大人のイバライガー:ボクが見たヒーロー活動の舞台裏

2018年1月6日

 時空戦士イバライガーでは、たまに『大人のイバライガー』というトークイベントを開催している。

 活動の舞台裏とか、イバライガー誕生の秘密とか、ようするに「お子さんは興味なさそうだけど大人は聞きたがるようなネタを披露するトークイベント」なのだ。スタッフや関係者とファンが交流するイベントでもあるので、居酒屋で飲みながら、といったこともある。

 実は、この『大人のイバライガー』を最初に企画したのはボク。

 そういうイベントをやろうと思ったキッカケについて、そしてトークライブで紹介してきた泣ける舞台裏のいくつかを、ここでも披露したい。

 いや、マジで泣けるのよ。泣けてくるのよ。

 2016年秋に、ご高齢のファンの方が亡くなられたときに、イバライガーブラック本人がお通夜に出席し焼香した件はテレビやネットで大きな話題となったけど、アレは特別なことじゃないんだ。

 イバライガーは、いつだってあんなふうなんだ。

 そして、ああいう舞台裏を何度も何度も見てしまったボクは、その姿以上に彼らの行動に惹かれてしまったんだ。
 色々なことを手伝ってるのも、小説版を書いているのも「彼らの心の中にいるヒーロー」に出会ってしまったからなんだ。 

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イバライガーは完全個人活動なんですよ!

 ボクが企画したトークライブ『大人のイバライガー』の第一回が開催されたのは2012年の夏。

 そのキッカケは、観客のこんな声を耳にしたからだった。

「このイバライガーってのは県でやってるんだから無料で当然よねぇ」

 いやいやいや、県とか全然関係ないっす!
 全部、個人の自主活動。その道のプロとかも1人もいないし、資産家の道楽でもないっす!

 そうツッコミたかったが、ぐっと我慢した。

 こういう誤解は多い。

 かなり本格的に活動しているし、県や警察などともコラボすることが多いから、相当な資金があるんだろうとか、公共機関が運営してるんだろうとか思い込まれてしまうのだ。

 ボクはイバライガーの営業活動などに同行することもあるのだが、無料出演を頼んできた公共機関のお偉いさんに「いやぁイバライガー大人気だねぇ。ずいぶん儲かっているでしょ」などと言われたことが度々ある。

 冗談じゃない。
 今日、ここに来るだけだってヒィヒィなんだよ!
 無料で当然みたいな顔すんなよ!

 そう言いたかったけど、これも我慢した。
 イバライガー本人が耐えてるのに、ボクがキレるわけにいかないもんねぇ。

 でも、そういう誤解を解消する機会をつくりたかった。

 かといって、ショーの会場で実は自主運営なんですよ~~と言って回るわけにもいかない。

 だから『大人のイバライガー』を企画したのである。
 売れてるから金持ちだろうと思われていると、いつまで経っても資金や支援が集まらないし。

「時空戦士イバライガー」は茨城県のご当地ヒーローとして紹介されることが多いけれど、実際には、県、市町村等の公式キャラクターじゃない。

 あくまでもヒーロー好きの仲間たちによる自主活動であって、純粋なオリジナル・コンテンツなのだ。

 そうした活動の結果として「ご当地ヒーロー」の役目も果たしているというだけ。
 ヒーローを名乗る以上、地域のために協力してと言われれば断れないし、そういうことに積極的に取り組んでこそヒーローというところもあるから。

 したがってイバライガーには、資金面を支える母体組織などは存在しない。
 もちろんギャラのもらえるショーも少なくない。スポンサーになってくれる企業も増えてきたし、グッズもたくさん出ている。

 けれどギャラが出ない(あるいは足りない)出動が、それらを上回って多いのだ。

 震災復興、不景気など、様々な理由で各地の予算は圧迫されている。
 十分なギャラがあるほうが珍しい。

 けれどギャラがなくても経費はかかる。
 しかもイバライガーショーは、基本的に無料のイベント。

 テレビなどのマスメディアとつながることができれば、例え無料イベントでも、様々な形で資金を作り出すことが出来るのだけど、茨城県は全国で唯一、地方のテレビ局がない県なのだ。
 他の地域のモデルは、茨城では通用しない。

 そういう中でイバライガーは、ギリギリの活動を続けてきたのだ。

 お金がないから子供が呼んでも来ない、なんてことではヒーローではない。
 ギャラがあろうがなかろうが、ヒーローである以上いかなければならない。
 イバライガーはコスプレイヤーではなく、本当のヒーローを、本気で目指しているのだ。

 だからイバライガーは身を削って出動し続けている。

 ボクはイバライガーの正式スタッフではなく、あくまでも外部協力者の立場なのだけど、代表者に次ぐ古株でもあり、WEBサイト、ポスター、パンフレット、各種ノベルティなども多く手掛けてきたし、ショーの脚本、各種設定、営業企画などまで担当しているので、ある面ではスタッフ以上に深い関係になってしまっている。

 それだけ関わっていながら決して正式スタッフになっていないのは、イバライガーの運営が本当にギリギリすぎることを、誰よりも知っているからだ。
 正式スタッフになったら、様々な問題に正面から向きあわなきゃならなくなる。

 それはボクには無理だ。耐えられそうにない。
 やるからには本気で打ち込みたいけど、そうなると今の本業をセーブしなきゃならなくなる。
 でも、そうしたら食えなくなっちゃう。自分一人なら貧乏でもやりたいことを選ぶだろうけど、家族やスタッフもいるのだ。自分は平気でも、家族が辛いことには耐えられない。

 でも、彼らは踏ん張り続けている。

 そういう裏側を知っているから、ボクはショーに本気で感動できるというところもある。
 ただ必殺技を出すよりも、その技が誕生するまでにどんな物語があったのかを知ってるほうが盛り上がるってのと同じだ。

 そういう「誰も知らないイバライガー」を語るイベントが『大人のイバライガー』だったんだ。

 もちろん、裏事情なんか知ったことじゃないという方がいても構わない。全然問題ない。
 でも、事情を知って「そうだったのか」と思ってくれて、なおかつ財布にちょっとだけ余裕のある方がいたら、ショーを観た帰りにグッズの1つでも買ってあげてくれると本当にありがたい。

 そういうファンの、一人ひとりの小さな力が集まって立ち上がるのがイバライガーだからね(笑)。

ボクが信じてしまったもの

 2012年6月、大阪ミナミで通り魔殺傷事件があった。
 犯人は「仕事もなく、貯金も二十万円しかなく、自殺しようと思った。事件を起こせば死刑にしてくれると思った」などと供述したそうだ。

 こうした事件が起こるたびに、ふざけんな! と思うのだが、このときは本当に憤った。

 この犯人が「貯金が二十万円しかない」とナメたことを言っていたそのとき、我らが時空戦士イバライガーは、代表者の預金口座も含めて461円(誤植じゃないぞ)しかなく、しかも、そのわずかな口座さえ銀行に差し押さえられそうな状況だったからだ。

 そんな状況でも、悲観するどころか未来を信じ、ボランティアさえ積極的に続けているヤツが目の前にいる。
 それなのにイバライガーの約434倍ものカネを持っていて、何が「自殺するために人殺し」だ?
 そんだけあったら何でもできるぞ! バカヤロウ!

 物騒な前ふりになってしまったが、本文は犯罪者を糾弾するためのものではない。
 経済的な困窮ぶりを覗き見するためでもない。

 マンガやアニメには、決して折れない心を持ったヒーローが数多く登場する。
 ボクもそれに憧れてきた。

 だけど現実には、それほどのハートを持った人間は滅多にいないものだ。

 人生には不運もある。
 自ら招いてしまった失敗もある。
 災害や事故や病気だってある。

 そういうことにぶつかって、それでも折れずに自分の未来を信じ続けるなんてことは、そうそうできるものじゃない。

 イバライガーには、それができるのだろうか?

 結論はまだ出ていない。
 このドキュメントは、今も進行中だからだ。

 どこかで折れざるを得ない。

 そう思ってずっと見守ってきたけれど、近頃ボクは、イバライガーは本当に折れないんじゃないか、と信じ始めている。
 ほぼイバライガー誕生直後からずっとそばで見てきて、その間に起こった数々でさえ、ここで折れなきゃバカだ、踏ん張れるはずがないといったことだらけだったからだ。

 どんなことがあっても折れない男。
 そんな人間が本当にいるのか?

 もしかしたら、本当にバカなだけかもしれない。
 でも、そんなバカに惹かれてしまう自分がいる。

 だからこそ、トークライブで伝えたかった。

 成功者の回顧録でも自慢たらたらの自伝でもなく、蜃気楼に向かって歩き続けている今の姿こそが、ボクが信じてしまったものなのだから。

 以下で紹介している時空戦士イバライガーの生き様は、間違いなくバカだ。
 フツーの人は、決して見習っちゃいけない。

 でも、それがなぜか心を打つ。
 何かしなくちゃ、オレも立ち上がらなきゃ、と燃えてしまう。

 不思議だよなぁ。

マジでヒューマロイドなのかも

「そこはもっと、こう動けよ!」
「このシーンは、こうしたほうがいいんじゃない?」

 時空戦士イバライガーを運営する「茨城元気計画」の一角で、翌日のステージショーの練習が続けられている。
 アホらしい冗談が飛び交いながら、でもみんなガチだ。

 い、いや、それは大事なんだけどさ、でも……誰かが言ったほうがいいんじゃないかなぁ。
 今はリハーサルよりも、電気を止められたりトイレットペーパーが買えなかったりすることのほうを、何とかしなきゃなんないんじゃないか?

 でも、誰もそれを気にした風もない。
 当たり前のように練習が続く。

 水を差すのも何だから、ボクは黙って見てる。
 そして結局は言いそびれて帰る。

 しようがないよな。

 あいつら、アレが生き甲斐なんだから。
 そして明日も、精一杯頑張るに違いないのだ。

 現場に行けなくても、その光景は見える。
 彼らは、本当にみんなの応援を食べて生きているのだ。

 マジでヒューマロイドなのかもしれない。

狼藉のイバライガーブラック

 茨城県水戸市の、とある居酒屋。
 ベロベロに酔っぱらったイバライガーブラックが、狼藉の限りを尽くしている。

 マスクのつなぎ目から強引にストローを突っ込んで、カルアミルクを何倍も飲みまくり、制御不能に陥って、鍋を突っついてみたり、意味もなく壁に張り付いたり、寝転がったり、でんぐり返ししたり、女性ファンに下ネタを連発したりしている。

 なんて下品で無防備なヒーローなんだ!

 だけどファンたちは、むしろ大喜び。
 平気で醜態をさらす姿に、歓声だか悲鳴だか分からない声が飛ぶ。
 ボクはあきれ顔で、それを眺めている。

 このザマでもスペシャルゲストだから、ファンたちは誰もツッコめない。
 ブラックはイバライガーチームのリーダーでもあるので、スタッフもツッコめない。

 だから、いざってときに止めるのがボクの役目。
 一番の年長者でご意見番のような立場でもあるから、ボクだけは叱れる……ハズ。

 隣りでブラックが女性に抱きつこうとしている。
 すでに行き過ぎなんだけど、女の子も楽しそうだし、もうちょい見ていよう。
 一般の人はいない「濃いファンだけの忘年会」だしね。

 それに、これがブラック流のファンサービスだってことは分かっている。
 本当に一線を超えたりはしない。そこまでバカじゃない。

 それにしても、ファンの集いに参加する芸能人やキャラクターは少なくないと思うのだけど、ここまでやっちゃうのはイバライガーくらいだろう。
 フツーに酔っ払いのオッサンになってしまっている。
 ヒーローならではの威厳なんか、微塵もない。

 微塵もないんだけど、全てをさらす姿に、ますますファンは魅了されるようだ。
 そして、時折見せるヒーローらしい仕草に萌える。

 「いいかげんにせんかい!」とツッコむ。
 ペコと頭を下げるブラック。

 そして一瞬、ヒーローに戻る。
 その瞬間、表情のないはずのマスクが、本当にキリっとして見える。

 ファンたちのカメラが集中する。
 ボクは撮影の邪魔にならないよう、そっと下がる。

 フラッシュに包まれるブラック。
 くっそ~、確かに今の顔はかっこいい。女性が集まるのも分かる。

 でも……。

 「ボケも大概にせんかい!」
 ボクは、女性ファンにキスしようと迫るブラックに何度でもツッコむのであった。

失われた日常を届ける者たち

「どっかに困ってる人、いないかな?」

 3月14日の夜。
 東日本大震災から3日目のことだ。

 土浦市内を巡回するイバライガーカーにボクは乗っていた。

 代表は、周囲に目を配りながら車を運転している。
 周囲は停電で真っ暗だけど、特に混乱などは目に付かない。

 各地の体育館などには日中、陣中見舞いに回っているのだという。
 そして夜になると、近郊の街を車で流して、困っている人がいたら手伝おうというのである。

 もちろん、その場で変身して。

 今こそイバライガーが人々を元気づけなきゃならないと、代表たちは燃えている。

 こういうときに燃えるのは、ある意味で不謹慎かもしれない。

 だけど、出演する予定だったショーの全ては中止になり、当分は自粛が続くだろうから収入の当てもないというのに、自分の生活よりもヒーローとしてやるべきことのほうに夢中になっているのだ。

 その後、イバライガーたちは、毎日、県内各地の避難所を回り続けた。

 ボランティアだから1円にもならない。
 経済的な困窮度で言えば、被災者よりもずっと困窮しているってのに、そんなことはそっちのけ。

 やはりバカである。

 だが、これぞ愛すべき、そして誇るべきバカだ。

 こうした行動は並外れた目立とう精神に過ぎないのかもしれないけれど、そのおかげで気持ちが楽になる人々も、間違いなく、いるのだ。

 ヒーローがやってきて握手したり、一緒に遊んだりできる日々。
 それが茨城の日常なのだ。

 震災で失われた日常を届けてあげる。
 それには大きな意義があると思う。

「どっかに困ってる人、いないかな?」

 バカだけど、ボクは彼らがたまらなく好きなんだ。

※追記

 なお、こうした活動によってイバライガーはますます困窮したが、素敵な話もいくつか生まれた。

 ボクが「小説版イバライガー」を同人の自費出版で立ち上げたとき、その梱包、配達、代金回収などを手伝うと名乗り出てくれた人がいたのだ。
 大手運送会社に勤めているから、そういうことなら支援できると、声をかけてくれたのだ。

 その人は言った。

「震災のとき、自分たちも避難所にいました。
 娘はよほど怖かったのか、あの日から全く笑わなくなっていたんです。

 でも、避難所にイバライガーが来てくれて、初めて娘が笑ったんですよ。
 イバライガーが、娘の笑顔を取り戻してくれたんです。

 あの日のことは忘れません。
 今度は私たちの番です。

 イバライガーの手助けになるというのなら、ぜひ、やらせてください」

 そう言ってくれたんだ。
 ボク、涙をこらえるのに必死だったよ。

 イバライガーにお金はないけど、お金では買えないものを、彼らはいっぱい持ってる気がする。

開いたクチがふさがらない

「震災で被災した子供たちのために、ショーをやろうと思うんですよ」

 へ?

「つくばカピオを借りて、近郊のご当地ヒーローも招いて、大々的にやるんですよ」

 え、なに?
 会場をただで貸してくれるの?
 まぁ、震災支援のためのボランティアなら、そういうこともあるか。
 そんならボクも協力するよ。

「それで会場借りて、ちゃんとショーをやるにはン十万円いるんですよ」

 ただじゃね~のかよ!
 実費でやんの?

 いや、だってお前ら、震災でイベントがみんな中止になって収入ないはずだろ?
 その上、ずっと被災者激励って言って、県内を巡回してて、ガソリン代さえ満足に払えなくなってるじゃん。
 それなのに実費で入場無料のショーをやるっての?

「わっはっは、ウチの初めての自主ショーだよな!」
「うん、これまで最大のショーにしなきゃな!」

 みんな目がマジだ。
 足りない分は、懇意にしているスポンサーに掛け合って支援金を求めるつもりらしい。

 交渉はこれから。
 でも予約金3万円は、明日までに入金しなきゃならないらしい。お金あんの?

「あはは、それが全然ないんですよ。ま、これから駆け回って何とかなるかどうかですね」

 もう、開いたクチがふさがらない。

「だって、こういうときに活躍してこそのイバライガーじゃないですか」

 ……ボクは覚悟を決めて、予約金を寄付した。

 こ~なったら、こいつら止まらないもんなぁ。
 止まらないなら、助けるしかないもんなぁ。

後ろめたいランチ

 つくばカピオの楽屋の脇。
 通路に車座に座って、お弁当を食べているイバライガーの関係者たち。

「いや、ゲストの皆さんにはちゃんと楽屋を用意したんだけど、そこで資金が尽きちゃって、ボクらはここなんですよ」

 当たり前のように笑う代表・卯都木。

 他のスタッフにも不満そうな顔はない。
 みんな美味しそうにおにぎりを食べている。

「そっか、がんばってね」

 ボクはいたたまれなくなって、その場を離れた。

 つくば市のバカ!
 控室の1つくらい、サービスしてくれてもいいじゃね~か!

 ちくしょう、見てろ。いつかきっと、こんな惨めなことはさせないようにしてやるぞ。
 あいつらが平気でもオレが平気じゃない。ちくしょう。

 そんなコトを思いながら、でもボクは隣りのデイズタウンで、ちゃんと客席に座ってランチを食べた。
 当たり前のことをしてるのに、何か後ろめたいような気分だった。

 この後、夜までステージは続いた。

 ヒーローたちと親しく交流する場から、人々は離れない。
 撤収時間ギリギリまで、ヒーローたちは人々に応え続けていた。

 実体のない、笑顔のプレゼント。

 でもボクは、その重さを知っている。

絶望から生まれたヒーロー

 いきなり重たいハナシで恐縮だが、実はボクは自殺を考えたことがある。

 未遂までは行ってない。考えただけだ。
 何年もかけて、色んなことをなげうって打ち込んできたことが実ったその瞬間に、その全てが砕け散った。

 未来を信じていたから耐えてきたのに、それが全部消えた。
 このまま生き続けるよりも、死んで保険金を受け取ったほうが家族のためではないか。
 そんなことを思うほどの絶望だった。

 あれほど心血を注いで打ち込んだモノがダメなら、自分にはもう何も出来ない。
 そう思った。

 でも、妻がパートで働き始めた。

 あなたには力がある。
 自分らしく頑張れば、きっと「あなたの成功」に届く。
 だから、そうなるまでは私が支える。

 そういうことを言われた。
 ボクがボクを信じられなかったのに、妻はあきらめていなかった。

 あなたは何も失っていない、と。

 それで今の仕事を始めた。
 妻の言葉を信じたというよりも、信じている妻のために立ち直ったふりをした。

 だけど、妻の言うことは本当だった。

 会社という看板を失ったのに、かつての知り合いたちはボクを忘れていなかった。
 注文も入った。仲間や協力者も現れた。
 ひとりぼっちだと思っていたのはボクだけだった。

 みんなの応援の力が集まり、ボクは立ち直り、もう一度歩いていけるようになった。

 お金を目指すのは、もうやめた。

 いや、お金欲しいよ、いっぱい。欲望ありまくりだよ。

 だけど、どんな巨額でも消えちゃうことがあると知ってしまったから、仕事=お金とは割りきれなくなっちゃったんだ。

 それで、稼げることっていうよりも、やりたいことをやろうと考えるようになった。

 というか、元々それしか出来はしないんだよな。
 ボクはボクでしかないんだから、ボクじゃないことはできないんだ。

 これと似た経験を、茨城元気計画代表も体験している。

 その詳細はボクが語るべきではないから書かない。

 だから自分のことを書いたのだけど、ボクのケースよりもスケールが大きく、やはり全てが一夜にして消え、絶望し、死と向き合い、でも戻ってきた。

 そんな彼が絶望から立ち上がったときに生まれたのが、イバライガーだ。

 大きすぎるものを失って、どん底になったときに、初めて見えた小さな光。
 地位や名声やお金に目をとらわれているときには見えなかった光。

 代表は、それを見つけた。

 ボクが自分の原点であるマンガに戻って生き直したように、イバライガーもまた、代表の原点なのだろう。
 ヒーローに憧れ、ああいうふうに生きたいという、一番最初の夢。

 だからボクは、小説番イバライガーの第1話で、それを描いた。

 イバライガーの初登場シーンだ。

 災厄の中から現れる、希望の光。
 それはボクにとっても代表にとっても現実なんだ。
 小さな応援がどれほど大きな力になるかも、身をもって知っている。

 だからこそイバライガーは折れない。負けない。
 負けられねぇえんだよぉ!!

会場の皆さん、ありがとう

 なんて素晴らしい光景なんだろう。

 ショッピングセンター中央の、吹き抜けホール。
 仮設ステージが作られ、客席のイスが並べられている。

 もちろん満席。
 それどころか、立ち見の観客で二重三重の垣根ができ、2階、3階のステージを見下ろせる場所も人で溢れている。
 子供だけでなく、大人も多い。

 やがてショーが始まる。
 戦うヒーローの姿に、子供たちの声援が飛ぶ。

 ヒーローたちのピンチは、イバライガーショーのお約束だ。
 MCのお姉さんが会場のみんなに呼びかける。

「みんな! イバライガーを応援しよう! イバライガーの名前を呼んで! せ~の……」

「イバライガァアアアアアアアアアアアアアア!」

 会場全体が絶叫する。子供たちの声でホールが揺れる。
 その声援を力に代えて、立ち上がるイバライガー。

 このシーンは、ほとんど全てのショーにあるから、数えきれないほど見た光景なのだが、ボクは毎回ここで涙腺が緩んでしまう。

 特別、そのときの声援がすごかったわけじゃない。
 最近のショーはいつでも満員で、今回だって見慣れた光景の1つでしかない。

 それなのに、涙が溢れてくる。

 色々、思い出しちゃうからなんだ。

 観客なんか全然いなかった時代。
 声援どころか、ブーイングが飛びかねない時代。
 終日、炎天下でステージをやってるのに、昼食さえ食べられない日々。
 電気を止められて、携帯も止まって、交通費さえ危ぶまれる毎日。

 そこまで追い込まれて、それでもやめない。

 そんな姿をずっと見ていたから、大歓声で泣けてしまう。

 ああ、みんなが応援してくれている。
 あんなに一所懸命ショーを観てくれている。

 苦労した甲斐があったよな。
 耐えられないことに耐えてきたのは、この声を聞くためだったんだよな。

 ありがとう、会場の皆さん。
 ショーを楽しんでくれて本当にありがとう。

※追記

 2010年3月に茨城県水戸で開催された『コミケットスペシャル』のとき、ボクはブラックの付き人みたいに付いて歩いていたのだけど、あの時も感動をたくさんもらった。

 茨城での開催とはいえコミケはコミケ。集まる皆さんは茨城ローカルじゃない。目も肥えている。

 そういう人たちが喝采を挙げてくれた。
 街中に分散した会場のどこに行ってもカメラの群れ。
 カッコイイという声も何度も耳にした。

 あれは嬉しかったなぁ。
 涙が滲んで、誰にも気づかれない端っこで、そっと拭ったりしてたよ。

 この人たちが喜んでくれた。
 ボクがカッコイイと思ったものは、みんなもカッコイイと思ってくれるんだ。
 やれる。イバライガーはきっとやれる。
 茨城ローカルでしか通用しないキャラじゃない。
 わかる人にはわかるんだ。

 そういう自信が持てたんだ。

 そして、その2年後の2011年の冬コミ。

 時空戦士イバライガーは、コミケ史上初のステージショーをビッグサイト屋上で行った。
 震災で傷ついた茨城、そして水戸コミで縁のある茨城を応援しようと考えてくれたコミケスタッフの特別な計らいで実現したんだ。

 この時もボクはステージの端っこで見ていた。

 場所は茨城じゃない。東京ビッグサイトの大舞台なのだ。
 ウルトラマンも仮面ライダーもやったことがないコミケでのショーなのだ。

 それでも、やっぱり大勢が楽しんでくれていた。

 やっぱり涙でステージが見えなかったよ。
 いや、泣いてなくてもお客が大勢すぎて見えなかったんだけど。

 なので、この場を借りてコミケの皆さん(参加者にもスタッフにも)感謝したい。

 イバライガーを楽しんでくれて、本当にありがとぉおおおおおおおっ!!!

 


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