営業編/序:普通の職業のように漫画の仕事を続けていきたい

2017年12月29日

 本ブログでは漫画出版社、ゲーム会社、アニメ会社などへのアプローチは扱ってない。

 っていうか、そういうのは知らないのよ。

 ボクはスタートこそ普通に持ち込みして新人賞を獲ってデビューして……だけど、そういうのは最初の数年だけ。
 その後は漫画とは直接関係ない世界で漫画家を続けてきたから、フツーの漫画家が知ってる世界はホンのちょっとしか体験していないんだ。

 ボクに語れるのは、フツーの漫画家は知らない世界のことだけだ。
 ま、そうだからこそ、本やブログにまとめておこうとも思ったんだんだけどね(笑)。

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ボクは漫画家を一般職と同じように考えている

 ボクは漫画家という職業を特別なものだと思っていない。

 ラーメン屋さんが精魂込めてラーメンを作るように、美容師さんが髪をセットするように、一般的な広告デザイナーがお客の広告を作るように、ボクは広告漫画を描いてきた。

 漫画家を一般職と同じように考える。
 ボクの出発点はソコだ。

 というか、そう考えないと一般企業を相手に広告漫画を描き続けていくなんてコトはできなかったんだ。
 漫画っていう仕事を特別なものだと思っていては、そうでない世界の人たちに受け入れられにくいのよ。

 基本的に作者というのは「一発当てる」ことを考えがちだ。
 出版社やゲーム・アニメ会社で描いているなら、当てなきゃ切られてしまうもんね。
 いつまでもダラダラと連載させてくれる雑誌なんか、まずない。
 なんとかしてヒットしようと努力し続けなくては生き残っていけない。

 それは一般社会でも同じなのだけど、コンテンツ業界とはちょっと違うとも思うんだ。

 ボクには、コンテンツ業界のソレを一般社会に例えると、東京の一等地にドーンとお店を出すとか、行列の出来る有名店を目指すといったコトのように思える。

 ジャンプ、サンデー、マガジンなどに載るというのは、まさに一等地に店を出すのと同じだろう。
 また、そこまで有名な漫画誌でなくとも、コンビニで普通に買えるクラスの雑誌に描いているのなら、一等地に準じる好立地だろうと思う。
 マイナー系の雑誌だとしても全国販売されているレベルなら、表通りではないけれど一応は都会の繁華街といった感じかな。
 とにかく、そういう場所を奪いあってるようなモノだと感じるんだよね。

 そりゃあ、そういう場所でやっていけたらいいなぁと、誰だって思うだろう。

 でも一般社会では、そんなスゴい場所でなくとも、それぞれの地方で、地道にコツコツと営業を続けているお店のほうが圧倒的に多い。

 特別美味いってほどじゃない。
 カリスマ美容師でもない。

 それでも、ずっと営業している。
 馴染みのお客に支えられて、特別じゃない仕事をず~っと続けている。
 大人気の行列店じゃないけど、お店を続けられる程度にはお客に愛されている、どこの町にもある普通のお店。

 特別なモノではなく、当たり前のサービスとして誰にでも使ってもらえる漫画。
 一等地や繁華街ではない場所で、親しいお客や仲間に支えられて描き続けられる漫画。
 ヒット前提じゃない漫画。

 ボクは、そういう漫画家を目指した。
 個人的事情ってヤツがあったから。

個人的事情で踏み込んだ広告まんが道

 二十歳でフツーにデビューして、読切を数本やって本誌連載になるまで2年チョイだったから、それなりに順調ではあったのだけど、その本誌が連載中に休刊しちゃったことで、ボクは別な「まんが道」を考えるようになった。

 自分だけだったら余計なコトは考えず、そのままフツーの漫画家であり続けただろう。
 休刊後の新雑誌で別な連載を、といった内約ももらってたし、ヒット目指して頑張り続けたと思うんだ。

 だけどボクには当時すでに、結婚を前提にした彼女=今のカミサンがいたからね。
 どうしても、なる早で生活力をつけたかったんだ。

 あ、カミサンの名誉のために言っておくけど、そういうことを要求されたりはしなかったからね。

 カミサンはボクをひたすら信じていてくれた。
 ただボクのほうが、満足な生活力もないくせに結婚して、彼女に苦労させて、両方の両親にも心配させ続けるってのが嫌だったの。

 だから彼女と周囲が安心できるだけの生活力が、どうしても欲しかった。
 結婚するだけなら、そのままの漫画家でもよかったんだけど、子供も欲しかったからね。

 漫画家って、どうしても不安定になりがちで、そんなコトはボクもわかってたんだけど、それでもね、当時のボクは「結婚するまでに必ずヒットさせてやる!」って思ってた。自分のネタは絶対に面白いって。

 でも、思った通りにはならないんだよね。
 比較的順調に行っていたつもりでも、雑誌が潰れちゃうしさ。

 それで、ボクは「広告まんが道」を選んだ。

 自分の野心に彼女を巻き込みたくなかったし、だからって彼女のほうを手放す気にもなれなかったから。

 デビューしただけの新人が漫画で食えるわけもないので、ボクはデビューとほぼ同時に、東京・東銀座の広告制作会社に就職していた。
 もっとも未熟すぎる若造が、漫画と広告の二足のわらじをこなすなんてのは無理な話で、1年程度しか勤まらなかったのだけど。

 けど、その広告会社で様々な広告制作者を見た。
 グラフィック・デザイナー、カメラマン、ライター、イラストレーター。

 彼らはみんな漫画家と同じクリエイターだけど、ヒット前提ではやっていない。
 広告大賞などとは無縁なまま、地道にコツコツと仕事をして、取引先もそれを良しとして代価を支払ってくれて、ちゃんと生活していた。

 その会社にいた頃は、こんな地味でつまんない請負仕事じゃ満足できないって思っていたんだけど、多少、世の中ってモノがわかってくると、アレはアレでやりがいあったかも、と思うようになった。

 そして、漫画家だって同じことが出来るんじゃないのかと思ったんだ。

 彼女を手放せないのと同じくらいに、漫画だって手放せない。
 両方を掴むためには、今までと同じやり方じゃダメだ。

 これからだってヒットのチャンスは窺い続けるつもりだけど、ヒットっていうのは成功報酬だから不安定すぎる。
 基本給になる部分も持たなきゃヤバイ。

 広告の世界にはソレがある。
 ヒットというほどでなくとも、引き受けた仕事をやり終えさえすれば、一定の結果や成果と認められる。

 普通の職業ってのは、そういうモンだ。
 美容師さんがカットしたら、必ず「モデルになりませんか?」って声を掛けられなきゃならないってコトはないもんね。
 代価に見合った腕と質でありさえすればいいのだ。

 そう考えてボクは「広告まんが道」に踏み込んで、そのままずっとやってきた。

 個人業だから、安定的じゃないのはフツーの漫画家と変わらない。

 それでも、あれから30年。
 ボクはカミサンも漫画も手放さず、娘にも恵まれ、それなりのやりがいも感じつつ、生きてこれたと思う。

 それは一等地じゃなくてもやれたからなんだ。
 広告漫画なら、一般社会の全部を相手にできるからね。

 今どきは漫画やイラストは、様々な広告広報物で使われている。
 そういう絵がない広告を探すほうが大変なくらいだ。
 需要はどこにでもある。

 大手でも中小でも個人でも公共でも政府機関でも、広報を必要する全てが客。
 売り込める相手がものすごく広い上に、漫画は広告全体の一部に過ぎないことが多いから、一人で責任を抱え込まなくて済む。
 やるべきことをちゃんとやれば、ヒットと関係なく一定の評価と代価が得られる。

 大人気になってヒットすることを要求されたことなんか、一度もない。
 期待はされてるだろうからヒットするように努力はするけど、それはノルマじゃないし、代金に含まれてもいない。
 ボクがボク自身の将来と矜持のためにやっていることで、お客に要求されるようなことじゃないんだ。

 だから、やってこれた。

 ごく普通にクリエイターとして働けば、働いた分のモノは手に入るから、続けられたんだ。
 特別じゃない部分こそが基盤になったんだよね。

広告の世界でも、作家としてやっていける

 ボクは今でも、フツーの漫画家の部分を捨ててはいない。

 広告漫画の道を選んだからって「一発当てる」を捨てたわけじゃないんだよ。
 チャンスがあればいつだって狙うつもりだし、自分でチャンスを作り出す努力だって(少しは)してる。
 ヒットしないと食えないようなやり方はしていないってだけ。
 だって、それじゃギャンブルになっちゃうもん。

 それに広告漫画だって「自分の作品」は描ける。

 広告まんが道に入って以来、広告や広報と無関係な作品を描いたことは一度もないけれど「広報用だけどフツーのオリジナル作品と変わらないモノ」なら、何度も手掛けている。
 広告の世界でも、作家としてやっていく道はあるのだ。

 また、そういう作家性が思わぬ力にもなる。
 業者になりきった人にはやれないコトができたりする。

 近年はタダの広告というだけでなく、コンテンツであることが求められていたりもするから、そういう力はますます評価されやすくもなっている。

 漫画家だって人間だ。
 ボクとは違う事情で、広告界に関わることもあるだろう。

 生活のために一時的に請け負うとか、そういう仕事で収入を穴埋めしながら、フツーの連載を続けるとか、色んな人がいるだろう。

 ボクが広告界で戸惑いながら、長い時をかけて1つ1つ身に付けていったことや、体験してきたことが、そういう人たちの参考になったらいいなと思う。
 また、広告界にいる人たちが漫画家と相互理解できるようになって、そういう関係から新たな漫画の可能性が生まれたらいいなとも思ってるんだ。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。