カソクキッズ0話:イントロダクションとガチの論文

2017年12月29日

 カソクキッズ第1話の前に「イントロダクション」を描いた。

 このイントロと第1話は同時公開だったんだけど、とにかく最初に、この漫画自体を紹介するためのエピソードを入れておかないと、どうにもならなかったんで、描いたんだ。
 予算も時間も足りない中でやっていくことになるから、毎回のエピソードで徐々に世界観を浮かび上がらせていくなんてのは無理だったしね。

 そういうわけで、イントロは大雑把なキャラ紹介程度。
 具体的な科学ネタなどには触れないつもりだった。

 でも……。

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すげぇネタが届いちゃった!

 大したことは描かないとはいえ、科学ネタの漫画を連載するのだ。
 世界観を伝えるためにも、それらしいシーンは欲しい。

 そこで、ばったり主人公たちと出くわした博士が、いきなり難しいコトをベラベラ喋るシーンを盛り込んだ。

 まぁ、このシーンは「主人公たちには理解できない難解な専門語をベラベラ喋る」ってだけなんだけど……一応、世界に名立たる研究機関の話だし、インチキでテキトーなコトを書くわけにはいかないよなぁ。

 というわけで、KEKに「何か適当な見本ありませんか?」と問い合わせてみた。

 ボクが欲しいのは、専門用語をやたらと使っていて、何を言ってるのか分からないんだけど、専門家が読めばナルホドと思うようなセリフ。
 そのものではなくとも、そういうセリフを作るためのネタだけでももらえれば……と思った。

 そしたら……こんな文章が届いた。

宇宙とはその計量が1個の正次元、及び3個の負次元からなる二次形式により与えられた4次元ハウスドルフ空間である。
空間と時間は4次元連続体「時空」として不可分な形で統合されている。時空の各点には場が定義されており、それらは一成分ならスカラー場、4成分ならベクトル場と呼ばれる。電磁場はベクトル場の例である。
こうした場の量のローレンツ変換の行列はローレンツ群の表現となっているため、宇宙にどのような場があり得るかということは、ローレンツ群の表現をすべて見出すことと等価である。
場の連続無限個の座標変数とその正準共役な運動量変数に対し、同時刻交換関係を要求し量子化することで、波動である場に粒子描像を付与することができる。
すなわち宇宙を創るとは4次元ハウスドルフ空間に可能なローレンツ群の表現を見出し、それらを量子化した素粒子を現出させることである。

 どぅわぁああああああああああああ!!
 こんなSFマインドに溢れた文章が届くなんて!

 4次元ハウスドルフ空間やら、スカラー場やら、ローレンツ変換やら、なんのコトやらチンプンカンプンだけど、SF的な匂いが濃密にプンプンしてる! しかも、本物の科学者が書いた御墨付きなんだぜ!?

「すなわち宇宙を創るとは4次元ハウスドルフ空間に可能なローレンツ群の表現を見出し、それらを量子化した素粒子を現出させることである」

 だと?

 なんだか分かんないけど、それができれば宇宙が創れるってことらしい。

 すげえ。ちょっと駅前とかで叫びたくなるよな。

 コレをボクの漫画で使っていいんだぞぉおおおお!!

黒板上の数式

 イントロダクションには、もう1つ、博士が難しいコトを言うシーンが出てくる。
 いや、実際には第1話で使ったシーンなんだけど、元々はイントロダクションに組み込んでいたシーンだったの。

 黒板に、どんどん数式を書いていって暴走してしまう……という、ちょっとしたギャグ。
 小さなコマだから、テキトーにソレっぽければいいかな、とも思ったんだけど、よく見れば読めない事もない大きさなんだよな。

 で、またまた「数式の見本」を頼んでみたら……

 来たよ来たよ!すっげ~のが!


 うわぁ、E=mc2とか書いてあるぞ!?

 こんなスゴイもの、ど~すりゃいいんだ!?

 い、いや、気を取り直して漫画に使わなきゃ。
 漫画のネタのために、送ってくれたんだから。とにかく読んでみよう。

 ナニ?

 ラグランジアン(L)が時間に対して一様で、粒子の速度がゼロ、即ちv=0のときはE=mc2となる?

 ほほ~、なるほど、そっか……。

 わかんね~~~~~よ!!

 でも、とにかく、これが正しい数式だってことは確かなわけで、そのまま黒板に埋め込んだ。

 でも、せっかく、こんなしっかりしたネタをもらったんだから「小さくて読めない」というのはモッタイナイ。
 というわけで、WEB版では黒板を拡大して読めるように仕掛け、冊子版でも補足ページに収録した。

 それにしても……。

 こんな背景のちっちゃい部分でさえ、本物の博士が真剣にネタを考えてくれちゃうとは!

 もしかするとボクは、この連載で、ものすごいコトを体験する事になるんじゃないのか!?
 オラ、ワクワクしてきたぞ!!

藤本博士とDr.フジモト

 先の「難しいことをベラベラ言う博士」というのは、劇中に解説役として登場するDr.フジモトというキャラだ。

 彼にはモデルがいる……と思われている。

 保護者会のメンバーとして漫画の監修に加わってくれているKEKの藤本順平博士だ。
 Dr.フジモトと藤本博士を同一人物だと思っている人が多いらしい。

 実際の藤本博士と面識がある人であればあるほど、そう思うみたい。
 そういやミーティングでキャラクターの名前をDr.フジモトにしたいと言ったら、満場一致だった。

 でもね、全然別人なんですよ。

 Dr.フジモトのキャラクターが生まれたのは、2008年2月。

 漫画ではなく、KEKのキッズ向けホームページ『キッズサイエンティスト』の案内役キャラクターの一人として生み出されたキャラクターなんだ。

『カソクキッズ』以前に、ボクはまず、このキッズサイトの編集&制作を請け負っていて、カソクキッズはそこからのスピンオフだったんだよね。
 ボクが再編集し直した『キッズサイエンティスト』は2008年3月末に完成・納品したんだけど、その時点ではボクは藤本博士の存在を知らなかったんだ。

 藤本博士とは、その後の2008年5月に、漫画とは関係ない仕事でお会いしたのが最初。

 いや、驚いたね。
 自分たちが描いたキャラクターそのまんまな人が、本当に出て来たんだから。

 実は、すでに公開されていた「キッズサイエンティスト」では、男女2名の博士キャラクターに名前をつけてなかったんだ。
 単に「男博士」「女博士」で、そのうち名前を公募しようかな、とか思っていた。

 でも、出会ってしまった。

 その後、藤本博士は「カソクキッズ保護者会」のメンバーになり、毎回の漫画のミーティングにも同席してくださるようになった。
 会えば会うほど、ボクの中では、劇中の博士と同一視する傾向が、ドンドン強まっていく。

 そして、同年8月末のKEK一般公開での光景が決定打。

 研究本館に展示されたパネルの前で、来場者に解説しまくっている藤本博士。
 すっごく真剣で一所懸命に熱弁していて、でも相手は、その勢いに押されっぱなし。

 話題はどんどん専門的になっていくけど、そろそろ相手は何を言われているのか分からないって顔になってる。
 それでも、藤本博士の勢いは止まらない。
 その姿はイントロダクションで描いた博士登場シーンとまったく同じ。

 科学漫画を描いているくせに「未来予知しちゃったのか? アカシックレコードにアクセスしたのかも!」とか、思ったよ。
 いやマジで。

 ダメだ、もう他の名前は考えられない。
 あのキャラの名前はDr.フジモトだ!

 漫画の連載が始まった後、藤本博士はあちこちから「カラダ張ってますね」とか言われたらしい。
 でも、実際はそうじゃなくて「実在の藤本博士とキャラがカブってる」だけなんだよな。

 今では、Dr.フジモトが実在の藤本博士の影響を受けている部分は、間違いなくあると思うんだけど、でも性格設定などは、あくまでも藤本博士と出会う前に設定したままでやっている。
 それでも藤本博士そのものだと感じる人が多いんだから、すっごいよなぁ。

 もちろん現実の藤本博士も、Dr.フジモトのように(色々な意味で)魅力的な方ですよ。
 ボク、本当に大好きです。

 なお、女博士のほうは、Dr.フジモトが決まった後に「そういうことなら女博士の名前も同じく関係者の中からお借りしよう」ということにしたのだけど、こっちは名前を借りただけでキャラがカブっているわけじゃない。
 カブってないとも思わないんだけど、藤本博士と比べたらアカの他人だよ。

これは藤本博士がご病気されたときに平癒を祈って描いた「がんばれ絵」。後日、回復した藤本博士にありがとうって言ってもらえたときには、人前なのに涙が滲んでこらえるのが大変だった。

 

イントロダクションvr2

 実はカソクキッズ/イントロダクションには2つのバージョンがある。

 2008年夏の、連載開始前に描いたバージョンと、2013年の、カソクキッズ単行本化の際に丸々全部を描き直したバージョンの2つだ。

 で、作者的には「後から描き直したイントロダクション」のほうこそが、元々のイメージに近いものなんだ。
 いや、そうだからこそ描き直してるんだけど(笑)。

 KEKのサイトに公開されているオリジナル版は、色々と問題が多いのよ。

 予算的にも時間的にも修正が無理だったから、そのまま使い続けているんだけど、そもそもキャラの名前すら語ってない(当初の時点ではキャラは単なる狂言回しで名前などどうでもいい程度の扱いだった)し、キッズたちがランドセルを背負ってる(中学生のはずなのに)とかの作画ミスもあって、何とかしたいな~と思い続けていたものなの。

 あ、言っとくけど、後付けで設定が変わったとかじゃないのよ。

 キッズたちが「中学2年生」だというのは、連載開始の8ヶ月前のフェルミ研インタビューでも語っているんだから。
 新バージョンのイントロで描いた内容は、全部、その時点で確定していたことなんだ。

 それが違う形で描かれてしまったのは、当時のボクらチームが、まだ十分に理解し合えてなくて、誤解したまま作業が進んだりして、でも、それを直す余力もなくて……だったからだ。

 いかん。いかんなぁ。

 ずっとそう思い続けてモヤモヤしたままになっていて、それで出版社からカソクキッズが改題されて出版されることになったときに、思い切って全部を描き直したの。

 まぁ、描き直したとはいえ、思ったイメージを全部描けたわけじゃない。

 主役のじんが、本気になれる何かを求めてイライラしてる日々とか、キーマンの少女たまが、大好きな祖母を失って、転校もして、孤立して寂しい思いをしている様子とか、そんな二人を見守るぽにちゃんとか、色々ね、イメージはあったの。

 でも、それ描いてたら何十ページも必要になっちゃうんで、そういうのは自分の胸の中にしまっておくことにしたの。

 もっとも、セカンドシーズン最終回近くになって、そのへんの事情も描写できたから、今は割とスッキリしてるんだけど(笑)。

 とにかく、作者的には新バージョンこそが本当のイントロダクションなので、自分で「完全版」として電子書籍化したときには、そっちをメインに収録し、元々のイントロは「オマケ」として巻末に収録した。

 カソクキッズには、描かれなかったドラマパートが膨大にあるんだ。

 例えば「力」「電磁気力」などを紹介するエピソードでは、本当は野球大会にキッズや博士たちが乱入して……みたいなエピソードを考えていた(キッズたちの日常があまり描かれてないからね)んだけど、そういうことをすると、どんだけ踏み込んでもコッチが持たないレベルで採算割れしちゃうのが確実だったから、やってないの。

 イントロだけは、そういう漫画家としてのリベンジをちょっとだけ出来た。

 その新しいイントロはKEKサイトでは公開していなくて、今のところ電子書籍版でしか読めない(2013年に出版社から出た版はすでに絶版していて、出版契約も解除しちゃったから増刷などの予定もない)んだけど、興味があったら是非読んでね。
 他にも電子版でしか読めないコラムやオマケ漫画が、各巻ごとにいっぱい収録されているし(笑)。

 


※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。