広告漫画が「よい作品」を目指すワケ

2017年12月29日

 漫画家は普通、作品を読んでもらうこと、楽しんでもらうことを第一に考える。
 よい作品を生み出そうと考える。

 その気持ちは広告漫画でも同じなのだけど、広告漫画が「よい作品」を目指す理由は、一般的な漫画のソレとは若干違う。

 漫画だけじゃなくて、広告という視点が加わってくるからだ。
 漫画としていいだけじゃなく、広告としてもいいモノになってないとダメなんだ。
 そう思って取り組まないと、客のカネを使って自己満足してるだけになっちゃうからね。

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漫画で勝っても広告で負けなら負け

 広告漫画では、漫画は手段であって目的じゃない。
 売り物ですらない。

 広告を打つのは、その広告を見た人たちに、そこに書かれている商品やサービスを知ってもらい、買ってもらうためだ。

 当然ながら、広告を見ることがゴールでは困る。
 人目を引く広告、面白い広告を考えるのは、全て商品・サービスを買ってもらうためであって、面白がってもらうコトは目的ではないのだ。

 だから漫画がどんなに面白くても、それが広告主の求める成果につながっていなければ「広告」としては失敗ということになる。

 これは逆に言えば、漫画がつまらなくても、そのつまらない漫画のおかげでモノが売れたというのなら成功ということだ。

 まぁ実際には、つまらないモノを読ませて売れるようにするのは難しすぎるから面白いモノを目指すのだけど、いずれにしても、目的は「題材になっている広告商品を売り込むこと」であって、漫画を売り込むことではないということは、心しておかなきゃいけない。

 だから、描いた作品が話題になって作者が売れっ子になったとしても、それは作者の成果であって、代金を払ってくれた広告主の成果じゃない。
 広告主を置いてきぼりにしてしまったら、他人のお金を自分のために利用しただけになっちゃうんだよ。

 そういうやり方をしちゃいけないと思う。

 広告の仕事を引き受ける以上、第一に考えなきゃいけないのは、お金を払ってくれる広告主と、その広告を見る世間の皆さんのことだ。
 自分のことを先にしちゃいけない。

 広告だってサービス業なんだから。

漫画を描きたいだけじゃ広告漫画はつとまらない

 ある意味で、広告業というのは「水商売」なんだ。

 仲間とお酒を酌み交わし、楽しく語り合うときと同じようにやっているけれど、相手は客で自分は商売。
 全ては客を気持ち良くさせるためであって、自分が気持ち良くなるためじゃない。
 できれば自分も客も気持ちいいほうがいいんだけど、自分優先だけは絶対にあり得ない。
 客のためになるのなら、自分の満足は我慢しなくてはいけないのだ。
 そういう覚悟をしなきゃ、広告制作はできない。

 ただ、その覚悟がけっこう難しい。

 ボク自身も含めて、漫画やイラストやデザインといった仕事を選ぶ人間は、そういう「創作」が好きな人が多い。
 創作というのは、非常にパーソナルな部分から生まれてくるモノだから、自分というモノを殺してしまったら創作にならない。
 ただの作業になってしまう。

 そういうわけにはいかないから、自分も楽しんで、好きでやっていなくてはならないんだけど、それでいて自分の満足を後回しにし続けるというのは、なかなか出来ないんだよね。ある意味で矛盾しているわけだから。

 水商売だけど、水商売になり切るわけにもいかない。
 ここで引っ掛かっちゃって、上手くいかなくなる人はけっこう多いようだ。

 ボクはこれまでにも幾人かに広告漫画を教えたことがあるんだけど、この矛盾を乗り越えられなくてダメになっちゃう人が多かった。
 ボク自身は自然にやれていたから、どうして出来ないのか、なかなかピンと来なかったんだけど。

 でも最近、少しずつわかってきたような気がする。

 上手く行かない人っていうのは、自分の漫画を描きたいっていう気持ちが強すぎたような気がする。
 ていうか、広告漫画に逃げてきただけの人たちだった気がする。

 プロデビュー目指していたけど、あんまり投稿や持ち込みはやってない。
 漫画が好きだから、漫画だけ描いて暮らしたいって思ってるけど「アレが描きたい」っていうモノは持っていない。
 漫画家になることが目標で、なって何をするかは考えてない。
 だから同人はやれても、自分で独自の世界を創り出していくのは苦手で、それで投稿が少ない。
 当然、なかなかデビューできない。

 そんなときに、ボクみたいな仕事をしている人を見かける。

 アッチだったら漫画やっていけるかも。
 広告用の漫画なんか、大したモノはない。きっと簡単にやれる。自分にもできる。
 そう思って飛び込んでくる。

 だけど、漫画を描いていたいだけだから、他のコトが疎かになる。漫画以外の、広告の部分をしっかり考えることが大事なのに、そこがスッポリ抜け落ちる。いくらソコが大事って教えても、どうしてもソッチはやりたがらない。
 結局、自分のことしか考えてないんだ。

 あのねぇ、アナタがやりたいコトに金を出す広告主なんか、いるわけないでしょ。

 広告主は、広告主自身の成果のためにお金を出しているんだよ。
 漫画のために出すわけじゃないんだ。極論すれば、漫画のクオリティなんかどうだっていいんだ。
 結果的に広告効果が上がって、売上も上がればそれでいいの。
 ボクらが受け取る代金は、そういうコトのために用意されたお金なんだ。

 でも漫画のことしか考えたくない人は、そこを理解できない。
 オリジナル作品を好き勝手に描いているのと同じようにしか考えられない。

 そういうコトをしたいのなら、普通に出版社でデビューして、普通の漫画家になればいい。
 そして「自分の描きたいモノ」が読者に認められれば、そのまま漫画家をやっていける。

 プロの漫画道は厳しい。「自分の描きたいモノ」をずっと描いていられるような成功を手に入れられるのは、運と才能に恵まれたホンの一部の人だ。
 でも、自分のやりたいことだけやって生きていくなんてコトが、そうそう簡単に手に入るはずがないだろ。
 それは広告の世界だって同じなんだよ。

 広告界に来るなら、広告しなくてどうするんだ。
 漫画だけ描いていたくてもソレを我慢して、広告っていうアレコレをしっかりやる。
 そこをしっかりやれて初めて、漫画を描くっていう部分も残せる。

 漫画以外が7割。そこまでやって、ようやく3割だけ漫画をやれる。
 たった3割しかやれないのが普通。
 それでも、そうしなきゃゼロなんだ。

漫画にも広告にも本気でヤル気を出せなきゃ続かないよ

 ダメになっちゃう人も、そういうコトはわかってると思う。
 ただ、アタマでわかってるだけで、本当にはわかってなかったんだと思う。

 だからボクが、広告を学べ、そこをしっかり考えろと言い続けてると、逃げ出しちゃう。
 自分は漫画を描きたいだけ、自分は純粋なの、自分に正直に生きるの、と、自分に都合のいい解釈をしちゃう。

 いや、それ違うから。
 描きたいのはアンタのコトで、お客には関係ないから。

「漫画を描きたいだけ」じゃダメなの。
 広告漫画は、漫画を使ったサービス業なの。
 サービス業である以上、自分のことを後回しにするのは当然なの。
 お客へのサービスをやり切った後で、自分の「描きたい」もやらせてくれるってだけなの。

 ボクはいつも、こういうことを言ってる。
 漫画を描きたい人の出鼻を挫くようなコトばっかり言う。
 でも、なかなか伝わらない。
 わかってもらいたくて、ボク自身の仕事ぶりを見せると、ますます勘違いされる。

 ボクは普通の漫画を描くように、楽しんで広告漫画をやっているから。

 実際、描いている作品も、いかにも広告なモノじゃなくて、ボクのオリジナル作品的な部分がちゃんとあるモノになっているハズだ。
 全部がそうじゃないけど、そういう作品もたくさん描いている。
 だから、結果だけ見て「漫画を描きたいだけでやっていけてるじゃないか」と思っちゃうようなんだ。

 甘い。甘すぎる。

 前項で書いたように、描くのはフィニッシュワークに過ぎないんだよ。
 将棋で言えば、盤に駒を置く段階。
 そりゃあ、パチンッって恰好よく駒を置いたら気持ちいいだろうけどね。

 でも大事なのは、ドコにどの駒を置くかだろ。

 棋士が一番時間かけるのは考えるトコでしょ。
 絵になるシーンよりも、そっちが大事でしょ。
 そこを考えなかったら意味ないんだから。
 考えられないプロ棋士なんかいないんだよ。

 こういうのは、広告漫画だけじゃなくて、普通にオリジナル作品を描くときだって同じだと思うんだけどねぇ。
 そこをやりたくないんじゃ、そりゃプロデビューできなかったのも当然だよなぁ。

 客のカネを使う以上、それを客のために役立てるのは絶対の条件だ。
 まずソレを考える。
 その上で、自分自身の満足も考える。
 そういうモンなんだ。

 やりたいことを3割残すために、他の7割をやる。
 嫌々じゃなくて、ヤル気を出して本気でやる。
 それが出来なきゃ、コッチの世界にはいられないのよ。
 いちゃいけないのよ。

 ボクだって、漫画を描く以上は自分も楽しんで、イイモノを描きたいと思う。
 漫画ではない広告物を手掛けるときも、やっぱり自分が満足できるデザイン、内容を目指して取り組んでいる。
 その部分では、正直、お客なんか知ったことじゃない。ボクはボク自身の満足のためにやっている。

 ただ、ソレは依頼者の満足をクリアした上でのみ、許されることなんだ。

 依頼者にとって、漫画は手段であって目的じゃない。
 だからこそ、漫画そのものについては、こだわりがないことも多いのよ。

 依頼者が納得するだけの成果を上げられると思えれば、その先は漫画家の自由にさせてもらえることが多いんだ。
 こだわりはないとしても、漫画としてのデキもいいほうがいいに決まってるからね。

 やりたいことも、できるのよ。
 その手前をしっかりやっておきさえすれば。
 しっかりやれるだけの力をつけておけば。
 それが大事なんだ。

 結果の部分だけ欲しがってもダメなのよ。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。