小説版イバライガー/第1話:世界崩壊の序曲(後半)

2018年1月2日

(←第1話:前半へ)

スポンサーリンク

Bパート

 主電源のある棟は、ここから数百メートル離れている。
 誰もいなくなった長い廊下を、3人は走り出した。
 灯は落ちて、ずっと先の屋外から差し込む光だけが道しるべだった。
 背後で、ドアが開いた。

「ティクス……博士……?」

 通路の奥。
 さっきまで自分たちが立っていた場所から声だけが聞こえてきた。

「ふふふ……やっと分かったよ」

 普通じゃない。
 ヘリウムガスでも吸ったかのようにカン高くなったり、ひどく低くなったりしている。
 3人は動けなかった。

 博士が近付いてくる。

「感情には属性があったんだよ……。善意と悪意……プラスとマイナス……ポジティブとネガティブ……。我々は……悪意のエネルギー領域にアクセスしてしまったのだ……」

 博士が近付いてくる。

 その姿は、人ではなかった。
 服は破れ、トゲのようなモノが全身から出ている。
 肌の色が青黒く変化し、目が異様に大きい。
 そして、見ている間にも変貌を続けていた。

「博士っ!?」
「早く……逃げろ……。エモーション・ネガティブは、人間に憑依しようとしている……」
「そ、そんなコトが……!?」
「ニ……ゲェ……ロォオオオオオオ……!!」

 もはや人の声ではなくなった叫びに押されるように、3人は駆け出した。

 


「ちっくしょぉおお! どうなってんだ!?」

 外へ飛びだす。

 そこには悪夢が広がっていた。

 炎。黒煙。その漆黒の中から、数分前までは人であったはずの変異体たちが現れ、逃げ惑う人々を襲っていた。
 襲われた人もまた変異し、悪夢が広がっていく。まるでゾンビ映画だ。

「きゃぁああああああ!!」

 ぼう然としていたシンとワカナの意識を、ナツミの悲鳴が切り裂いた。
 触手のようなモノがナツミに巻き付き、連れ去っていく。

「ナ、ナッちゃん!!」
「ナツミィイイイイイイイイ!!」

 駆け出そうとした二人の前に、数体の変異体が立ちはだかる。
 緑色の肌。せり出してくる牙。爪。

「くそぉ!」

 シンたちは、再び通路の中に逃げ込むしかなかった。
 追ってくる怪物たち。
 通路には、ティクス博士の姿はない。
 ドアを締めながら、あの実験室へと進む。

 一番危険な場所。
 だが、今はそこへ向かうしか道はない。

 


 測定器は、不思議な白い輝きに包まれていた。
 あの唸りは止まっている。

「これは……エモーション……感情エネルギーの輝き……?」
「一体……なにがどうなったんだ……」

「……生命の概念が……変化したんだよ……」

 その声にふり返った二人の前には、ティクス博士が……いや、かつてティクス博士であったモノがいた。

「博士!?」

「……そうか、このボディは博士のものだったか……。惜しいな。我らをこの世界に喚び出した知識は有用だったのだがな……」

 ティクス博士の面影は、完全に消えていた。
 青黒く膨張した身体と昆虫を思わせる顔は、凶暴な気配を濃厚に漂わせている。

「お前は……誰だ?」

「……我らはジャーク。我が名はダマクラカスン。ようやく……この時を迎えた……。我らジャークが目覚めるときが……!!」
「ジャーク?」

「ふふふ、醜いか、この姿が? だが、オマエたちもジャークとして新たな世界を生きることになるのだ。
 ポジティブとネガティブ。二つの力の均衡は今崩れた!! この惑星はエモーション・ネガティブが支配する星となる!!」

 ダマクラカスンの咆哮に、空気が揺れる。
 後ろは怪物と化した職員たちが蠢く通路。
 退路はない。他の人々のように怪物と化すか、あの爪に引き裂かれるか。
 シンとワカナには、絶望的な選択肢しか残されていなかった。

「ワカナ……オマエは逃げろ。ヤツは……オレが食い止める……!!」
「……何言ってんのよ? 空手の試合じゃアタシのほうが強かったでしょ?」
「試合なら……な。けど、これは実戦だ。ケンカならオレのほうが強ぇえ。オレが道をつくるから、お前は走れ!!」
 言うとともにシンは駆け出した。

 


 一瞬でいい。あの爪に切り裂かれたとしても、一瞬だけ時間を稼げれば、ワカナが逃げる時間は作れるはずだ。
 ナツミは救えなかった。せめてワカナだけは、絶対に守る。

「ほぉ。ニンゲンの分際で向かってくるか。見上げたものだ。だが……」

 全身が硬直した。何か禍々しいものが、身体に入り込もうとしている。
 動けない。意識が、遠のく。

「ふふふ、オマエを引き裂くわけにはいかんようだ。オマエたちもジャークとなるのだからなぁ!!」
 シンはとっさにふり返った。ワカナの全身も、ふるえている。

 バケモノになるのか。オレたちも。ナツミを連れ去った、あの怪物に。
 二人の目が合った。
 ワカナの目から涙が溢れている。人間の証だ。
 身体に入り込もうとするナニカに必死に抵抗している。
 バケモノになんか、なるものか。

「無駄だ。いくら抵抗しても、まもなくキサマらはジャークの一部となる。楽になれるのだぞ。ほれ、この博士のボディもそう言っておる。愛だの夢だのという煩わしいモノは全てなくなる。オマエらは必ずジャークに感謝するようになる」

「うわぁあああああああああああああ!!」

 シンとワカナが叫んだ。
 精一杯の、そして最後の抵抗。

 そのとき。

 


 エモーションの輝きが巨大に膨れ上がった。
 白い闇。
 その光の闇を切り裂くように、一筋の蒼い輝きが迸る。
 蒼い光が、二人を照らし出す。

 シンは身体が軽くなるのを感じた。
 侵入しようとしていた理不尽なものが、追い出される。打ち消される。
 二人はよろめきながら立ち上がり、蒼い光源を見つめた。

 輝きの中に、何かがいる。

 それは、災厄を詰め込んだパンドラの箱に最後に残っていた希望のように、歩み出てきた。
 紅のボディ。その姿に、シンはがく然とした。

「そ、そんな……そんなバカな……!
 アレは……まだ存在するはずがないのにっ!?」

 それは、シンの研究ノートに描かれていたヒューマロイド……。
 イバライガーだった。

 

ED(エンディング)

 実体化したイバライガーは、シンたちとダマクラカスンの間に立ちはだかった。
 シンとワカナは、その背中を見つめていた。
 思考がまとまらない。

 なぜ、まだ理論段階のイバライガーが実在するのか。
 ジャークとは何なのだ。
 世界はどうなってしまうのか。

 物語は、まだ始まってさえいない。

次回予告

■第2話 想いの力
悪の軍団ジャークに、謎のヒューマロイド・イバライガーの出現。次々と起こる異常事態に大混乱のシンとワカナ。そこに再び襲ってくるジャークの怪物。大ピンチのイバライガーに想いが届いたとき、紅の機神の本当の力がついに……!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ〜〜の…………!!

(次回へつづく→)

(第1~2話/作者コメンタリーへ)

 


※このブログで公開している『小説版イバライガー』シリーズは電子書籍でも販売しています。スマホでもタブレットでも、ブログ版よりずっと読みやすいですので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです(笑)。