小説版イバライガー/第3話:未来への挑戦(後半)

2018年1月4日

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Bパート

 炎はかなり小さくなっていた。
 まだ一部エリアで数台の消防車が活動しているが、大半は闇だ。

 イバライガーは、その闇を駆け抜け、破壊された建物から、内部に潜入した。
 暗闇。ジャークの気配はない。人も、いない。

 長い階段を下りる。
 フェイス・バイザーの輝きの中に、放射線施設を示す標識が浮かび上がる。
 構わず進んだ。

 遮へい版でもある、分厚いドアを開け、さらに階段を下りる。
 一番下のドアが、熱で歪んでいた。
 へし曲げ、蹴り破る。
 ドアを吹き飛ばした音が、長く尾を引いて反響した。

 そこは地底のトンネルだった。
 焼け焦げて機能しないが、二極、四極、八極、さまざまな大型電磁石が、どこまでもつながっている。
 その電磁石に覆われているパイプが超伝導加速空洞だ。

 総延長3キロを超える円形の加速トンネル。
 その円周上に、あの測定器と実験棟があるのだった。

 忌まわしい現場に向かって、イバライガーは歩み出した。

 


「……大丈夫……かなぁ?」
 カップラーメンをすすりながら、ワカナがつぶやいた。

 ようやく、食欲が戻ってきた。深夜に食べるラーメンはなぜか美味しい。

「……ひんひりゅひは、はいはろ?」
 同じくラーメンをほおばりながら、シンが答える。

「……信じるしか、ねぇんだよ……」
 やっと麺を飲み込んで、自分を諭すようにシンが繰り返した。

「うん……そうだよね……」
 ワカナは所在なさげに、カップの中のコーンをつっついた。
 沈んでは浮かび上がる黄色い粒を、いつまでもつっついている。

「こらっ! せっかく、なけなしの非常食を食わせてやってんだから、コーンをイジめてないで、さっさと食えって!」
 じれったくなったのか、重苦しいムードに耐えられなくなったのか、マーゴンがツッコんだ。
 ムっとしたワカナがさらに激しくコーンをつっつき始める。「ああっ、やめて!」とか、コーンになりきったマーゴンがボケはじめる。
 付き合いが長いから、こういう即興コントは、絶妙のノリで息が合う。

 いつもならシンもつきあってボケるところだが、さすがにそこまでノれなかった。

 イバライガーは、何をしているのだろう。
 ナツミは、見つかるだろうか。
 3人とも、そのことだけを考えている。考えても考えなくても同じことなのは分かっていても、考えずにはいられない。
 これからどうするかなんてのは、その先のことだ。

 カップラーメンの汁を飲み干して、シンは窓を見た。

 月さえ出ていない。
 研究所も、ここからは見えない。
 それでもシンは眺め続けた。
 闇に濃淡がある。あの濃いところは森だな。
 そんなことを思った。

 


 その森の中に、潜んでいる者たちがいた。

「……装備を確認しろ。目標は傷つけるな。全員、捕らえる」
 リーダーらしき男がアパートの灯を見つめたままで指示した。
 背後で、暗視ゴーグルを付けた十数名が武装をチェックしている。

 作戦開始は夜明けの予定だった。
 アパートの者たちが気づいた様子はない。作戦は一瞬で終わる。

 


 測定器は死んだように止まっていた。
 周囲を見回す。闇は闇のままだ。

 イバライガーは、自らが出現した空間を見回し、手をかざした。
 ベルトのエキスポ・ダイナモが輝きを増す。

「……迎えに来たぞ。目覚めろ、私の分身たち……」

 応えた。測定器の下。
 小さな、球形の物体が3つ、光を放ち始めている。

 歩み寄り、そっと触れた。
 イバライガーの身体に取り込まれていた『彼ら』のナノパーツが、指先から各種データと共に流れ込んでいく。
 細胞が球体に流れ込んでいくようなモノだった。

 ピンポン玉程度だった球体は、徐々に大きくなっていく。
 バスケットボール大にまで達したとき、イバライガーは手を放した。

 球体は活動し続けている。

 イバライガーは、天井を見上げた。
 昼間、突き破った部分から、夜空が見える。

 球体が浮かび上がった。
 そのままイバライガーの視線を追うように、高く舞い上がり、夜空へ飛び出していった。

 球体の内部では、データに基づいてナノパーツが作られ続けているはずだった。
 時空転移のために、最小限のコアのみに圧縮されていた『彼ら』が、本来の姿と機能を取り戻すまで、あと数時間というところか。

 間に合うかどうか、ギリギリだった。
「頼むぞ、分身たち……」
 球体を見送り、イバライガーはつぶやいた。
 そして振り返る。

 最初から、気づいていた。
 闇の奥で、息を潜めていたモノたち。

 


 眠れぬ一夜が、明けようとしている。
 空が白み始めていたが、まだ周囲は暗い。

 シンたちは眠れないまま、それでも目を閉じて、じっとしていた。

 イバライガーが戻ってきたら、やらなくてはならないことが山ほどあるはずだ。
 これからのためにも、身体を休めなくては。

 だが。

 何かを感じた。
 感覚が鋭敏になっていたのもしれない。

 シンが身を起こすと同時に、アパートの電源が切られた。
 ワカナも素早く起き上がった。やはり、何かを感じている。

「停電?」
 マーゴンが寝ぼけた声を出した。

「ちがう。何か、いる」
 言った直後に、窓を突き破って、何かが投げ込まれた。

「やばい! 伏せろ!」

 凄まじい閃光と音が炸裂した。
 暴徒鎮圧に使われる閃光手榴弾=スタン・グレネード。
 これを喰らうと音と閃光で人は動けなくなる。思考することもできない。
 3人は、何も分からなくなった。

 


 隊長の指示に従って、突入した。
 先行した斥候が電源を切ると共に、階段を駆け上がり、スタン・グレネードを投げ込む。
 これで中の者は動けないはずだ。銃を使うまでもなく、制圧できる。

 ドアを蹴破り、部屋に飛び込んだ。
 目標が倒れている。確保。

 手を伸ばしたそのとき、天井を突き破って、何かが現れた。
 咄嗟に銃を抜こうとしたが、衝撃が先に来た。

 3体。子供のような体格。
 分かったのはそれだけだった。

 


 何が起きたのか。まだ目が開けられない。
 誰かに抱えられ、運ばれている。

 風が当たる。研究所を脱したときと同じ風だ。
 イバライガー? 帰ってきたのか。

 だが、感触は違う。まるで子供に抱きかかえられているようだ。
 身体に当たる風の勢いと時間から、かなりの距離を移動したことは分かる。

「だ、誰なの!? イバライガー!?」
「うわぁあっ! 放してくれよぉ!」
 ワカナとマーゴンの声。二人も同じように運ばれているらしい。

 少しずつ周囲が見えてきたとき、地面に降ろされた。

 すぐには立てなかった。
 ボンヤリと、ワカナたちが見える。
 他のモノも見えた。

 黄色、緑、青。3つの影。

「ワカナ、マーゴン! 大丈夫か!?」
「う、うん、平気……。だけど……」
「何がどうなってんだよぉ!!」
 目が、やっと慣れてきた。

 そばに、誰かいる。
 手を、差し出している。

「さ、立てる?」

 予想もしていなかった子供の声に驚いて、シンは手を差し出す者を見上げた。

 イバライガーそっくりの、だが黄色いボディ。
 体型は子供のそれだった。

「キ、キミたちは……!?」
「ボクらはイバライガーのサポートロイド、ミニライガーだよ」
「ミ、ミニライガー?」
「うん、オニイサンたちを守れって、イバライガーに言われているんだ」
 マーゴンを抱き起こしながら、ブルーが答えた。

 やっと立ち上がった3人は、唖然としながら周囲を見つめた。

 ブルー、グリーン、イエロー。

 3体のミニライガーが、円陣を組むように周囲を囲んでいる。
 これが、イバライガーの言っていた『オプション』なのか。

 なんとなくワカナとマーゴンを見た。
 二人は、どこかあどけない、小学生のような体型のヒューマロイドたちをぽかーんと見つめていた。
 自分も同じ顔をしているに違いない、とシンは思った。

 

ED(エンディング)

 天井から、一筋の光が漏れてくる。
 朝の白い光が指すと、世界はモノトーンになったように感じる。

 白と黒。
 光は、闇をさらに濃くする。

 その闇が膨れ上がった。

 ジャーク・ゴースト。
 4~5体いる。

 一刻も早くシンたちと合流すべきだが、こいつらを放置するわけにはいかない。
 ミニライガーたちが間に合ったことはセンサーでキャッチしている。

 イバライガーは、闇の中心に向けて前傾姿勢を取った。
 エキスポ・ダイナモの光が一層強くなる。両肩のクロノ・スラスターの射出孔に、光の粒子が集まっていく。
 全身が振動しはじめる。
 その振動を押さえ付けるように固く握り締めた拳が、邪悪の中心に向けられる。

「私は守る! この世界を……彼らの未来を!」

 誰にでもなく決然と言い放った直後、クロノ・スラスターが咆哮を上げた。

 


 ミニライガーたちともに歩む、シン、ワカナ、マーゴン。
 ただ一人、ジャークに立ち向かうイバライガー。

 運命に抗う者たちの未来は、まだ誰にも分からない。

 

次回予告

■第4話:砕け散る希望/モラクル登場
これまでのお話から数年後。シン、ワカナ、そしてイバライガーは、逃げ延びた他の研究員たちと合流して、密かに地下研究所を作り、犯罪者として追われながらもジャークとの戦いを続けていたの。でも、ついにジャークの総攻撃がはじまっちゃう。仲間たちは次々と傷ついて大ピンチに!!
そしてイバライガーは、わずかな希望を守るために、とうとう最後の決断を……。
ダメ、イバライガー!! それだけはやめてぇええええっ!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!

(次回へつづく→)

(第3~4話/作者コメンタリーへ)

 


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