える。
 ブラックとルメージョだけが変わらない。

「ふ、まさか、このオレが『仲間』とはな……」

 光が放たれる。閃光が全てをかき消す。

 一瞬の静寂の後、色が、戻ってきた。
 全ての風が、止んでいた。

ED(エンディング)

 ブラックも、ルメージョもいなくなっていた。

 モノトーンの世界が、二人を連れ去ってしまった。
 人々が倒れている。助け起こそうとする人もいる。
 シンが、座り込んでいた。

 ワカナは凍った湖面を振り返った。冷気は消え失せ、氷は溶け始めている。
 ルメージョも、ナツミも消えてしまった。
 唇が動いたあのとき、ナツミはいたのだろうか。
 私たちの想いは届いたのだろうか。

 そっと胸に触れた。
 痛みはある。
 ワカナは初めて、その痛みを愛おしく感じた。

 

次回予告

■第9話 ミッション・イン・ポッシブル  /ミニライガーブラック登場
TDFとの確執を解消してジャークを倒すために、エキスポ・ダイナモを含むライガーシステムのデータをTDFに提供することにしたシンたち。だけど、そんなことをブラックが認めるわけがないし、ジャークもデータを奪おうと狙ってくる。三つどもえの争奪戦の中、ブラックは新たな力を手に入れるっ!?
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

(次回へつづく)

(第7~8話/作者コメンタリーへ)

 


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